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テーマ:こわーいお話(348)
カテゴリ:自薦集1
昔は、小学校で「お泊まり会」なるものがあった。生徒が集団で校舎に一晩泊まるという行事だ。現在ではほとんど行われていないが…。
夜中に、ヘイスケは目を覚ました。(トイレに行きたい…)。 ヘイスケが寝ていたのは、教室の一番後ろ、扉の近くだ。教卓のそばで寝ているはずの担任・ナカムラ先生は遠い。間にはクラスメイトが寝ていて、足元が暗くてよく見えない。 (どうしよう…)。 その時、廊下に光が見えた。(あ!見回りの先生だ!) トイレに付いて行ってもらおう、そう思って、ヘイスケは周りを起こさないようにそっと廊下に出た。 「どうした?」懐中電灯がこっちに向けられた。まぶしい。 「トイレです」ヘイスケが言うと、光が顔からそれて、…(あれ?)担任のナカムラだった。(ナカムラ先生が当番の時間か、よかった)。知らない先生じゃなかったので、ヘイスケはほっとした。 トイレは、廊下の突き当たり。ヘイスケのクラスは、学年の真ん中なので、他のクラスの前を通る。トイレとの間に、一つ、空き教室があった。そこは普段も使っていないので、今夜も、誰もいないはずだった。 「おや?」ナカムラ先生が立ち止まる。「今、誰かいたぞ?ちょっと見てくるからトイレに行ってなさい。」ナカムラ先生は空き教室の中に入って行ってしまった。 (行かないでよ!先生!一人でトイレなんて行けないよ!) ヘイスケは半泣きで追いかけた。一人の廊下に取り残されるなんて…。 空き教室に入ると、中にぼんやり光るところがあった。ナカムラ先生は?先生が見当たらない。ヘイスケは光のもとを目で探した。 光っているのは、入り口と反対の窓側に近い、黒板の横の壁のようだった。よく見ると、穴が開いているように見える。光はそこからもれているのだった。 (へんだなぁ…あんな所に。先生はあそこに入ったのかな?) ヘイスケはそろーっと覗いてみた。 穴に見えたのは、古い廊下のようだった。薄暗い電灯。と、人影が現れた。人影はヘイスケに気づいて話しかけてきた。 「ボク?どうしたの?おしっこ?」 それは女の人で、看護婦さんのような服を着ていた。だけど、服が、映画やテレビに出てくるような古臭い感じだ。 何だか変だったけど、優しい声で話しかけられて、ヘイスケは尿意を思い出した。もう我慢できない。 「ウン。」と女の人にうなずくと、その人は「こっちよ。」と、ヘイスケを、古い廊下へ誘い込んだ。入ってすぐがトイレらしい。灯りが暗くてぼんやりしている。ヘイスケは、用を足すことで頭がいっぱい。あやうく事なきを得た。 女の人は、トイレの外で待っていてくれた。ヘイスケが元来た方に戻ろうとすると、女の人が「あらあら、寝ぼけてるのね?」と、反対の方、奥の方へ連れて行こうとする。そう言われるとヘイスケも、間違えたような気がしてきた。その時、 「ヘイスケ!ヘイスケ!」と声がした。 ナカムラ先生だ! ヘイスケは踵を返して、不思議な穴から飛び出した。 空き教室に、ナカムラ先生と、クラスメイトのエイジがいた。ナカムラ先生が 「ヘイスケ!黙っていなくなったらダメだろ!」と、言い、エイジが 「オレが先生を起こして探しに来たんだぜ」と、言った。 (ナカムラ先生、当番で回ってたはずなのになぁ。一緒にここまで来たはずなのに。)と、ヘイスケは思ったが、トイレも済んだし、何だかどうでもよくなって、そのまま教室に戻ってしまった。 そのまま、ヘイスケはそのことをすっかり忘れていた。思い出したのは、20年後のクラス会だった。 こんなことがあったなぁ、と、ヘイスケの話を聞いて、妙な気がしたのはエイジの方だった。 (あの時、ナカムラ先生は、教室で眠っていた。ヘイスケが出て行ったのも知らなかった。空き教室に、そんな古い廊下なんてなかった…。) だが、それを口には出さなかった。ナカムラ先生も早や鬼籍の人。もし、存命だったら、話してくれたかもしれないが。 ヘイスケたちが卒業して数年後、お泊まり会で「神隠し」事件がおきた。子どもが一人、いなくなったのだ。外に出た形跡もなく、とうとうその子は帰宅しなかった。それが、お泊まり会中止の原因だったのだ。 だが、ヘイスケもエイジも、それを知ることもなく、二人ともやがて、すっかり忘れてしまった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004/07/16 05:12:15 PM
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