2006/05/06(土)14:19
「こちら側」だけではなく「あちら側」も担いそうな中国、「どちら側」にも無くなりそうな日本。
休日で一時帰国した際に梅田望夫さんの『ウェブ進化論』を購入し、さっそく読ませていただきました。私が興味を抱いたのは、「こちら側」と「あちら側」についてでした。
ネットにおける「こちら側」はユーザーが利用している端末、つまりパソコンやケータイなどで、「あちら側」はユーザーが端末を通して得られる端末には完全な状態では存在していない情報やサービスなど、つまりGoogleのような検索サイトなどです。楽天もGyaOもLivedoorも、この意味では「あちら側」であって、MicrosoftやIntelやDELLやCiscoなどはビジネスモデルとしては「こちら側」にあるというわけです。乱暴に言ってしまえば、「こちら側」のビジネスは劇的な成長が見込まれず、「あちら側」のビジネスこそ、これからの成長株という感じでしょうか。
「あちら側」と「こちら側」の"栄枯盛衰"を象徴するのが、Googleの株式公開とIBMパソコン事業のLenovo(聯想)への売却だそうです。「あちら側」のことはシリコンバレイがやってあげるから、「こちら側」のことは中国あたりに任せておけばよい、という文脈だったようです。
さて日本はというと、90年代初頭までは、半導体にしてもパソコンにしても世界のトップシェアを占めてたことがあったわけで、「こちら側」のハード面の主役を担うほどトレンドをキャッチアップしていたことになります。その後、「こちら側」のハード面での主役は韓国や中国などに譲ってしまいましたが、GoogleやAmazonのような「あちら側」の世界規模のメジャープレイヤーはまだ日本から出現していない、ということになります。
単純化してしまうと、「あちら側」はシリコンバレイが、「こちら側」は中国が受持つことになってしまうと、日本の出番は無くなる、ということになってしまいます。
しかも、中国が「こちら側」に甘んじているか、というと、私にはそうは思えません。むしろ「あちら側」においても、日本を追い越してしまうようなポテンシャルを持っていると思えるのです(一部では追い越しているかもしれません)。そのお膳立てとして中国に整っているのは、梅田さんの著書の言葉を借りるなら、「ロングテール」と「オープンソース」ということになるでしょう。
この場合の「ロングテール」を乱暴に説明するなら、マーケット全体の80%が大衆マーケット("「恐竜の首」側マーケット")だとすると、残りの20%に満たない"「ロングテール」側マーケット"のこと。
マスメディアは大衆を網羅します。伝統的な広告はできるだけ多くの消費者への訴求を目指します。1,000万部発行する新聞のほうが1,000部のミニコミ誌より影響力がありますしビジネスとしても成り立ち易いですし、大量生産のほうがコストが安く済みマーケティング費用の単価も小さくなります。いっぽうAmazonや楽天市場のようなネットのネットの「あちら側」なら、一人か二人しか買わないような書籍やこだわりグッズをミリオンセラーと同じようにお店に並べておいても、マーケティングの費用はたいしてかかりません。
これまで日本をはじめ外国企業が中国に魅力を感じて進出してきたのは、主として「ロングテール」側のマーケットに勝算があると思えたからでしょう。日本の"大衆"と同等以上の購買力を持っているのは、中国人民の10%未満と言われています。大衆マーケットに対してならテレビなどマスメディアで広告したほうが効率的ですが、「ロングテール」側のマーケットに対してはネットによるマーケティングが効果的です。
中国は数年前からこうしたバックグランドを持っているのです。
次に「オープンソース」。梅田さんはウェブ・サービスにおけるAPI(Application Program Interface)の公開について述べてらっしゃいますが、これも中国流に乱暴に当てはめてしまえば「知的財産権の軽視」になるでしょう。新作映画の海賊版DVDが100円程度で堂々と売られているお国柄です。他人の知的財産権に対して甘いのは周知の事実ですが、自らの知的財産権の侵害に対しても比較的寛容にならざるを得ない環境といえます。しっかりしたルールやマナーのうえで成り立つ「オープンソース」とは明らかに違いますが、技術情報の公開・流通に対しては、日本のように閉鎖的ではないと言えるでしょう。
日本の閉鎖性は、例えばブログ・サービスやアフェリエイトなどにも顕著に現れています。例えば、楽天市場のアフェリエイトは楽天広場以外のブログでは機能しませんし、一部のブログ・サービスではそこにユーザー登録しなければコメントも残せない状態だったりしていました。顧客の囲い込み戦法です。いっぽう中国におけるウェブの開放性は、ニュースサイトが転載のみで成り立ってしまうくらいですし、Googleをパクったような検索サイト百度が、中国マーケットにオプティマイズされたサービス・メニューを次々とリリースしていくことからも明らかでしょう。
わが日本はいまだ「恐竜の首」側、つまり大衆マーケットにしがみついています。そして、東証のシステム拡大に何十億円という出費を強いられるくらいの、閉鎖的な下請け作業構造が存在しています。ネットの「あちら側」で頭角を現すのは、日本よりも中国のほうが先のように思えるのです。
逆説的かもしれませんが、政策の支援も中国のほうが、的を得ているように思えます。例えばモバイル・コマースについて、中国の2大キャリアはあらゆる代金の集金ができることになっています。通信・通話料金の集金しかできないように規制されているドコモよりは「お財布ケータイ」などのビジネス展開がし易いわけです。中国当局がこれまで知的財産権侵害の取り締まりに消極的だったのも、中国的「オープンソース」を浸透させるためだったかもしれません....これは蛇足でした。
中国は「こちら側」だけではなく「あちら側」にも触手を伸ばすことになるでしょう。「あちら側」は中国には無理、と鷹をくくっていては危険だと思います。
例えば自動車産業において、「こちら側」は鉄鋼などの素材産業、「あちら側」は車体やエンジンの開発、と張拡大解釈するなら、多くの日本人の意識の中には、「こちら側」は中国やインドが担うことになっても、「あちら側」は日本にしかできない、的な安心感が存在しているように思えます。しかし、中国的「オープンソース」と「ロングテール」側マーケットの取り込み易さという土壌により、中国独自の開発・設計が加速しています。中国独自開発のクルマなんて誰が買う、なんて思うでしょうが、中国人民が買えば充分なわけです.....。
ネットにおいても「あちら側」もアメリカと中国の挟み撃ちにあって、日本は「どちら側」にも無くなってしまうような気がして心配です。
梅田望夫さんの『ウェブ進化論』