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北京ビジネス最前線改め中国ビジネス後方基地

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2011.06.22
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ほんらい中国のネット企業には外国資本が出資できませんし、外国市場に上場もできません。
インターネット産業は外資規制の領域になっているからです。厳密に言えば、インターネットによってコンテンツを発信しその対価として収益を得るようなビジネスモデルが対象ですが、ウェブサイトで様々な種類のコンテンツを発信するたびに、当局にお伺いを立てて「許可証(ビジネス・ライセンス)」をいただかなければならず、外資企業だとだろいろ邪魔されたりするので、実質的には中国国内資本の企業でなければ、中国でウェブビジネスをうまく進めていくことができない仕組みになっているのです。

けれども、百度、SINA、SOHUをはじめ、中国の主要なネット企業は海外市場に上場していますし、多くのネット企業は中国国外のベンチャー・キャピタルや事業会社からファイナンシングをうけています。
実際にそれができているのは、コントロール・アグリーメント((支配権合意書。中国語では「控制協議」と書く)という契約上のからくりがあるからです。この契約により、外資企業が資本関係を持たずに、中国国内資本のネット企業を実質支配できるとされているのです。
外国資本を集めたり、外国市場に上場しようと考えている中国企業は、まず中国国外に持株会社をつくります。そして、その会社が資金調達を行うのです。
中国国外の持株会社は、100%出資の子会社を中国国内につくります。この会社の株主は外国企業なので外資扱いになってしまいますが、この会社と元来の事業会社が様々な契約を締結することによって、結果的に中国国外の持株会社が元来の事業会社を実質支配する仕組みを作るわけです。一般的に元来の事業会社の株主は、その企業の中国人ファウンダーですから、中国国内資本の企業ということになります。

コントロール・アグリーメントは、中国国内の企業と中国人株主との間で結ばれる、紳士協定みたいなものです。この当事者間の約束ごとを支持してくれる法的な根拠が中国にはありません。あくまでも当事者間同士の取り決めなのです。
もちろん大抵の場合は、もし約束を破ったなら、事業会社の株式を持株会社に無償譲渡する、という条項を盛り込むことによって、リスクヘッジを施します。慎重な場合は、中国国内資本の事業会社の株式に質権を設定します。

でも、このリスクヘッジ策そのものに矛盾があるのです。
もし、事業会社やその株主が約束を破って、持株会社がその株式を取得したらどうなるでしょうか?持株会社は外資企業ですから、事業会社も外資企業になってしまいます。つまり外資規制に抵触してしまうので、ビジネス・ライセンスが剥奪されてしまうことになり兼ねないのです。

こうしたストラクチャーを考え出し、中国国外の証券市場への上場を目指す中国企業に高値で売りつけたのは、世界的な監査法人や法律事務所です。彼らも法的にはグレーゾーンであることを当事者には説明しているのですが、コントロール・アグリーメントのリスクヘッジ策の非実効性については市場参加者に積極的には開示していませんでした。もちろん、公開されている情報をもとに考えれば、わかるような内容ではありますが。
ともあれ、百度もSINAもSOHUもYoukuも当当網も人人網も、このような投資ストラクチャーとコントロール・アグリーメントによって、中国国外証券市場で上場を果たしているのです。

アリババグループのトップであるジャック・マーが、その実質支配子会社であった第三者決済サービスのアリペイ(支付宝)を、取締役会の議決を経ずに、アリババグループから切り離した、とされる一件は、単純化すれば、上述のコントロールアグリーメントをアリペイ側が一方的に破棄した、という事象に置き換えられます。かつてのアリペイは外資規制のビジネス領域では無かったはずですが、恐らく中国における外資企業のさまざまな不利益を考慮して、アリババグループは、資本関係によってでは無く、コントロール・アグリーメントによって、アリペイを実質支配・完全子会社化していたのです。

昨年、中国の中央銀行は、「非金融機関による決済サービスの管理弁法」を発表し、インターネットを利用した第三者決済サービスを許認可制にすることを決め、原則として中国国内企業でなければライセンスを与えない方針としました。
【中国国内企業でなければライセンスを与えない】これは、前に述べたインターネット・サービス・プロバイダー、例えばNASDAQに上場している百度やSINAと同じ条件になった、ということであって、コントロール・アグリーメントによって支配権を外資企業である持株会社に譲っているにせよ、アリペイの事業会社は中国国内企業ですから、第三者決済サービスのライセンスを受ける条件は満たしていることになるはずです。

ところが中央銀行は、コントロール・アグリーメントによって外国資本の持株会社に実質支配されている中国国内企業を、許認可の対象から外す方針を突きつけたようなのです。ライセンス申請時に重要な契約をすべて開示し、外国資本の影響力をも審査対象にする、と。こういったルールがドキュメントとなって公開されることはまずありません。一般にドキュメントとなった中国当局のルールは大雑把なもので、運用の子細は担当責任者次第なのです。これがいわゆる「人治主義」であり、担当責任者へのもてなし次第では有利に運用してもらえるので、腐敗の温床ともなっているわけです。

最近Tencent傘下の第三者決済サービスであるテンペイ(財付通)が、かつてのアリペイ同様、コントロール・アグリーメントによって、香港上場企業であるTencentの実質支配を受けている、という業界関係者にとっては周知の事実が公になり、ライセンスが剥奪されるのではないか、という情報すら流れていますから、中国人民銀行による第三者決済サービスへの外国資本の影響力排除の方針は、確固たるものだと考えられます。

アリババグループとアリペイの一件を、「ジャック・マーは約束を守らない、中国企業は信用できない」と問題を矮小化して捉えるべきでは無いと思います。
想像するに、アリババグループ側も主要株主でありボード・シートを持つYahoo!やソフトバンクに対して、中央銀行の指針やコントロール・アグリーメントのリスクをきちんと説明していただろう、と。そしてYahoo!・ソフトバンク側はエビデンスを求めたのではないか、と。「アリペイは資本構成としては完璧に中国国内企業じゃないか、コントロール・アグリーメントを結んでいるとライセンスがもらえないなんて、誰が言っているのか、どこに書いてあるのか、エビデンスが無ければ納得できない...。」そうは言われも、「コントロール・アグリーメントが残ったままだと、ライセンスが下りません」なんて書かれたルールは無いわけですし、中央銀行に尋ねても曖昧な回答しか得られなかったのでしょう。中国のルール運用は「人治主義」。アメリカや日本の会社が求める確証など得られるはずが無いのです。中国国外の役員を説得できるような材料を揃えることはできなかったのでしょう。だから議決も行われなかった。そうしてYahoo!やソフトバンク、さらにはメディアまでが「ジャック・マーは、こうした中国の規制強化を悪用して、成長が期待されるアリペイを自分のモノにしようとしているのではないか...。」と疑心暗鬼に陥っていったのです。
中国も未だにコントロール・アグリーメントによる事由は、ジャック・マーの一人芝居(言い訳)に過ぎない、との論調も多いのですが、中央銀行がコントロール・アグリーメントの解除をライセンス付与の条件とする、とアリペイに示唆したのは事実だと思われます。

コントロール・アグリーメントによる外資規制対策が、中国政府関連機関から疑義を唱えられた、という事実こそ、この問題の本質と捉えるべきでしょう。上述のとおり、中国国外に上場している中国のインターネット関連企業はことごとくコントロール・アグリーメントによって、中国国内企業にしか付与されないライセンスを得てビジネスをしているわけです。
中国当局が、「外資とコントロール・アグリーメントを締結している中国国内企業は外資企業と同等に扱う」と、運用方針を変えてしまえば、上場企業は事業会社を持たない、すなわちビジネスの実体を持たない持株会社に過ぎなくなってしまうわけです。このことが市場参加者にとって大きなリスクとなるため、アリペイのトラブルが広がって以来、中国国外に上場している中国のインターネット関連企業の株価が軒並み下がってしまったのです。

自分の情報をGoogleで検索し、気に入らない結果が多かったことに腹を立て、Googleなど中国から追いだしてしまえ、と指示したとされる党中央政治局常務委員・李長春さんは、中国のインターネット関連ビジネス推進の旗振り役でもあり、環境に優しい産業としてさまざまな優遇政策を推し進めています。もちろん中国国内のインターネット産業成長には、中国国外からの投資資金が欠かせない、ということを彼らは十分承知していました。ですから、インターネットの主たる監督省庁である工業情報化部はコントロール・アグリーメントによる外資の参加をむしろ歓迎さえしていたわけです。

この方針がすぐにでも転換されるとは思えないのですが、コントロール・アグリーメントによるライセンスの付与というグレイな状態は、中国当局による言論統制の強化のための格好のツールになることは間違いありません。体制に不利な情報を流布するようなことがあれば、コントロール・アグリーメントを盾にライセンスを取り上げることができてしまうのですから!

アリペイのアリババグループ離脱事件が浮き彫りにした問題は、中国企業がビジネスルールを尊重しないこと、とか中国国外市場に上場する中国インターネット企業の企業価値に関するリスク、とか経済的な視点でしか、取り上げられていませんが、中国のインターネット企業は、当局の胸先三寸でその企業生命を絶たれる状況に常に置かれていることが露呈したことこそ、重要であって最大の恐怖なのです。

人民に影響力を持つウェブサイトほど、中国政府の顔色を伺いながらビジネスを行っていかなければ、ならないのです。





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Last updated  2011.06.22 18:03:21
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