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テーマ:映画レビュー(890)
カテゴリ:映画・日本
本土防衛のために従軍していた清水豊松(中居正広)は、終戦を迎え家族の元へと帰ってきた。平凡でも幸せな家族との日々を営もうとしていた矢先、B・C級戦犯として逮捕されてしまう。豊松の銃剣がアメリカ兵捕虜の腕をかすめたというのだ。それだけのことにもかかわらず、裁判で下されたのは死刑の宣告だった。 (シネマトゥデイより) フランキー堺主演のオリジナルドラマのダイジェスト、所ジョージ主演のリメイクドラマも観たことがあり、話としては結末もわかっていました。 それに、中居君の過剰白塗りメイクのポスターとか、仲間由紀恵とではあまりに美男美女過ぎて戦時中の夫婦に見えないんじゃないか、とか不安はあったのですが。 矢野中将(石坂浩二)の、 「ハーグ国際条約に照らすと、連合国の非戦闘地区・無防備都市に対する無差別絨毯爆撃は違法である。連合国側の責任者を司法の場に連れてきて裁きを受けさせるべきである。」という意味の台詞が、戦犯として死んでいく日本人の口から連合国側に対して面と向かって発せられたということ。 これが聞けただけでも十分です。 こういう台詞は、わたしの見知った範囲では聞いたことがありませんでした。ドキュメンタリーでもドラマでも。 タブーなのだろうか?とすら思っていました(前回のドラマ化のときはありましったけ?記憶が定かでないです)。 でも、ものすごく疑問に思っていたし、いつか公に言って欲しいと思っていました。 だって、原爆を開発・投下・撮影したアメリカ人は、広島の被爆者に面と向かっても「謝る気はない。恨むなら自分の国を恨め。リメンバーパールハーバー。」と言ったんですよ。(「ヒロシマ」TBSより) わたしの父母の町も(即ちわたしの町も)それぞれ空襲を受けてます。よく二人とも生き延びてくれました。どちらかが亡くなってれば今私はいません。 この映画を観て、少なくとも不快な気持ちにはなりませんでした(あの、夏になるとよく作られる戦争ドラマとかドキュメンタリーに感じる不快感とか違和感とかです。そういうものはありませんでした)。 「上官の命令は陛下の命令と同じです」と答える豊松を連合国の人間があざ笑う。 「あなたの気持ちは、悪いことだと思っていましたか?」と聞かれても、何を言っているのか理解できない豊松。 今の価値観ではなく、当時の「戦争であること」「戦時中の一般庶民の感じ方」といったところを、高みから見下ろすのではなく、等身大の一人の市井の人間を描いているところがよかったのだと思います。 豊松とはたった一晩のかかわりしかありませんでしたが「いやな時代に生まれ、いやなことをしてしまったものです。」と、自分の行為を認識しながら静かに判決を受けれ絞首台へと向かう大西(草なぎ剛)。 最期のときを迎える豊松の肩をぐっと強く抱きしめる教誨師・小宮(上川隆也)。 豊松と仲良くなった看守・ジェラー(俳優さんの名前がわかりません)が、豊松の処刑に立ち会わなければいけなくなってしまった時に見せる表情。 そして、金網越しに妻・房江(仲間由紀恵)が愛おしそうに頭を撫でる指、息子・健一(加藤翼)、娘・直子とそっと触れ合う指と指、思わず口付けしてしまう子供たちの指。 なぜ、自分が死ななければならないのか? 納得できるはずもなく、それでも家族の写真を手にしっかり握り絞首台に上がるが、頭から布をかぶせられその写真を最期に観る事も叶わず、愛しそうに撫で、そして握り締め最期の時を迎える豊松。 思ったよりずっといい映画でした。 脚本の橋本忍氏によると、オリジンナル版を、黒澤明監督は「何か足りない」、ライター仲間の菊島隆三氏は「Cクラスの出来」とおっしゃったそうです。「50年かかって、やっと世評と実態との乖離を埋める、改定決定稿」ができたと職人・橋本忍は納得したようです。 その作品を素直に観られたことはわたしにとっても喜ばしいことでした。 「私は貝になりたい」公式サイト 『私は貝になりたい』2008年(日本) 監督:福澤克雄 遺書・原作・題名:加藤哲太郎「狂える戦犯死刑囚」 脚本:橋本忍 出演:中居正広、仲間由紀恵、柴本幸、西村雅彦、平田満、マギー、加藤翼、武田鉄矢、伊武雅刀、名高達男、武野功雄、六平直政、荒川良々、草なぎ剛、笑福亭鶴瓶、上川隆也、石坂浩二、他 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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