今年も古川泰子さんのリサイタルに行ってきました。(^0^)
毎年楽しみにしている古川泰子さんのピアノリサイタル、今年も行ってきました。去年はドビュッシー、リスト、ショパン、ラヴェルといったプログラム。ショパンの『葬送行進曲付きソナタ』は、いろいろなことを考えさせてくれる印象深い演奏でした。一昨年のモ-ツァルトや、グラナドス、リストもすごかったですね。今年は、オール・ドイツもののプログラム。冒頭はシェーンベルクの『6つのピアノ小品 作品19』です。この曲は、シェーンベルクが十二音技法を確立する以前に書いた作品で、完全に調性を放棄した最初の作品だそうです。演奏もさることながら、今回、古川さんのプログラム・ノートには非常に感激しました。この曲の冒頭は、「自由を求め、もがいているかのように、音が飛び回り、逃げ回る。」 そして、6曲目は、「弔いの鐘の音。調整音楽の弔いか?」 なんか、シェーンベルクが新しい世界を見いだすために彷徨った過程を垣間見せてくれるような解説と演奏。どうしてこうした作品が生まれてきたのか、深く考えさせてくれます。新しい音楽というと、思い浮かぶエピソードがあります。フルトヴェングラーが、自作の交響曲第2番を初演した際、ブルックナーの様式感の漂うやや時代遅れ的な作品に、それを聞いたヒンデミットが、思わず、「あなたの作品といったら…」と批判をしかかったところ、ついつい有頂天になっていたのと、若干耳が遠くなっていたために、フルトヴェングラー本人は、賞賛されたと勘違いして、大喜びしてしまったという話は有名ですよね。古いものをぶち壊して、新しいものを造りだそうとするのは、本当に大変なことなのだと思います。古いもののなかに良さを見いだすことを意図的に破棄して、新しいものを作っていく。古いものの良さは、充分知っているけれども、そこには依存しない。厳しいですね。そうした厳しさを、ヒンデミットはフルトヴェングラーに投げかけたかったんでしょうね。続いては、バッハの『フランス組曲 第5番』。これ、バックハウスなんかも、シブ~い名演を残してますよね。シェーンベルクとバッハを続けて演奏するのは、とってもいいプログラム配置。十二音技法の確立には、バッハの対位法の影響なしではあり得なかったですからね。演奏は、ちょっとしたアクシデントもありましたが、第3曲『サラバンド』など、静かに、深く、瞑想的な演奏で、とっても感動しました。前半の最後はベートーヴェンの『ピアノソナタ第28番』。古川さんは、これまでもベートーヴェンのソナタをいくつか取り上げています。しかし、今回の第28番は、ベートーヴェンが、弟子の女性ピアニスト、ドロテア・フォン・エルトマンに捧げた作品ということで、古川さんの思い入れも深かったようです。解説もすてきですよ。 第1楽章冒頭の有名な旋律は、「懐かしく、回想そのものを愛おしむように、彷徨い流れていく」 なるほど~。「回想を愛おしむように」っていうのがいいですね。 そして、この作品は、ベートーヴェンが複雑な対位法などを多用するようになった後期様式の入り口の作品でもあるんですよね。後半は、シューマンの『クライスレリアーナ』です。古川さんは、さきほどのベートーヴェンの『ピアノソナタ第28番』が、この『クライスレリアーナ』に大きな影響を与えているといいます。しかも、この曲も、作曲家が愛する女性に捧げた作品。のちに結婚するクララ・ヴィークに捧げられているんだそうです。なるほど、今回のプログラム、つながってますね~。すごい、すごい。しかも、シェーンベルクにしろ、ベートーヴェンにしろ、シューマンにしろ、何かを模索し続ける作曲家の迷いや、ひたすら前に進もうとする力を感じる作品なんですよね。こうした選曲にも、古川さんの思いが感じられるような気がしました。終演後、今回のプログラムは、ご自分にとってチャレンジだったというようなことをおっしゃっていた古川さん。自分の本質を見つめるようなチャレンジ、すばらしいですよね。あ”~ 、自分も、このままじゃいけないってことがいっぱいあるんですが、解決するための努力もしてないどころか、その勇気もなかったりするんです。いつか見習えたらいいなと思います。古川さんは、アンコールの2曲目に、リスト編曲によるシューマンの『献呈』を演奏されました。これが、ゾクゾクするほどすばらしかったです。 古川さんご自身も、「これはぜひ弾きたかった。」とおっしゃってましたが、ホント、すごくいいですね~。「Du meine Seele, du mein Herz, Du meine Wonn', O du mein Schmerz.(きみはわが魂、きみはわが心、きみはわが楽しみ、そして、ああ、きみはわが苦しみ。)」という歌詞を持つこの曲、ベートーヴェンのソナタ、『クライスレリアーナ』の流れともマッチしていて、とても印象深かったです。特に、「Schmerz」のところの短三和音はググ~ッときますね~。古川さんのリサイタル、来年はどんなプログラムになるんでしょうか。今からとても楽しみです。これまでの音楽の記事は こちら