図書館で借りた本を読みました。
堤中納言物語 (河出文庫 古典新訳コレクション) [ 中島 京子 ]
以前読んだ本に読みたい古典がいくつか
挙げられていたのを書き留めていました。
何かラノベでも… と文庫コーナーを
見ていたらこちらを見つけたので借りました。
堤中納言物語、というタイトルでは
ありますが、堤中納言が登場人物ではなく。
「鮮やかなパロディと批評精神に満ちた、
短くも濃密な、日本最古の短編物語集」です。
堤中納言といえば藤原兼輔(紫式部の曾祖父)
ですが、登場人物に重なるところはなく。
作者も成立年もバラバラな物語を
「包んだ」ことからきているようです。
この本は古典を現代語訳してあるだけでなく
登場する和歌の現代語訳も和歌のように
五七五七七のリズムで表現されています。
本を読みながら解釈や見当が合っているか
調べたくて検索してみたところ、
古典の現代語訳をカクヨムで投稿している
アカウントを見つけました。
確かに著作権などはないですよね…
〈花桜折る中将〉
月が明るいのを夜明けと勘違いして
早い時間に女の家を出た中将が
通りかかった邸宅の姫君が美しく
入内の予定があるのを知って
さらおうとしたところ、誤って
姫の祖母をさらってしまう。
…いくら奔放な時代とはいえ
女との逢瀬の直後に別の女を見初めるのは…
今更ですけど平安時代って
不法侵入し放題ですよね… こわ…
ただしイケメンに限る、がこんな昔から
まかり通っていたということでしょうか…
これはもう、おわかりのとおり
源氏物語のパロディです。(^-^;
祖母をさらったあとどうなったのか…
〈このついで〉
中宮の元にお香を届けに来た中将が
「香炉を見ていると思い出す」と
語りだしたのをきっかけに、
他の女房たちもあれこれと話をします。
…ことあるごとに和歌を詠むのが
平安時代の方々ですが、見知らぬ人にさえ
和歌を用いて話しかけるのを見ると
タイミングとか声量とかを誤れば
ただ独り言を言っている感じになりそうです(^_^;)
現代より静かだから可能なのでしょう。
〈虫めづる姫君〉
毛虫を集めて観察する姫君がいました。
化粧もせず平仮名も書かず、
理詰めで親や女房を言い負かす毎日。
姫の評判を聞いた御曹司が蛇のおもちゃを
手紙と共に届け、みな慌てふためき、
姫も怖がりはしたものの偽物とわかり、
片仮名で返事を届けます。
それを読んで姫を見たくなった御曹司が
庭に忍んでいると、毛虫に夢中で
外から丸見えの姫が。
整えれば美しくなるものの、と思いながら
歌を詠んで渡すと姫の周囲は大慌て。
姫はまた理屈を述べ、返事もしないので
女房が代わりに「名乗ってください」と
詠みますが、つれない返事があるのみ。
…こちらは堤中納言物語の中でも
有名かつ人気のある作品とのこと。
確かに題名を聞いたことはあります。
「お歯黒をつけないのでどんくさい感じ」と
あるのを見ると、美の基準は変わるのを
実感しますね… 今はホワイトニングですね…
姫が白楽天を読むのは「平仮名を書かない」
からなんでしょうね。
紫式部と話がはずみそうです。
〈ほどほどの懸想〉
賀茂祭の日に出逢う3組の恋人たち。
それぞれ身分相応の恋をします。
…やっぱり自分に応じた相手を選ぶんですね。
身分にせよ顔にせよ財産にせよ。
異世界ものにありがちな「王子と男爵令嬢」
的な身分違いのものってあまりなさそう。
桐壺更衣はギリギリ…?
〈一線越えぬ権中納言〉
根合わせ(菖蒲の根の長さを競う)で活躍し、
女房から褒め称えられる中納言も
想う相手とは結ばれない様子。
…根は長ければ良いというだけではなさそうです。
菖蒲の根は柔らかいので長いものは貴重。
美しさを添える工夫もし、歌を詠み合い…
娯楽が少ない時代でも、当時は当時なりに
楽しさや美しさ、風情を追求した遊びが
あったのだとしみじみします。
そして人気者であっても恋はうまくいかない
こともある、というのはやはり現代に通じる…
〈貝合〉
姫君とその腹違いの姉が貝合をすることに。
手持ちのもので、という話だったはずが
姉が伝手をたどって方方から集めるので
姫君も数少ない縁にすがって探すはめに。
通りすがりの少将が事情を聞き、
屋敷にある貝を美しい箱にたくさん詰めて
姫に仕える少女に届けさせます。
…この頃の貝合は、神経衰弱的な遊びではなく
美しい貝や珍奇な貝を持ち寄って競うものでした。
腹違いの姉は正室腹のようでバックも強いし
根性が悪いです。笑 シンデレラの義姉みたい。
少将の貝を受け取ったところで話は終わりますが
姫と少将は後に恋に発展しなかった気も…
〈思はぬ方に泊まりする少将〉
右大将の御曹司の少将がとある姉妹の姉の方に
通っていると、右大臣の息子の少将(権少将)が
この姉妹の妹の方に通うようになります。
2人の少将は従兄弟同士でよく似ており、
女房が誤って別の方へ案内したため
権少将が姉と、少将が妹と通じることに。
そもそもがお忍びの恋で肩身の狭い姉妹は
姉/妹の相手と通じてしまい更に嘆くことに。
…平安時代の夜は真っ暗なので、
夜明けになってようやく相手がわかる、
というのは源氏物語の末摘花でありましたね。
夜の作法も似ていたのだろうか…
姉妹と相手が入れ替わるのは薫と匂宮もですね。
源氏物語では更に浮舟も投入してきますけどね!
少将たちは親に姉妹との関係を咎められます。
生活範囲が狭すぎて、恋愛のことを
親に口出しされるのってなんか嫌ですね…
〈はなだの女御〉
ある色男が忍んだ邸では、かつて縁のあった
女性たちがおしゃべりを楽しんでいました。
この家には娘がたくさんおり、
それぞれ別の姫や女御に姉妹と知らせず
宮仕えしていることがわかります。
その雇い主を花に例えていました。
…娘が十人いるのも勿論すごいですが
それぞれ姉妹と気づかれないのもすごいですね。
交流がなければそんなものでしょうか。
そして姉妹間で同じ男とドロドロしている
感じもないのがまたすごい。
お互い遊びなんでしょうね…
〈はいずみ〉
貧しい女と暮らしていた男が
生活のために通っていた家の娘に手を出し、
その親に古い妻と別れるように言われて
古い妻を追い出し新しい妻を迎えることに。
しかし古い妻には大原の昔の召使いしか頼れず
そこまで馬に乗って送ってもらいました。
遅くに戻ってきた小舎人童に事情を聞いた男は
そんなあばら家に置くことはできないと
古い妻を迎えに行きます。
しばらくして新しい妻に会いに行くと
急なことに驚いて白粉と間違え
掃墨(はいずみ)を顔にはたいてしまい
それを見た男は気味が悪く帰ってしまいます。
…小舎人童かわいそう!(T_T)
大原まで大体14kmとして、2往復。夜に。
馬はきっと大きくもなく、駆け足もしないなら
そんなに速度も出ないはずで…
そしてあばら家扱いされる召使いもかわいそう。
いや、何もできない元主人がいても困るか…
そして新しい妻さんも。陰陽師まで呼ばれて…
ホントこの男はみんなを不幸にしますね。
〈よしなしごと〉
あるお坊さんと身分の高い娘が深い仲になり
山寺に籠もるのに必要なものを貸してくれるよう
頼んだところ、一揃え貸してやったというのを
聞いた女の師に当たる僧侶が、
皮肉とユーモアを添えて手紙を送ります。
…貸してほしいものリストがつらつらと。笑
最初はとんでもないもの(天の羽衣など)や
各地の名産をあげ、無理なら最下級のものを、
というのを一品一品あげていきます。
こういうの心理学の手法でありますよね。
ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)。
いや、最初の要求が高すぎるから違うか…
物を用立ててほしいというのではなく
お坊さんと深い仲になったことに
苦言を言いたかったのだ、と。
山に籠もるための物品の準備や
物品の足りなさ、不具合さも含めて
山籠もりの修行のように思えるので
それをおんぶにだっこで頼るのは反則ですよね。
しかし各地の名産が並んでいるのを見ると
きちんと日本という島国の端まで
把握されている感じがして驚きました。
風土記があったとはいえ…
まぁ帝に献上されますからね…
わぁー、なんとか間に合いました。
本当は一つ一つの作品ごとに検索して
もっと知識を深めたり新たな発見をしたり
したかったのですが…
全体的に源氏物語の香りがプンプンします。
さすが源氏物語、さすが紫式部パイセン。
筆者の中島京子さんの現代語訳が
わかりやすくて読みやすかったです。
他の古典も、こうやってわかりやすく
書かれているようなのでまた借りたいです。
〈古典新訳コレクション〉の1つ。
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