文芸評論と漫画評論

2007/08/01(水)23:30

棟居刑事の複合遺恨、森村誠一著

文芸評論(194)

デートは死体発見現場で 棟居刑事は、いつも比較的控え目であるが、本書では割合目立つ存在だ。 山を愛する棟居刑事と桐子は二度登場するが、二度目は、二人が死体発見現場でデートする。 桐子の洞察力も、敏腕刑事並である事には、いつも感嘆させられる。 さて、事件とその捜査は、いつもの森村節だ。 本書では、犯人は誰か?という事を追求するより、その動機に鋭く深く迫ろうとしている。 作家生活の長い著者は、推理の対象を、犯人を追うという表面的な点のみに留まらず、 その対象を人間の心の深層部分を追う事に、重点を移してきた。 その点で、本書の内容は深く、最後まで完全に読了しなければ、納得しにくい。 また、社会派的テイストも加味されているが、 本書は、本格的な社会派推理というより、深層心理テイストの作品だ。 文章の体裁なども、読みやすく親しみやすい。 完成度の高いエンターテインメントだと言える。

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