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紫色の月光

後編

 後編





「ん? 何だ?」

 エリックは後方で上げられた悲鳴で雑誌から目を離した。そしてその疑問に答えたのは彼の隣の席に座る狂夜だ。

「なんか、ハイジャックっぽいけど……空賊とか言ってるよ?」

「そらぞくぅ? 何だその頭悪そうな名前は」

 そういうとエリックは無理矢理身体を後方に向けて状況を伺う。
 その空賊とか言うハイジャック犯の数は五人。いずれも覆面をつけて銃を持っている。更には一人が見るからに怪しいケースを持っているではないか。

「キョーヤ、あのケースは何だと思う?」

「映画とかそんなのなら多分――――――」




「時限爆弾だろうな」

 何時になく真剣な顔でネルソンは言った。彼らの誤算があるとしたら警官史上で二人ともいない警部さんがこの場に居ると言う事だろう。

「それで、どうするんですか警部。向こうはまだ我々の存在に気付いていないようですが」

 しかしこんな飛行機で発砲なんかしたらそれこそ大変なことになる。ただでさえ狭いスペースなのだから下手したら乗客に死人が出てしまう。

「何とかして奴等が銃を使う前に全員逮捕しなければ……!」

 こういう、何処か正義感に燃えるネルソンの姿が妙にかっこよく見える。しかし次の瞬間、彼の口から爆弾発言が飛び出した。

「しかしそうなるとポリスマン・パワードになる必要が……」

「ちょっと待ってください! 何ですかそのパワードって!!?」

 確か、ポリスマンはこの前グレートになったはずだ。それなのにパワードになる必要があるとはどう言う事だろうか。と言うか、なれるのか。

「何、知らないのかジョン。今時のヒーローは変身した後に更に変身する事で特定の能力を高める事が可能なのだぞ」

 だからってそのまま要素をパクル必要があるのだろうか。

「因みに、グレート、パワード、ファイナルと三段階ある」

「なんかありがちですね、警部」

 ジョンは半眼で言った。と言うか、何処かで聞いたことがあるような気がする。

「変身した後は……まあ、その時のお楽しみと言う事だ」

「そこまで言っといてなんですか警部」

 なんかお預けを喰らった子供みたいな気分でジョンが言う。と言うか、此処まで来たらもうこの人は何でもありだ。物理法則もクソも無い。

「馬鹿者、最初から全部分っていたらつまらないだろうが」

 妙に説得力がある言葉だ。
 そしてそれと同時、ネルソンはシートベルトを外して立ち上がる。

「あれ、警部。どうするつもりで?」

「ちょいとトイレだ。……パワードになる為には気合を入れないといけないのだ」

 普段から十分に気合を入れてるような気がするけどな、とジョンは思った。
 




「で、どーするよキョーヤ。仮に奴等が持っているのが本当に時限爆弾だとして、だ。やばい状況だと言うのには変わりがないんだぜ」

 雑誌を読みながらもエリックは言う。因みに、今読んでいる雑誌は『週間、燃え萌えジャンピング』と言う漫画雑誌である。
 更に解説すれば、今読んでいる漫画は『笑うめぇたんてぇ』と言う、少々気持ち悪い笑いが特徴的な探偵が、何時も理不尽な行動で犯人を捕まえると言う物語である。

「そうだけどね、流石にこんな狭い場所で最終兵器を扱えるかい? 下手したら壁に穴があいて僕たちも危ないよ?」

 因みに、彼らは最終兵器を日本に置いてきている。最終兵器とはいえ金属なのだ。当然、普通に入れば身体検査の時で引っかかる。
 しかし彼らは念じれば何時でも最終兵器を呼び寄せる事が可能なのだ。無論、それはこんな狭苦しいスペースでも変わりが無い。だからこそ普通に置いていく事に抵抗が無いのだ。

「まあ確かにそうだがよ……このままだと目的地にたどり着けないぜ?」

 その言葉に反応するかのように狂夜は腕時計を確認する。

「中国に着くまで後1時間45分。……あの連中をどうにかしない事には出られそうに無いだろうね」

 尚、現在この場には三人の覆面男がいる。ケースを持ったボス風の男ともう一人は操縦室へと向かっていき、そこでパイロットを脅すつもりなのだろう。

「……つーか思ったんだけどよ」

 そこで、エリックは思い出したように言った。

「あいつ等、何が目的なんだ?」

「さあ? ……まあ、こういうのは大抵金目的と言うのがパターンなんだけど」

 現役泥棒である二人はブツブツと色んな討議をしていた。
 しかし次の瞬間、

「ふぉああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 突然、何処からか天地を引き裂くかのような鋭い奇声が上げられた。思わず機内にいる客、乗務員、残った三人の犯人グループ全員がその声がした方向に目を向ける。

 そしてその視線の先にある物は唯一つ。

 トイレである。

「な、何だぁ?」

 困惑しながらタケノコが言う。

「よ、ようし。俺が行って様子を見てくる」

 そしてごくり、と喉を鳴らしながら銃を構え、そのままトイレに近づいて行ったのはマイタケだ。
 彼はゆっくりと、しかし確実にトイレへと近づいていく。映画だったら此処でトイレのドアからモンスターでも飛び出して襲い掛かってくる事だろう。そんな雰囲気があたりに漂っているのだ。

「……なあ、キョーヤ」

 しかしそんな中、エリックは額に汗を流しながらこの状況を見守っていた。

「何だい、エリック」

「俺の気のせいならいいんだけど………今の怪物みたいな叫び声、何処かで聞いた事が無いか?」

 そう言われてみればそうだな、と狂夜は思う。しかも最近聞いた声だ。
 しかし、何処で会った誰なのかが出てこない。

「うーん……確かに聞いた事がある様な気がするけど……何処だっけ?」

 しかし次の瞬間。そんな狂夜の問いに答えるようにしてトイレの中から天地が張り裂けそうな叫びが再び響いた。

「へぇぇぇぇぇぇんしぃんっ!!! ポリィィィィィィィスメェェェェェンッ!! パワァァァァァァァァァァァァァァァァッド!!!!!!!!!」

 よく息が持つな、というのが正直な感想である。
 しかし次の瞬間、トイレのドアが勢いよく開き、そこからまるで獣のように何かが飛び出した。

「な、何だぁ!?」

 マイタケはこの状況を見て思わず立ち止まってしまった。しかしこれが命取りである。トイレから一番近い位置にいた彼は超高速のスピードで迫る青の影に反応し切れなかったのだ。

「受けろ必殺! パワードパァァァァァァァンチっ!!」

 そして青の影がマイタケに繰り出した攻撃は拳であった。まるで音速ジェット機のようなスピードで繰り出されるパンチは見事にマイタケの腹部に突き刺さるかのように命中する。

「げふぁっ!?」

 カッコイイやられ声をあげてマイタケがぶっ飛ばされる。そのぶっ飛ばされる方向にいるのはタケノコだ。
 彼は思わず銃を構えるが、向かってくるのはぶっ飛ばされたマイタケである。このまま発砲すればマイタケを撃ち抜いてしまうだろう。その為、彼は引き金を引けなかった。味方を殺す事は彼らにとって最大の禁則なのだ。

「うおおおおおおおおお!!」

 そしてそのマイタケを盾にしながら青い影が―――――ポリスマン・パワードが凄まじいスピードで突撃してくる。しかも異常なのはその青いポリスマンことポリスマン・パワードは『足を動かさずに移動している』事である。

「ば、馬鹿な! どうやって移動してるんだコイツ!?」

 タケノコはポリスマンの異常な移動を見てただ驚いていた。
 そして次の瞬間、彼はポリスマン必殺の鉄拳によって簡単にぶっ飛ばされてしまった。



「いやぁ、しかし凄いね。警部さんは最終兵器と融合したから更に異常になってしまったよ」

 狂夜はポリスマンの戦い振りを見て思った。
 しかし、エリックの視界が捉えているのはまた別の物である。

「…………」

 エリックはそれを見て顔が真っ青になった。何故なら、今ポリスマンが足に装着している靴こそ、嘗て刑務所で異常な機能を彼に見せ付けたネルソン警部の秘密兵器の一つ。『秘密兵器その3 ハイパーシューズ』だからだ。

(ま、まさかアレを再びこの目で見ることになろうとは……!)

 しかも以前に自分が履いた奴よりも性能が遥かに安定している。何となく理不尽だ。特にネルソン警部が装着しているんだから尚更である。
 しかしここでエリックは信じていた。

 ここでネルソンは必ず何かドジをやらかしてくれるはずだ、と。
 そうでないとあのハイパーシューズで酷い目にあった自分の立場が無い。

 と、そんな時だ。

「おらぁ、俺がいるのを忘れるなよ!」

 この場にいるもう一人の犯人、ドクキノコがポリスマンに突っ込んでくる。どうやら半ばヤケになっているようだ。彼は銃を構えてポリスマンに発砲しようとする。

「いい覚悟だ、この俺に向かってくるとは!」

 そしてそれに応じるかのようにポリスマンが動き出す。
 しかし次の瞬間、彼の右足が何故かバナナの皮を踏んでしまい、そのまま彼は勢いよくその場に倒れこんでしまった。

 問題はその後である。

 彼が履くハイパーシューズが先ほどの転倒の際、打ち所が悪かったのか暴走してしまったのだ。その異常な機能を発生させたハイパーシューズは転倒したままのポリスマンを引きずりながら進んでいく。

 因みに、何でこんなところにバナナの皮が捨ててあったのかというとやっぱりネルソンが何時もの癖でポイ捨てしてしまったからだ。やっぱり彼は色んな意味で人知を超越している。と言うか、自業自得の様な気がする。やっぱり正義の味方がポイ捨てなんかしたらいけないのだ。皮のポイ捨てを許さないバナナの神様はやっぱりちゃんと見ているのである。

 更に言うなら、現在のハイパーシューズは以前エリックが履いた時のようなブースターはついていない。どうやらリーサル・ナックルのレベル2の力でネルソンの都合が良いように調整されているみたいだ。周りに被害が無くていい。

「うおおおおおおおおおおお!!!?」

 ハイパーシューズに引きずられながらドクキノコに突撃していくポリスマン。正直、凄まじい光景である。身体をくの字に曲げた状態で引きずられているのだから更に凄まじい。

「な、何だぁ!?」

 その異常ともいえる摩訶不思議な光景に思わずドクキノコは動きを止めてしまう。しかしやっぱりこれが命取りなのだ。
 何せ、向こうはマヌケな体勢とはいえ、スピードが新幹線を取り越してリニアレベルなのだ。そんな生きた暴走列車が通るレールの上にいたらどうなるか、子供でも分るだろう。
 そして次の瞬間、ドクキノコはマヌケな格好の暴走列車にいとも簡単にぶっ飛ばされてしまった。なんと言うか、凄い哀れだ。

「ぐふぁっ!」

 そして、何処かカッコイイやられ声を上げながらドクキノコはエリック達の席へと突っ込んでいく。

「……ご愁傷様」

 狂夜が手を合わせてそういったと同時、突撃するドクキノコは雑誌を丸めたエリックの強烈な一撃によって地面に叩きつけられた。

「へぼぁ!?」

 またしてもカッコイイやられ声を上げながら彼はノックダウン。気絶してしまった。やっぱり団員の中で一番哀れなのは彼だろう。




「何だ何だ! 一体何事だ!?」

 騒ぎを聞きつけた団長とキノコが操縦室から出てくる。まあ、あれだけ派手に暴れたら気付かない方がおかしい。

「………む!?」

 そして団長は気付いた。見事にノックダウンされている三人の団員達の存在に、だ。これを見て団長は黙ってはいられない。

「誰だ! 俺の部下達を酷い目に合わせた奴は!」

 その鋭い叫びに反応するかのようにして一人の男が団長、コメの前に現れた。ポリスマンの変身を解除したネルソンである。

「俺だぁっ!!!!」

 そしてそのネルソンは何故か胸をはって団長とキノコに言った。今の彼の背景には心なしか大津波が押し寄せてきているかのように見える。それも無意味に。

「ええい、貴様! 名を名乗れ!」

 何処かの悪党のように団長が言う。どうやら大分悪役として板について来たようだ。
 そしてネルソンはそんな団長に向かって訴えるように言った。

「生まれはアメリカ! 育ちもアメリカ! 太陽よりも熱い正義と言う名の炎の元に生まれたアルテメットジャスティススーパーウルトラダイナミックミラクスデンジャラススペクタルアンビリーバブルポリス! ネルソン・サンダーソン警部だ!!」

『いや、意味わかんねーよ!!』

 ネルソンの意味不明な台詞に機内の全員がツッコミを入れた。特に後半の横文字に。本当にアメリカ育ちなのか疑問に思える。
 しかし、何故かそれを聞いた団長は驚きを隠せない動作をしていた。

「ね、ネルソン・サンダーソン……!」

 なんと言うか、明らかに動揺している。そして此処でネルソンも反応した。

「ぬ、その声……! 貴様はもしや、弘志か!?」

 そのやり取りの前に機内にざわつきが生まれ始める。そしてその疑問を真っ先にネルソンにぶつけてきたのは他ならぬジョン刑事だ。

「あのー、警部。もしかしてお知り合いですか?」

「うむ、奴の名は橘・弘志(たちばな・ひろし)。俺の従兄弟だ」

「へぇ、そうなんですか、って、ええええええええええええええええええ!!!!?」

 思わずジョンは叫びを上げる。それもそうだ。まさかあのネルソンの従兄弟がこんな悪になっているとは思いもしない。

「ね、ネルソン警部の従兄弟って……」

 そして後方の座席でエリックと狂夜は思わずずっこけていた。

「いやぁ、まさかあのネルソン警部に日本人の血縁がいるなんて……」

「俺も全然知らなかった……!」

 


「ちょっと、お頭! お頭の従兄弟が何で警官なんかしてるんですかぁっ!?」

 言い終えたと同時、キノコはやっぱり団長ことコメ(本名弘志)に殴られた。その理由はやっぱりお頭と呼んだからである。

「馬鹿野郎! 何回言えばわかるんだ! 俺は団長だ!」

「その拘り! 間違いない、お前やっぱり弘志だな!」

 因みに、弘志はネルソンの親父さんのお姉さんの息子である。まあ、簡単に言えばハーフなのだ。

「おう、久しいなネルソン。確か小学校6年生のときにお前が沖縄のハブとマングースの熱い戦いに割って入った時以来だな」

「何やってたんですか警部ー!!?」

 と言うか、何で生きているんだろうか。恐らく、当事からネルソンは常識が一切通用しないお子様だったのだろう。

「しかし弘志よ、見損なったぞ。まさかお前が悪の道に進むとは……!」

「何を言うネルソン。今の世の中、正義が何の役に立つ? 飢えた俺たちが生き残る手段は唯一つ。犯罪しかなかったのさ。生き残る為に手段は選べないんだよ……俺達のような人種はな」

 団長がえらく真面目な話をしていた。そしてそれに深く同意してしまっているのは他ならぬエリックである。現役犯罪者である彼から言わせて貰えば、今の弱肉強食の世の中で生き残る奴はやはり強者だ。そしてそんな物に正義なり悪なりは関係ない。ただ強い奴が生き残り、弱い奴が消え去っていく。そして生き残る為には手段を選べないと言うのも事実なのだ。

(何せ、他に何も出来ない不器用な連中だからな。犯罪者って)

 それはある意味では麻薬的な中毒である。
 一度手を染めてしまったら病み付きになってしまう。エリックが盗みを止めない理由もそこにあるのだ。

「ネルソン、馬鹿な真似はするんじゃねぇぞ。なんたってこっちには銃のほかにも爆弾があるんだ」

「むぅ……!」

 団長はそういうと、ケースを開けて中をネルソンやジョン、更には席についているお客の皆さんに見せた。
 そこにはデジタル数字で『1,00,00』と表示されており、一時間で爆発する仕組みのようである。ただ、問題なのは、

「……あのー、それ、動いてません?」

 ジョンが何気なく言った一言で団長はケースの中を覗き込む。すると、先ほどまで1と0しかなかった筈の数字が『0,59,37』になっていた。

「うおおおおおおおおお!!? 作動しちまいやがったぁっ!!?」

『何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!』

 機内にいる全員が叫びを上げる。それこそ他の団員も、だ。

「おい弘志! これを止める方法はないのか!?」

 流石に状況が状況なだけにネルソンもマジな顔になって爆弾の処理に取り掛かる。余談だが、ネルソンはこう見えても爆弾処理免許とかは持っていない。しかしやっぱり状況が状況なだけにやるしかないのだ。

「え、ええと……! ああ、クソ! 忘れちまった!」

『忘れるな阿呆!!』

 その場にいる全員が団長に怒鳴った。その恐るべき迫力の前に団長はただ縮こまるだけである。何と言うか、やっぱ悪役失格だ。

「ええいクソ! こうなったらヤケだ!」

 ネルソンはケースの中を弄くりまくる。そしてその中から見つけたのは三本のコードだ。それぞれ赤、黄色、青、となっているそれは恐らく映画でも良くあるブービートラップに解除コードであろう。

「け、警部まさか……!」

 そしてその三本のコードのうち、赤いコードを引っ張り始めたネルソンを見たジョンは何だか嫌な予感がした。そしてそれは見事に的中する。

「おう、こうなったらテキトーだ! お前達の命、俺が預かる!」

『勝手に預かるなあああああああああああっ!!!』

 機内の皆様の悲痛な叫びを気にもせずにネルソンは赤いコードを力任せに切った。すると次の瞬間。何故か表示されているデジタル数字が一気に残り30分になる。

「よし、爆発は無い! 助かったぞ、皆!」

『いや、どう見ても違うでしょうが!』

 しかしネルソンは爆発が起きないだけで助かったと思ってしまったようである。何とお気楽なんだろうか。と言うか、何で気付かないんだろうか。

「む、そうか! ならば残り二本もぶっちぎって……」

「やめい!」

 すると次の瞬間、いきなり背後からエリックの強烈な一撃がネルソンの脳天に直撃。その攻撃手段はドクキノコを張り倒した雑誌攻撃である。後頭部と言う事もあってかこれが案外効く訳で、ネルソンは一瞬にして気絶させられてしまった。

「あんたがやったらこっちの命がもたんわボケェ!!」

「そう、確かにその通り」

 すると、エリックの後方から静かに狂夜が歩み寄ってきた。そして彼は徐に眼鏡を外す。それと同時、彼の髪は一瞬にして逆立ち、目つきは鋭くなる。狂夜の本気バージョンと言う奴だ。

「我に任せるがいい。エリック、そこをどけ!」

 その余りの気迫の前に仲間であるエリックもたじろいでしまう。
 狂夜は乱暴に黄色のコードを掴むと、それをなんの躊躇いもなしに引き千切る。

「なあ、狂夜。ちょっと聞いていいか?」

「む、何だエリック。手短にお願いする」

「お前、何でまたそれを切った?」

 そのエリックの疑問に狂夜は躊躇いもなしにこう答えた。

「勘だ!」

『そんなんで切るんじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁい!!』

 エリックの雑誌攻撃を先陣とし、全員が狂夜に突っ込んだ。
 そして次の瞬間、ケースにある異変が起きた。黄色いコードを切ってしまったがために起きたある出来事である。

『ヘイ、ヨー! 皆ノッテるか~い?』

 その瞬間、機内にいる全員の時間が停止した―――――様な気がした。
 何故かケースから変な音が、ラジオが流れ始めたのである。

「ああ、そういえば暇つぶしの時のためにラジオをつけたんだった」

 そこで団長が何気ないような声で言ったが、エリックはカンカンだ。

「オイコラテメェ! 紛らわしいモンつけるんじゃねぇ!」

 その恐ろしい形相に団長は思わずびびりかけてしまったが、後一歩と言う所で耐え切った。

「……つー事は残りはコイツか」

 エリックは青のコードを握るとごくり、と唾を飲む。彼なりに緊張してるのだ。

「爆弾爆発まで残り時間は約10分………天国か地獄かの分岐。このまま爆発で死ぬか、それとも一か八かコイツに賭けるか!?」

 それの答えは簡単だ。例え他の乗客が何を言おうがエリックの覚悟は既に付いている。後はこの青いコードを切るのみだ。なんか先ほどからケースから緊張感を削ぐラジオ音が聞こえてくるが、そんなの関係ない。

「………うりゃ!」


 ――――ぶちっ!

 
 その瞬間、無駄だとは分っていたが機内にいる全員がガード体勢に入った。万が一の爆発に対して瞬時に反応してしまったのだろう。
 しかし、何時まで経っても爆発は来ない。
 エリックは恐る恐るケースに目を向ける。すると、そこには一定のスピードでカウントダウンしているはずのデジタル数字が確かに停止している光景があった。

「や、やった……! おっしゃああああああああ!!!」

 エリックは飛び起きると瞬時にガッツポーズ。その力の入れ具合の強さが嬉しさを物語っている。
 そしてそれを合図として機内にいる全員が喜びの悲鳴を上げた。今だけはこの機内が世界一騒がしい旅客機に違いない。

 しかし、次の瞬間。エリックは見た。

 停止したはずのデジタル数字が一瞬にして『0』になったのを、だ。

「――――――――へ?」

 エリックが間抜けな顔を出したと同時、ケースから光が溢れ出す。
 次の瞬間、旅客機に派手な『ぼん』と言う音が響いた。





「………あれ?」

 思わず目を閉じてしまったエリックは静かに目を開ける。
 瞬時に頭に出てきた疑問は唯一つ。

(……何で俺たち生きてるんだ?)

 見たところ、狂夜も無事だしネルソンやジョン、更には団長たちに他の乗客や乗務員も全員無事だ。しかも周囲には何一つ破損の形跡は見られない。

「…………ん?」

 しかしそこでエリックの視界に、信じられない光景が飛び込んできた。
 爆弾入りであるはずのケースから何故か花吹雪が飛び出している。しかも喧しいラジオ音もそのままである。

「……………おい、これは本当に爆弾入りなのか?」

 それを聞いた団長は素早く飛び起きたと同時、何故か胸を張って言った。

「おうよ! ただ、爆弾は爆弾でも『団長特製花吹雪爆弾』よ! お花見の季節にピッタシだ!」

 団長は親指をびしっと上げてから得意そうな顔で言ってくれた。
 尚、数秒もしない内に彼は機内のほぼ全員にボコられたのはいうまでも無い。と言うか、何でこんな物を持ち込んだんだろうか。
 それはやっぱり団長にしか分らない。



 続く



 次回予告

 京都にいるマーティオの元に突如として謎の男が現れる。
 サイズを失った彼に用があると言う事でやって来た男であったが、その男からネオンは密かに最終兵器の波動を感じ取っていた。

 次回『ベルセリオンの戦い方』



第十八話へ


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