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不妊治療の培養室から

卵巣刺激法について

卵巣刺激法について


卵胞発育から排卵に至るまでのプロセス


まず、卵巣刺激による採卵について理解するためには、通常の月経周期においてどのようにして卵胞発育から排卵に至るかを理解しておくことが必要です。かなり複雑なプロセスですが、そのことについて述べておきたいと思います(図1)。かなり理解するのは難しいですが、頑張ってみてください。

卵巣刺激1


月経が開始すると、間脳の視床下部は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(以下GnRHとする)を分泌し、GnRHが下垂体前葉のGnRHレセプターに結合することによって卵胞刺激ホルモン(以下FSHとする)の分泌は促進されます。この一連の作用を受けて、20個程の小さな卵胞(直径2-5mm程度)は徐々に大きく発育していきます。しかし、月経周期5日目くらいになると、最終的に排卵に至るまで発育する卵胞は1個に絞られ、他の卵胞は途中で発育できなくなります(セレクション)。

これは、視床下部が卵胞の発育と共に作られるエストロゲン(卵胞ホルモン)のレセプター(一種のセンサー)を持っており、エストロゲンレセプターを介して、FSHの分泌に関わるGnRHの分泌量を巧みにコントロールすることにより起こります。つまり、1個だけの卵胞が発育するのに必要な最小限のFSH分泌量に調整するわけです。

こうして選ばれた1個の卵胞が発育を続け、卵胞直径が8mmになる頃から、エストロゲンの分泌量は増加し、直径20mmを越えたあたりでピークに達します。この多量に分泌されたエストロゲンは、視床下部に、「卵胞が排卵する段階にまで充分に育ってきた」という認識をさせ、下垂体前葉からの黄体形成ホルモン(以下LHとする)の一過性の大量分泌(LHサージ)を促します(月経周期12-13日目頃)。これが卵胞破裂、すなわち排卵の引き金になり、LHサージ後約36時間で卵胞内の卵が成熟し、排卵が生じます(月経周期14日頃)。排卵日頃の卵胞直径は21mm(範囲15~30mm)程度になっており、卵胞破裂が起こると、卵胞液と共に卵は腹腔内に流出します。

実際の卵巣刺激法について(参考文献:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症 苛原 稔編)

不妊治療において体外受精が適応となるのは、卵管が詰まっていて自然妊娠が難しい場合や、タイミング法、人工授精(子宮内に精子を注入する方法)を何度か試みても妊娠が成立しなかった場合などです。このような場合、一度に効率よく体外受精で妊娠成立を目指すには、複数個の受精卵を体外で培養し、その中で良好だと考えられる2-3個の胚(受精して細胞分裂が始まると卵と呼ばずに胚と呼びます)を移植することが必要になります。そのためにGnRHアゴニスト、FSH/HMG製剤およびhCGを用いた卵巣刺激を行い、発育卵胞数、採卵数の増加を図ります。

先程の項でも述べましたように、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(以下GnRHとします)は下垂体前葉のGnRHレセプターに結合して、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が分泌されるのを促しますが、体内の巧妙な制御により、発育する卵胞は結局1個に絞り込まれてしまいます。


そこで、卵巣刺激においては、この制御機構が機能しないようにGnRHアゴニスト(スプレキュアR、ブセレキュアR)という薬剤を用います。GnRHアゴニストはGnRHの類似体で、いわば偽物です。これを体内に投与すると、微弱ながらもGnRHと同様の作用があるので、しばらくの間はその作用を受けて下垂体前葉からのFSHとLHの分泌量は上昇します(flare up)。しかし、さらに投与を続けると、下垂体前葉は、「体内には充分に(本物の)GnRHが存在している」と勘違いして、GnRHレセプターの量を減少させ、(本物の)GnRHの刺激を受けないように調整し始めるのです。

このようなGnRHアゴニストの性質を利用し、内因性(体内から分泌される)のFSHとLHの分泌を抑制した上で、外因性の(体外からの)FSH/HMG製剤(フェルチノームPR、HMG「日研」R、ヒュメゴンR等)を多量に投与すると、多数の卵胞を発育させることができます(図2)。

卵巣刺激2

また、多数の卵胞が発育するに伴い、エストロゲンは多量に分泌されるので、本来ならそれを感知した視床下部からの命令でLHサージが起きるはずなのですが、GnRHアゴニストの長期投与により下垂体前葉上のGnRHレセプターはすでに減少しているため、下垂体前葉は視床下部からのGnRH(本物)に反応することができません。こうして、排卵および卵の成熟の引き金になる内因性のLHサージを抑制します。

ただし、LHサージは卵胞内の卵の成熟には必須であり、充分に成熟していない卵は体外受精の成績にも悪影響を及ぼすので、今度は体外からの刺激によるLHサージが必要となります。これについては、LHと同じ作用を持っているhCG:ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(プロファシーR)を投与することで代用され、このhCGの刺激受けてから排卵するまでの間(hCG投与後35-36時間後)に採卵が行われます。

実際の臨床現場においては、前述したGnRHアゴニストの「短期間の投与では内因性のFSHおよびLH分泌を促進し、長期間投与では、逆に抑制する」という性質を利用して、ロングプロトコール法やショートプロトコール法などの卵巣刺激法が用いられています。以下、それぞれの刺激法について説明します(図3)。

卵巣刺激3

ロングプロトコール法

ロングプロトコール法は卵巣刺激に最もよく使われている刺激法であり、長期間(治療前周期から)のGnRHアゴニスト投与により、内因性のFSHおよびLHを充分に抑制した上で、外因性のFSH/hMG製剤およびhCG製剤による多数の卵胞発育を促すことができるので、長所として、卵胞発育をコントロールしやすいことが挙げられます。しかし、短所として、GnRHアナログの投与期間が長期に及ぶため、FSH/hMG製剤の投与量が増加する傾向があり、発育卵胞数がやや減少することも指摘されています。以下、ロングプロトコール法による体外受精-胚移植のスケジュールについて述べます。

ロングプロトコール法による体外受精-胚移植のスケジュール
1.GnRHアゴニストを治療前周期の黄体期中期から治療周期のhCG投与前日まで連日投与します。

2.治療周期の月経が発来したら、FSH/hMG製剤の注射(この注射の量は患者様の状態等により異なります)を開始し、両方の卵巣から複数の卵胞が発育するのを促します。

3.充分な卵胞発育を確認した後、hCGを投与して卵の成熟を促します。

4.hCG投与後35-36時間後に、採卵を行います。

5.採卵翌日に受精確認し、採卵から2-3日後あるいは5日後(胚盤胞移植)に胚を子宮に移植します。また、移植後も胚の着床を促進させるためhCG(注)やプロゲステロン製剤(黄体ホルモン)を投与することがあります。
(注)hCGは体内の黄体(排卵した後の卵胞は黄体になり、妊娠成立に寄与します)に働きかけ、着床を促したり、妊娠成立・維持に大きく関わる黄体ホルモンの分泌を促す作用もあります。


ショートプロトコール法

月経開始直後からGnRHアゴニストを投与すると、3日後くらいにflare upと呼ばれる一過性の内因性FSHおよびLHの分泌上昇が起こります。ロングプロトコール法では、flare upを治療前周期に引き起こし、治療周期の卵胞発育に利用しませんが、ショートプロトコール法では、それを治療周期の卵胞発育に利用し、発育卵胞数の増加を図ることができます。

つまり、月経周期5日目くらいには、本来なら内因性のFSH分泌量はやや低下し、発育できる卵胞が自発的に選択されているのですが(セレクションという)、flare upによる内因性のFSH上昇に伴い、このセレクションが行われないために、発育する卵胞数が増えるというわけです。

ショートプロトコール法の長所としては、FSH/hMG製剤の使用量を少なくすることができ、卵巣刺激期間も短縮することができます。また、ロングプロトコール法で発育卵胞数が少ない場合においても、充分な発育卵胞数が得られることがあります。しかし、短所として、flare upの際に、一過性の内因性LH(黄体形成ホルモン)の分泌が起こり、これが、卵の質に悪影響を及ぼす可能性があると言われています。

その他

代表的な卵巣刺激法は、ロングプロトコール法とショートプロトコール法ですが、その他にも、GnRHアゴニストの投与期間により、ウルトラショートプロトコール法(月経開始から数日のみ使用)、ウルトラロングプロトコール法(治療前周期の月経開始直後から投与開始)や、クロミフェン(クロミッドR)を用いた刺激法などが使用されています。



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