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紫色の月光

第十話「三人目の泥棒」

第十話「三人目の泥棒」




 エリック達が日本にたどり着いてから3ヶ月の月日が流れた。
 青森にいるエリックと狂夜は特にこれという事をやっているわけではなく、ただひっそりと山小屋で静かに暮らしていた。
 しかしいい加減エリックの腕はウズウズしてきていた。泥棒として何年も過ごしているわけだから何か盗まないとやっていられないのである。

 そんな二人は今、昼食を食べに飯屋に入っていた。エリックはメニューを見ながらも他の人間に聞こえないように小さな声で隣の席に座っている狂夜に言う。

「キョーヤ、俺はそろそろ本業に移らせてもらうぜ」

「え、もう? ……時に、何を盗むつもりだい?」

「それはまだ決まっていない。これは前もって言う盗み宣言」

「ふーん、それじゃあ僕も小屋に帰ったら必要な物を持って準備をしないと……」

 狂夜の言葉にエリックは反応した。

「ちょっと待て。念の為に質問しておくがお前、まさか俺についてくる気なのか?」

「何を当たり前の事を。マーティオだって頑張ったんだから僕も頑張らないと」

 こうなったら彼はとてつもなく頑固だ。少々不安だが連れて行くしかないだろう。エリックは思わず溜息をついた。

「時にキョーヤ、お前何食うか決まったか?」

「いや、全然。やっぱり迷っちゃうよね、こういうの」

 狂夜は眩しい笑顔で言った。しかしこの男が迷っていたら1,2時間はこのままである。これではこちらが食べ終えた時にはこの男はようやくメニューから目を離すことになる。それだけはエリックはどうしても避けたかった。何故ならこの男を待たなければならないからである。

 それならば、「最終手段」を使ってしまえばいい話である。
 エリックはその最終手段を実行した―――――狂夜の眼鏡を外したのだ。

 その瞬間。狂夜の目つきが一瞬で鋭くなり、髪の毛も何故か逆立ってしまう。はっきり言って先ほどまでとは別人だった。

「で、キョーヤ。何食うか決まったか?」

「うむ、我はこれを頼むとするか」

 一人称や雰囲気まで変わっている。
 周囲の他の客はこの光景を見て唖然としていた。特に変身した狂夜の隣にいるサラリーマンはびびっていた。それほどの威圧感を放っているのである。

「店員、メニュー決まったのだがいいだろうか!?」

「はい、何にしますか?」

 しかし店員はびびっていなかった。実は狂夜はこの店の常連なのでこの変わりぶりは店員の皆さんには当たり前の「常識」として捕らえられているのである。因みに他の常連客から見てもそうである。

「うむ、今日はこのフォビ丼を二つくれ!」

「ちょっと待て、何だそのフォビ丼って! しかも二つって事は俺も食うのか!? そのフォビ丼とか言うわけの分らない食いモンを!」

 エリックは聞いた事も無い料理の名前を聞いて少々恐怖感を得ると同時に寒気がした。しかし狂夜は、

「何を当たり前のことを………! フォビ丼は素敵な食べ物だ! 外見は少々問題があるが、味はかなりの物なのだ!」

 そういうと狂夜はくるりと振り返って周囲に居る他の常連客に呼びかけた。

「そうだよな、皆!」

『その通りです、流石狂夜さん!』

 常連客の狂気にも似た叫び声を満足げに聞いた狂夜は頷きながらエリックに言う。

「と、言う事だ。分ったか!?」

「いや、つーか何故にお前はこの店の客のボスみたいな感じになってるの!?」

 エリックの当然な疑問は周囲に居る常連客が同じく当然のように答えてくれた。それはまたしても叫びであり、先ほどよりも大きな声で、

『狂夜さんは我々にフォビ丼の素晴らしさを教えてくださった偉大なるお方! 今の我々が居るのは狂夜さんのお陰なのだ!』

「と、言うわけだ。分ったか!?」

「お前は何時の間にこんな奇妙な宗教団体作ってるんだよ!」

 思わず突っ込んでしまうエリック。しかし狂夜は涼しい顔で言った。

「別にそんなものを作ろうという気はしない。我は単にフォビ丼の素晴らしさをこの地球上に居る全ての生物、いや、全宇宙に生きる全ての生き物に知ってもらいたいだけなのだ!」

 エリックはそれを聞いた瞬間、思わず溜息が出てしまった。
 しかしそれだけにこの狂夜が勧めるフォビ丼という未知の領域に足を踏み入れてみたくなってしまったのである。



「ええい、それならそのフォビ丼とか言う奴を早いところよこしやがれ!」

 最早やけくそだった。
 しかしそれを見た店員は何故か嬉しそうにメニューを回収したのであった。




 それから大凡10分後、ついに噂のフォビ丼がその姿をエリックの前に見せた。

 しかしそれは狂夜が言うように外見だけ見たらかなり不味そうであった。
 何せ何を材料に作っているのか知らないが、ご飯の上にかぶさっている具の色が世間からグリーンと呼ばれる色なのだから食べる気になれない。
 特にご飯の上に乗っかっているというのが妙に食欲をなくす。具だけなら何とか食べられそうな予感がするが、流石にご飯の上にそれがかぶさっているのだから食べる気になれない。

「………おい、キョーヤ。これが噂のフォビ丼なのか?」

 エリックは反目になって狂夜を見る。すると狂夜は鋭い目つきのままエリックに言った。

「そうだ。これが今、この地球の中で一番の食べ物であるフォビ丼なのだ」

 断言する辺りが凄いと思う。

 しかしエリックはそれでも食べる気になれない。こんな得体の知れない物体をどうやって食えというのか、と叫びたい気持ちで一杯なのだ。
 それが出来ないのは、後ろから「フォビ丼信者」の常連客、大凡20名がこちらをギラリと見ているからである。
 その瞳は「早く食って同志になれ」と言う期待に満ちた、しかし迷惑な瞳であった。

「くそ、それじゃあいただきます!」

 エリックは意を決した。彼は箸箱の中の箸を取り出そうとして―――――

「ちょっと待て、エリック」

 ――――何故か狂夜に止められた。

「な、何故止めるキョーヤ! 折角食う覚悟が出来たというのに!」

「食べる事は確かにとても良い事だ。しかしフォビ丼を食べる時、箸で食っては駄目なのだ!」

「は?」

 それなら何で食えと、と言いたくなってしまうエリックであるが、その言葉が喉まで出かかった所で止まった。
 何故ならよく見るとフォビ丼の隣にスプーンが置いてあるのだ。しかも何故か大鎌型のスプーンという奇妙な形であり、曲刃の部分でフォビ丼をすくって食べる作りになっている。

 はっきり言ってかなり食べにくい気がした。



 
 エリックがフォビ丼と呼ばれる未知の領域に足を踏み入れてから三日が過ぎた。

 東京に辿り着いたネルソンとジョンはとある飯屋で「フォビ丼」と呼ばれる物を食べていた。
 見た目は少々問題があるような気がするが、味は中々の物であったので二人は普通に食べていた。しかしどうもこの大鎌スプーンが使いにくい。

「警部、よく普通に扱えますね。そんなよく分らないスプーン……」

「ジョン、こんな物は慣れればどうにでもなるものだ」

 にしては適応力が高すぎる気がする。しかしジョンは毎回の事ながら敢えて言わないことにした。

 と、そんな時である。

『では、館長の竜神・煉次郎(りゅうじん れんじろう)さんに、お話を伺いたいと思います。竜神さん、今日はヨロシクお願いします』

『いえいえ、こちらこそ』

 ネルソンの視線の先にあるテレビ画面の中には取材陣と一人の男が居た。ネルソンはその男の名前――――竜神と言うのに聞き覚えがある。
 彼は簡単に言う所の刃物マニアなのである。個人で気に入った物があればすぐさま手に入れ、それを自身の博物館に展示し、お客に見せているわけである。しかも中々珍しい展示物まであるため、結構お客が入っているのだ。

 そしてその竜神がテレビ出演していると言う事は、恐らく新しい奇妙な刀なり変な形の槍なり手に入れたのでそれの自慢と言った所だろう。と、ネルソンは思った。
 しかし、実際はそうではなかったりする。

『では竜神さん。此処暫らく活動していなかった怪盗シェルからの予告状がきたということですが……』

 その言葉にネルソンは反応した。余りにも反応しすぎて口に含んでいた緑の具とご飯を吹き出してしまうほどである。

「うわ、汚いですよ警部!」

 その行為にジョンは叫びを上げる。しかしネルソンはジョンや周囲の客、そして店員の皆さんに視線を受けながらもテレビに釘付け状態である。

『彼らはオーストラリアで活動していたと言う事は知っていますが、今回はわざわざ日本にいる私の集めた展示品を盗みに来るとは感激ですね。でも盗みをさせるつもりは一切ありません』

 すると、テレビ画面は一本の刀を映し出した。
 それは刀身が美しい青の色をしており、全てを切裂いてしまいそうな鋭さをもっていた。
 そしてそれを見たネルソンは思った。何処と無く怪盗シェルが持っている槍と雰囲気が似ているな、と。





 犯行予告の時間まで後30分と迫る。

 怪盗シェルことエリックは愛用の黒仮面を片手に標的がある博物館を睨んでいた。そして彼の横にいる狂夜は眼鏡バージョンで黙々とフォビ丼を食べている。

「……キャーヤ。お前よりにもよって刀を盗むのか」

「うん、エリックが槍で、マーティオが大鎌なんだろう? それなら僕は刀がいいかなって」

「どういう理論だよ」

 今回は狂夜の希望で彼は刀を盗む事になったのである。
 エリックは半目になって狂夜をみる。彼はやっぱり飯屋からお弁当サイズで貰ったフォビ丼を一生懸命食べている。……大鎌型スプーンで。

「お前良くそれで食べられるな……まあ、確かに美味かったけど」

「拘りの食べ方はそれなりに大切にする物だよ、エリック」

 そういった狂夜はスプーンを置いた。食べ終えたのである。

「さて、そろそろ時間だ。それでは三人目の怪盗誕生の瞬間だ」

 狂夜は赤い仮面を手に持って、ゆっくりと眼鏡を外す。それと同時、またしても彼の雰囲気は一変した。

「我の名は今より『怪盗レオ』! 獅子の牙は何者であろうとも止める事はできん!」

「……眼鏡を外した途端に頼りがいがあるねぇ」

 犯行予告時刻まで後15分。今、此処に獅子が牙を向こうとしていた。




 ネルソン警部とジョン刑事は博物館内部に居た。彼らは竜神館長に頼んで一度今回のターゲットを見せてもらっているのだ。

「これが今回、怪盗の標的になった刀です。―――――ほら、美しいでしょう?」

 その青の刀身を見たネルソンとジョンは思わず頷いてしまった。竜神館長の言葉どおり、この刀身は本当に美しいのだ。見ただけで相手を魅了してしまうかのような水晶の様な刃なのである。

「ところで竜神館長」

 ネルソンは視線を刀から竜神館長に移した。

「この刀、どういった経緯で手に入れたので?」

 その言葉に反応した竜神館長はややあった後、静かに答えた。

「実はこれは数ヶ月前に手に入れたものなのです。朝鮮に赴いた際に知人から譲り受けたのです。………残念ながらその知人は今、病に倒れているのですけどね」

「そうですか………因みに、この刀は何か名前はあるので?」

「そうですね」

 竜神館長は間を置いた後に静かに答えた。

「我々は簡単にソードと呼んでおります。その一振りはまさに最終兵器と呼ぶのに相応しい、そういう刀ですよ」

 その瞬間、犯行時刻を知らす鐘のなる音と共に警報がなり始めた。





 警備員は見た。普段なら黒の仮面の男の隣いるべき青の仮面の男の代わりとでも言わんばかりに赤い仮面の男がいるのを、だ。
 しかしその赤い仮面の男は凄まじいスピードで警備員に迫る。
 そのギラリと獲物を見つめる眼光はまさしく獅子と言うのに相応しかった。

「その目にしかと焼き付けるがいい! このシェルとイオの同志、レオの姿を!」

 仮面で顔を隠していても迫力満点な怪盗レオは、そう叫ぶと同時、思いっきり警備員を殴り飛ばした。



 続く



 次回予告

 今回のターゲットを死守すべくネルソンは二人の怪盗の前に立ちはだかる!
 しかし相棒のジョンが突如として行方不明となってしまう。
 そんな時、全ての警官のヒーローは現れる!
 だがその裏では竜神館長の恐るべき計画が……!

次回「待ってましたよヒーロー警部!」





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