ひとつ屋根の下の殺人
長野県上田市。ヤングケアラーの高校生山咲可奈の祖父が殺害された。近所に住む木村夏美は、不審な男を目撃したと証言し、警察の似顔絵捜査に協力する。しかし、逮捕された容疑者は山咲家からおよそ200万円の現金を盗んだが、殺人はおこなっていないと主張した。生活保護を受けていた可奈の祖父が何故大金を持っていたのか。同じころ、当て逃げ事件に遭遇した経営コンサルタント小堺悠人は、奇妙な依頼を受ける。県警の鑑識係鴨志田の慧眼が暴いた事件の真相は......ばらのまち福山ミステリー新人賞受賞者による伏線部分をゴシック体で強調した、読者への挑戦の興趣に満ちたミステリー。--------------------登場人物ごとの言動を描く、読みやすくさり気ない筆致なのに、巧みに読み手の関心をひく。次から次へとページをめくっていけば、推理のヒントのゴシック体が目にはいって、考察を促す。しかし、此方の推理はおよばず、謎が解けないもどかしさに先を急いでしまう。ページターナーな作品。人物入れ替え、○○錯誤、まちがいの殺人等々、トリックはオリジナルティのあるものではないのに、それらの技法を動員して、リーダビリティに優れたストーリーを構築した作者に才気を感じた。ただし、ゴシック体の仕掛けは、疑わなくても良い要素を深読みさせて、読者を思考停止に陥らせる逆効果があって、フェアな読者への挑戦ではないと思った。それとも目くらましの効果を作者が狙っての趣向なのか。だとしたら一層狡いぞ(褒めている)重いテーマを扱った、後味の悪さもある結末にもかかわらず、「真犯人」に嫌悪感は感じず、被害者の一人には同情も覚えたのは、人物造型と描写の上手さゆえだろうか。そういえば、捜査側の鴨志田とイケメン刑事と凸凹っぷりや、その他の警官たちも好印象。シリーズ化されるらしいから、別の事件を捜査する彼らにまた会いたい。ミイステリーは秋のミルクティーケーキとともに♬