人間標本
高名な画家を父に持ち、自身は生物学者で蝶研究家の榊史郎は、美しい少年を蝶に見立てた標本を作りたいという妄執にかられ、それを実行する。5人の画才に恵まれた少年を殺害して人間標本化し、ついに我が子至(イタル)まで手にかけたと語る史郎のおぞましい犯行の告白は真実なのか。それとも..........ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー人物Aの妄想と人物Bの妄想が手記として描かれ、どちらが真相なのかと読者を惑わす構造の幻想小説と思いきや、「意外な犯人」が終盤で登場する。つまりA,Bの何方も○○であるという種明かしだった。ミステリーとして読めば、巧みに読者を翻弄する叙述トリックであるとも受け取れる。色彩(色覚)への拘りをモチーフにした幻想小説ということで、すぐに中井英夫の作品のあれこれの記憶がよみがえってきた。中井の色彩への偏愛の対象は植物や宝石だったけれどこの物語は蝶(昆虫)とずばり人間、つまり生物が嗜好の対象であるせいか、描写からグロテスクな狂気が伝わってきた。しかし私はこんな狂気を描いた小説を決して嫌いではない。読み手を選ぶ内容で他人はおすすめできない奇書であると思いながらも。