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紫色の月光

紫色の月光

七話後編

 今から大凡四年前。

 アメリカの首都、ワシントン・DCにてある事件が発生した。

 トラックの激突事故である。勿論、ただの事故ではない。被害者の男は事もあろうか空から降ってきたのだ。流石に上から落下してきたのでは幾ら安全運転を意識していても防げない。

 空から降ってきた男は死んでいた。当初はトラックと激突して死んだ物だと思われていたのだが、実は絞殺されていた事が判明した。

 となると問題は何処で、誰が、何の為に男を殺したのかだ。

 そしてその捜査の最中に悲劇は起きた。




「ネルソン先輩、駄目です! 手がかり無しですよ」

 黒髪の青年、現在のサイボーグ刑事ことアレックス・ホーリィは自身の先輩であるネルソン・サンダーソンに報告した。

 彼等はとあるビルの屋上にいた。何故そんな所にいるのかというと、位置的に被害者の男はここから落下してきた物だと考えられているからである。

「下を見下ろしたみたところ………被害者はここから落ちた物だと考えられるな」

 報告を受けたネルソンは屋上から下を見下ろしている。その視線の先には被害者が落ちた位置が白い線で大きく印をつけられていた。

「まあ、絞殺という事は自殺ではないだろうな。でないとここから落ちるなんて事はできんはずだ」

 今では想像できないほどマジメな態度なのだが、ネルソンはポケットの中に手を突っ込んでいた。すると、ポケットの中からバナナを取り出す。バナナは彼の昔からの大好物なのだ。

「ネルソン先輩。毎回思うんですけど仕事中にバナナを食べるのはどうかと………しかも皮を幸せそうに剥く姿は何となく猿みたいなんですが」

「喧しい。これは俺のエネルギー源なのだ。バナナを馬鹿にする奴はバナナに泣く」

「別に馬鹿にしているつもりでは無いんですけど……」

「馬鹿者。自分ではわかっていなくても、バナナの神様はちゃんと見ているのだ」

「何ですか!? そのバナナの神様って!?」

「そのまんまだ。全てのバナナに命を注ぎ込んで、全てのバナナを愛する。正にバナナ神なのだ!」

 最早ネルソンは自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
 このまま話を続けるのは疲れると思ったのか、バナナの皮を放り捨てて出入り口に向かう。

「アレックス。何をしている。置いていくぞ」

「あ、はい。今行きま―――――」

 その時である。悲劇が起きたのは――――――

 アレックスはネルソンが捨てたバナナの皮を踏んずけてしまい、体勢のバランスを崩してしまったのだ。

「あれ―――――?」

 一番の不幸はこのビルの屋上には柵というものが無かった事である。彼は普通なら派手な音を立てながら倒れるはずなのだが、屋上から落っこちてしまったのである。

 アレックスは被害者が落ちた位置が記されている白い線に吸い込まれるように落ちていく。

 それは今までの人生が全て嘘だったかのような感覚だった。

 



「こうして、俺は一度死んだ。しかし、俺はサイボーグになる事によって不死鳥の如く復活を遂げたのだ!」

 サイボーグ刑事は夜の公園の中で叫んだ。そしてそれを聞いたジョンは思った。

(うわー、救われねー)

 ネルソンはこともあろうかバナナを食べていた。それも二本同時に。

「あんたは何で今の話を聞いたあとでも普通にバナナを食えるのだ!?」

「それはあれだ、アレックス。お前はやはりバナナ神の怒りをお受けになってしまったのだ。こればっかりはどうしようもない」

「どうしようもないのかよ!?」

 サイボーグ刑事とジョンは同時に突っ込んだ。どうやらネルソンとコンビを組まされた者は自動的にこうなってしまうようである。ある意味恐ろしい。

「そうだ。バナナ神はいかに俺でも止める事は出来ない」

「いや、そういう問題じゃなくって!」

 二人の叫びはまたしてもハモった。練習したわけでもないのに見事に一致している。

「警部! これは幾らなんでも救いようが無さすぎですよ!? サイボーグ刑事が警部を恨むのも間違っているような気がしないことも無いですが」

 しかし、気持ちが分からない事もない。普通に死んだのならまだしも、これほどにまで救われない死に方なのだ。サイボーグ化しなくても化けて出てきたかもしれない。

「そいつは聞き捨てならないな。あの男がバナナなんぞ食わなければ俺はこんな事にはならなかったのだ!」

「バナナのせいにするな!」

 ネルソンは叫んだ。その言葉には明らかに怒りがこめられている。

「悪いのはバナナじゃない。柵が付いていなかった屋上と皮だ!」

「何となく説得力がありますけど皮は別物なんですか!?」

 結局、この言い争いは翌日の昼まで続き、ネルソンとサイボーグ刑事ことアレックスの仲はますます悪くなってしまった。かなり近所迷惑な話である。

 尚、不幸な事にジョン刑事はこの日一睡も出来ないまま仕事をする羽目になり、かなりの体力を消費してしまった。かなり可哀想である。

 因みに、ネルソンの優先順位的に言わせて貰えばバナナは皮よりも中身らしく、それらをまとめてバナナと言わず、きちんと「皮」と「中身」で分けなければならないらしい。尚、それだとバナナ神の怒りを受けるぞ、と突っ込んだ奴はいなかった。





 夜11時。

 時刻どおりの指定場所には二人の男がいた。エリックとマーティオである。しかし今の二人はただのエリック・サーファイスとマーティオ・S・ベルセリオンではない。泥棒のシェルとイオなのだ。

「まさかこんなに早くここにまた来る羽目になろうとは……」

 エリックことシェルはカラクリ屋敷を見上げる。その屋敷は地下3階から地上4階まであり、とにかく広い。下手をしたらそこら辺の美術館を丸呑みできるサイズである。

「ジョージ・バンガードはさぞかし気分が良かっただろうな。こんな大きな屋敷を世界中に有していたというからな」

「ああ。そしてトラップ地獄を回避しきって屋敷の中に眠るバンガードの遺産を手に入れた奴は誰もいない」

 このカラクリ屋敷にあるバンガードの宝で有名なのは「オアシス」と呼ばれるオパールである。何と言ってもバンガードお気に入りの宝石として様々なTVに出演して自慢されていた宝石の一つだ。これを売りさばいて大金を手に入れようとする泥棒がいたり、大金を積んで買い取りたいと思った金持ちまでいるほどだ。どれだけの値がつくのか予測がつかない。

「しかし、挑戦状を送りつけてきた訳のわからん二人組みは何処にいるんだ?」

 今は指定時刻を5分オーバーした11時5分である。時刻になっても来ないのでマーティオは、

「仕方が無い、エリック。時限爆弾をセットするぞ。流石に爆弾相手なら屋敷でもドカンだ」

「だから爆破するんじゃねぇ! お前の目的は何だ!?」

「金を奪い返す事とカラクリ屋敷の破壊だが?」

 マーティオは即答した。今の彼にはオパールなんて物はどうでもいいようである。

「普通に答えるな馬鹿!」

「む……仕方が無い。ならばカラクリ屋敷の『消滅』と言っておこうか」

「大して変わらないからそれ!」

 エリックとマーティオの言い争いはますますヒートアップしていく。しかし次の瞬間、それに待ったをかける声が響いた。

「あんた等何しに来たの!?」

 その声を耳にした瞬間、マーティオことイオは反射的に叫んだ。

「無論、屋敷の破壊だ!」

「オメ―は本当に何しに来たんだよ!?」

 マーティオの言葉にエリックは思わず突っ込みを入れる。マーティオも常識は一般市民と比べたらかなりズレているのだ。エリックも結構ズレているのだが、彼と比べたらマトモな方なのだ。 

「だから何回も言っているだろう! 俺の目的はこの屋敷の消滅と何たらローズとか言うネーミングセンスが最悪な奴から金を奪い返す事だ!」

 しかし、エリックとマーティオは気付いた。先ほどの声は紛れも無く女性の物であり、第三者の物なのだ。つまり、噂のネーミングセンス最悪な二人組みが遅刻してやってきたのである。

「あんたらねぇ………人様のネーミングにケチつけようなんて100億年早いの! 分かる!?」

 向こうの二人組みのうちの一人、黒い仮面をつけた女が肩を震わせながら叫んだ。隣の女性は相棒とは対照的に全身白であり、片手にはエリックから奪ったカバンを持っていた。はっきり言って白だとかなり目立つような気がする、とエリックは思った。

「ふん、貴様等が100億なら俺達は1000兆だ。次元が違う」

『そういう問題じゃないから!』

 マーティオの負けず嫌いな発言に他の三人は一斉に突っ込んだ。





「んで? 何だってまた俺たちに挑戦状なんて物を送りつけてきやがった?」

 エリックが当然の様な疑問を二人の女性にぶつける。

「あんた等は自覚がないかもしれないけど、あんた等二人は結構有名なのよ。何と言っても刑務所で暴れておきながら捕まらなかったというのは一番インパクトがあったの」

 それは紛れも無くマーティオのことである。彼は前回の戦いでイオの格好をして戦ったので、刑務所内での暴れ振りは全部彼の知名度を上げる結果になってしまったのだ。しかも場所が場所なだけに世界中にこのニュースが報道されるようになったのだ。

 しかも、イオと共に行動しているエリックことシェルもこのイオと同じくらい凄いのではないか、とマスコミが勝手に報道してしまった為、シェルも一気に有名になってしまったのだ。

 つまり前回の刑務所での戦いで二人は全世界にその名前を無意識の内に轟かせてしまったのである。

 そしてこの挑戦状は、そんな有名な二人を倒して自分達の知名度を上げようと思った変な二人組みからの手紙なのだ。

「……俺たち、そんなに有名になったのか?」

「最近はテレビもロクにつけなかったからな。――――知らないうちに世間から取り残されていたのか」

 あんた等の話題なんだけどね、と女二人組みは突っ込んだ。

「さて、始めるわよ。説明は要らないと思うけど、ターゲットは『オアシス』」

「ルールは簡単。この中の誰かがオアシスを手に入れたらそのチームの勝ち」

「実にシンプルで結構だ。妨害とかは?」

 マーティオは無表情な顔で問うた。やはり彼は彼女達から金を奪い返したいようである。

「勿論アリよ。要は何でも有りな競争みたいなのだと思ってくれればOKよ」

「うし、それだけ聞けば十分だ」

「そう、じゃあ―――――スタート!」

 黒の女が言ったと同時、四人は動き始めた。

 エリックとマーティオは入り口から離れていく。前回、彼等は入り口のトラップで酷い目にあっているのだ。そこで、今回は二階から侵入しようという魂胆なのだ。

 そして女二人組みも二階の窓からロープを使って侵入する。彼女達はエリックから奪ったバックを持ったまま侵入している。下手にこれを向こうに渡したら、マーティオの言動からして問答無用でオアシスごとこの屋敷を破壊しているかもしれないからだ。



「ところでエリック。一枚カードをもらえないだろうか?」

 二階に出た瞬間、マーティオがエリックに言った。

「カードってお前。何時もトランプ持ってるじゃないか」

「そっちのカードではない。犯行予告専用のカードだ」




 二階の窓からの侵入に成功したブラックローズとホワイトローズは、周囲に注意しながら歩き始める。

 この屋敷のトラップは下手をすれば一撃で死ねるような物が多い。例えば入り口の扉を開いた瞬間、真上から火炎放射器が炎を吹く。そのまま火達磨になって帰らぬ人になった者がいるのだ。

 しかも運良く助かっても、今度は地面から突き出ているチェーンソーが8つ待ち受ける。入り口からの侵入はかなり困難な物なのだ。

 そんな事を思い出していると、ブラックローズの視界を切り裂くように横切った物体があった。

 カードである。そしてそのカードには文字が書かれていた。

『予告上。本日、怪盗ブラックローズとホワイトローズの持つ金入りバッグを再び頂きます。覚悟するように。―――――怪盗イオ』

 明らかな犯行予告である。最後の部分は殺人予告とも取れるが、あえて無視した。しかもイオの名前しかないと言う事は、

「シェルはオアシス探しか!」

「拙いわね。イオは刑務所で暴れておきながら捕まらなかった猛者。私たちが二人で勝てるかどうか……」

 そこまで言った瞬間、二人は気付いた。

 そもそもこのカードは何処から飛んできた?

 答えは単純、真横からである。と、言う事はそこにカードを投げつけた男が――――イオが潜んでいるのだ。

 彼女達が振り向いた瞬間、正面――――先ほどカードが来た方向――――に光が見えた。それは通路の闇を切り裂くように真っ直ぐ飛んできており、二人に向かって牙を剥く。

「あれは―――――!?」

 それはリーサル・サイズの柄が分離して、その分離した柄の一本一本から刃が突き出ている、マーティオ命名『ウィザードナイフ』である。

 それは魔術師がこちらに無数のナイフを投げつけているように見えた。しかし、明らかに不思議なのは魔術師の位置に立つマーティオことイオの周囲に無数の柄が浮遊している事である。それら全てが元々が一つの大鎌なのだと言うのだから驚きである。

「何でもありの競争なら――――別に殺っちゃっても問題は無いんだよな?」

 マーティオは容赦ない。まるでオーケストラをまとめる指揮者のように両手を挙げると、それを一気に降ろした。

 その瞬間、周囲に浮いていたウィザードナイフが第二陣として一斉に二人に襲い掛かった。

「ちょっとちょっと! そんなトンでも兵器ありなの!?」

 第一陣の刃物を回避したホワイトローズは泣きそうになりながらもマーティオから逃げる。このままだと確実に殺される、という脳からの命令である。

「何でもありが俺のいいところだったりするのだ」

 しかし、その何でもありな破壊行動が彼の短所だったりする。そのことにマーティオは気付いていないようだ。





 地上二階のとある部屋に侵入したエリックはオアシスの捜索をしていた。

 以前この屋敷に乗り込んだ時には地下と一階は捜索し終えたのだが、二階から先は体力の限界、怪我、手榴弾が無くなったと言う理由があったために調べていないのだ。そこで、彼は地下を無視して二階から捜索を開始したのだ。

「さて、何処にあることやら………お~い、オアシスちゃ~ん………こんなんで見つかるわけがないか」

 一人で虚しい空気を作ってしまったエリックは部屋の中である物を発見する。それは一本のビデオテープだ。

「………」

 そしてエリックは徐に、何故か置いてあったビデオデッキにテープを入れた。

 テレビ画面に光がともると同時、タイトルと音楽が流れ始める。それは昔の特撮物のテーマソングであり、タイトルは、

「な……! こ、こいつは伝説の特撮『仮面ウルトラ』じゃないか!」

 仮面ウルトラとは、某バイク乗りの改造人間と某光の巨人を組み合わせた特撮であり、バイクに乗る、手から光線出す、巨大化する、ベルトで変身する、三分しか戦えない、必殺技はキックと言う、思いっきり二つの要素を組み合わせた、マニアにはたまらない作品である。

 しかし、何故かこの作品は放送される前に取り止めとなってしまい、サンプルの第?話が存在するだけとなった、まさしく幻の作品なのだ。因みに、組み合わせの元になった二つの作品が余りにも人気が高かった為に存在だけ知らされる事になった幽霊作品としても知られている。

 そんなマニア魂を興奮させる作品とこんな所で出会う事になろうとは……!

 エリックは別にあっち系ゲームしかやらないわけではない。気に入ったのがあればRPGだろうがシュミレーションだろうがスポーツだろうが何でもやるのだ。

 無論、そうなれば自然と『原作』にも興味が出てくる。そういう経緯で彼は特撮にも興味ありなのだ。

 しかし、特撮を見ていて思う。

(なんか大事な事忘れているような………)

 それは本来の目的だったのだが、彼は忘れてしまっているようだった。

(ま、いいか。今はレジェンド作品を見なければ………)

 しかし、今の彼にはどうでもいいことなのかもしれない。何度も言うようだが彼も常識が一般人と比べると結構ズレているのだ。

 しかし次の瞬間、特撮お約束のバトルシーンの最中に映像がなにやら一人の男の顔に移り変わった。

 画面に映った男は静かに言う。

『まさかこのビデオが鍵だと知っている奴がいるとは……さしずめ、偶然か、もしくはここで働いていた者に聞いたかだな』

「んなもんどうでもいいから続きを見せろ! 続きを!」

 エリックは男が現れた瞬間から怒りを抑えられずにいた。これからと言う大事な時に訳のわからない男が突然現れて、鍵がどうとか言い始めているのだ。それはエリックでなくても怒る奴は怒る。

『さて、この画面の前にいる君は恐らくはオアシスを狙いにここに来たんだろう? だが、残念ながらオアシスはここにはない』

 画面に噛み付いていたエリックはその言葉にピクリと反応する。

(オアシスがここにはない?)

『君は疑問符をつけているところだろう。しかし………正確に言えばオアシスだった物は、だ。――――今ではオアシスは宇宙人との交信のためにかかせない物になっている』

 エリックは目が点になった。先ほどこの男が言ったことを思い出す。

(うちゅーじんとのこーしん?)

『君は信じられないだろうが、バンガード氏は世界各地にある自分の屋敷を私の様な研究者に貸してくれていたのだ。尚、何の研究をしていたのかと言うと、屋敷ごとに異なるのだが、私はここオーストラリアで宇宙人について調べていた』

「…………そんなモンいるんかい」

 エリックは思わず疑問の発言を口にする。

『オアシスは宇宙人との交信にどうしても必要だった。何故なら、彼等との交渉材料になる物だと思ったからね。高価な宝石だから彼等も喜んでくれるだろう』

「おいおい、そんなんの為なのかよ」

『オアシスは今は形を変えてブレスレットになっている。そのブレスレットはこのテレビの横にある木箱に保存している、宇宙人との交信に必要なソフトを入れたノートパソコンと共にね』

 エリックはテレビ画面の横を見てみると、そこには確かに木箱があった。頑丈そうな鍵によってロックされている木箱である。大きさは確かにノートパソコンが入ってもおかしくはないサイズだ。

『安心した前。その鍵はこのビデオが起動した瞬間にロックが解除される仕組みになっている。木箱は開けられるはずだ』

 エリックはその言葉に従うように木箱を開けると、中にはノートパソコンとブレスレット、そしてフロッピーディスクが何枚か入っていた。

『尚、このビデオは後10分で屋敷ごと消滅する』

「何!?」

 ノートパソコンとディスク、そしてブレスレットを持ったエリックは驚きの表情になってテレビ画面を睨みつける。

『君の健闘を祈る。後、宇宙人との交信は上手くやってくれたまえ』

「俺はお前の助手じゃないんだぞ!」

 叫んだと同時、屋敷から電子音が聞こえた。それは「ぴっ、ぴっ」と、まるでその時を知らせるかのように響いていた。

 エリックは顔が青ざめる。急いでマーティオの電話をかけようと携帯を取り出すと、急いで番号を入力し始める。

「早く出ろよ……………………あ、マーティオ!」

『エリック、何事だ? なにやら不吉な電子音が聞こえるのだが』

「急げ、後9分で屋敷は爆発するぞ!」

『何だと!? この俺様が屋敷を破壊する前に自爆するとは許さん!』

「んな事はどうでもいいからさっさと逃げるぞぉぉぉぉぉっ!」

『くそ、女二人組みを金ごと取り逃がす事になろうとは……!』

 エリックはその一言でマーティオが二人の取り逃がしてしまった事を知った。口ぶりからして、二人は既に外に脱出したのだろう。

 マーティオに追いかけられいる光景を想像したエリックは本名も顔も知らない女二人に同情した。






 ド派手な爆発音が響く。それはバンガードの屋敷の崩壊を意味し、ある研究者の意思が無理矢理たくされた事を意味していた。

「はぁ、どうしよう。これ」

 マーティオと共に脱出したエリックはノートパソコンとブレスレットを見ながら溜息をついた。はっきり言うと、エリックは宇宙人なんて信じていない。

 信じていないのだが、後々その宇宙人の恐ろしさを思い知る事になる。

 その時エリックは思うのだ。あの時ノートパソコンを捨てればよかった、と。



 次回予告

 宇宙人との交信を半分ノリでやってしまうエリックとマーティオ。
 しかし、ノリでやったにも関わらずUFOはやって来てしまう!
 そしてネルソンは相棒のジョンと共に宇宙人に囚われてしまう!
 果たして彼等の運命は!?

 次回、「未知との遭遇」

「この地球と言う星、いくらで売ってくれる?」





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