DK3あの時、自分はもう駄目だと思った。あんな所に盗みに入らなければ良かったのだ。もし其処を選ばなければこんな状況にはならなかったはず。いや、他の所に入っても自分は忌み嫌われる存在なのだが、此処まではいかなかったはずなのだ。 目の前には刃物を持った男が数人。鬼ごっこを楽しむ鬼の如く、その表情は獲物を追うのに酔いしれている。そして自分は小動物の如く追い詰められて、今まさに喰われ様としている。 短い人生だったな・・・ 男達を見上げながらぼんやりと考える。 そう、あの時までは――― 短い男達の悲鳴。それと同時に現われる人影。 黒いマント。隙間から見える細い身体。長い手足。所々にベルトが巻きつき、其処に短刀が何本も差されている。目深に被ったフードの奥から紅の瞳が自分を見つめる。 「・・・大丈夫か?」 声の高低で男だと気付く。無言で見上げると、男が微笑む気配がした。 「俺と一緒に来るか?」 それが、『レイト・シルフォード』との出会いだった。 『I am you...You are I』 「・・・レイト?」 「そう、『レイト・シルフォード』スペルだと『Leit・Shirfourd』だっけかな?」 自分の名前のスペルを忘れる奴が何処にいる・・・ そう思ったが敢えて口にはしないし、自分にそれを言う資格はない。自分は自分の名前さえ忘れている。自分を捨てた親に付けてもらった名前など名乗るだけで吐き気がする。だから捨てた。 男は朗々と笑う。 「いや~名前なんて滅多に名乗らないからな。今じゃ『理を見抜く闇者』で通ってるし。つか、何だ?名前名乗ったの・・・ひーふーみー・・・11年振りか?」 『理を見抜く闇者』・・・随分前に聞いた事があった。確か11年前の何かの戦争でどっかのギルトに入っていたとかいう・・・ そんな奴がどうして此処にいるのか・・・? 男はフードを脱ぎさる。濃茶の少し長い髪がパサパサと落ちてくる。 「んで?お前の名前は?」 見せる笑顔は少年そのものだ。自分がもし笑ったらこんな表情をするんじゃないかと思うくらい、その表情は幼い。 「・・・忘れた」 静かに言い放つと男は一瞬間を空けて、そして苦笑した。 「それじゃあ俺の名前をやるよ。お前が『お前』を嫌だと言うのなら、『俺』という存在をやる」 「・・・は?」 「俺と一緒に来るなら名前がないと不便だろ?それと、俺のかつての仲間と過去をやる事が出来る・・・お前が嫌じゃなければな」 「・・・・・・」 「お前は名前を忘れたんじゃない。名前の背後にある存在が嫌だから捨てたんだ」 痛い言葉をグサグサと言ってのける。思わず自分は男を睨んだ。それが図星を示しているとも知らずに。 「お前次第だ。暫く『俺』になって、後で『自分』に戻るも良し。そのまま『俺』になるも良し。お前はまだ子どもだからな。親を憎むのも良く分かるし、その考えが何時か愚かなモノになるのも分かる。だから判断は全部お前に任せるよ。俺には肩書きさえ残ってりゃ良いからな」 そう言って男は傍にあった木箱に腰をかける。カシャンと金属音が小さく聞こえてきた。 「・・・・・・」 男は自分を見つめる。自分は地面を見つめる。 時間は緩々と過ぎていく。 「・・・俺はお前を何て呼べば良いんだ?」 「・・・そうだな。何でも良い。お前、でも肩書きを呼んでくれても、何でも」 「・・・なら、師匠だな」 自分は顔を上げて男を見上げた。男の髪は濃茶。自分の髪も濃茶。瞳は同じ紅で。骨格や顔の形もそれなりに似ている。 「俺に、師匠を教えてくれ。俺は師匠を貶める事はしたくない。俺は師匠になるから」 男は微笑む。ゆっくりと立ち上がると、帯びていた短刀を2本、投げて寄越した。 「これからはそれが、お前、『レイト・シルフォード』の身を守る剣だ。後、名前のスペルは変えた方が良いだろう。昔の俺に恨みを持つ奴がいないとは限らないからな・・・『Reit・Shirfourd』で良いだろう。発音が違うだけでも人は騙せるからな。まぁかつての仲間に会った時不審がられるかも知れないが」 「・・・まぁその時はその時だよ。どうにかやるさ」 「・・・レイト、お前元から俺に似てるか?」 短刀を腰のベルトに差しつつ手をブラブラさせると、男は与えた名前を呼びながら思わずといった調子で真顔になる。それが可笑しくて思わず笑い出す。 「まぁ・・・その調子なら『俺』でいるのもそう苦労しないだろうな」 男は釣られて笑うと自分の頭を撫でた。 「レイトはもう、1人じゃない。名前がある、仲間がある、そして俺がいる」 「・・・・・・」 「行くか。お前を鍛えないといけないからな~」 口調が始めと同じ口調に戻る。少年のような笑み。 そうして『俺』は『レイト・シルフォード』になった。 どうして男が自分に自らの名を与えたかは分からない。闇を見る、少年にかつての自分の姿を重ねたのか・・・答えを聞かず何年も会ってない今の状況では、もうそれも分からなかった。 「・・・・・・」 酒を口に含みながら、俺は同席しているギルドの仲間を眺めた。 数人、かつての男の仲間がいる。そして数人はかつての仲間の子どもがいる。 どう思われるのだろうか・・・ 唯、今の俺には彼らを黙って微笑み、見つめる事しか出来なかった。 文章を短く短く・・・と考えたら唯の意味不明な内容にしかならなかったと(泣 取り敢えず、今のレイトは昔の「レイト」とは全くの別人です そして昔の「レイト」は肩書きだけを持って只今何処かを放浪中です |