2005/05/29(日)17:45
"外貨はもう要らない"と言う中国当局の思惑。
中国の外貨管理当局が、面倒な制度の運用強化を打ち出しました。と言うシンプルなきまりですが、一部の外資系企業にとっては死活問題になってしまいます。
"外債"とは外資系企業を含む中国企業が中国国外に持つ債務のことで、外貨管理当局に登録することが義務付けられています。いっぽう、中国の外資系企業の場合、借入金などの資金調達には一定の制限があります。簡単に言えば、その企業が定め中国当局(商務部)が承認した"投資総額"を超えてはならない、ということです。サービス業など非製造業は、"投資総額"=資本金(登録資本)と言う場合が多いため、このルールに基づけば、資本金以上の資金調達はできないことになります。ただ、これまで中国当局は、こうした制限を意図的に見逃してきました。"投資総額"を超えて、銀行からの借入金などで事業規模を拡大する外資系企業に対して、大目に見てきた、というよりむしろ"奨励"してきたのです。
これは制度の運用面からも明らかで、外資系銀行を含む中国国内の金融機関からの借入金は、外貨建てであっても"内債"(中国国内での債務)としてみなす、と言っていました。ですから買掛金などと同じように、資金調達としての解釈を避けてこられたのです。ところが今回、国外担保付の借入金は"外債"となり外貨管理当局の登録が求められるようになり、しかも外貨管理当局はその企業の"投資総額"を超えた"外債"登録を許可しない方針を強化しましたから、実質的には外資系企業は国外担保付の借入金による資金調達の制限を受けることになるのです。
"国外担保付"でもっとも分かりやすい例は、日本など国外の親会社による"債務保証”ということになります。中国国内に担保価値を持つ資産に乏しい非製造業の外資系企業は、銀行からの借入にあたって国外の親会社からの"債務保証"を担保とすることが多いので、モロにこの規制にぶち当たってしまうわけです。
特に日本の非製造業の中国現地法人は、資本金(登録資本)をできるだけ小さく抑える傾向がありますから、回転資金を親会社からの親子ローンか親会社の債務保証による借入金で賄っているケースがほとんどのわけで、これができなくなると死活問題になってしまいます。
中国でこの先もビジネスを進めて行きたいのなら、"直接投資"をしろ、と言う中国側のメッセージであるわけで、外資系企業は資本金を増やすしかなくなるわけです。
こんな通達が出てきた背景には、"人民元の切り上げ"問題とインフレ抑制の経済政策が考えられます。
ご存知の通り中国の外貨準備高は世界No.1。いってみれば日本の親会社の債務保証などの"国外担保"も外貨準備高の一部です。様々な要因で人民元を切り上げすることになると、外貨の人民元建ての価値は目減りしてしまうわけです。ですから、人民元の為替変革を乗り切るまで、中国当局は外貨準備高をできるだけ増やしたくないのです。
また、中国の多くの沿岸都市で見られるプチ・バブル的現象は、外資系企業の資金量拡大によるものであることは明確なので、これ以上増やさないことがインフレやバブルの抑制に結びつくと考えているのです。この方法ですと、純然たる中国国内企業に与える影響は間接的なものに留まる訳ですし.....
きょうは経済と外貨管理政策のちょいと難しいお話になってしまいましたが、外国企業の直接投資を促す、という中国当局の方針は、外貨管理上また自国経済の安定化上、ごく全うな話だとは思います。日本企業は特に非製造業において、中国のカントリーリスクを考慮するあまり、直接投資に消極的過ぎ、資本金(登録資本)も最小限に抑える傾向がありましたから、今後対応を迫られることになるでしょう。
ウチの会社のように、親会社からの債務保証による借入金で事業規模を拡大してきた企業は、中国の外貨管理当局がこの制度の運用を"柔軟"に行ってくれるよう願うしかありません。現状の借入残高までも認めてもらえなくなるようであれば、即座に"黒字倒産"してしまいます....