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テーマ:ミステリはお好き?(1498)
カテゴリ:Mystery
大正時代末期、船場。
画家の壮一郎は、関東大震災の怪我が元で亡くなった妻倭子への未練が立ち難く、巫女に降霊を頼んだが口寄せはうまくいかなかった。 倭子は普通の霊ではない、と壮一郎に警告する巫女。 その後、壮一郎の周りに倭子の気配が立ち現れるようになった。 そればかりか、通称「エリマキ」なる異形のものが訪れてきて、倭子のようなさまよえる霊を喰らうと言う。 何故、倭子はさまよえる霊となったのか。 第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 <大賞><読者賞><カクヨム賞>三冠受賞作。 ------------------- 死んだ妻の霊が現世の夫の周囲に現れるという設定が、リラダンの「ヴェラ」や、ポオの「リジィーア」思い起こさせる、好きなテーマの怪奇譚だった。 無駄な文章がない簡明で適切な描写で、いにしえの船場の情景、関東大震災の光景が伝わってくるのも良い。 お化け屋敷の虚仮威しの仕掛けよりも、日常の隙間を侵犯してくる怪異の気配が文脈から伝わってきてこそ真の恐怖だろう。 恐怖を言葉で描くのではない、言葉そのものが恐怖なのだ という恐怖小説の、あってほしい姿を見せてくれる。 かと思えば、顔のないあやかしのエリマキの存在や、壮一郎の友人の人物像が何やらコメディータッチな造型なことで息抜きさせられ、その他登場人物の巫女や女中の書き分けによる役割分担も巧い。 全体として冗長さを避け、無駄なく隙なく構築された物語だと思うが、オチが呆気ないことにいまひとつ詰めの甘さを感じた。 無事霊を払い終わり、魂魄は成仏しました、ハッピーエンドで終わり良ければ全て良しでは、真の恐怖を描ききったとは言えない。 あくまで此方の好みの問題で、本作の結構を了とする読者もいるだろうけど。 これだけ、情感豊かに船場の風情を描きながら作者は英文学の研究者だとのこと。 例えば本場はだしのイギリスを舞台にしたゴシックロマンとか描いてはどうだろうか。 と妄想と期待を込めて、次作を待つ。 チラ裏が長すぎると、黒猫の手帳がお腹いっぱいになるにゃ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.10.06 19:45:21
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