クリスマス
友達が毎年、クリスマスになると物語を書いていました。それを読むのが楽しみだったんですけれど、今年はお休みをしたようです。なので、かわりに物語を。大好きな友達に心を込めて。『クリスマス』「はっし、はっし!」いつもより右ムチに力をこめて、おれは、トナカイの横っ腹に強めのやつをたたきこんだ。おいっ、相棒、もうちょっといそいでくれ。わたしは、サンタ。フィンランド公認サンタ。コード番号はsu-0945-d。去年までアフリカ担当だったのだが、四十年ぶりに日本担当になった。ところが、時差があったのをすっかり忘れていた。出遅れた。最初で6馬身くらい離された感じだ。わたしが日本につくころは、27日になっているはずだ。ポレポレタイムがすっかり身体にしみついてしまった。まぁいい。とにかく、子ども、子どもを見つけなきゃ。明かりのついた家をのぞくと、どの子もテレビに向かって何かしていた。暗く、病的だ。まぁいぃ、とにかく家に入ろう。「メリークリスマス」「もうwii-u買ったからいいよ」「メリークリスマス」「げっ、不審者だ」「メリークリスマス」「なんだよ、そんなヘンなのいらないよ」 ヘンなの? プレゼントだぞ。四十年前は喜んでくれたのに……。ケロヨンの人形にブリキの車。ソースせんべいに、銀玉鉄砲。どこに行っても喜んでもらえない。おまけに置いといたトナカイまで、緑色の服を着た、中高年の人に「駐車禁止」だといわれ、どこかに連れ去られた。日本もずいぶん変ってしまったらしい。プレゼントがさばけず、袋は重たい。少し休もうと、公園にやってくると、ベンチにおじさんが座っていた。あの骨格、どこかでみたことがあるような……。あっ!「あなた、以前、わたしからプレゼントをもらいましたよね?」おじさんは、真っ赤な顔を上げて、わたしを見た。四十年の歳月はあまりにも長かったようで、しばらく時間がかかった。「ああ、あのときのサンタさん」「そういえば、あなた、 一人差で、 これをもらい損ねたんでしたよね」わたしは、ブリキの真っ赤な車を渡した。「ああ、そういえば」おじさんは、押し頂くように車を抱えた。「欲しかったんですよ、これ」酔いのせいもあったのだろうが、わたしは嬉しくなった。すると、とつぜん、おじさんが真顔になった。「そういえば、あのとき、アンタ言ったよね、 夢は必ずいつかかなうからって、願っていてください、って……」「言いました、言いました。時間はかかったけれどほらっ、かなったでしょ」わたしは、車を指さした。「わたし、リストラされちゃったんだけど、 これからの夢ってかなうかな?」「大丈夫ですよ。あっそうだ、 リストラの意味って知ってます?」 わたしが尋ねると、おじさんが首をかしげた。「再構築って言う意味です。 新しい年はきっと新しいことが始まりますよ。 信じてください」 おじさんの顔が、少しだけ緩んだ。 そうこうしているあいだに、トナカイが戻ってきた。 係の人をふりきって逃げ出してきたらしい。 背中には駐禁シールが貼ってあった。「遅れたけれど、メリークリスマス!」 わたしは、彼にまたがり、空へと飛びあがった。 わたしは、横山典弘騎手が上手だった風車ムチを トナカイにおみまいした。 日本では、有馬記念が終わったばっかりで、 馬たちはしばらく放牧に入るらしいが、 このトナカイはまたしばらく休みになれない。 眼下に夜景が広がる。 光の数だけ、ほほえみがある。 仮にほほえみがなくったって 命の輝きがある。 呼吸がある。 「すごい数じゃないか」 まだ、 日本も捨てたもんじゃないはずだ。 ではよいお年を。にほんブログ村