第二話『黒き閃光』




「――ここは、相変わらずだな…」

俺は一人、桜の木にもたれ掛かりながら頭上に舞う桜を見上げる。
いつまでも絶えるのことの無い無限の花びらが俺の体に積もっていく。

「ふむ、桜の花に埋もれるっていうのも…まぁ面白いな」
「それを実行したら、ただの馬鹿でしょ」

どこからともなく声が聞こえたので、そちらの方を向くと見慣れた少女が其処にいた。

「ひーくん、一人で遊んでばっかいないでたまには私の相手くらい…してくれたって良いじゃない」

少女は俺の事をじっと見つめながら、寂しそうにぼやく。
――昔、失った彼女そっくりな顔をした“PC”が。

「失せろ偽者、二度と俺の目の前に現れるな」

一撃で、少女を葬る。
昔失った大事な人とまったく瓜二つのPCを。

「…また、俺は……」

俺は一人、胸に手を当て目に涙を溜めながらながらその場に蹲る。
昔を、思い返して――。













「――ひーくん、朝だよ、起きて!」

聞きなれた、愛しい人の声で目が覚める。
目を開けると、そこには“夢”の中で殺した彼女の顔が合った。

「もー、休みだからって呑気に寝てたら駄目だよ」

頬を少し膨らませて起こったように見せる彼女の頬を指で突きながら体を起こす。
ぶーっと音を出しながら口から空気が漏れる。
その後、彼女は少しだけ頬を紅く染める。

「そ、そういえば魘されてたけど…どんな夢を見たの?」

彼女はそう言って心配そうに僕の顔を覗き見る。

「美空が居なくなって、それで僕がずっと探し続ける夢」

少し伏せている部分はあるが、間違ってはいないと思う。
僕は安心させるように美空を優しく抱き締める。

「あ、わっ……ひーくん、朝からそんなっ…」

美空は顔を真っ赤に染めながら、僕の顔を見上げる。
僕は笑いながら彼女を見つめる。
すると、彼女はボンッと音が出そうなくらい一気に顔が真っ赤になる。

「わ、私ちょっと、顔洗ってくるね!」

そう言って美空は僕から離れると、一気に部屋から出て行く。

「ちょっと、やりすぎたかな?」

僕はそういいながら、ベッドから降りる。
そして、パソコンの方に電源を入れる。

「ログインするのは、朝食のあとでも良いか」

その後、僕は着替えを済ませ、部屋から出る。
今更ながら、顔を洗うのは僕の方だろ、等と思いながら洗面所に向かう。
そこで、黒いツインテールの妹――楓と出くわす。

「あ、兄さんやっと、起きたんだ。もう、10時なんだけど?」

楓は少し怒った様にけれど、仕方ないと呆れたように僕に言う。

「ごめんごめん。昨日、寝るのが少し遅かったからさ」
「それでも、普段の時間には起きれるようにしとかないと。じゃないと、お姉ちゃんに愛想着かされるよ?」

僕が頭を撫でると、嬉しそうに微笑みながら酷い事を言う。

「そんな事で、愛想をつかされるとは思わないけど」

僕は楓の頭を撫でるのをやめると、少し残念そうな顔をする。

「妹に彼女とのラブラブっぷりを見せ付けて楽しいですかー?」
「ムカついたのは解ったから抓るな」

楓は少し呆れたようにわざとらしく溜息をしたあと、自室に戻る。
女性の気持ちってのは、解り辛いものだな…。
そんなことを考えながら、リビングに向かう。



「あ…お兄ちゃん、おはよー」



髪がボサボサの寝起き顔の少女――椿が気の抜けるような笑顔で挨拶してくる。

「あぁ、おはよう。椿も…今、起きたんだ?」
「うん。お兄ちゃんも、今起きたの?」
「そうなんだ」

僕は苦笑いを浮かべながら、食パンにマーガリンを塗りたくる。
椿は眠たそうに、トーストをちまちまと食べている。

「そういえば、お兄ちゃん」
「ん?」
「昨日、The Worldで聞いたんだけど。黒いしぇんほうってピーケーがいるりゃひいからひほふへへね」
「喋るか食べるか、どっちか一つにしなさい。何言ってんだか、途中でわかんなくなってるから」

僕は牛乳を椿のコップにいれてやり、飲み下すように促す。
だが、椿はそれを無視して黙々と食べ続け、口の中の物が無くなってから牛乳をちびちびと飲み始める。

「えっとね、黒い閃光(せんこう)っていうPKがいるらしいから気をつけてねって、言いたかったの」
「黒き閃光(ひかり)ね。でも、彼はPKじゃなくてPKKだから。それに、僕や椿は狙われるような事はないから大丈夫」
「そうなの?」

椿は牛乳を飲み干すと、おかわりと言わんばかりにコップを僕の目の前に置かれる。
近くに牛乳が置いてあるので、仕方無しに入れてやると、またちまちまと牛乳を飲み始める。
僕は自分の分のトーストが出来るのを確認してから、それを皿に移し、少し冷めてから食べ始める。

「あ、もしかして…私たちが知ってる人?」
「まあ、そうだね」
「知ってる人なんだ~…誰だろぉ」

椿は嬉しそうにしながら、牛乳を飲む。

――もし、僕がその閃光だと知ったら彼女達はどう

「お兄ちゃん?」
「な、何どうかした?」
「なんか、悲しそうな顔してたけど…どうかしたの?」
「ちょっと、嫌な夢を見てさ」

そう言って、誤魔化す。
嫌な夢を見たのは事実だ。

「なら良いんだけど」

椿はそう言って、自分のコップに牛乳を注ぐ。
そしてまたちびちびと飲み始める。

「ごちそうさま。さて、ダンジョンでも探索しますかね」

食器を流しにおいて、リビングを出る。
階段を上り二階にある自分の部屋へと戻る。
そして、自室には美空が床で正座していた。

「何してるの?」
「え、えっと…その、ひーくん…」
「んじゃ、『THE WORLD』やるから」

僕は美空を無視して、椅子に座る。

「待って、ひーくん」
「待たない」

そういって、僕はTHE WORLDにマウスカーソルを合わせ

「――っ、“今は”入っちゃ駄目!」

クリックしようとしていた指をギリギリのところで止める。

「…“今は”、ってどういう事?」

僕は美空の方に向く。
美空は無言で、手に持っていた携帯電話のメールを僕に見せてくる。


差出人:鈴ちゃん
件名:THE WORLD
さtりKウg≒むh
 ハz#r


……なんだ、これ?
ケータイの文字なのに、“文字化け”してる?


「…多分、鈴ちゃんは殺戮がどうのこうのって書いたんだと思う」
「な、それってどうい」

PiPi!

パソコンがメールを受信したらしい。
僕はパソコンのほうを向いて、メールをチェックする。
美空も心配そうにしながら、パソコンの画面を覗き込む。


奇妙なメールが一件来ていた。


ウイルスの可能性があるけれど、僕は気にせずにそのメールを開く。
そこには、こう書かれていた。


〔差出人:不明〕
〔件名:ΖЖΜΑ イベント開催のお知らせ〕
天空都市Ζサーバー、地底都市Жサーバー
 海底都市Μサーバー、城下都市Αサーバーの四つのサーバーで
あるイベントを行なおうと思います。

日時などはまた後日ご連絡します。


このメールを受け取った方は、必ず参加しなければなりません。
アナタ方に拒否権はありません。
このイベントに参加なされなかった場合、“世界”から戻れなくなるでしょう


「なんだ、このメール…」
「悪戯、だよ…ね?」

僕は背筋に嫌なものを感じながら、このメールを読み返す。
ゼータ、ジェー、ミュー、アルファ…。
メールのサーバーには、そう書かれていた。

いや、そう書かれているだろうという予測だ。
基本的にTHE WORLDのサーバー名はギリシャ字で出来ているからだ。

「ねえ、ひーくん」
「ん?」
「もしかして、鈴ちゃんのメールってこれの事を指してたんじゃ…?」

可能性はある。
だが、そうだとは確定していない。

「まぁ、とりあえず…今は情報収集だな」

THE WORLDを立ち上げる。

「あ、私も行く!」

そして、二人で世界へと入り込む。




――方や、楽しみという希望と自分でも解からない衝動を抱いて
   方や、悪戯だという淡い思いを抱いて――



To Be Next story...


---あとがき---
駄文を最後まで読んでいただきありがとうごぜえますだ。

蒼「君は何処の地方の人間だ」

二話にどんだけ時間かけてんだろう…僕は。

蒼「いい加減さ、僕に出番を頂戴よ」

いや、あげるけどさ。
crestの時になかった内容になる上に…。
ちょっと、面白いことになりそうだ。
つか、今ステージの絵が思いついた。

蒼「今になってかよ…」

まぁ、いろんな意味で面白いもの。
ネタバレはいけないから話さないけど。

蒼「だったら、話さなければいいじゃん」

良いじゃんか、別にさ

蒼「まぁ、そうだけど。今度こそ、僕に出番をくれよ!」

わかってるって。
つか、今度は君が居ないと成り立たないし

蒼「えっ、そうなの」

嬉しそうに眼を輝かせるなよ~。
どうせ、酷い扱いには変わらないんだし

蒼「ひどっ!」

では、これくらいで。
感想などございましたら、気軽にコメントなどお願いします。

蒼「それじゃ、次回の僕の活躍に期待しててくれ!」


© Rakuten Group, Inc.