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K/Night

K/Night

―3―

        ―――消えたのは・・・・―――
水生と竜也は図書室から出た後、4階の廊下を歩いていた。次は図書室の反対側にある音楽室に行けば良いのだが、
「今何時だ?」
「1時ちょっと過ぎたところだ。」
「2時までまだ時間があるな。先に3階にいくか?水生。」
「そうしようか。竜矢と水城がもう、3階にいるかもしれないし。」
と言うことで、先に3階に行くことにした。

「なっ・・・なんとか・・・。」
「逃げきれた・・・・。」
2階のある教室。竜矢と水城は息を切らしながら滑り込むように中に入った。鬼ごっこをやらされて十数分、何とか子供の目を盗んでこの教室に逃げ込んだのだ。
だからと言って子供が何時ここを見つけるか分らない。2人は息を潜める様に言葉を交わす。
「で、これからどうすんの?」
「そうだなぁ・・・・早めにここから抜け出して水生と竜也に合流したいな。」
「でもどうやってここから抜け出すの?あの子がいるかもしれないよ?」
「だよなぁ・・・・どうすっかな・・・。」
うーん・・・と唸りながら悩む2人。だが時間ばかりが経つばかりで良い案は1つも思い浮かばない。そのうち考えるのに飽きた竜矢が周りに手を突っ込みながらいろんな物をいじり始めた。それを水城が諌めるが竜矢は止めようとしなかった。ガサゴソと暗い中を手だけを動かして物をいじる。すると手に何か固い、土を固めたような感触が触れた。もう片方の手を突っ込んでそれを掴むと引きずり出す。だがどうやら掴んだものはそれぞれの手で違かったみたいだ。ゴゴゴッと鈍い音を立てながらそれは出てきた。懐中電灯の光を当てるとそれは首と胴体の離れた埴輪だった。
「水城、埴輪が出てきた。それも首取れてる。」
「はぁ?埴輪?って首が取れてるっ?!」
勢い良く振り向くと、竜矢は確かに埴輪を持っていた。茶色い、少しヒビの入った昔に作られて雰囲気の埴輪だ。でも首が取れている。
「これ、七不思議の1つだ。これ傷付けると1年以内に事故って首と胴が離れるんだぜ。」
「う”っ・・・・マジで?」
「でも、要は首が取れてなきゃ、良いんだよな。ってことで、ジャ―ン。」
ゴソゴソとポケットをまさぐっていた水城は何かを取り出すと竜矢に見せる。
「・・・・瞬間接着剤?」
「これで首と胴をちょちょいのちょいっと。」
水城は手際良く接着剤を付け首と胴をくっ付ける。たちまちの内に埴輪はどこにでもあるいたって普通の埴輪になった。
「これでよし。」
良いことをしたと胸を張る。1つ七不思議を解決できて嬉しいらしい。水城は立ち上がると竜矢にも立つ様促す。埴輪を傍にあった棚に置き、
「それじゃあ、次行くか。一応3階行こうな。あいつ等が待ってるかも知れないから。」
教室の扉を開けた。そして、
「見ぃつけた。」
『ぎゃーーーーーーっ!』
子供に見つかってしまいその場所から急いで走り去った。
「・・・・・・・。」
棚に置かれた埴輪がガコガコと動く。しかし、その動きは遅く、歩きづらそうな印象を与える。
「・・・・・・・・・・・・・。」
埴輪の首は後ろ前が逆だった。

3階、女子トイレ前。水生と竜也は懐中電灯でそこを照らしながら中を観察していた。
「ここだよな。七不思議 その2。」
「ああ、ここに出るらしい。」
互いに確認し合うと、あらかじめ決めていた中に入る人である水生が中に入っていく。右側の列の奥から3番目。そのトイレの前に水生が立つ。
「そこで、3回戸を叩き、『もういいかい?』と聞く。返事が帰ってきたら戸を開ける。わかったか?」
竜也が手順を確認する。
「OKわかった。じゃあ、始めるぞ。」
水生は戸を見つめると右手を上げて戸を叩く。しばらく間を置いて、
「もういいかい?」
低く囁く様に呼びかけた。数分間待っても何の変化も起こらない。
「でたらめだったのか?」
「何の変化もないしな。とりあえず一旦退こう。水生。」
「ああ。」
竜也に言われ水生がその場から離れ様とした時、
「もういいよ。」
女の子の小さな声が微かにトイレの中から聞こえた。それに気付いた水生が
「竜也、ちょっと待って。」
竜也を引き止めると、3番目のトイレの戸をゆっくりと開ける。
―――― ギギギギッ
戸が軋む音と一緒に戸が開く。中を確かめるべく覗き込むと、小さな女の子が背中を向けてうずくまっていた。しかし女の子といっても肌は茶色で、骨と皮だけの姿だ。髪はおかっぱで白いブラウスに赤いスカートを穿いている。学校で有名なあの幽霊と同じではないか。女の子は水生に気付くとゆっくりと振りかえる。
瞳は外が見えないのか灰色に変わっていて、口の中は血の様に赤かった。そんな顔で笑うから怖い。水生はおもむろに戸を閉めるとトイレを後にした。
「水生?どうした。」
腕を組み考えながら出てきた水生を不思議がり、竜也は訊ねたが返事は返ってこない。しばらく待つと、
――――― ガッ
と戸が壊れる音と共に、
「逃げた方が良いかもしれない。」
と水生が呟く。
竜也がトイレを覗くと髪を振り乱した女の子が凄い形相でこちらを見ていた。
「うわっ・・・これは逃げた方がいいかもな。」
そうは言ってもあまり急いでいる様子は無い。
「やっぱりそうか?なら逃げるか。」
水生が言うと竜也は頷く。2人は来た方と逆の方向を向くと、全速とまではいかないが走り出した。後ろからはトイレから出てきた花●さんもどきの女の子がこちらを見て物凄いスピードで追い駆けて来る。ここでも下の階と同じ『鬼ごっこ』が展開されるようだった。

同じく3階。竜矢と水城はやっとのことで子供を振りきり、あがって来れた。
「なっ・・・・何とかここまで来れた・・・。」
「う~・・・・疲れたよう・・・。」
2人は思い思いに言葉を言い、廊下を歩いていく。人影は無く、音も聞こえない。    「水生達はもう、ここに来ているのかなぁ?」
「どうかな?発信機の光りは遠いところにあるけど。」
「そうかぁ。」
水城の言葉に竜矢は肩を落とす。
「まぁ、歩いていればその内会えるよ。」
「そうだね。」
慰める様に竜矢に言うと、竜矢は気分を持ちなおしにっこり笑う。
「よっし。じゃあ、がんばろお。」
2人、特に竜矢が意気込むと暗い廊下を歩き出す。始めに男子トイレの前を通り、女子トイレの前を通る。女子トイレの前を通ったとき、木の破片が落ちていて小さな水溜りが転々と廊下に続いていたが、さして気にしなかった。
2人が廊下の中腹らへんにさしかかった時だ。竜矢が前方に何かを見つけ、水城の裾を引っ張る。
「ん~?何か見たりしたのか?竜矢。」
からかい混じりに振りかえると、竜矢の真っ青な顔が目に入った。
「え?マジでどうした?」
「あ・・・・・・あれっ・・・・何?」
恐る恐る竜矢が指差した所を見ると、今向かっている廊下に白いブラウスを着手赤いスカートを穿いた女の子が見えていない瞳をギョロギョロ動かしてこちらを見ていた。
「な・・・んかヤバイ気が・・・・。」
「こっち見てる笑ってる怖い~・・・・。」
水城の背中に隠れながら竜矢はそれを見る。女の子は唇を吊り上げて笑うと手を伸ばしながら駆け寄ってきた。
「ああああああああああああああっっっ!」
「来た来た来た来た来た来たこっち来たっっっ!」
2人は顔を見合わせ叫ぶと踵を返して一目散に走り出した。
「あははははははははっ。」
女の子が笑いながら走ってくる。竜矢と水城は追いかけられながらやっとのことで上ってきた階段を下がっていった。

「なあ、2つの点が逆走してるんだけど。」
「竜矢と水城が?」
水生が追跡機を見ながら指摘すると、竜也が自分のを見る。
「本当だ。どうしたんだか。せっかくここで待ってるのに。」
これじゃあ、俺達が迎えに行かなくちゃ行けないじゃないか、竜也は不満そうに呟く。水生はそんな竜也を宥めながら追跡機の画面を見る。凄い早さで移動する黄色い点が2つ。こんな早さだから何かに追いかけられているのだろうか。
「そういえば、蒼麻は?今まで忘れていたけど・・・。」
何気に酷い事をさらりと言いながら竜也が聞く。
「そう言えば忘れてた。今どこらへんにいるんだ?」
水生も酷い事を言いながらもう1度画面を見つめる。自分を示す赤い点が1つ、すぐ近くで光っている黄色い点が1つ、先刻から物凄い速さで動いている黄色い点が2つ、そして動いていない黄色い点が1つ。
「動いてないみたいだけど。」
「休んでるのか?」
「さあ?電話してみるか。」
水生は胸ポケットから携帯を取り出すと蒼麻の番号に連絡する。数秒も経たない間に発信音が鳴り出した。
「・・・・・・。」
だが何時まで経っても蒼麻は出ない。電波が悪いのかと携帯のモニターを見ると電波3本ちゃんと立っている。首を傾げながら竜也にそのことを伝えると竜也も携帯を取りだし蒼麻に電話をかける。
「・・・・・・・・・・駄目だな。出ない。」
やはり水生と同じく竜也の携帯からかけても蒼麻は出なかった。もう1度二人は追跡機の画面を見てみた。1つだけの黄色い点は動いてなかった。そして、さっきまで元気良く動いていた竜矢と水城の点も動いていなかったのだ。水生と竜也顔を合わせると、竜也の携帯で水城に連絡する。言葉にはしなかったが嫌な予感がしたのだ。しばらくすると、水城の声が携帯から聞こえてきた。
『あれ?竜也?どうした。何かあったのか?』
「水城?無事か?!何か、何処か連れていかれたりしていないか?!」
凄い剣幕で話す竜也に携帯の奥にいる水城は驚いているらしい。息を呑む音が携帯越しに聞こえた。
『特に何もないけど・・・?あっ、今まで変な女の子と七不思議の子供に追っ駆けられてた。で?どうしたんだよ、いきなり。』
「水城!竜矢は?!竜矢はそこに居るかっ?!」
竜也から携帯を奪い取った水生は水城に問い掛ける。すると竜矢が、
『水生ぃ~俺はここにいるよぉ~。』
のほほんと呑気に答えるのが聞こえた。安堵した水生は申し訳なさそうに竜也に携帯を返す。竜也は携帯を受け取ると、水城に蒼麻のことを話す。
『蒼麻が動いていない?それも電話に出ない?竜矢、ちょっと蒼麻に連絡してみ?』
電話越しの水城が指示し、すぐに竜矢が携帯に連絡しているらしい。少しの間、間があって水城が口を開いたのが分った。
『こっちも駄目だ。出ないらしい。』
「そうか・・・・そうなると心配になってくるな・・・・。」
「竜也、蒼麻のところに行った方がいいんじゃないか?倒れていたりしたら大変だ。」
水生の提案に竜也は同意すると、水城に伝える。
「水城、竜矢と一緒に蒼麻のところに行ってくれ。俺達もすぐ行くから。」
『わかった。じゃあ、これからすぐ向かうから。』
互いに頷き合うと携帯を切る。
「竜也、行こう」
「あぁ。」
携帯をしまい、追跡機を手に持って二人は傍にあった階段を降りていった。

「俺達も行くぞ。」
「うん。」
二階で少し休憩していた竜矢と水城は竜也からの連絡を受け、立ち上がった。さっき降りてきた階段まで駆けて行くと急いで降りていく。
「蒼麻、大丈夫かな?」
不意に言った竜矢の言葉に水城は何も言わなかった。行って、見てみなければ判らないのだ。竜矢もそのことを分っているのだろうが言葉にしないと心配なのだろう。しきりに独り言を口にしている。
階段を駆け下りて一階の廊下を走り、追跡機が示した黄色い点がすぐ傍に近くになったとき、廊下に蒼麻のと思われる発信機が落ちていた。しかし蒼麻の姿はなかった。水生と竜也もまだ来ていないらしい。人の気配が無かった。
「蒼麻―――――っ!どこにいるんだーーーーーっ?!」
出せる限りの声で呼びかけるが返事は無かった。竜矢は辺りの教室や自分達から影になって見えなかった場所に足を運んで蒼麻を探す。
「駄目だよ。どこにもいない。」
しかしどこを探しても蒼麻は見つからなかった。
「そうか・・・・。一体どこにいったんだろう・・・。」
「蒼麻は自分の仕事を途中で放り出すような人間じゃないし・・・・。」
どこに行ったんだろう・・・・心配そうに竜矢が呟く。
「まずは水生と竜也を待とう。それから後のことは考えよう。」
殺しても死なない奴だからあんま心配するな、優しく竜矢を宥める。竜矢は頷いくが、心配するなと言われると余計心配になり、落ち着くためにその場にぺたんと座り込んだ。うずくまって視線だけを動かして、そして視界に入ったもの、黒い ――――― 。
「くつーーーーーーーーーーーっっっ!!」
叫んだと同時に四つん這いになって歩き、ぼんやり見える靴に手をかけた時、
「きゃああぁぁぁあああぁぁぁあぁっっ!」
耳を劈くような叫び声が発せられたのだ。
飛びのく竜矢。水城は靴が在るそこを覗き込む。
「あっ・・・・・あの・・・・・。」
顔を真っ青にして怯えている、篠慶学園の制服を着た少女がそこにいた。

         ―――制服を着た少女―――
少女は梓蘭〈しらん〉と名乗った。
「ごめんなさい・・・・廊下に何か落ちていたから手に取ってみようと思って、そうしたら人の声がしたから・・・・。」
梓蘭は怯えながらも言葉を口にする。肩より少し長い黒い髪が体の震えで揺れていた。
「こちらこそ驚かせてごめんな。」
水城は手を差し出して梓蘭を立たせると、後ろでまだ座り込んでいる竜矢も立たせた。
「あっ、俺の名前は水城って言うんだ。こっちは竜矢。」
指を指しながら水城は自分の名前と竜矢の名前を梓蘭に教えた。
「そう言えば梓蘭はなんでこんな所にいるんだ?こんな時間に女の子1人で何をしているんだ?」
「あ・・・・それは七不思議調査部っていう部活に所属していて、このごろ怪現象が旧校舎で起こっているって聞いたから部で調べようって言ってて・・・。」
「それでここに・・・・。」
納得した水城はまじまじと梓蘭を見る。篠慶学園の女生徒の制服を着ているが、どこか違和感のあるその姿を。
「?」
「どうしたん?水城。」
不思議がる2人に気付き、慌てて平静を装う。
「ん。大丈夫だ。しっかし水生と竜也、遅いな。」
両側に広がる廊下を眺めながら呟いて、何故か上の階から微かに聞こえてくる物音に耳を傾ける。それはすぐにぴたっと止まりまた静かになった。と思った瞬間、
背中に重い衝撃が2回走った。
「何だ何だ?」
振りかえると竜矢と梓蘭が2人して水城に抱き付いていた。何が起こったのかわからずに、2人が見ている廊下を見ると、子供が笑ってこっちを見ていた。
今まで散々追っかけまわされていたあの子供だ。
「やべっ・・・・。」
水城は咄嗟に梓蘭の手を掴むと踵を返して一目散に走った。
「えっ?水城っ、ちょっと待ってよぅ。」
竜矢の声が後ろから聞こえた。しかしそれを無視して走り、階段を上って行った。
急いで後を追う竜矢だったが途中、足を取られて転んでしまった。
「ううううぅぅぅぅぅ・・・・・・酷いよぉ、水城。」
半ば半べそを掻きながら竜矢は倒れたまま水城と梓蘭が消えていった廊下を見つめる。しかしそれで時間を取ってしまった所為で子供がすぐ後ろまで来てしまった。
「お兄ちゃん、見ぃつけた。」
「うわあぁぁあああぁぁあぁあ・・・・ちょっと待って早まるな話し合おうまだ殺さないで俺はまだ人生を満喫していないっ。」
だが、竜矢の言葉虚しく子供は手に持った包丁を振り上げる。
「ふえええぇぇぇえぇええぇえぇぇぇええぇ。」
手をバタつかせながら後ずさりする混乱した竜矢の目に鈍い光が何度も入った。
その鈍い光が落ちてきて、光が包丁から発せられた物だとわかり、自分はもう駄目だと竜矢は混乱する頭で思った。
風を切る音がすぐ耳元で聞こえた。ガシャンと何かが落ちる音も聞こえた。しかし次に来る痛みは一向に来なかった。次に来たのはドカッという鈍い音が2回続いたことだった。恐る恐る目を開けると目の前にいるはずの子供の姿は無く、代わりに見なれた後姿が目に入った。黒い長い髪 ―――― 水生だった。子供の姿を探すと水生の蹴りでも食らったのか廊下の壁にめり込んでいる。
呆気に取られてボケッとしていると、竜也が傍に駆け寄った。
「竜矢?おい、竜矢。生きてるか?」
「・・・・・・・・・・。」
「おーい?」
「・・・・・・・・・・。」
「駄目だこりゃ。」
顔の目の前で手を振るが反応しない竜矢に、どうするといわんばかりに竜也が目の前に立っている水生に視線を送る。すると水生は何を思ったのか落ちた包丁を手にし、勢いをつけて竜矢の頬のすぐ横に突き立てた。そして、
「起きろ。」
一言、にっこりと微笑んで言った。
もちろん数秒後には竜矢はしっかり意識を取り戻し、水生に思いきり抱き付いたのだった。

「それで、水城はその梓蘭って子と一緒に逃げて行ったんだ。」
いつの間にか子供は消えていて(包丁は壁に突き刺さっているため消えていない)、ちょうど良いからと水生と竜也は竜矢から事情を聞いていた。
「そうか・・・。なら今度は水城が心配だな。」
一応妹である水生が話しを聞いて言葉を零した。
「何で?なんかあるの?」
その言葉が気にかかって竜矢は訊ねるが水生は言葉を濁しただけだった。
「ともかく水城のところに行こう。で、もしはぐれたり何か起こったときは、蒼麻の追跡機がある場所に集合。わかったか?」
竜也に言われて2人は頷き、追跡機を頼りに水城の後を追った。

古い、少し腐った木の廊下を水城は梓蘭の手を握ったまま早い歩調で歩いていた。
階は四階。夢中で走っていたらここまで来てしまっていたらしい。
梓蘭は水城の背中と後ろの暗い廊下を交互に見ながら歩いていた。
「あの・・・・・。」
「ん?あっ、もしかして歩くの速かったか?もうちょっと遅くする?」
遠慮がちな声に水城が振りかえって止まると、梓蘭は首を振った。
「あの、竜矢さん。置いてきてしまっているんですが、大丈夫でしょうか?」
後ろを振り返り、本気で心配する梓蘭。内心で水城は苦笑する。仕草が自分達と同じだからだ。
「あいつなら大丈夫。水生と竜也が助けてると思うから。」
「みなぎと・・・・たつや?」
「そ。水が生まれるって書いて水生。俺の妹。竜に也って書いて竜也。竜矢の兄貴。一緒に七不思議を調べてたんだ。今はそれどころじゃなくなってきたけど。」
「何故それどころじゃなくなったんですか?」
スッと目が細められ、不思議な印象を受けさせる笑みを浮かべる梓蘭。水城はあっさりと事情を話す。梓蘭と同じように笑って。目だけを除いては。
「蒼麻を連れていったのは俺は七不思議の1つ、制服を着た少女なんじゃないかって思っているんだ。」
「どうしてそう思うんですか?さっき会った子供に殺されたり、三階のトイレの少女に連れていかれたって事もあるんじゃないですか?」
「それはないな。」
「どうして?」
即答した水城に梓蘭が首を傾げる。
「蒼麻は1階担当で3階には行かないし、あいつは俺等四人より運動能力が高いんだ。あんな子供にやられるような奴じゃない。でも・・・。」
一旦言葉を切って梓蘭を見る。気付いた梓蘭が笑って首を傾げた。
「少女なら、油断するかもしれない。梓蘭のように部で調べていた、と言えば。」
「・・・・・私を疑っているんですか?」
「さあ。どうだろうね。」
肩を竦めて見せると、梓蘭の顔に影が落ちた。
「もし、私がその少女だったらどうするんですか?」
「・・・・・そうだな。」
腕を組んで考える振りをし、間を置いてから口を開く。
「殺しはしない。蒼麻を返してもらいたいだけだし。今まで連れていった人も返してもらう。あとは、こう言うね。『連れて行ってもいいけどその日の内に返してやれ。それと、竜矢を連れて行くな』ってね。」
「そう、ですか。優しいんですね。殺さないなんて。」
「そうでもないよ。」
照れくさくなって頭を掻いていると、梓蘭は少し寂しそうに笑った。
「とりあえず、歩こうか。止まってたら進むものも進まないし。」
「そうですね。」
頷く梓蘭。その時は既に先刻までの寂しそうな笑顔は無かった。

走る度に廊下から埃が舞った。懐中電灯は舞うその埃を映し出す。暗い廊下の先は終わりが無いように思われた。
「おかしい・・・・追跡機によれば水城はこの辺りにいるんだが・・・。」
2階に到着した竜矢、水生、竜也は追跡機を頼りに水城を示す黄色い点の場所にいた。しかしその場所には水城の姿は無かった。
「3階かもしれないな。行ってみよう。2人共。」
水生は懐中電灯を上に向ける。上からもパラパラと埃が落ちてきた。

「・・・・・・・・何か聞こえる・・・・?」
場面は4階、水城と梓蘭に移る。
廊下の奥、音楽室から微かな音を拾い、水城は立ち止まった。
「音楽室からですね。」
梓蘭が答え、時計を見る。
「時間は3時ですが・・・・まだ弾いていたんですね。」
「っていうのか本当だったんだ。命を吸われるまではわからないけど。」
「行ってみます?」
聞かれて水城は頷く。いつ終わるか知れないその音楽に小走りに行った。
廊下を進む度に音が大きくなる。暗い中響くそれは何処か悲しい音にも聞こえた。

―――― ガラッ

落書きが施された戸を開けると、音は必然的に大きく聞こえた。音の原因でもあるピアノは教室の奥に埃を被ってたたずんでいた。

―――― ポーン
―――― ポンポーン

誰も弾いているはずの無いピアノは1人で音を出している。あまり音楽の知識が無い水城だが、その音が悲しいものだと言うことは理解できた。しかし、悲しい一方綺麗なその音は、確実に少しずつ心を奪っていく音だった。
「梓蘭、そこでちょっと待ってて。」
「えっ・・・・水城さん?」
突然ピアノに水城は向かう。慌てて梓蘭は呼びかけるが返事も止まることも無い。ハラハラとした面持ちで見守っていると、水城はピアノの前で立ち止まり、ゆっくりと鍵盤に指を置いた。
クンッ ――――
さほど力も入れずに鍵盤は押されたが、押して出る音は鳴らなかった。
「長い年月放って置かれたから音が出なくなっているんだ。可哀想に。これじゃあ弾きたくてもちゃんと弾けないな。」
手で鍵盤の埃を払いながら、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「行こう、梓蘭。」
心配している梓蘭に声をかけると、音楽室から出ていった。途中、視線を感じて後ろを振り返ると、ピアノの椅子に長い髪の女性が寂しそうに笑ってこちらを見ていた。

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