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SF小説「アイランド」山田企画事務所

SF小説「アイランド」山田企画事務所

■アイランド■第1回

■アイランド■第1回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
第1回

「ママ、このあたりだね」
 私は,すっかり年老いた、かたわらにいる母に言った。
眼下にはきれいな海が腿える。
 「そうだよ、ビィー、サンチェス島はこのあたりにあったんだ」
 「じゃ、母さんが、花束をおとしてよ」私は大きな花束を渡し
た。
 「そうだね、ビィー。お父さんも、喜ぶだろうさ。お前がこんなに
りっぱになったのだから」

 花束は、私達の乗っている円盤から、吸い込まれる様に海へ落下
していった。
 「さようなら、バパ、そしてありがとう」
 海面を腿つめるママの目には涙が浮んでいだ。
私は母の手をにぎりしめていた。
 かつて、この海に、「サンチェス島」という島があった。
今は、跡形もない。
 サンチェス島は悲しみの島、哀ランドだった。
 さて、その島の話を始めよう。


 潜望鏡がアラフラ海に突出していた。
その潜望鏡が、始まりだった。
やがて、水上にゆっくり艦橋があらわれ、ゆっくりと航行し始める。
甲板を波が洗い始めた。海の色はインディコブルーで、海の底はな
いようにすら見える。
 潜水艦のハッチが開かれ、数人の男がはいあがってくる。
やがて、ゴムボートがひきずり出され、I人の男がそれに乗り込んだ。
 「頼んだぞ、ボーン」
ゴムボートの男に、潜水艦から1人の男が叫んでいた。ゴムボート
の男は巨大な体で、答える。

 「わかりました、チーフ」
 ゴムボートは遠くに見える島をめがけ、エンジン音をあげていた。
数十分後、ゴムボートはその島の海岸線にたどりつく。
夕闇がせまっていた。男はゴムボートを岸へのりあげた。

 突然、光が男を襲う。どこかに仕掛けられたサーチライトが男を
照らす。

瞬間男は体を伏せた。

■ポート=サンチェスの町。
 かつてここは美しい海岸を見渡す町だった。
今はただの石くれの町。
 この風景のありようは、「コロラド」の判断ミスがまねいた結果だった。
その男「コロラド」は孤独だった。過去のあやまちをさいなむ心が、この場所を歩かせるのだ。
大いなるあやまちをどうやってつぐなえばいいのか。コロラドは思わず頭を抱え、傍らの石のかたまりに腰かけた。
彼の心臓は高なっていた。

 天候は、彼の心とはうらはらで、とびきりの晴天だった。そして
この町あとから腿える海の風景はあまりに青かった。この町の跡と
対照的だった。
この場所、ポート=サンチェスのあった場所は、陰
うつで耐えようがない。とても気分が滅入る。
 ああ、神よ。コロラドは独りごちた。
 ほほを涙がつたい、その涙が大地をぬらしていた。思わず大地に
口づけをしていた。
 「許してくれ、皆。私が、私が悪いのだ」

 何かの気配がした。
「プルトゥー」が来ていた。この機械は大の形を
している。この島の防禦システムEDIIの一つの端子だった。
 「どうしたプルトゥー、何かあったのか」
できる限り平静をよそおってコロラドは言った。

機械相手に平静を装うだと、私も老いたものだ。世界でも名うてのヒットマンのこの私が、その前は連邦軍の………
やめておこう。過去にこだわるのは、老いた証拠だろう。

 「何者かが、この島に近づこうとしています」
 「わかった、いつもの手で、追いはらえ」
が、プルトゥーは首をたてに振らなかった。
 「しかし、御主人のお知り合いの様ですが」
プルトゥーの胴体に、上空の衛星から撮影された映像が出てくる。
「こいつは、…」
二の句が告げない。
「よし、ブルトゥー、渚で待っていようか」
「わかりました。御主人さま」
 プルトゥーはあとにしたがった。
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(続く)
1975年作品 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/


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