~MIDI・ギタープログラミングの奥義(1)~
この世には様々な楽器があって、それぞれに素晴らしい個性がある。
私は幼少の頃から幾つかの楽器に触れる機会があったが、
縁あってギターという楽器に深く関わることになった。
ギターは、私の人生そのものといってもいい。
なぜギターは、私の心をそれほどまでに虜にしたのだろうか...
ステージの主役はヴォーカリスト。
音楽に興味を持った人なら、誰しも真っ先に憧れる存在ではないだろうか?
私もそうであった。
舞台の中央でスポットライトと観客の注目を一身に浴びて歌う快感は、
経験していない人でも容易に想像できるだろう。
「自分もあんなふうに歌ってみたい...」
音楽に強い興味を抱き始めた少年期...私の胸にはそんな淡い夢があった。
でも、いつの日からだろうか...
私の関心は歌い手よりも楽器を演奏するプレイヤーの方に移っていった。
私が最も多感な頃、世界のロック界には余りにも強烈な個性を持った
スーパーギタリストがひしめき合っていた。
ジミ・ヘンドリックス、ジェフ・ベック、
エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ等...
名前を挙げたらキリがない。
ヴォーカリストの傍らでギターを奏でるその仕草や表情に、
喩えようのない「男の色気と知性」を感じるのだ。
それはもちろん、耳から入ってくるサウンドにも同じことが言える。
私が憧れたカリスマギタリスト達は、皆ステージでは一歩下がってはいるが、
その存在感とオーラの威光はそれぞれのチームの中でも飛び抜けたものだった。
まさにバンドの中核...それなくしては何も始まらない...
私は、バンドの中にあってギタリストの持つ宿命的な役割の奥深さというものに
言い知れぬ魅力を感じ、強くひかれていったのだ。
私は、どうしようもなくギターにのめり込んでいった...
そして今日まで様々なプレイを積み重ねて来た。
ギターは私の身体の一部であり、私自身を表現するこの上ないツールとなった。
さて...そんなギターを最近では弾くだけでなく、
MIDIをコントロールして表現している。
今回はそのMIDIギターについて、できる限り掘り下げていきたいと思う。
近頃ではギターのMIDI音源、及びそれに関するアイテムの進化で
かなりリアルなギターサウンドが作れるようになったが、
MIDIプログラムの中でギターほど難しいものはない...
という現実は今も変わらない。
それはギターという楽器が持つ特性と、独特の奏法に因るところが大きい。
よく「ギターの打ち込みは面倒...弾いた方が早い」
という言葉を耳することがあるが、
弾けない人にとってはその理屈は当てはまらない。
弾けない人が自分でギターサウンドを作ろうと思えば、
その時からギターの練習を始めるよりも、
MIDIプログラムにトライする方が遥かに早く目的を達成することができる。
個人差はあれど、聴く人を魅了するギターテクニックを身につける事は、
並大抵の努力では叶わないからだ。
もちろん、MIDIプログラムが簡単と言っている訳ではないが、
プログラムなら技術的な事はキーボードやマウスの操作だけである。
これなら誰にでもできる...
要するに、MIDIプログラマーに求められるのは「発想力」なのだ。
豊かな発想力や創造力があるなら、プレイヤーがギターを奏でるのと同じように、
人の心を打つ作品は作れるはずだ。
プレイヤーには、発想力にプラスして確かなギターテクニックが必要だが、
プログラマーなら発想力ひとつで勝負できる。
その内面のありったけを、いかにマウスやキーボードに伝達するかで、
プログラマーの実力は決まる。
ただ、弾けなくてよいという事はギターを知らなくてもよい...
という事にはつながらない。
つまり、適当な想像でプログラムしてはいけないということ...
ギターの性質や奏法を熟知し、
揺るぎのない洗練された知識とセンスに裏付けられた創造力...
これを以てプログラムされたデータにこそ、人の心を揺り動かす力が宿るのだ。
MIDIを自在にコントロールし、「魂」を注入する...
詰まるところ生演奏もMIDIプログラムも、
最後は作り手の精神性にかかっているという事には変わりはない。
では、リアルなギタープログラムはどのようにして行えばいいのか...
先ほど、ギターの打ち込みが特に難しいのは
その独特の奏法に理由があると言ったが、
そのパターンの多さも難しさに拍車をかけている。
ロックやポップスのソロアプローチだけでも、
実に様々なテクニックがある。
しかも、2つ以上の奏法が複雑に絡み合って演奏されることは日常茶飯事で、
そうなるとギターのMIDIプログラムはいっそう困難なものになる。
仮にこれをクリアーできたとしても、
ギターの打ち込みが完成されるわけではない。
現実と非現実のギャップを埋める作業は、
「演奏表現」とはまた別のところにあるからだ。
これはMIDI独自のアプローチだ。
こんなことをわざわざ数値に置き換えて...と思う人も多いかも知れないが、
ここからがMIDIプログラミングの真骨頂。
「現実」に極限まで近づけても、それを超えることはあり得ない。
唯一それを可能にする方法は、「非現実」で勝負する事である。
MIDIプログラマーの真価は、この次元に至って初めて明らかになる。
すべての「固定観念」を排除し、研ぎ澄まされたセンスで事にあたるなら、
「非現実」が「未知の現実」になることだってあり得るのだ。
近年のテクノロジーの進化は、プレイヤーの地位を確実に脅かしている。
そのスピードは、まさに日進月歩の勢いだ。
プロの世界ではプレイヤー、MIDIプログラマーに関わらず、
実力のない人が今まで以上に自然淘汰される時代がもうすぐそこまで来ている。
プレイ至上主義、あるいはMIDIプログラムを本当の意味で極めていない人達は、
よくよく心しておくべきた。
2009年3月14日3時3分26秒