Bar STARDUST

2005/03/30(水)01:06

栄光とは無縁の場所

7000m・8000m級の山の頂上は、それほどに美しいのでしょうか・・・ 過酷な天候・非常に薄い酸素。 それを乗り越えた人間だけが辿り着けるその頂は、 やはり神の手の中にある場所なのでしょう。 頂上を制した登山家は、神に選ばれし者。 確か、以前読んだ小西浩文さんの本にそんなことが書かれていたような・・・ 命を落とすかもしれないような危険な場所に あえて挑戦する登山家達。 彼らは、非常に過酷なトレーニングを積んでいます。 そこまでして彼らが得たいものって何なのでしょう? もちろん、私達凡人には計り知れない素晴らしい世界が そこにあるのでしょう。 神に選ばれた者だけが体感することができる世界が。 だけど、それだけなんでしょうか? 登頂に成功すれば、世界的に名を知らしめることができる。 そんな名誉欲もあるのではないでしょうか。 ============================ たった一人で救助に来た樋沼の技量にも目を見張らされたが、 山岳警備隊には恐ろしいどの力を持つ男達が揃っている と知らされた。 しかも、彼らは、その力を他人のために費やし、 山の栄光とは無縁の場所に立っていた。 わからなかった。 彼らを突き動かしているものは何なのか。 ====「灰色の北壁」の「黒部の羆」より(真保 裕一著)========= これは山岳ミステリーの本なのですが、 山に魅せられた人の心理状況が非常によくわかりました。 一流の登山家を目指すも幾つかの不運が重なり、 挫折感を味わった青年が、 ライバルであった友人と登山中に遭難し、 救助されるまでの心の葛藤を描いています。 彼には理解できなかったんですよね。 身体を鍛え、厳しい訓練をし、 素晴らしい技量を持っているにも関わらず、 それを自らの栄光のためにではなく、 人を助けるために使っている。 なぜなんだ? 若い彼は思うんですね。 その彼がその後どうなったのか? これは読んでのお楽しみ(笑) でも、こういう描写ができる真保裕一さんの作品。 やっぱり好きです。 どうして人のためにそこまでできるのか? 山岳警備隊の方々に対して、そういう部分に目を向けることって なかなかできないと思うんです。 ============================ こんな身勝手な叔父を案じて、あの子は力を尽くそうとしている。 さらには、無線の呼びかけに応じて、見知らぬ者を救おうと 急な尾根を引き返してくれた山の男もここにはいた。 譲が彼らを呼んでくれたのだ。 坂入は確信した。 山を愛するという想いのもとに、 いつでも力を結集できる者たちがいる。 ====「灰色の北壁」の「雪の慰霊碑」より(真保 裕一著)========= これは、息子を雪山遭難で失い、妻をも病気で失って 一人になってしまった52歳の男性が、 息子が亡くなった雪山に一人で入っていくお話。 私はこの1冊の本を読んで、山に魅せられる人の気持ちが 少しわかったような気がします。 みんな「山を愛している」ということだけで、 すごく心がつながるんですね。 見知らぬ人でも仲間であり同士になる。 パートナーを組んでアタックする時、 そのパートナーには自分の命をも預ける。 それぐらいの堅い信頼関係がなければ、 決して登頂成功はありえない。 そこに、ほんのわずかでもお互いを疑う気持ちが 生まれたとしたら・・・ この作品は山岳ミステリーではありますが、 中心は、人間の心理の微妙な変化や動きにあります。 1度、登山家の方の講演とかを聴いてみたいな・・・って 思いました。 小西浩文さんの講演とかないかしら・・・

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