流麗なミシェル・ルグランの音楽に身を委ね、ジャック・ドゥミの色彩豊かな映像を愉しみ、そしてカトリーヌ・ドヌーヴのクールな美貌に目を瞠る。町を歩くジュヌヴィエーヴ・エメリ(C・ドヌーヴ)と町行く人々のダンスをずっと追いかける移動シーンといい、この作品には実験的な要素が溢れている。
舞台は1957年11月から63年のクリスマスまでの6年間。ギー・フーシェ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)はアルジェリア独立戦争に徴兵され、2年間の兵役を余儀なくされる。そうした歴史的背景はあくまで隠し味であり、意思を無視した別れを用意するための道具立てに過ぎない。
駅での別れのシーンは、仏映画史に残る名シーンであることは間違いないが、列車が少し遠ざかると、意外にすっと踵(きびす)を返すジェヌヴィエーヴの姿に唖然。なるほど、その後の布石であったか(…考えすぎ?)。
かつて「映画音楽」という音楽ジャンルがあった。
映画のサントラを聴きながら、その映画のシーンを思い浮かべるのが本来なのだろうが、逆に未見の映画を、映画用のやや装飾過多な音楽を聴くことによって想像する、という面もあったように思う。
そして仏映画における映画音楽の定番がフランシス・レイとミシェル・ルグランだった。
この『シェルブールの雨傘』が制作されたとき、監督のジャック・ドゥミとミシェル・ルグランはいずれもまだ31歳の若さでカトリーヌ・ドヌーヴも20歳前。
物語そのものは「女の心変わりは誰にも止められない」(?)みたいな話だが、全編に溢れる才気が素晴らしい傑作。美しい映像が再現されたデジタル・リマスター版がお勧め。
誰が何といおうと、名作だと思う。
シェルブールの雨傘 【BLU-RAY DISC】