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< Scene.1-1>
There are two pines in the hill and there are a master and a doll in the hilltop. 高台にある学園から西の方角を望むと視界の果てに海が見える。 特に校庭から少し離れた2本松のあたりなどは絶景だ。 私は入学してから2週間ほど経ったある日、偶然にそこを見つけた。 それ以来、松の木の下で遠くの海を眺めるのが私の日課になりつつある。 もっとも、学園内とは言え、この立派過ぎる松の木は洋風建築の校舎とは趣がかなり違う。 なんでもこの学園が創設される前からあるとかで由緒正しい歴史とやらがあるそうだ。 海からはかなり離れた場所なのに浜辺を意識させる雄々しさはアンバランスすぎて可笑しい。 でもそのアンバランスなところが私には似合っている気がする。 出身が違うために集団の中から浮いてる私と校庭の隅で威風を放つ二本松。 言うなれば似たもの同士だ。 老齢の松の木からしてみれば私などただの小娘にしか過ぎないと言われるかもしれない。 何百年かは知らないが桁が一つ以上違うから私が小娘ならこの木はおじいちゃんだ。 その小娘がこうして毎日おじいちゃんの木に会いに来ているのだ。 感謝どころかお小遣いをもらったっていいくらいだ。いらないけどね。 今日は帰りのバスまで少し時間があるので散歩がてらに寄った。 時刻は13時を回ったところか。 テスト明けなので部活に顔を出すべきだが、お昼がまだだし帰る事にしたのだ。 テストがある日に朝からお弁当なんて作っていられない。 ましてや半分徹夜状態の一夜漬けなんだからそれどころではない。 「おじいちゃんなら案外、古文とか得意なのかもね。」 なんとなく口に出して言った。もちろん答えてなんてくれない。 もう少しお小遣いに余裕があるのなら学食にでも行くのだが居候の身だ。贅沢はしない。 アルバイトができれば、平均的な学生生活を送れるくらいには潤うのだけど現実は無理だ。 あのこわ~いお婆様がお許しになるわけがない。 時々、この人の血を本当に受け継いでいるのか疑いたくなるくらい厳しい人だ。 それよりどうやったらあの人から天使のように優しい父が生まれたのか知りたい。 ま、半分本気だけどね。残りの半分は…ただの好奇心。って、一緒か。 「おなかすいたなー。ひもじいなー。」 声に出して言えるぐらいならまだまだ余裕のはずだ。 頭の中で食べたいものを連想して調理法を考える。 イメージするのはサンドイッチ。ふわふわたまごとベーコンを焼いたやつ。 ゆで卵をつぶすのもいいけど、手っ取り早く半熟いり卵にするのがいい。 わあー、想像しただけでおなかが鳴ってる。私ってなんて○○なんだろ。 はあーっ…。 ため息を一つついてから、地平線ギリギリのところに見える海を眺めた。 空の青色のグラデーションが消えてそこから海の蒼さに変わる。 大阪湾に面したこの海はいつ見ても穏やかで荒れている状態など見た事がない。 子供の頃は内陸部に住んでいたので海と言うのはそれまで見た事がなかった。 思えば初めて見た海というのがこの大阪湾ということになる。 だから噂に聞く日本海とか太平洋の荒波なんて想像つかないし興味がない。 私はこの場所から眺める海が好きなのだ。 遥か遠くで青く輝く海をおじいちゃんの木と共に見つめているだけでいい。 あと10分。そろそろ動くか…。 先週買ってもらったばかりの携帯電話の時計を見てバスの時間が近づいたことを確認する。 今時、女子高生が携帯電話も持たないなんてとお婆様に叱られたのは意外だった。 私自身は必要ないと思っていたが何かと不便だと言うので無理矢理持たされる事になったのだ 。 実際はほとんど着信専用みたいなものだけど、あれば便利だから善しとしている。 使い道は時計の機能だけなんだけどね。 メールだって友達とたまに交わす程度、着信ならお婆様から日に数回。 どちらかというと持たない方が身のためかもしれない。 ひょっとしてお婆様は私に四六時中小言を言いたいがために持たせているのでは。 多少うんざりだが拒否できる立場でもないので我慢する。 いつか大人になって就職して家を出て行くまでの辛抱だ。 どうせ早くて3年後には高校卒業している。それぐらいはなんでもない。 本当なら今すぐにでも出たいけど、おとうさんとの約束がある。だから我慢だ。 「じゃあね。また明日…、は土曜日か。それじゃあ部活に顔出す時にまた来るわ。」 返事がないのは承知のうえで松の木に言葉をかける。そういう日課だ。 少しだけ強く風が吹いたのを返事代わりに受け止めておこう。 その時、風だけのせいじゃなくて頭上の枝が揺れた。 「マスター、お帰りですか?」 無感情な抑揚のない声が聞こえた。 私は声の主を探すように見上げた。誰が言っているのはその特長のある声ですぐにわかる。 「薔薇水晶…。ええ、帰るわよ。今日はテストだっただから午後から授業はないしね。 部活っていってもたぶん何もしないでだらだらと先輩たちとおしゃべりだけだし。 それなら、早く家に帰ってお手伝いでもしているほうがお婆様のご機嫌取りには いいんじゃないかしら。ま、褒めてはくれないと思うけどね。」 「そう…ですか…。」 相変わらずこの子の声は抑揚がない。 感情を表に出さないと言うのが美徳とでも思っているのかしら。 と人形に期待する方がおかしいか。 「それより、何か見つかったの? あれの手がかりとか居場所とか?」 「いえ…何も…。nのフィールド第746952世界に魔術を使った形跡ぐらいしか…。 たぶん、あれは…ベリーベルのものだと…思われます。」 「ベリーベル…。第6ドールの人工精霊か…。じゃあ違うわね。それで何? その魔術ってどういうものだったの?」 「雛苺のマスターが何かの実験をしているとしか…思えません。」 「実験!? ふーん…。案外、アリスゲームの準備だったりして…って、まさかね。 その雛苺のマスターってどんな人なの? 男の人? 女の人? 大人? 子供? 近くに住んでいるなら一度会ってお話したいわ。」 「どうして…ですか?」 「だって、あれと同じローゼンメイデンのマスターなんでしょ? 直接会えばもっと何らかの手がかりとか情報があるかもしれないないじゃない。 でも無理か…。」 意地悪く言ってみた。途端に薔薇水晶は黙り込む。 たぶんこの子なりに機嫌を損ねているみたいだ。 この子を信用していないわけじゃないけど人間の方が話しやすそうだからだ。 そのほうが些細な事でも多くの情報を得る事が出来る。 ただそれだけの理由なのだがこの子には気に入らないらしい。 それが伝わったんだろう。堅く口を閉ざしている。 でも私はそんな姿を可愛いと思う。 無表情なこの子はこの子なりに一生懸命、心を開こうとしているのだから。 最近では私と利害が一致するという契約、マスターとドールの関係以前にこの子が気にかかる 。 この子の笑顔が見てみたい。単純にそう思う。 お互いの目的が達せられたらいつかはこの子も笑ったりするのだろうか? エンジュメイデン第7ドール薔薇水晶。あなたの薔薇の眼帯はいつかはとれるのかしら。 to be continue... お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007/04/30 04:07:10 AM
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