2008/08/02(土)18:34
土砂崩れ的撤退
漫画なら「がーん。」と入るところだ。
あるいは「ガキーン」とか。
あるいは「がちょーん」とか…
…笑ってすませようという意図が透けて見える。
だがその時点では、笑って済ませるなんて余裕があるはずもない。
ベッドに半身おこしたまま固まっていた。そのままスーッと地の底まで落ちていきそうな・・・
ずぶずぶずぶ。
そんな馬鹿な。なぜだ。どこで間違えたんだ。
スケジュール帳代わりの手帳を開いてみる。今さら意味がないことはわかってるが、こういうときは人間無意味なことをするもんなのだ。
6月27日のところにはGLASGOW GREENと書いてある。その下にBMIと書いてある。
BMIというのは、あの金髪のお姉さんが立ってた航空会社だ。
GLASGOW GREENとは言うまでもなく会場である。フロントのお姉さんに行き方訊いたとこである。
…ちゃんと書いてあるのに…
レディオヘッド・コンサートとは書いてない。それは当然わかっていることだからだ。書くまでもない、はずだったのだ。
ずぶずぶずぶ。
「時間よとまれ」じゃ間に合わない。時間を遡らないと…
日本から飛行機でイギリスに来ると、11時間も乗ってるのにまた前の日に戻っている。戻ってくれないか。今ここで最初から仕切りなおして、日本からやり直したら …夕べに…
戻らないか。戻りませんね。
ずぶずぶずぶ。
つまりなんだ、もしかして、私がむきになってフィッシュ&チップスを平らげようとしていた頃、あの頃すでに前座が終わり、みんな冷たい雨に濡れつつも期待に胸を膨らませて待っていたってことであろうか。私が膨らませていたのは無駄腹だけ・・・
頭を抱える。恥ずかしさにもほどがある。
こんな北の果てまで、魚と芋だけ食べに来たってことか。
ずぶずぶずぶ。
さらにまた気づいた。あの、夜明けの、やかましい歌…
あれはもしかすると、コンサート帰りの人々だったんでは?
レディオヘッドの歌は、ものによっては素人が歌うと何歌ってんだかわかんない。しかも酔っ払ってれば・・・
何歌ってるんだかわかんなくても、楽しそうではあったもの。きっとそうだ、コンサート帰りだ…
どうして気づかない? いやそこで気づいても既に遅いけど。
こんな北の果てまで来て、
この日に間に合わせるために必死で仕事終わらせて、
こんなことなら、こんな無駄なら、…
(人間こういう場合、失ったものをやたらと大きく考えがちである。)
フロントで訊いたとき、「明日は晴れるといいですね」と言われたことが不幸だったのかもしれぬ。あそこで「明日(のコンサート)」は晴れるといいな、とインプットされたに違いない。「いや、明日じゃなくて今日なんです」と、なぜ思わなかったのか。。。
ずぶずぶずぶ。
マンチェスターに行くか! という考えが湧いた。ぼーぜんとしているのに、その一方で頭の中は激しくあっちこっち行くのである。道を間違えたとき早足になるのと同じで、この種の高速回転は危険を伴う場合が多い。道を間違える。
しかしそうなのだ。彼らはグラスゴーのあとマンチェスターに行くはずだ。確かあいだ一日はさんでの日程である。
全国各地からマンチェスターの会場までバスが出る。グラスゴーからは乗れないが、電車で少し(とはいえないかも)行ったところにはバス中継地点があったはず。
一瞬真剣に考えた。だがこのときは珍しく理性が勝ったのだった。というより、要するにバカの二度塗りに終わる予感がものすごくした、というか、現実にこの荷物引きずってどうするつもりだ、ということは馬鹿でもやっぱり気づくのである。
ずぶずぶずぶ。
まだ一日ある、私には。ベルリンがある。
…けれども、今回はコンサートに関してはむやみに余裕を持って日程を立てたので、実際にライブを見るのは最初と最後だけなのである。2週間の旅程、いくらコンサート以外に目的はあるとはいっても、そもそも出立を思い立ったのはコンサートがあったからだ。
それなのに最初でこけた。
ありえない・・・
そう、ありえない。少なくとも日本国内でならゼッタイありえない。
いや普通、外国ではもっとあり得ないかもしれない・・・
ここから次=最後のコンサートまで、持たせる気力があるだろうか・・・
しかも外を見ると、どうやら今日も雨が降りそうな気配。しかも寒い。悲しい。
もはや島巡りツアーなど考える気にもならない。ARRAN島だろうがALLAN島だろうがそんなもんどうでもいい。
・・・こんなところに居たくない。
そして私は思いました。
・・・帰る!
帰るったって、もちろん日本にではない。ロンドンに引き返すということだ。
マンチェスター行くより無謀度は低いだろう。まだBMIかeasyjetが取れるかもしれないし、グラスゴーから電車だってあるのだ。
よし。
ともあれ選択肢をチェックしに行かねば。駅は幸い目の前。あとはネットカフェを探す。
ここのホテルは朝食の時間も結構早かったはず。さっさと朝ごはん食べて、さっさと出かけよう。(朝食を抜こう、という発想はないのであった)。
あれ・・・この稿でこそこの一日が終わるはずだったのに、朝の話でこんなに長引いてしまった。仕方ないからこの稿続く。