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紫色の月光

第二十五話「グレイト!」

第二十五話「グレイト!」



 イシュのヨーロッパ基地。幾つもの国が存在しているヨーロッパだが、その中でも特にイシュの基地として強い力を持っているのは幹部の一人であるサウザーがいるパリ基地だ。
 そのパリ基地のサウザーの部屋には彼の他にもう一つの影があった。

「では、依頼の方は引き受けてくれるんだね、ダーク・キリヤ君?」

 サウザーが椅子に腰をかけながら言うと、ダーク・キリヤと呼ばれた影が静かに頷く。
 それに満足したのか、サウザーは五枚の写真を取り出して、それをダーク・キリヤに手渡した。

「そいつ等が標的だ。一人につき100万用意してやる」

 手渡した写真にはエリック、マーティオ、狂夜、ネオン、ネルソンが一枚一枚個別に写っていた。ただ、問題なのは、

「この中のうち、二人は仮面をつけているようですが?」

 ダーク・キリヤが言うとおり、五人の中のうち、二人だけが仮面をつけているので顔が分らない。怪盗として活動している時のエリックと狂夜である。彼等は竜神の博物館に潜入した際、姿をカメラに捕らえられていたわけだが、この通り仮面をつけているので顔はバレていなかった。

「そう、だからその二人は後回しだ。そして、この白髪の少女とおっさんは可能なら生かして捕らえろ」

 サウザーの指示で該当するネオンとネルソンが一旦外される。彼等は最終兵器と融合している為、迂闊に殺せないのだ。殺す場合は一旦最終兵器との集合を解除する必要があるのだが、その装置はまだ完成していない。

 すると、残りに一人の男の写真が残る。猛の基地で顔写真がバッチリ写されているマーティオである。

「では、最初のターゲットはこの青髪ですか?」

「そうだ。しかも、そいつはつい先ほどパリ空港に到着したとの事だ」

「分りました……では、報酬を準備してお待ちください」

 それだけ言うと、ダーク・キリヤと呼ばれる刺客は音もなくその場から消え去った。





「だーく・きりやぁ? 何モンだそいつは」

 新しい携帯電話でマーティオが苛立った口調で話しているのは、日本の慎也である。

『京都の基地に忍び込んだ際に得た情報によると、元我等の仲間である霧夜がイシュに雇われているのです。……まあ、簡単に言うなら殺し屋ですか』

「あんた等の元仲間ってことは忍者か」

 だとしたらある意味最終兵器並に厄介である。忍者が使う奥義は強力で、時としては最終兵器もビックリの奥義も存在するのを彼はよく知っているのだ。

『はい、しかも私の娘になります』

「………は?」

 思わず間抜けな声を発してしまった。
 しかし、我に帰ったマーティオは再び慎也に問う。

「おい、ダーク・キリヤってのは女なのか!? しかもあんたのむすめぇ!?」

『ええ、棗の姉になります。ちょっとした事情で村を出た訳ですが……』

「……なんで出たんだ? 今でも村にいたらこんな変な事態にはならなかったんだぞ」

『いや、それがですね……非常に言いづらいのですが、霧夜は甘党でして。どうしても我慢できずに、当時の長のおやつのプリンを食べてしまったのです』

 呆れる以前の問題だった。
 其処まで聞けば後の展開は大方把握できる。

『長の怒りを受けた霧夜は村を出て行くことを余儀なくされ……それで現在に至るわけです』

「そりゃあ大変だな。同情するぜ、当時の長に」

 あくまで当時の長であって霧夜ではない。おやつのプリンは時として宝石以上の価値があるのだ。それを他の奴に食べられたりもしてみるとやっぱり怒るのである。

『霧夜は恐らく、貴方達をターゲットにしてくるでしょう。お気をつけて……霧夜は甘党でも、本気になったら我等の中でもトップクラスです』

「OK、わざわざありがとな……で、いいのか? 返り討ちにしても」

 いかに忍者と言えども一応は実の親子である。慎也には多少の恩義を感じているマーティオとしては、本人の意見を聞かない限りは少々乗り気ではない。

『構いませんよ。それが『忍』として生きる道を選んだ者です。ましてや殺し屋なのなら尚更です』

「分った」

 それだけ言うと、マーティオは静かに電源を切った。





 パリのとある裏路地には、あまり人には知られずにいる病院がある。いや、正確には病院とは呼べない。何故なら、其処には『医者』がいないのである。
 かといってナースだけがいるわけでもない。経営しているのは一人の白衣の青年で、これが厄介な事に『ヤブ医者』なのである。簡単に言う所の無免許なのだ。

 そんな病院とは言いづらい場所の前に、マーティオとネオンはいた。

「………此処が、そう?」

 相変わらず無表情な顔でネオンがマーティオに言う。
 すると、マーティオは頷きをもってしてそれに答えた。

「此処にいる奴は無免許だが、俺様に医療の知識をくれた人でね。まあ、あいつが無免許だから俺様も無免許なんだがな」

 そう言うと、彼は遠慮なく入り口の扉を開けた。

 その中に広がる空間はある意味圧巻だった。
 人体模型に受付と見られるボロボロのテーブル、そして座り心地が悪そうなソファーに本が数冊ある。しかも電気がついていないため、光がほぼ完全にシャットダウンされている状態だ。敢えて言うなら換気の穴から入ってくる僅かな光程度である。

「おい、いねぇのか?」

 マーティオの声がその場に響く。しかし、それでも辺りは静まり返ったままだ。本当に人がいるのか疑わしくなるが、入り口の鍵が開いていると言う事は誰かがいるはずである。

「……おい、俺様はマーティオ・S・ベルセリオン様だ。出て来い、ヤブ医者」

 すると、奥のほうの扉から一人の白衣の青年がゆっくりと現れた。黒髪の短髪で、眼鏡を掛けているその姿は、何も知らない人が見たら医者のイメージにピッタリだろう。

「おや、本当にマー君じゃないか」

 その一言にネオンが反応する。
 『マー君』。マーティオの事だろうが、普段のあのマーティオがマーティオなだけに笑いを堪えきれないのだ。故に、少々俯いて肩を震わせる程度で彼女の笑いは終わった。最終兵器と融合して笑う事が少なくなった彼女には珍しい光景である。

「ん、誰だいこの女の子は?」

「ああ、こいつは雪月花・ネオンっつー……一言で言う所のお騒がせ娘だ」

 すると、俯いていたネオンがヤブ医者を見上げて問うた。

「……貴方、誰?」

 すると、ヤブ医者の眼鏡が暗い空間にもかかわらず「きらーん」と言う効果音と共に光りだした。彼は笑みを浮かべながらネオンの質問に答える。

「よっくぞ聞いてくれた! 私の名はアルバート・フォン・サザーランド・デトロニクス・シャジャークイス・ツードラサイド・ファルコニアス・ライザモンブル・アルヴェニシカ・エレキブル・ロケットニアス・アンドライド・エルフレア・コスモファイア・ジジステート! 覚えてくれたまえ!」

 次の瞬間、沈黙が場を支配した。
 まあ、これはネオンじゃなくても誰もが思うわけだが、名前が長すぎる。『覚えてくれたまえ!』といわれても困るわけだ。

「………」

 ネオンが半ば呆然とした感じで名前がやけに長いヤブ医者を見ていると、横からマーティオが言った。

「因みに、皆からは『Drピート』と呼ばれている」

 それに反応したDrピートは、うむ、と頷いてから、

「自分で言うのもなんだが、名前が余りにも長すぎるのでね。略してピートだ!」

 さっきの名前の何処をどう取ったら「ピート」になるのか凄い疑問だが、敢えて口にしないで置いた。
 余談だが、以前マーティオがニックに「医者を紹介してやる」とか言っていたが、その医者とはこのDrピートの事である。

「で、君とは大体3年ぶりかな、マー君。一体何の用かな?」

「ちとパリで人探しでな。寝床がないから、此処に住まわせて欲しい」

 用件を容赦なくストレートで言う所がマーティオらしい。そしてそれに対し、Drピートは少々考えた後、こう答えた。

「僕は構わないけど流石に3人分のベッドなんて無いよ?」

「構わん。俺様は立って寝る」

 目が本気である。この男の場合、本当に立って寝るだろう。

「OK、それじゃあ荷物を降ろして楽になりたまえ。積もる話もあるだろうがな」

 そう言うと、Drピートは奥の部屋の中へと消えていった。どうやらあそこが彼のお気に入りの部屋のようである。

「……これからどうするの?」

 ネオンが静かに言うと、マーティオは答えた。

「先ず、腹が減ったから飯にするとするか。おいヤブ医者、あんたはどうする?」

 すると、扉の奥からDrピートの声が響いてきた。

「あー、僕はいいよ。さっき済ませたばかりだからー!」

「だと、さ」

 そう言うと、マーティオは大き目のバッグをボロボロのテーブルの上に置いた。





 それから数十分後、マーティオとネオンは近くにある料理店に入っていた。彼等は注文を頼み終えると、これから捜査開始する人物のことについて話し始めた。

「……特徴、赤い目、赤い髪、六角形のピアス、目の下にホクロ」

「そうだな、ピアスは外そうと思えば外せるし、髪も染めれば分らないし、目もカラーコンタクトすれば分らない」

「……意味ない」

 全くそのとおりだった。何せかなり昔の話である。その時の特徴が今でも通用するのかと言われたら、答えるのに困ってしまう。

「でもよぉ、ホクロなんか隠し様があるか?」

「……そんなの色んな人にある」

 まあ確かにそういわれたらそうだが、それじゃあ何も手がかりが無いと言う事になる。敢えて言うならパリに『いるかもしれない』と言う事だけで、漠然としすぎている。
 名前も生年月日も血液型も不明なのだから更に漠然としているのだ。

「何の手がかりも無いよりはマシだろう。少しの手がかりでもあるだけマシだと思うべきだな」

「……そう」

 それだけ言うと、ネオンは静かに俯く。
 彼女は先に注文しておいたナポリタンを貪り始めるが、マーティオの方は先ほどから何か落ち着きが無い様子だった。

(……さっきから微弱ながら殺気を感じるな。多分、押さえ切れないような)

 その殺気のする方向を見てみると、其処には四人の男がメニューを眺めて何を注文すべきかで迷っている。
 もしかして噂のダーク・キリヤかと思ったが、四人だし男だから違ったようだ。しかし、マーティオは見逃さなかった。その男達の中の一人がナイフの柄を手にとっては手放している、何か落ちつか無そうなその光景を、だ。

(ククク……こいつはおもしれぇ)

 恐らくは何処かで強盗でもしようかと思って来たのだろう。銀行ではなく、料理店で行おうとする理由は恐らく『不意』を突く為だろう。そもそも銀行と違ってボタン一つでやって来る警備員がいない(電話したら来るが)。

(暴れるならやってみろよ、俺様も久しく暴れてないから今までの分を全部ぶつけてやるぜ!)

 何か危険な思考とオーラがマーティオから放たれている。そのオーラを感じ取った近くの客が思わず震え上がってしまった訳だが、生憎マーティオにはそんな事どうでもいいのだ。
 今の彼の興味は一つ。

「暴れる」事である。要は一種のストレス発散と言っても過言ではないが、流石にこんなところだと迷惑がかかる。
 だが、そんなのお構い無しなのがこの男である。彼は善意で赤の他人を助けると言う事をしない男なのだ。

「……ん?」

 しかし、そんな時。一人のウェイトレスが問題の男達に近づいていった。最初は注文を確認するのかと思い、マーティオは気にも留めなかったのだが、その直後である。

「なんだとこのクソ女!」

 何やら口論になってきた。
 男の荒れた言葉から推測すると、どうやらウェイトレスの方が何か言ってきたらしい。しかも男達の怒りを買うような何かを、だ。

 しかし、当のウェイトレスの方は全く動じていない。寧ろ、不敵な笑みさえ浮かべている。

「当店に武器の持ち込みはご勘弁願いたいのですよ、お客様」

 言葉づかいは一見丁寧だが、妙に挑発しているような感じがする言葉だった。と言うか、トーンからして明らかに四人を客だとは思っていない。

「何の証拠があってそんな――――」

 男が立ち上がってからそう言うと、ウェイトレスは素早い動きで男のポケットの中から折りたたみナイフを取り出した。その素早さときたらマーティオも驚きである。

(凄い、相手に全く感づかれずにポケットの中身を取り出した!)

 こりゃあ立派なスリのスキルである。

(あのウェイトレス、只者じゃねぇ!)

 マーティオが珍しく素直に感心していると、ウェイトレスは折りたたみナイフを男に見せつけながら言った。

「グレイトに関心しないねぇ、トボけた振りなんてさ」

 その瞬間。店内が一気に沈黙に包まれた。

「……グレイト?」

 ネオンも思わず疑問形になる。何とも変わった口癖なのだから仕方が無いのだが、それでも『グレイト』はどうかと思う。

「………」

 しかし、マーティオは何処か『信じられない』とでも言いたげな目をしてウェイトレスを凝視していた。この男にしては珍しい反応である。

「ふざけやがって!」

 すると突然、男がウェイトレスに襲い掛かってきた。しかしウェイトレスは全く動じない。それどころか、不敵な笑みを浮かばせてから店長に向かってこう言った。

「店長、店が少々グレイトに荒れますがよろしいでしょうか?」

 すると、奥のほうから店長の声が響いてきた。

「あー、流石にグレイトに荒らされるとちょっと嫌だなー。少し抑えてお願い」

「了解!」

 男のパンチを素早い動きで避けるウェイトレス。だが、ただ避けただけではない。避けた時の勢いを利用して素早く相手の腹に裏拳を決めたのである。

「おご……!」

 これが予想外の威力だったらしく、男は悶絶してそのまま倒れこむ。

「く、くそ!」

「やりやがったな!」

 しかし次の瞬間、今度は他の三人が同時に襲いかかってきた。それを感じ取って振り向くウェイトレス。

 だが、その振り向いた瞬間、マーティオとネオンは見た。そのウェイトレスの『赤い左目』の下に『ホクロ』が確かに存在しており、しかも『六角形のピアス』をつけているのを、だ。しかも『赤髪』である。

「ま……まさか」

 思わずマーティオがそんな事を言ってしまった。この男が明らかに驚いている場面なんて始めて見る。

「マーティオ……『先輩』の性別と口癖は?」

 ネオンが問うとマーティオは数秒してから答えた。
 それは何時もと比べると明らかに違う感じの声だった。

「性別は女で……発する言葉には高確率で『グレイト』がつく」

 よくよく考えたら先輩の性別なんて今まで口にしていなかった。故に、ネオンは今までずっと先輩が男だと思っていたのである。

 当のウェイトレスさんは軽い動きで三人の男を圧倒していた。正にレベルが違う戦いである。
 一発の拳で大の男を殴り倒し、一発の蹴りで妙に筋肉質な男を悶絶させ、素早い首閉めで大男をギブアップさせてしまったのである。

「これにグレイトに懲りたらもう二度と来るんじゃないよ」

 本当にグレイトとしか言いようが無いような圧倒的勝利だった。その戦い振りを見た客から次々と拍手が送られる。

「す、すげぇ!」

「格闘映画の中にいるみたい!」

「サインくれー!」

「グゥレイトォ!」

 なんか客の皆が好き勝手言っている訳だが、当の本人は少し照れているようである。頬を少し赤くさせて「あはは」と力無く笑っているのがその証拠だ。

「あの人が……先輩さん?」

 隣にいるマーティオに同意を求めようとしたネオンだったが、そのマーティオがどういうわけか忽然と消えている。

「?」

 何処に行ったのかと思えば、なんと怪盗イオの仮面をつけてウェイトレスに襲い掛かっているではないか。しかもナイフを構えた状態で。

「!」

 その殺気に気付いたウェイトレスは、マーティオの縦一閃のナイフ攻撃を素早く回避。少々距離を置いてから、再び店長に問う。

「店長、グレイトに骨のありそうなのが出てきた。すまないが、少しばかし荒れる!」

 すると、はやり奥の方から店長の声が響いてきた。

「何、仕方が無い! 君の給料から引いておくぞ!」

「そ、それはグレイトに困る!」

 どんな感じで困るんだろう、とネオンは思った。
 しかし、そんなの知るか、とでも言わんばかりにマーティオがナイフを構えて突撃して行く。

「く、何処の誰だか知らないが!」

 今度は横一閃にナイフ攻撃が迫る。しかし、ウェイトレスは残像が残るかのようなスピードでそれをかわし、しかもマーティオの懐に一気に入り込む。

「給料を引かれるのはグレイトに勘弁だ!」

 腹に強烈な肘打ちを決めたと同時、ウェイトレスはマーティオの上着の襟を掴んで、一気に投げ飛ばす。

 次の瞬間、マーティオが思いっきり壁に叩き付けられる。その衝撃でイオの仮面が外れる訳だが、その素顔を見た途端、ウェイトレスの目が点になった。

「ま、マーティオ?」

「ちわ、お久しぶりです先輩」

 壁にたたきつけられ、脳天から床にぶつかってしまったマーティオはそれでも、ぴしっ、と敬礼した。マーティオにしては珍しい反応である。

「な、なんで君が此処に……」

「先輩をパリで見たとの情報を得たので来ちゃいました」

「じゃ、じゃあエリックと狂夜も?」

 何故かうろたえているウェイトレス先輩。どうやらウェイトレス姿を見られるのが恥かしいようである。もうマーティオには見られているわけだが。

「いや、あの二人はいません。一応兄弟弟子の中では俺様だけです」

 マーティオが敬語を使っている。その恐るべき光景の前にネオンは絶句していた。いや、此処に少しでもマーティオを知るニックや棗やDrピートと言った面子がいれば彼等だって驚くだろう。

「でもまあ改めまして………お久しぶりです、先輩」




 続く




 次回予告


エリック「パリじゃあマーティオが新キャラと接触しているが、こっちも新キャラの登場だ!」

狂夜「舞台はアメリカ豪華客船! ターゲットはズバリ、黒真珠『ブラックパール』!」

エリック「だが、此処で思わぬ邪魔が入ったりしてもう大変なのさ! 次回、『ああ、愛しの怪盗様』」

狂夜「次回の要素は船にメイドに清掃員のおばちゃんにびびあん!」

エリック「なんかやべぇのいねぇか最後辺り!?」




第二十六話 前編へ


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