文芸評論と漫画評論

2008/05/02(金)22:12

あなたがここにいて欲しい、中村航著

文芸評論(194)

生き急ぐ人と、慎重な人 主人公は吉田君であるが、又野君の生き様との、強烈な対比が印象的だ。 又野君は、本文中の言葉を借りると、「生き急いでいる」という事になるのだが、 対して、吉田君は、石橋をたたきながら、きわめて慎重に生きている。 著者の言葉は、多分に比喩的だ。 世界一強い動物は象らしいが、小田原の象は、何を象徴しているのだろうか? あなたがここにいて欲しい、というあなたとは、具体的には誰を指すのか? 舞子さん? 又野君? こんな事を考えていると、複数の解釈が成り立つ。 それらの答えは、読者の心次第なのだと思う。 全体的に、少々理屈っぽい印象だが、著者の温かい感性の表出でもある。 表題作以外の作品も、大変興味深く、特に、男子五編は、複合的自伝的で、面白い。 文学の香りを伴い、表紙イラストも印象的。 非常に秀逸な作品で、買って良かった、と思っている。

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