■夜の蜘蛛■
私が、あまりに役にも立たない雑学ばかりを、まわりに吹聴してまわっているものだから、ときどき、変った質問を持ってこられる。まあ、無駄な知識は、大好きなほうなので、どんなに、くだらない質問にも、全身全霊を傾けて答えるようにしている。きょうの質問。「アトムおじさん。夜の蜘蛛は、殺したほうがいいのですか?いけないのですか?」私は、聞きかじりの頭の片隅にあった知識で、「夜蜘蛛は、親でも殺せ」そして、「朝蜘蛛は、親の仇でも殺すな」ということわざのようなものがありますが・・。と、答えてはみたが、これが、どうしてなのかは、解らなかった。蜘蛛というのは不思議で、地域にもよるが、朝の蜘蛛は、来客の兆しとするのに対し、夜の蜘蛛は泥棒が入るとする俗信が多いようなのだ。『日本昔話事典』には、「夜蜘蛛を凶兆とするのは外観の奇怪さとともに、夜出現する神を畏怖する心が恐怖心に変化したため」とある。しかし、いったい、これだけで、どういう理由で朝夕の区別があるのかわからない。「でも、私は、蜘蛛を夜も、朝も殺しませんよ。だって、地獄に落ちたとき、蜘蛛が糸をたらして、助けてくれないじゃあないですか。」そう、適当におちゃらけて答えてみた。明解な回答がでないときは、ジョークでごまかすのが私の常套手段だ。夜のタブーというのは、いくつもある。爪を切ってはいけないとか、口笛を吹いてはいけないとか、靴をおろしてはいけないとか、いろいろあるが、でも、なぜ、蜘蛛は夜と朝で、人間の態度が豹変するのだ。それも、蜘蛛にとっては、生死に関わる話ではないか。フランス語には、「Araignée du matin, chagrin; araignée du soir, espoir.」直訳すると「朝の蜘蛛は悲しみ、夜の蜘蛛は希望」というのがあるようだ。これは、昆虫の活動と関係していて、朝、蜘蛛が巣を張らずに、ちょろちょろとしていれば、その日は雨が降るので悲しい。夜、蜘蛛が活動していれば、大気が安定しており、次の日は晴れるので希望。という意味らしい。しかし・・・・。私としては、地獄に堕ちろと人さまから言われないよう注意することと、もしも地獄に堕ちたときのために、蜘蛛だけは、けして殺さないようにしておこう。