カテゴリ:パブリックリレーションとCSR
NIKEのテレビCMが中国で放送禁止になってしまいました(産経Web)。例の如く気合いの入ったNIKEのブランド広告で、わざわざアジア市場向けに制作されたものです。
NBA選手が、「龍」に向かって何か誓いを立てます。そして、「仙人」を思わせる相手選手のディフェンスを軽やかにかわし、高々とジャンプしシュートするときには、女神か天女のような女性が祝福している、こんなコマーシャルだと私には見えました。 ところが、中国人にとっては、いずれも中国民族と文化を象徴する、「龍」に対して戦いを挑み、「仙人」を打ち負かし、民族衣装をまとった「中国女性」を投げつけている、ように見えるらしいのです。つまり、この外国企業は中国の民族と文化を侮辱している、ということになってしまったのです。 放送行政を統括する国家ラジオ・テレビ・映画総局は、中国のテレビ放送管理規則第6条の「祖国の伝統文化を尊重しなければならない」と第7条の「民族習慣を馬鹿にしてはならない」に抵触するとして、中国のテレビ局に対して、このテレビ広告の放送禁止を通達したそうです(商都信息港・中国語)。この処分を受けて、NIKIはPR会社と中国の報道機関を通じ、中国人民に謝罪しました(新華社Web・中国語)。 ちょうど去年の今頃、トヨタのPRADOの広告が、中国を「侮辱」した広告として槍玉に挙げられました。中国では屋敷の門などに飾られている「獅子」像さえもトヨタのPRADOに畏敬の念を抱くと言う雑誌広告です。キャッチコピーも「PRADO、あなたを尊敬せざるを得ない」ですから、明らかに「獅子」像の尊厳を使ってトヨタのクルマの凄さを表現すると言うコンセプトで制作されたものでしょう。 テレビと比べると影響力の小さい自動車雑誌に掲載された広告ですが、ネット等を通じて瞬く間に批難の嵐となってしまい、PRADOが「獅子」に踏みつけられてしまうコラージュ広告がネット上で大人気になってしまいました。トヨタはこの広告を掲載した雑誌に謝罪コメントを掲載するとともに、記者会見を開き謝罪しました(中国情報局)。 さすがトヨタ、収拾まで2ヶ月ほどという、日本企業にしては早業の対応でしたが、その後も日本関係のイヤなニュースなど機会あるごとに中国では取り沙汰されています。 最近では日本ペイントが「国際広告」という広告の業界誌に掲載したブランド広告が、「龍」を使ったことで批判を浴びています。 日本企業であるトヨタや日本ペイントの広告は、いずれも雑誌への掲載で、本来影響力が大きくない割には、中国人民の間で随分話題となりましたし、大きく報道もされました。しかも中国当局が正式に違法性や不適切さを認めて処分したものではありません。ネットやマスコミで展開される批難に苦慮して、広告主が自ら取り下げたのです。 一方、今回のNIKIの場合は、影響力の大きなテレビで放映された広告で、中国当局が正式に「放送禁止」という行政処分を行いました。オンエアされて1ヶ月足らずほどで、謝罪して収拾に向かう、という手際の良さもあり、こちらのほうは恐らく長く尾を引かず済みそうですし、ブランドヘ影響力も小さくて済みそうな感じが個人的にはしています。 NIKIの広告は、日本のユニクロなども手がけるアメリカのクリエイティブ・ブティックが手がけているはずです(現時点では未確認ですが)。問題になったトヨタの広告も、実は日本の広告会社が制作したのではなく、イギリス系のメガ・エージェンシーの北京法人が手がけたものです。恐らくどちらのクリエイティブ・アイディアも、欧米人とシンガポールや台湾を含む中国系人のコラボレーションではないかと思います。「龍」や「獅子」や「仙人」は東洋的神秘として欧米人は興味を持ちそうですし、中国系人も広告表現に自国の文化的なものを使いたいがります。日本人クリエイターでこんな発想をする人は稀です。 きっと中国人民の共感を得られると思い、良かれと思って選び出したモチーフなのでしょうが、結局はアダとなってしまいました。外国企業は、「龍」や「獅子」のような中国の民族や文化に絡む題材の広告での利用を、中国では止めておいたほうが良さそうです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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