幻想三重奏
第一の事件ぱっとしない独身女子、ジャネット・ソームズが、イケメン俳優フィリップ・ストロングと出会い駆け落ちするも、彼は彼女の前から忽然として姿を消す。フィリップはこの世に存在しない男、幽霊だったのだろうか。第二の事件横領を働いた実業家シャーマン・ストークスは美人秘書のラナ・ブースを連れて、国外逃亡を企てるも、不正な手段で得た大金は、宿泊したホテルの部屋ごと消えてしまう。泊まったのは幻の部屋だったのか。第三の事件未亡人で資産家のジョゼフィン・ブラッドリーは、高名な画家ダーシー・チェリントンの路地の奥にある家を訪ねたが、画家は行方知れずとなり、彼女は見知らぬ男女の、三角関係のもつれによる殺人にまで巻き込まれる。しかし、殺害現場の路地そのものが消失してしまい......?!これら3つの事件は、心霊現象なのだろうか。怪異な謎を解き明かしたのはランスロット・カロラス・スミス警部だった。-------------------タイトルから、幻想小説の作風の不可能犯罪ミステリかと思いきや、またしてもそんな此方の思い込みは見事に裏切られた。ミステリーのトリックも、幻想文学のレトリックも何ほど興趣を誘う描き方はされていない。もとい、被害者たちが遭ったのは殺人ではなく、実は窃盗だったというのが真相では、謎が小物感いっぱいで物足りない。人物や部屋、路地の消失の仕掛け、これは誰かと誰かがグルになって一芝居打って、被害者をハメているのに決まってるでしょう。と、あからさまに透けて見える描写で、芝居をしてる人物が怪しいやつ即ち犯人とその共犯者であることもバレバレ。(複数人が詐欺を企んで、誰かをカモにしていたなんて、何やらイマドキ世間を騒がしている話題に似ている気がするけど)人◯入◯、◯人◯役、空間(場所)の錯誤といったトリックもお粗末。読んでる途中でバカバカしくなりもした。読者にネタがバレるように書いているのだから、フェアといえばフェアだけれど、何ほど意味があるのか。本作においてはフェアかアンフェアかの詮議は無効に思えた。バカミスとして創作されたのなら、それなりに楽しめるだろうが、作者の意図は違うのだろうし。単純ならぬ単細胞すぎる謎を複雑に見せかけて回りくどく、説明する謎解きに一章を割いている迂遠さにも飽き飽きした。珍問に名推理ならぬ、迷推理に付き合って時間を無駄にした気分。