SF小説「アイランド」山田企画事務所

2010/05/24(月)19:46

アイランド■第1回

飛鳥京香の「アイランド」(54)

■アイランド■第1回 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 ●第1回 「ママ、このあたりだね」  私ビィーは,すっかり年老いた、かたわらにいる母に言った。 眼下にはきれいな海が見えている。  「そうだよ、ビィー、サンチェス島はこのあたりにあったんだ」  「じゃ、母さんが、花束をおとしてよ」 私はママに、大きな花束を渡した。  「そうだね、ビィー。お父さんも、喜ぶだろうさ。 お前がこんなにりっぱになったのだから」  花束は、私達の乗っている「円盤」から、吸い込まれる様に海へ落下 していった。  「さようなら、バパ、そしてありがとう」  海面を見つめるママの目には涙が浮んでいだ。 私は母の手をにぎりしめていた。  かつて、この海に、「サンチェス島」という島があった。 そして、今は、跡形もないのだ。 それこそ サンチェス島は悲しみの島だった、「哀ランド」だった。  さて、 私ビィーが、その島の話を、始めようか。 ■  潜望鏡がアラフラ海に突出していた。 その潜望鏡が、始まりだった。 やがて、水上にゆっくり艦橋があらわれ、ゆっくりと航行し始める。 甲板を波が洗い始めた。海の色はインディコブルーで、海の底はな いようにすら見える。  潜水艦のハッチが開かれ、数人の男がはいあがってくる。 やがて、ゴムボートがひきずり出され、I人の男がそれに乗り込んだ。  「頼んだぞ、ボーン」 ゴムボートの男に、潜水艦から1人の男が叫んでいた。ゴムボート の男は巨大な体で、答える。  「わかりました、チーフ」  ゴムボートは遠くに見える島をめがけ、エンジン音をあげていた。 数十分後、ゴムボートはその島の海岸線にたどりつく。 夕闇がせまっていた。男はゴムボートを岸へのりあげた。  突然、光が男を襲う。どこかに仕掛けられたサーチライトが男を 照らす。 瞬間男は体を伏せた。 ■ポート=サンチェスの町。  かつてここは美しい海岸を見渡す町だった。 今はただの石くれの町。  この風景のありようは、暗号名「コロラド」の判断ミスがまねいた結果だった。 その男「コロラド」は孤独だった。過去のあやまちをさいなむ心が、この場所を歩かせるのだ。 大いなるあやまちをどうやってつぐなえばいいのか。 コロラドは思わず頭を抱え、傍らの石のかたまりに腰かけた。 彼の心臓は高なっていた。  天候は、彼の心とはうらはらで、とびきりの晴天だった。 そして この町あとから腿える海の風景はあまりに青かった。 この町の跡と対照的だった。 ポート=サンチェスのあった場所は、陰うつで耐えようがない。 とても気分が滅入る。  ああ、神よ。 コロラドは独りごちた。  ほほを涙がつたい、その涙が大地をぬらしていた。思わず大地に 口づけをしていた。  「許してくれ、皆。私が、私が悪いのだ」  何かの気配がした。 「プルトゥー」が来ていた。 この機械は大の形をしている。この島の防禦システム「エデイ」の一つの端子だった。  「どうしたプルトゥー、何かあったのか」 できる限り平静をよそおってコロラドは言った。 機械相手に平静を装うだと、私も老いたものだ。コロラドは思う。 世界でも名うてのヒットマンのこの私が、その前は連邦軍の……… やめておこう。過去にこだわるのは、老いた証拠だろう。  「何者かが、この島に近づこうとしています」  「わかった、いつもの手で、追いはらえ」 が、プルトゥーは首をたてに振らなかった。  「しかし、御主人のお知り合いの様ですが」 プルトゥーの胴体に、上空の衛星から撮影された映像が出てくる。 「こいつは、…」 二の句が告げない。 「よし、ブルトゥー、渚で待っていようか」 「わかりました。御主人さま」  プルトゥーはあとにしたがった。 (続く) 1975年作品  作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」

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