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紫色の月光

紫色の月光

後編

二十四話 後編


 アルイーターは前代未聞の光景の前に素直に驚いていた。何せ、見るからに木製の狂夜の筆が事もあろうか彼のレーザーを受け止めたのである。これで驚かない奴がいたらそいつは何を見ても驚かないだろう。

「そんな……そんなハズはない!」

 しかも焦げ後すら全くついていない。絵を描く為の道具に何故このようなことが出来るのだろうか。

「アルイーターよ。この我が何故、貴様等宇宙人の存在をすんなりと受け入れたと思う? しかも他の惑星との交流が何もなく、宇宙人という存在まで知られていないこの星の住人である我が」

 不意に、狂夜が不敵な笑みを浮かべて話し掛けてきた。

「実はこの切咲・狂夜。以前、宇宙人と接触した事があるのだ」

「何!?」

 この事実には流石のアルイーターも驚いた。しかもこれはエリックすら知らない狂夜の過去である。

「あれは今から数年前のことになる――――」

 狂夜はその数年前の――――自らの過去を話し始めた。




 それは彼等四人の師と言える翔太郎が癌でこの世を去ってから半年ほどの事だった。
 彼等の最も信頼している先輩は何処かに行方不明となってしまい、マーティオはオーストラリアに飛んで医者の真似事をやり始め、エリックは怪盗シェルとして活動を開始しているその時、狂夜は一人、山の中でキャンパスと睨めっこしていた。

 元々、彼の趣味は絵を描くことだった。しかし、そんなに絵が上手いと言う訳ではなく、芸術家として売り出すには不十分過ぎた。つまり、生きる為に必要な金すらない状態だったのだ。
 そんな無一文な彼が山の中で暮らして行くには『狩り』をするしかなかった。働く気が全くなく、翔太郎の死のショックのお陰で一人山の中で静かに暮らしていたかった彼は町に行く事を拒否していたのである。

 そんな時だった。

 ある夜、何時ものように、彼の当時の心を具現化したかのような白いキャンパスと睨めっこをしながら唸っていると、突然、暗闇で覆われているはずの空から発光体が飛んできたのである。
 何事か、と思い眼鏡をかけ直すと、なんとその発光体の正体は円形の飛行物体だったのである。
 そしてその飛行物体がどういうわけか狂夜の前に静かに着陸すると、中から人が現れた。見た目は人間と変わらない普通の老人である。そしてその老人は狂夜に向かってこう言った。

『すまん、もう4日も何も食べていないのだ。何か食べ物を分けてくれ』

 衝撃的な登場をしたわけだが、断る理由も無かったので、狂夜は老人に狩った猪の肉を分けてやった。

『ふぅ、食った食った』

 老人はよく食べた。一人で猪一頭分を軽く食ってしまい、狂夜が新しい獲物を探す羽目になったほどである。

 そして次の日の朝。老人は昨日のお礼がしたいと言ってきた。しかし、生憎当時の狂夜はコレと言って欲しい物が無く、かと言って折角の好意を棒に振るう気もなかったので返答に困ってしまうだけだった。

 そんな狂夜の困り果てた顔を見かねた老人は、狂夜の職を尋ねた。しかし、生憎狂夜は職についていない。更に困る顔をするだけだった。
 それならば、と老人は趣味について尋ねてきた。それならば返答は簡単。絵描きである。




「それから一週間後、老人は我の為にこの筆を作ってくれたのだが……これがまた厄介な代物でねぇ」

 レーザーの刃と比べても、大きさ的に負けているこの筆が力負けしていないのは眼鏡を外した狂夜本気バージョンがアルイーターの力を超えている証拠であった。

「厄介な代物?」

「そう、この筆に使われたのは大地と自然の惑星『ディマイス』の『神木』と呼ばれる大樹から作られたのだ」

「な、何だと!? ディマイスの神木!?」

 ディマイスという惑星ならアルイーターも聞いたことがある。例え星全体が炎に包まれたとしても、その恐るべき生命力の力だけで1時間も無く消火してしまうと言う、伝説の惑星である。

(単なる噂かと思っていたが、実在していたと言うのか!?)

 レーザーで切れない筆が正にその証拠だ。エルウィーラーにも木材はあるが、それらは地球産の木材と大して変化が無く、なんらかの特殊な材質ではない(金属については幾つか特殊な物質が存在しているが)。

「ディマイスの神木といっても、老人はその巨大な枝を持っていただけだ。しかし、枝だけでこんな筆を作れるのだから有り難味があるという物」

 狂夜の顔に不安と言う文字は無い。彼はアルイーターという男にビビっていないのだ。

「しかし、このディマイスの神木の枝で作られた筆。実はある特殊な能力がある」

「特殊な能力?」

 そう、と頷いてから狂夜は言った。

「我の闘志を形にするのだ」

 次の瞬間、筆からまるで湯気の様なオーラが立ち上り始めた。それは先っぽから伸びており、まるで見えない剣のような、そんな形をしていた。

「アルイーターよ。我が闘志が剣となったこの筆。貴様のレーザー如きで封じられると思うでないわ!」

 吼えるように叫ぶと同時、狂夜の筆がレーザーの刃をねじ伏せるようにして床に叩きつける。

「受けよ、これが我が拳!」

 次の瞬間、がら空きのアルイーターの顔面に至近距離で放たれた狂夜の鉄拳が炸裂した。

「ぐあ!?」

 美形な顔を一瞬にして台無しにしてしまうような光景が広がる。殴られた際に、アルイーターの顔が恐ろしく歪んだのだ。
 そのアルイーターは、狂夜の拳を受けた衝撃で一気にぶっ飛ばされる。

「ぐ!」

 激しく床に叩き付けられる。そのダメージの大きさは、叩き付けられた際の大きな音が証明していた。

「立て!」

 倒れたアルイーターが起き上がるのを、狂夜が睨みながら待つ。まるで獅子に睨まれているかのような迫力だ。

「貴様はこの我の武器を封じたと勝手に思い込み、たかがそんな武器で我を倒せると思ってしまった。この切咲・狂夜を甘く見るなよ!」

「ふ、ふはははははは……!」

 アルイーターが力の無い笑いをしつつも、ゆっくりと立ち上がった。
 すると、彼は狂夜に対し、深々とお辞儀をした。

「これは失礼した。……どうやら我々は君たちを甘く見すぎていたようだ」

 すると、アルイーターは豪華な上着を脱ぎ始めた。

「このアルイーター。意地とプライドを賭け、全力で戦おう」

 其処から露になったのは、俳優も真っ青の引き締まった筋肉だった。それが上半身黒のシャツ一枚だけなので、何処かの格闘映画を髣髴とさせる光景だった。

「君が言った台詞を返してあげよう……この私を嘗めるなよ!」

 紳士的な、和らげな顔つきが急に引き締まる。その鋭く、自信に満ちた目つきは正に一人の戦士の目だ。最早格好なんて気にしちゃあいない。
 その証拠に、彼は狂夜に向けて手招きをし始めた。
 
「面白い!」

 笑みを浮かべてから狂夜が走り出す。
 その攻撃方法はやはり筆だ。

「受けよ、我が筆を!」

 狂夜がアルイーターに切りかかるが、アルイーターは恐れる様子も見せずに構える。

「こちらの武器もお見せしよう!」

 すると、筆から立ち上る闘志の剣の斬撃を、アルイーターの右掌が『掴んだ』。

「何!?」

 先ほどとは逆に、今度は狂夜が驚く。しかし、仮にもレーザーに力負けしなかった闘志の刃。それを掴むと言う行為を見て驚かない方がどうにかしている。

「私の手袋には秘密があってね……『ナスタリウム』という特殊な金属が使われているのだよ」

 又しても出てきた聞いたことが無い単語を前にして、狂夜は思わず舌打ちした。

「ナスタリウムは、受けた衝撃を吸収する特殊合金。そしてそれを衝撃波として相手に弾き返す事も可能だ! ――――こんな感じで!」

「!?」

 次の瞬間、狂夜は空間が捻れ曲がるかのような違和感を身体で覚えた。その違和感の正体は先ほどもアルイーターが言ったとおり、吸収した衝撃である。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」

 轟風に飛ばされるかのようにして狂夜がぶっ飛ばされる。
 しかし、床にたたきつけられるのではなく、なんとか膝をつく程度で済んだ。

「敵を前にして膝をつく余裕が、今の君にあるのかね!?」

「ならばこう返そう、新たな敵を前にして、何にもしない余裕がいまのアンタにあるのかな!?」

 何処からか聞き慣れない声が響いた。
 思わず振り返ってみると、其処にはランスを構えて突撃しようとするエリックが居たが、

「いかんエリック! ランスを手放せ!」

「何!?」

 狂夜の叫びによって思わず彼はその柄を手放す。すると次の瞬間、ランスが凄まじい勢いで宙に浮かび、そして天井に張り付いてしまった。

「なんだコリャ!? 磁石か!」

「よそ見している暇は無いぞエリック!」

 狂夜の言葉で我に帰ったエリックの前に、アルイーターが突っ込んでくる。

「お友達の言うとおりだよ、侵入者君!」

 人間の常識を超える、車の様なスピードでアルイーターが拳を飛ばしてくる。

「ちぃ!」

 しかし、エリックはこれを紙一重で受け止める。少しでも反応が遅かったら顔面パンチを受けていただろう。
 しかし次の瞬間、アルイーターの両腕がエリックの首元まで一気に伸び、まるで蛇のように絡まって行く。

「そらぁ!」

「うおあ!?」

 一瞬の出来事だった為、初めは理解できなかったが、エリックは自分の世界がひっくり返ったことで分った。

(投げ飛ばされた!?)

 何てスピードと、そしてパワーだろうか。いや、それ以上に恐るべきはアルイーターの行動に全く迷いが無い事にある。最初の一撃が防がれても、すぐにまた次の一撃を放ってくるのだ。

「え、エリック!?」

「いたぁ!?」

 助けに入ろうとした狂夜と激突。彼等はそのまま床に倒れこんだ。

「どうした、もうお終いか?」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべながらアルイーターが言う。しかし、それを否定するかのようにして二人は勢い良く立ち上がった。

「エリック、奴がこの宇宙船の艦長だ。そして奴の手袋はどんな攻撃の衝撃をも吸収し、敵にそれをぶっ放す。天井は磁石だ。金属品は奴の特殊加工の武器しか使えない」

 狂夜が軽く、出来るだけ手短に説明すると、エリックは無言で頷いてから言った。

「要はあの手袋に気をつけて、奴を倒せってことだろう!」

 エリックが吼えながら突撃。そして、その元気さに満足したかのような笑みを浮かべながら狂夜も続いた。





 エリックと狂夜がアルイーターと素手で戦い始めたその頃、女怪盗二人組みことブラックとホワイトは、なんとか脱出艇を発見していた。

「これ、動かせそう?」

 脱出艇の外見は小型の飛行機と言った所で、中身もそれに酷似していた。

「多分、大丈夫でしょう。それじゃあ、ちゃっちゃっとここからオサラバしましょう」

 ブラックが自信に満ちた声で言うと、彼女は気付いた。隣の部屋に続く扉。其処から激しい轟音が響いてきたのである。

「……ねぇ、なんだと思う?」

「分る訳無いでしょそんなの。……でも、気になるわね」

 こんな状況だが、彼女達は好奇心旺盛な年頃だ。一度気になり始めたら最後まで気になってしまうわけである。

「それじゃ、レッツゴー」

「おー」

 そう言うと、彼女達は轟音が響く部屋の方へと移動していった。






 歩いてから十数分後、彼女達は驚くべき光景を目の当たりにした。
 なんと、部屋一面中モニターで埋め尽くされており、その奥の方には、

『キレイな宝石ー!?』

 思わず二人がハモってしまったくらいに光り輝く円形の宝石が存在していた。

 しかし、少々気になる点がそれにはあった。

「なんでこの宝石はこんなコンピュータに埋め込まれているのかしら」

 そう、この宝石はどういうわけか何本かのコードに繋がれた状態でコンピュータにセットされていた。絶対に何か意味があるはずである。

「まあそんな事いいじゃんいいじゃん。いただいちゃいましょ~♪」

 しかし、獲物を見つけたブラックは本能に素直だった。彼女は遠慮なく、しかも大胆にもコードを引き千切って、力任せに宝石を取り出したのである。

「きゃ~見て見て! 手にとって見たら結構大きいよー」

 新しい玩具を手に入れた子供みたいな無邪気な笑顔を見せるブラックに半ば呆れるホワイト。

「まあ、それはいいけど早く脱出しましょう。何時までもこんな訳の分らないところに居たらおかしくなりそうだわ」

 しかし次の瞬間、宙に浮いているはずの宇宙船を、どういうわけか巨大な振動が襲い掛かってきた。

「え、何!?」

 思わず叫んでしまうブラック。

「……ヤバそうね」

「確かに」

 そんな時、彼女達がする行動はたった一つ。それはある意味動物の本能と言える行動だ。

「逃げるが勝ち!」

 そう言うと、彼女達は駆け足で脱出艇のもとへと急いだ。





「な、何だぁ!?」

 何処かの格闘映画のように肉弾戦を繰り返していたエリック達は、突然襲い掛かってきた振動によって思わず尻餅をついてしまっていた。

「管制室、応答しろ! 何があった!」

 アルイーターが管制室に呼びかけるも、中々応答が来ない。

「管制室、聞こえているのか!?」

 流石のアルイーターも体力が減ってきた為か、苛立った口調で言う。すると次の瞬間、彼等の部屋のモニターに一人の男の姿が映し出された。

『あ、すみません。何処のスイッチを押せばいいのか分らなかった物ですから』

 申し訳無さそうな顔をして彼等の前に映像として流れ出したのはなんと事もあろうかあのジョン刑事だった。実は彼は偶然この部屋にたどり着き、アルイーターに呼び出されてしまったのである。

「ジョン刑事、あんた其処にいるはずの兵士を一人で倒したのか!?」

『いえ、自分が来た時にはもう――――』

 すると、画面に割って入ってきた男の姿があった。それは一度見たら忘れられそうにもない、元気で健康に満ちた顔つきの、

『この、ネルソン・サンダーソン警部が全員片付けたのだ。恐れ入ったか怪盗達め!』

 ああ、やっぱそういう展開なのね、とエリックは思わず肩を落とした。
 毎回ながら変なタイミングでネルソンが関わってくるのは最早お約束と言える。

「それはいいんだがネルソン警部。さっきの揺れは一体なんだ?」

 狂夜が言うと、ネルソンも困ったような顔をして返答した。

『それがな、良く分らないのだ。なんかさっきからメーターがどんどん下がっているし……』

「メーターが下がっているだと!?」

 驚愕の顔でアルイーターが言うと、彼はネルソンに向けて叫んだ。

「そのメーターはもしやコントロールバーの真上にある物か!?」

『ハンドルの真上にある奴だが、それがどうかしたのか!?』

 アルイーターが肩を震わせながら『信じられない』としか言いようが無い目をしている。しかし、エリック達は全く話が見えない。

「おい、何がどうなっているのだアルイーター!」

「切咲・狂夜! 最早我等はこんな勝負をしている場合ではない!」

 すると、彼は怒鳴るようにしてネルソンに言った。

「其処の君、コントロールバーを操作して機体を安定させろ! この船はもうすぐ―――――」

 一旦、言葉に詰まってから、アルイーターは続けた。

「墜落するぞ!」

 一瞬、場を沈黙が支配した。
 だがそれから数十秒後、全員が一斉に叫ぶ。

『な、何だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!?』

「おい、そいつはどう言う事だ!?」

 思わずエリックがアルイーターを問い詰める。

「この船はあるエネルギーの塊が凝縮された石で宙に浮いている。恐らく、誰かがその石を取り外してしまったのだ。こうなった以上、船に残っている余りのエネルギーだけでなんとか陸地に着陸するしかない!」

 その問題の誰かさんは既に脱出艇で脱出してしまっているので、石を再びセットする事は不可能。どちらにせよ、出来るだけ安定にして着陸するしかないのである。

『よーし、そう言う事なら任せろ。よっこらせーっと!』

 ネルソンがコントロールバーを掴んで、機体を安定させようとする。しかし次の瞬間。

『どわたぁ!?』

 ネルソンがあまりにも力を入れすぎて倒れた。しかもコントロールバーをぽっきりと折った状態で、だ。

『何やってんだあんたはああああああああああああああ!!!!』

 全員から非難の声を浴びるが、頭から床にぶつかったネルソンの耳に届いてはいなかった。

「いかん、このままでは十分もしない内に大地に叩き付けられるぞ!」

「脱出艇は!? それでなんとか脱出できないのか!?」

 狂夜の問いに、アルイーターは首を横に振る事で答えた。

「此処から走っても十分で脱出艇がある部屋まではたどり着けない。……我々に出来る事は、大地に叩き付けられるまでの間、せめて生き残れるように祈るだけだ」

 俯いてその場に座り込むアルイーター。
 しかし次の瞬間。

「おい、今すぐ磁石を解除しろ!」

 突然、エリックが彼に怒鳴りだした。

「今更磁石を解除してどうする?」

「俺のランスのレベル4は突風能力だ! ランスの風でこの宇宙船を一時的に持ち上げられればまだ希望がある!」

「おお、エリック。此処でようやく主人公らしい事を!」

「喧しい!」

 狂夜に突っ込むと、彼はアルイーターに問う。

「今を生き延びる為だ! この際敵味方関係ねー、違うか!?」

「君に出来るのか? あの我等の星を壊滅の危機に陥れた悪魔の金属を使って、この場を生き残れると言うのか!?」

「――――え?」

 思わず、そんな間抜けな言葉を発してしまった。
 彼等の星を壊滅の危機に陥れた金属が、最終兵器の素材なのだと彼は言い出したのである。

 

 昔、彼等の星にはある貴重な金属が存在していた。しかし、ただ珍しいのではなく、星全体でほんの少ししか見つからなかった幻の金属である。
 金属を主食とする彼等が食べられないほどの強度を誇り、心臓が鼓動するかのような不気味さを感じられる金属だったが、硬い金属を前にして彼等が行う事は一つだった。
 
 それは『武器』にする事である。
 早速彼等はその金属を加工しようとしたが、ここで問題が起きた。

 加工しようと、技術者が手を入れ出したその瞬間、金属から不気味なオーラが放たれ、嵐のように星全体を包み込んでしまったのである。




「その後は、連鎖作動みたいに天変地異が起きたよ。洪水、火山噴火、竜巻、大地震。1ヶ月ほどでそれは止んだが、その出来事だけで我々の人口が一気に半分以下にまで減ってしまった」

 嘘みたいだろ、と消えてしまいそうなほどか細い声で彼は言った。

「その時、私はまだ5歳だった。小さいときの事は姫様の遊び相手以外はあまり覚えてはいないが、あの時の出来事は未だに覚えている」

 雷鳴が狙撃するかのように人々を射抜き、竜巻が人を狙う暴走車のように襲い掛かってきて、溶岩が洪水のように押し寄せてきた。生き延びた連中はまさに奇跡としか言いようが無かった。
 それからの彼等は凄まじい勢いで星としての力を取り戻して行き、他の惑星に攻め込むだけの力を取り戻していったのである。

「そんな悪夢の様な塊を、君が扱えるのか!?」

 アルイーターの問いかけに、エリックは時間もかけずに答えた。

「出来る! いや、やらなきゃならん!」

 即答以前に既に決定事項のようである。

「そんな事を言うなら聞くが、オメーは危険性がある武器を使って助かるかもしれない可能性と、このまま落ちて死ぬのと、どっちがいい!?」

「そ、それは……」

 そんな事言われたら答えは一つしかない。望まない死なんて誰だって嫌な物だ。

「俺はこのまま死ぬなんてゴメンだな! 最終兵器に使われている金属があんた等の星を壊滅に導こうとした金属の仲間なのだとしても、それを使って助かるのなら遠慮なく使う!」
 
 そう言うと、彼は振り返ってから天井に張り付いているランスを見上げた。

「大一番だぜ、相棒!」






 アメリカのとあるビルの屋上。其処に、銀髪の男が突っ立っていた。
 その瞳は遥か遠くを見つめており、人間のレベルを遥かに超えた、強力すぎる視力で墜落しようとするマザーシップを捉えていた。

「ランスが覚醒したか」

 男、バルギルドは静かに言うと、マザーシップを睨みつける。
 
(このままだとあの宇宙船は1分も無く海に沈むだろう。さあ、どうするエリック・サーフィアス?)

 次の瞬間、バルギルドの顔が僅かに歪んだ。しかし、それだけでも常人が見たら気が狂いそうになってしまいそうな光景である。

「やはりランスの突風能力で何とかするしかないだろうねぇ……しかし、君に其処まで最終兵器を扱える事が出来るのか?」

 しかし次の瞬間、強い風が吹き始めた。
 何の予告も無しにやってきたそれは、まるで何かの前触れのようにバルギルドの銀髪をなびかせる。

「此処まで風を吹かせるか……これなら合格レベルだね」

 バルギルドの視界には、一つの光景が映し出されていた。
 それは真下から巨大な宇宙船を支えるようにして吹き荒れる風の柱である。決して目で捕らえる事は出来ないが、その見えない力は確実に宇宙船の墜落を防ぎ、静かに海面に着水させた。






「い、生きてるー……」

「よかったぁー……」

 エリックと狂夜は二人して安堵の溜息をついた。エリックに関して言えば、慣れないレベル4の連続使用で疲れ果てている状態である。

「あれ? そーいやアルイーターは何処に?」

 狂夜が言ったと同時、エリックも気付いた。アルイーターが何時の間にか煙のように消え去っているのである。

「あ、置手紙かコレ?」

 足元に何時の間にか置いてある紙切れを拾い上げると、其処には翻訳された文字でこう書かれていた。

『今日は色んな意味で私の敗北と言う事にしてやろう! しかし、私はこの星で自らを磨き、再び君達の前に現れるだろう。因みに、君達の標的の宝石は私の部屋の金庫室に入っている。今回は戦利品としてもって帰るといい。何時か再び私が取り返すがな! では、サラバだ!  by アルイーター・スンズヴェルヌス』

 コレを読んだ狂夜は思った。もう二度と出てきて欲しくないな、と。

「さて、今回はなんとか生き延びた訳だが……これからどうするべきか」

 疲れ果てた、それでいて元気の溢れていそうなエリックの声が響くと同時、宇宙船が沈没し始めた。
 それに気付いて、彼等は急いで脱出したのだが、残念ながら今回の獲物を取り逃がしてしまったと言う。



 続く



 次回予告


アルイーター「ふっふっふっ……」

エリック「あ、コラてめぇ、どっから湧いてきやがった!」

アルイーター「あ、殴るな馬鹿! 未来の主人公に傷をつける気か!?」

エリック「だーれが未来の主人公だ! オメーの出番はこれで終わりなんだよ!」

アルイーター「いーや! 絶対に何時か出てみせる。それも華麗にな!」

狂夜「……大変見苦しい物をお見せしました(汗」

バルギルド「パリに辿り着いたマーティオとネオン。早速協力者を得た彼等だが、果たして問題の『先輩』は見つかるのか。そして新たな敵、ダーク・キリヤが彼等に襲い掛かる。次回、『グレイト!』」

狂夜「あのー、どちら様で?」

バルギルド「何、最終回になるまでには分るだろう」





第二十五話へ



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