「なみだ石の伝説」第4回
「なみだ石の伝説」(飛鳥京香・山田企画事務所・1975年作品)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/ 第4回 「ええ」僕は答える。 「そうですか.僕、この路線走るのは始めてですねん。ふだんでも,このバスは,ほとんど頭屋村までいかんのですわ。最近は、客が、よういってるようだけど。本当は、これより先はいかんのなあ。いやだなあ」「バス停には、頭屋村まで通じてますの地図と張り紙がったぜ」 滝がいいかえす。 「ここからは道が、えろう悪くなるし、つづらおりの坂ばかりですわ。あまり行きたくないんですわ。頭屋村まで、まだ40分ほどかかるという話だし、途中には全然停まるとこないんですわ。」「バスで40分もかかるところ、歩いてはいけないよ」 滝がいう。「わかりました。では、こうしましょう。このバス停から先は特別料金をいただきますよ」「ボリョルナ。タタシーみたいだな」「残念ながら、ここにはタクシーはないんです。1000円余分にいりますけれど、このパスしかないんです」運転手は言い返す。「そんなこと、一言もバス停の掲示板には、書いてなかったけれどな。まあいいわ、いってよ」「すごいところだな。日待。1000円分の風景を楽しむとするか」が、僕は滝の言葉に注意を払わず、僕は彼女のことを考え始めていた。もうすぐ、あえるかもしれない。心臓がなみうち始める。汗がでる、待てよ。記憶が、、そうだ。彼女を。、、かなり昔からずっーとずっと前のことだ。僕が子供だった時よりも?、、、昔からだ?変だ。僕が子供だったことより前。。、彼女を知っていた?。どういうことだ。 僕が彼女を思うあまりに、そんな気がしたのだろうか。 いや、まちがいない。僕は彼女を大昔から知っている。 移り変わる新緑の山々、その外の景色に気をとられていた滝が、僕の思いつめた青い顔に気がつく。「どうしたんだい、日待(ひまち)、まっさおだぜ、お前の顔」 突然、バスが横に激しくゆれた。窓の景色がひと回りした。体が車体に勢いよく打ちつけられ、失神しそうになる。 突熱、僕の体を、緑色の光が包み込む。光は神立山の神腹からきていた。体の重さがなくなり、空間に浮いている。すべてのしがらみから解きはなされ、ほんとうに自由にたったような気がした。’ 僕は、緑の光につつまれ、バスが大きく回転しながら、谷間へかちていくのを、他人事のようにぼんやりとながめている。 僕の名前が呼ばれたような気がした。それも遠くの方から。 いつのまにか僕の体は、道路そば側の草の上でよこたわっている。滝のことを気づかい、起きあがり、谷の方をのぞいてみた。パスは車体がグシャとなり、崖下20mくらいで火に包まれていた。 ころばないように気をつけながら、まったく無傷の僕は、バスまで降りていった。 燃えあがるバスの残骸までたどりつき、しばらくの間呆然とながめていた。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/