青いさかな私は幼い頃、海のそばに住んでいた。 夏になると、毎日のように海へ行った。 父は、いつも海に潜り「ヤス」という長い棒の道具で、 さかなを捕まえていた。 何か獲物がとれると、私のことを呼び 「ヤス」を高く上げて、得意そうに笑っていた。 その父が70歳を過ぎ、 とうとう残された時も少なくなったある日、 私は、汽車に乗って見舞いに行った。 入院先のベッドの上で、 父は寝返りをうつのもままならない。 強い薬のせいか、私が誰なのかも よくわからない様子だった。 眠っている父の顔をぼんやりながめていたら、 突然、目を開けてこう言った。 「青いさかな・・・ 今、青いさかなを捕まえたんだ・・・ 夢だったのか・・・」 私は、遠い日に、さかなを捕まえた時の あの父の得意そうな笑顔を思い出した。 夢の中でも捕まえたい「青いさかな」。 自分が一番、「やった!」と喜べる瞬間に出会える、 私にとっての「青いさかな」は一体何なのだろう。 そんなことを、いつも心の隅で考えている。 ジャンル別一覧
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