まぼろしの女 蛇目の佐吉捕り物帖
岡っ引きの親分だった父の跡を継ぎ、本所一帯を縄張りに、十手を預かる若い岡っ引きの佐吉。目明しとしてまだ経験の浅い佐吉だが、洞察力に優れた変わり者の町医者の秋高の助言を得て、難事件の解決に挑む。-----------------------江戸が舞台の捕物帳ミステリと言うと、江戸情緒のつもりなのか、人間関係のベタベタの人情噺の無駄話の描写に、うんざりさせられることしばしばだったが、本作は違っていた。不可能犯罪を思わせる魅力的な謎と、事件の裏にある微妙かつ特殊な人間の理が、簡潔かつ節度ある文脈で紡がれ、物語の中で謎解きに関わる岡っ引き佐吉、医者の秋高コンビの人物配置と造型のバランスも良い。各エピソードのタイトルが名作の本歌取りになっているあそび心が嬉しく( ̄ー ̄)二ヤリとさせられた。★幻の女 アイリッシュ★三つの早桶 カー 「三つの棺」★消えた花婿 ドイル ホームズの「消えた花婿(花婿失踪事件)」 それとも アイリッシュの「消えた花嫁」 どっち?★夜歩く カー 「夜歩く」★弔いを終えて 「葬儀を終えて」 クリスティと、こんな具合。犯人はわかりやすいが、この時代でなければ成立しないホワイダニット(動機となる犯人の心理)とハウダニット(殺害手段)の伏線と関連づけが秀逸。解明に用いるロジックも、鑑識のなかった当時の時代的知識を活かして、現代人の盲点を巧くついている。真犯人が判っても、其の人物は当時の御定法ではさばき得ない......って結構が多かったけどそこに弁護士であったという作者のシニカルな視線と、法への批判精神を感じて、それはそれで良きかな。このコンビの活躍を長編で読みたいと思った。