あなたが誰かを殺した
セレブが集う8月の別荘地で起きた連続殺人事件。5人が死亡し、1人が怪我をする。犯人は自首するも、逮捕後「誰かを殺したかっただけ」と言ったきり一切の供述を拒んだ。妻を失い、夫を失い、両親を失った遺族たちは、事件の検証のため一同に会する。そこには、遺族の一人春那の知人として列席した、加賀興恭一郎の姿があった。加賀が進行役を務め、地元警察の榊警部の立会いの下、次々と暴かれる知られざる事件の側面。果たして、遺体が握っていた紙片の意味は。そして、遺族たちに届いた不審な手紙は、何者が送ったのだろうか。手紙にはこう書かれていた。「あなたが誰かを殺した」--------------------雨が降る土曜日はミステリーのチラ裏を。ミステリの女王の作品や、ベストテン常連の某作家のシリーズとかに似たようなシチュエーションがあったような。しかし物語の構築と展開の巧さと、適切な描写力は東野圭吾の独壇場面白く読ませてもらった。本格ミステリとしての謎解きのロジックはさほど複雑ではない。事件現場の地図やアリバイ一覧が載っており、フェアに伏線が示されているので私なりに謎解きを試みた。登場人物全員が嘘をついているかもしれないが、全員が犯人ということはないだろう実行犯を操った黒幕即ち真犯人実行犯は一人ではないかもと大雑把な前提条件で、犯人でないらしき人物を除いていったら、黒幕だけは当てることができた。なるほど、作者はクイーンの某作のような犯人像がお好きなのか。いや、私はむしろ本作で三島のあの名作の犯罪者の造型を髣髴させられた。そして妙にその犯罪者の心理に共感するところがあり、ホワイダニツトに得心がいった。この犯人側の人物の描き方の上手さも東野氏の真骨頂だと思う。さらに考察が及ばなかった、ある犯行と犯人が明かされたとき、こうくるのかと、膝を打ちたくなった。解りやすい真犯人の裏にさらに別の犯人が隠れているとは。ある殺人の中に、別の殺人を隠す多層的な犯罪の構図は「容疑者Xの献身」で見せた作者のお家芸なのか。