628850 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

そよかぜにっき

そよかぜにっき

青いさかな



光と雲


私は幼い頃、海のそばに住んでいた。

夏になると、毎日のように海へ行った。

父は、いつも海に潜り「ヤス」という長い棒の道具で、

さかなを捕まえていた。

何か獲物がとれると、私のことを呼び

「ヤス」を高く上げて、得意そうに笑っていた。

 その父が70歳を過ぎ、

とうとう残された時も少なくなったある日、

私は、汽車に乗って見舞いに行った。

入院先のベッドの上で、

父は寝返りをうつのもままならない。

強い薬のせいか、私が誰なのかも

よくわからない様子だった。

 眠っている父の顔をぼんやりながめていたら、

突然、目を開けてこう言った。

「青いさかな・・・

 今、青いさかなを捕まえたんだ・・・

 夢だったのか・・・」

私は、遠い日に、さかなを捕まえた時の

あの父の得意そうな笑顔を思い出した。

 夢の中でも捕まえたい「青いさかな」。

自分が一番、「やった!」と喜べる瞬間に出会える、

私にとっての「青いさかな」は一体何なのだろう。

そんなことを、いつも心の隅で考えている。




© Rakuten Group, Inc.