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紫色の月光

第四十五話「降臨、バルギルド!」

第四十五話「降臨、バルギルド!」



 少女の身体を貫いていた矛先を引き抜いたエリックは、唖然とした表情で目の前の二人の姿を見る。
 一つは先ほどの一撃で亡骸となったネオン。もう一つはそのネオンと最後に会話したまま、蹲って動かないマーティオである。
 
「馬鹿が……」

 呟いたその言葉に、マーティオは自分でも疑問に思う。

 何が馬鹿なのだろう。
 
 彼女が自分に明らかな好意を向けていたにも関わらず、見てみぬフリをし続けていた自分か。
 もしくはそんな彼女を裏切ったにも関わらず、それでも自分を庇おうと前に出てきた空気を読めない彼女なのか。

 いや、それ以前に今呟いたこの発言。
 自分が言った言葉だったのだろうか。

「やばい。本格的に脳みその中身がおかしくなってきやがった……!」

 脳みそだけではない。身体や背中から生える翼も『内側から暴れまくる何か』に壊されようとしているのが判る。
 そして最終的に壊されたならば、彼に訪れる結末は一つしかない。

「駄目だ……『俺が俺じゃなくなる』……!」

「何!?」

 マーティオが言い終えると同時、『ソイツ』は現れた。
 思わずぞっ、とするほどの寒気がする不気味な笑みを口元に浮かべながら、だ。

「馬鹿め、さっさとやっておけばいい物を……だが、『アロー』。貴様にはあえてこの言葉を送ろう」

 そういうと、彼はネオンの亡骸に向けて言い放つ。

「よくやった」

 直後、彼の手に握られていたサイズが分離。
 主の意思に反して思わぬ方向に飛んでいった。

「ふん、せめてもの反抗。俺の頭はやはり色々と狂いまくってきたらしい」

 サイズがなくなり、軽くなった手で自分の頭を指差してみるマーティオ。
 自分の頭を只一点、力強く指で押さえつけるその姿はまるで自分の頭に銃でも押し付けてるかのようにも見えた。

「てめぇが……邪神の翼!」

 エリックが呟くように言ったその直後、目の前にいるマーティオは首を縦に振った。

「だが勘違いすんなよ。俺は単なる二重人格って訳じゃない。ウイングとマーティオは同じだ。貴様等が今まで戦ってきた連中と同じように、アナザー・リーサルウェポンは最終兵器その物が人の姿をしている」

 故に、彼はマーティオだ。
 ただ『別の考え方』を頭の中に持っただけの違いなのだ。

「だが、どうやら『少し前の俺』はせめてもの救いとしてサイズを俺の手に持たせないように命令したようだ。これではレベル4の強化は使えん」

 しかし、

「それでも、貴様等を消すことが出来る」

「何だと!?」

 マーティオは背中から生える『自身』を大きく広げると同時、吼えた。

「ぶっ飛びやがれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」

 直後。
 双翼が羽ばたき、周囲の物を全て薙ぎ倒していった。

 その強靭な力と破壊力の前では、エリックも狂夜もフェイトも、身を呈してマーティオを守ったネオンの亡骸も、ただ薙ぎ飛ばされるだけだった。









 真下の四階でマーティオの羽ばたきが始まったと同時、五階のソルドレイクは一つの疑問を覚えていた。

(死んでるか?)

 敵の最大の武器である拳がソルドレイクの身体から無数に生える骨に固定されているこの状態。更に左肩はソルドレイクの骨の刃が、ポリスマンの肉を切裂いていた。
 普通なら左肩を斬っただけでも致命傷と言えるダメージなのだが、何分この男は何をしでかすかまるで予想がつかない。

(今は動かないでいるが、何時また動くかわからねーのが面倒クセー)

 ならば、此処で確実に止めを刺そう。
 いかに人間最終兵器とは言え、心臓を貫かれたら死ぬことには変わりない。安全に、そして最も確実にこの男を殺すのなら正にその心臓を狙うのが手っ取り早い。

「あばよ警部サン。あの世で部下と仲良くなァ」

 ポリスマンの左肩に進入していた白刃を引き抜くと、今度はポリスマンの心臓に狙いを定める。
 ほぼ零距離ともいえる至近距離だ。外すことは先ずない。

(何より、いかにこのオッサンが人間離れしているとは言えこの左肩のダメージは深刻だぜェ)

 故に、すぐに動けるはずがない。
 そう思い、彼は白刃を一気にポリスマンの心臓目掛けて突き出すが、

「まだだ。まだ死なんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 すぐ動けるはずのないその燃え盛るかのような赤いボディが、再び動き出したのである。

「な――――」

 に、とは続かない。
 何故なら、その言葉を発するよりも前。ソルドレイクがポリスマンの心臓を突き刺すよりも前に、骨に絡め取られていた筈のその拳が、勢いよくソルドレイクの顎に突き刺さったからだ。

「あがっ――――!?」

 先ほどとは比べ物にならない力。
 ソレを目の前にして、ソルドレイクは困惑した。

(馬鹿な! 俺の骨から力で無理矢理脱出したってのかぁ!?)

 無数に出している骨だが、決して脆い訳ではない。寧ろ最終兵器の中では1,2を争う強度だと断言できる。
 何しろ、ソードの莫大なエネルギーの渦に巻き込まれても傷一つつきやしなかったのだ。

 力だって同じだ。
 現に、先ほどまではポリスマンの拳を受け止め、そのまま動きを封じることに成功していた。

「火事場のクソ力だ! くらえぃ!」

 生まれたチャンスを、ポリスマンは逃さない。
 先ずは右拳で腹部にストレートをお見舞い。続けざまに左拳で殴りかかる。
 肩に受けた傷が痛まないのかと言われれば嘘になるが、骨が繋がっているのなら何の問題もない。

(今はただ、目の前のコイツを殴って、殴って、殴り倒すのみ!)

 一発。
 
 二発。

 三発。

 連続して突き出される拳の嵐。
 避けようにも一度浴びせられたラッシュのハリケーンは中々抜け出せず、ソルドレイクはただその拳を受けるしかなかった。

「ぐおっ、このヤロォ!」

 思わず睨むが、反射的に返ってきたポリスマンのパンチが顔面に命中。
 数歩ほど後ずさるが、その隙すらポリスマンは逃さなかった。

「今だ食らえ! 必殺、スーパー、ナッコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 手加減無しの全力の右拳。
 それが真っ直ぐソルドレイク目掛けて突き出された。

 だが、しかし。

「調子に乗るなよ警官のおサルさん!」

 ソルドレイクの真紅の瞳が不気味に光りだすと同時、勢いよく彼の足から白刃が飛び出し、真下からポリスマンの右拳を貫く。
 
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 だが、ポリスマンは止まらない。
 突き出された拳は真下から貫かれようがお構いなし。
 鍛え上げられた筋肉は悲鳴を上げつつも、敵目掛けて真っ直ぐ向かっていく。

「何だとォ!?」

 直後。

 ポリスマン必殺の右拳が、ソルドレイクの頬に炸裂した。








 羽ばたき終えた凶暴な双翼は攻撃を止める。
 一度三人がどれだけのダメージを負ったのかを確認しておきたかったからだ。

(ソードは瓦礫に埋もれ、ガンは階段手前。持ち主はそれぞれ気絶、か)

 頭から壁に激突したのだから当然と言えば当然か。
 しかもその後も室内台風による被害があったのだから、寧ろ身体的外傷が目立ってないこの事実が信じられない。

(いや)

 室内台風をある程度中和できる存在が、一人だけいた。
 風をコントロールする最終兵器、

「ランスとエリック。お前等がやはり俺の最大の壁となるようだな」

 ウイングの主な攻撃方法は羽ばたきによって起こる突風と、強烈な加速だ。
 しかし目の前に無言で突っ立った青年――――エリックは周囲の風をコントロールする事ができる。故に、前者の攻撃は彼には通用しない。

(だが、自分だけを防御したって事は何か意味があるはずだ。どういうつもりだ、エリック?)

 槍に乗って空中サーフィンだってしでかす男だ。
 やろうと思えば狂夜とフェイトを襲う突風だってコントロールできたはずだ。

「ん?」

 だが、マーティオは気付いた。
 エリックが立つその場所。その真正面で横たわる、少女の姿を。

「見ろよマーティオ」

 俯いたまま、エリックは言う。

「すんげぇいい表情してやがる。俺は今までアニメとかゲームとか、そんなんで色んな眠り姫を見てきたが、ここまで幸せそうなツラしてあの世に行っちまった眠り姫を見たことがねぇ。コイツ、何でこんな幸せそうなツラしてんのかねぇ?」

 その答えは判りきっていた。
 
 大事な人を守ったからだ。
 少女にとって、青の死神は誰よりも大好きで、ずっと一緒にいたい存在だったのだ。

「どう思うよマーティオ?」

「何?」

 突然問われたその言葉に、マーティオはすぐには反応できなかった。

「何、じゃないんだよ。何でこの無愛想少女はこんなに嬉しそうな顔して死んでるのかなーって、そういう質問」

「何だと。ふざけてんのかテメー?」

 いや、と首を横に振ることで問いかけに否定を入れる。

「俺は何時でも大真面目さ。おふざけでこんな命がけの場所に首突っ込んだりはしない。そりゃー、確かに動画見たいし、ゲームしないし、漫画読みたいけどよ」

 けど、それでも譲れない物が出来てしまった。

「俺の誓いその二、許せないことは絶対に許さない! ……俺は今のオメーを許せない」

 その一には『相棒を大事にしろ』と言う誓いがある。
 だが、目の前にいる男はその相棒に頼まれたから倒すのだ。

「お前、さっき馬鹿だっつったな?」

 明らかな怒りの視線をマーティオに向けるエリック。
 
「馬鹿って、何が馬鹿なんだよ。答えろ」

「何を――――」

「答えろ。俺は真面目に聞いてるんだ」

 二人の間に沈黙が流れ始める。
 だが、そんな沈黙を先に破ったのはマーティオだった。

「馬鹿は馬鹿だ。アローも、お前も、そして俺も。皆馬鹿なんだ。敵を庇って死んだアロー、さっさと殺さないでモタモタしているお前、そしてサイズをむざむざと手放し、何時までも貴様等を消せない自分も! ……馬鹿なんだよ」

 口元に凶悪的とも言える笑みが浮かび上がる。

「お前もさ、大人しく部屋に篭って大好きなゲームでもしてればよかったんだよ! そうすれば痛みも何もなく全てを終えれただろうになぁ!」

 言い終えたと同時、再び背中の双翼を広げだす。
 今度は一瞬で終わらせる。
 ウイングの加速力は普通の最終兵器の加速力とは訳が違う。何せ、自分自身が弾丸となるのだ。武器にどうしても引きずられる形になってしまう他の最終兵器では、その加速力にはとても追いつけない。

「さあ、お喋りは今度こそ終わりだぜエリック。その馬鹿な女の子の亡骸を無事に其処に残しておくためだけにソードとガンを守りきれなかったのが運の尽きだぜ!」

 確かに狂夜とフェイトにまで手が回らなかったのは、ウイングが発する巨大な室内台風が予想以上に強力だったことよりも、目の前で幸せそうに眠る少女を、出来るだけその場で眠らせてあげたい、と言う本心が招いたことだ。
 
 しかし、この見ただけで虚しさがこみ上げてくるこの戦いに幕を下ろすのは、自分ではない。

「来いよマーティオ。そろそろウイング戦は終わりにしようぜ」

 しかしランスは構えない。
 そんなエリックの姿を見て、疑問に思わないマーティオではなかった。

(どーいうつもりだ? まさか、何かカラクリでも仕掛けてるんじゃねーだろうな)

 だが、ウイングの加速力の前では小細工なんぞ通用しない。
 注意すべきランスの心臓貫通も、ランスを構えていないのなら使う気はないと見ていいだろう。

「じゃあ、そのまま動くなよエリック! すぐにぶっ殺してやるからよぉ!」

 青の翼が吼えた。
 ソレと同時、マーティオの身体が加速。
 真っ直ぐエリックへと襲い掛かって来る。

 しかし、それでもエリックはランスを構えない。

「ああ、俺は動かないぜマーティオ」

 何故なら、

「決めるのは俺じゃない。お前だ」

 エリックが呟くと同時、それは起こった。
 突撃して来たマーティオの足。そこに釘を打ち込むかのようにして突き刺さった刃物の襲撃である。

「が――――!?」

 何処から飛んできたのか、それを確認しようと首を動かそうとするが、まるで『その必要はないのだ』と言わんばかりに足、腕、腹に次々と刃物の群れは襲い掛かってくる。

「ば、馬鹿な……どんなミラクル使いやがった!?」

 全身を刃物で突き刺され、その場で倒れこむマーティオ。
 だが、流石に生命力が高い。それでもまだ喋る元気があるのだから、改めてアナザー・リーサルウェポンと言う存在の恐ろしさを突きつけられた気分だ。

 だが、そんなマーティオの疑問にエリックは簡潔に答える。

「言ったろ。決めるのは俺じゃなくてお前だ、マーティオ。その刃物の柄、よく見てみるんだな」

 言われてから全身に突き刺さってきた刃物の柄を見てみる。
 すると、それは自分の見知った物であると気付いた。

「ま、まさか……こいつ等!」

「……そう、サイズだ。お前の最終兵器だ」

 『壊れる』前にマーティオが手放した最終兵器。
 だが、その曲刃は単純に持ち主の男の命令を聞いただけだったのだ。

「お前は単純にサイズを手放した理由を『俺たちに出来る最大限のこと』だって思ったみたいだけど、そいつは違った。マーティオは、むかつくことも、許せないことも全力で反発してくる男だ。そして、最後は自分の手で殺めることがマーティオの美学なんだ」

 その性格から判断した答えはズバリ、

「マーティオは、自分の手で『ウイング』を倒しやがったんだ」

「ば、馬鹿な……マーティオは『俺』だ! 俺がそんな単純な作戦を見逃すはずがない!」

 そりゃあそうだ。彼だってマーティオだ。
 それ故に、彼が『マーティオ』の仕掛けた罠に気付かないはずがないのだ。

「何でそう思う? 『マーティオがマーティオを殺すはずがない』と言う大前提が、お前の何処かであったんじゃねーのか?」

 正直に言えば、エリックもサイズのオーラ越しに見えたマーティオの『作戦』を読み取れねば全然判らなかっただろう。

 しかし、彼はあくまで『魔術師』志望なのだ。
 魔術師は人を騙して仕事をするのである。それ故に、彼はある『伏線』を入れて、頭の中にそれを焼きつかせたのである。

「『俺はお前になら殺されてもいいって思ったんだぞ』」

「!?」

 エリックが呟いたその言葉に、マーティオの目は驚愕の色に染まる。

「お前が俺に言った言葉だ。その言葉は多分、少なからず本音があったんだと思う」

 だからこそ、本人の頭の中で焼きついてしまった。
 本音だったから、自分でも焼きついてしまう。

「後は多分賭けだったんだ。マーティオが自分の仕掛けた罠に引っかかるか否か。当然、時間がかかればかかるほどお前が有利だ」

 幾ら騙しが得意でも自分は騙しきれない。
 強烈なインパクトで騙せたとしても、それが通用するのは最初の数分程度だろう。

「だけど、生憎お前の最終兵器は速攻勝負のタイプだ。だから必然的に仕掛けるのは早くなっちまう……」

 兎に角、お前の負けだ。

 ぶつぶつと何か言ったところで何も変わらない事実。
 それだけ言うと、エリックはその場で崩れ落ちた。

「馬鹿だよお前……本当に、馬鹿だよ……っ!」

 気付けば、自分でも意図しないうちに目から涙が流れていた。
 溢れるのは涙だけではなく、この十四年間が『夢』になってしまうような現実への虚しさと、彼への文句も一緒だった。
 
「何がお前になら殺されてもいいだ! 何が使命を果たせだ! ……全部、お前が決着付けやがったじゃねぇか」

「くっくっく……忘れたか、馬鹿」

 すると、そんな彼に話しかける声が響いた。
 彼の前でズタズタにされているマーティオである。

「むかつく奴も、許せない奴も、気に入らない奴も俺が殺す。ソレが俺のルールだぜ?」

「……自分で自分を攻撃しておいて、よく言う」

 ソレは仕方ない。
 今回は自分がどうしても許せなかったのだ。それ故に、出来る限り自分の手で決着を付けたかった。

「でも、もし俺の一撃が届かなかったら……本当にお前に殺してもらうつもりでいた。これだけは、本当だ」

 突然真剣な顔に戻すと、マーティオはそういった。
 
「だが、まさかあいつが飛び込んでくるとは俺も予想外だったんだ。だから急場で手を打っておいた。最後の一手として、な」

「……サイテーだな。お前」

 誰が見ても判りきった少女の好意。その純粋な気持ちを目の前で見たくせに、この男はその少女の思いを無駄にする準備をしていたのである。
 
「仲間の気持ちを無駄にする。泥棒の俺が言えた事じゃないけど、サイテーだよお前」

「ふん、それでいいさ」

 それでその仲間が先に進めると言うのなら、迷うことなく無駄にしよう。
 例え心がソレを拒んでも、無理矢理自分に言い聞かせて感情すら捨ててみせる。

 それがマーティオなりの『友達』へ示した道だったのだ。

「俺が決めた道だ。自分に正直になって、それで決めた道なんだ。……俺に悔いはない」

 身体中から流れ出る出血の量が更に勢いを増してくる。
 その理由は、彼の身体に突き刺さっていたサイズの刃が自動的に引き抜かれたからである。刺さったままの状態では栓の役目を果たしていた刃が引き抜かれた今、本格的な出血はここから始まるといってもいい。

「なっ!? 何で引き抜いた! このままじゃ出血で死ぬぞお前!」

「勘違いすんな。引き抜いたのはサイズのためだ」

 そういうと、マーティオの隣に音もなくサイズが出現。
 先ほどまでは無数の刃だった柄も完全に繋がっており、元の曲刃が不気味に輝いている。

「俺は出血じゃ死なない。身体の中に強力なウイングが存在する限り、俺は再生能力が自動的に働いて何度傷付こうがその度に再生する。今は出血で何となく頭が麻痺ってるからマトモに喋れるが、何時また俺が変になるかわからねぇ」

 だから、その根元を断つ。
 自分の頭がおかしくなるのなら、そうならないようにしてやればいい。
 そうすれば、この階の住人は倒せる。

「俺の頭を吹っ飛ばせ。そうすれば、この四階はクリアだ」







 警察官に入ろうと思った理由は、自分を変えたかったからだった。
 昔から血の気が多いと呼ばれ、乱暴者だった自分に友達なんてあまりいなかったし、誰からも感謝すらされたことがなかった。

 一番のショックは生みの親が自分に向けて銃口を向けたことだ。
 扉越しに構える父と、その奥で怯えた目をしている母の姿は今でも鮮明に頭の中に残っている。
 そして向けられた銃口をそのままにして、父は自分に言ったのだ。
 出て行け、と。
 
 正直に言えば、何故そんな事を言われたのかはまるで理解出来なかった。
 強くなることは昔から誰もが憧れ、そして同時に頂点に立つ手段でもある。故に昔から強くなることしか考えられなかった。
 寧ろ、それ以外のやり方を知らなかった。

 故に、家から放り出されてからは行く当てなく放浪する始末になってしまった。
 しかしこれからの事を考えている時にふと自分の頭の中で思い出したのが、数少ない友達の一人、ジョン・ハイマンである。
 彼とは学生時代に知り合ったのだが、どういうわけか性格がまるで違う自分を気遣い、そして自分から進んで乱暴者で嫌われ者の自分と関わってきた変わり者である。
 いや、変わり者というよりは苦労人、と言ったほうが良かったかもしれない。
 誰も立候補しない係りに自分で立候補したり、弱小のアメフト部で一人遅くまで練習に没頭していたのを、自分は知っていた。
 故に彼は『人知れず努力する男』という認識が、自分の中では強かった。

 そして彼の事を思い出した自分は思った。
 社会人になる今、彼は――――ジョン・ハイマンはどうするのだろうか。
 自分にない物を持つであろう彼ともう一度会うことで、自分を変えれるかもしれない。
 そしてもし自分が変われたなら、何かが変わるはずだ。
 この時、ソルドレイクはそう思っていた。









 自分に嫌気がしたのは本当に孤独になったのを実感したからだ。
 今までは親がいたからまだしも、その親からも追い出されてしまったのでは自分には行くあてがなかったのだ。
 そこでジョン・ハイマンを思い出したソルドレイクは彼と同じ道を自ら進み始め、警察官になったのである。

 だが、

「はぁ……はぁ……」

 結局、何も変わりはしなかった。
 長年育て続けた『闘争本能』は自分を次から次へと新たな戦いへと駆り立て、問題行動を次々と起させる。

 結論としては、クビにされてしまったのだ。

 唯一頼れるジョン・ハイマンは新たな上司と組んで泥棒を追う事になり、彼には届かない所まで行ってしまった。
 正直に言えば、羨ましかった。
 どんな時でも挫けずに一生懸命頑張れる、そんな優しい好青年である彼が。
 だからこそ、自分も彼のようになりたいと思うようになっていったのだ。
 しかしそんな彼はもう届かない所まで行ってしまった。追いかけたとしても、絶対彼のようになれはしないことを痛感させられてしまった。

 だってそうだろう。
 
 我慢することも出来ずに闘争本能剥き出しにしまくる自分には、彼の存在その物が眩しすぎる。
 そして将来的には彼のような人間が、世の中を大きく動かす男になるのだろう。その眩しすぎる姿は、彼が本当に憧れた『強者』に他ならない。
 自分ではない。自分みたいな奴は何もなく、ただ腹を空かせて死ぬしかないのだ。

 だが、今正に死を待つばかりの彼に救いの手が伸びてきた。

 バルギルドの勧誘である。
 
『君の中にある力は才能だ。ソレを活用せずに倒れることは間違っていると、俺は思う』

 その時言われた言葉に対して、自分はこう言った。

『うるせェ。俺はもう疲れた。もううんざりだぜ。俺がなりたかった姿にはもうなれないことを知っちまったんだ。気付いた時には手遅れ、俺は身に染み込んだ闘争本能に逆らうことは出来ないのさ』

『変わりたいのか?』

『……変わりてェ。出来ることなら、1からもう一度やりなおしてェよ』

 だが、人生はゲームのようにリセットとは行かない。
 やり直しなんて、出来やしない。

 その事を知ってしまったからこそ、この提案は彼にとって巨大な魅力となってしまった。

『1からやり直せるさ。俺たちの本当の『父』の力が覚醒したら、な』

『何?』

 信じられない言葉だった。
 それ以前に『本当の父』、とはどういうことなのだろうか。

『……オメーは、誰だ?』

 疑問も、内から湧き上がる期待も含めてソルドレイクは問う。
 すると、目の前に現れた青年はこういった。

『バルギルド・Z。君の本当のお兄さんだ』







 信じがたい内容の話ではあったが、自分の骨が飛び出して武器になるのではバルギルドと名乗る兄の話を信じない訳にも行かなかった。
 しかし、だからこそ期待できた。

 邪神の力ならば世界を1からリセットすることは愚か、全てを自由にすることが出来る。

 それほどの力があれば、自分の望みは叶えられる。
 今の自分をフルに生かして、『新しい自分』を作り出すという新しい目標。その為ならばどんな事だってして見せよう。
 だから、自分の中にある『良心』も完全に封印する必要があった。
 兄の命令は殆ど昔の自分すら驚愕する内容が多かったからだ。明らかな犯罪行為にまで手を伸ばすその命令内容は、時には騙されてるんじゃないか、とまで思ってしまうほどである。
 しかし、願いを叶えるためには仕方がない。そう言い聞かせて、彼はこの数年間動いてきたのだ。

 ところが、だ。

 自分のよき友であり、影ながらの目標であったジョン・ハイマンは死んでしまった。
 自分が、殺してしまった。

 何故彼が此処にやってきたのか。
 いや、其処までは考えまい。過ぎてしまった事は仕方がないのだ。

 だが、それならば何故だ。
 何故、身体中に虚無感が広がっていくのだろう。
 親から追い出された時に感じたのとは別のベクトルの虚無感と、自分の中で泣き叫ぶ『何か』。
 彼の上司、ネルソンに殴られつつも、ソルドレイクはその正体を探していた。

 しかしその答えは、未だ見つかっていない。








「痛ェ……痛ェ……っ!」

 殴られた痕から身体中に広がっていく痛み。
 それは彼の中で叫ぶ『何か』に訴えるかのようにして、どんどん広がっていった。

「まだだ、立て!」

 こちらもダメージを受けたためか、変身が解除されたネルソン。
 しかし彼は変身が解除されても怒りに満ちており、ソルドレイクの胸倉を掴んで無理矢理その場で立たせた。

「貴様は、俺の大事な部下を殺した! 俺の怒りはまだ収まることはない!」

 もう一度腹部に拳をお見舞いする。
 ソレを受けたソルドレイクは、口内から堪え切れなかった血を吐き出してしまう。

「さあ、どうした!? 俺とお前の距離はないぞ。ジョンを殺した時のように弾を俺にぶっ放してみろ! 火葬してやったとかほざいてやがった時みたいに、俺に穴を開けてみろ!」

 上司にここまで好かれた部下も、彼だからこそだろうか、とソルドレイクは思う。
 
「へ、へっへっへ……」

「何がおかしい!?」

 ネルソンが問うが、ソルドレイクは笑ったまま答えようとしない。
 だがネルソンは見逃さなかった。
 笑ったまま、目から雫を垂らす青年の姿を、だ。

「俺ァ、本当馬鹿だ。あいつを失って、俺は本当に独りになったんだ……あんなに孤独は嫌がってたってのによォ」

 知らなかったとは言え、運命は残酷だ。
 奪われたものは、奪ってしまったものは帰っては来ない。奪い返す気力すらなくなってしまったのなら、尚更だ。

「なんで、何であんな優しい奴が警察官になったんだ。もっと別の道もあったはずだろう……? 何で、俺はあいつみたいになれなかったんだ……」

「……奴は、『人々の役に立って行きたい。最初は皆に笑われる理由だったけど、自分ではそれが一番大切なことだと思ってます』と言った。貴様にあいつと同じ思いがあれば、きっとあいつのようになれただろう」

 だが、

「貴様には、それがない」

 そうだ。自分にはジョン・ハイマンと同じ気持ちはない。
 皆が笑った彼の警官志望の理由を聞いたとき、ソルドレイクだって馬鹿馬鹿しいと思って笑っていた。
 やはり、自分ではリセット出来たとしても同じままでしかいられないのだ。

 自分でそう結論した時、目の前にいる男は口を開く。

「何故なら、貴様とジョンは別人だからだ」

「何?」

 思いもしなかった言葉を聞き、ネルソンの姿を再び見るソルドレイク。

「人間は無数の考えがある。貴様がジョンと全く同じ事を考える必要性はない」

「ルセェ! 俺は奴みたいな、平凡でも周りに『居場所』がある男になりたかったんだ! 俺には居場所がねェ。此処にも、なかったっ!」

 例えドレッド・チルドレンの次男だからと言って、他の兄弟たちが自分によくしてくれるとは限らない。
 バルギルドは何時でもどうでもよさそうにしているし、マーティオは露骨に敵意を自分に向ける。他の弟たちは自分の闘争本能を恐れている。あの親のように、だ。

「何処にもない居場所を手に入れるためには、俺自身変わらなくちゃいけねェんだよっ! だから1から俺をリセットしなきゃいけねェんだ! この世界と一緒に、俺をリセットする!」

「違ぁう!」

 そんなソルドレイクの主張に、ネルソンは思わず反発していた。
 その主張が、彼の中の『道理』に反していたからだ。

「本当にやり直すべきなのは、貴様の曲がりきった根性だ! そんなに変わりたいなら、世界をリセットなんぞせんで此処で変われ!」

 無茶苦茶な要求が飛び出してきた。
 これにはソルドレイクも黙って入られない。

「俺だってマジでやった結果がこれなんだよっ! 知ったような口利くんじゃねェ!」

「挫折したくらいで諦めんのか貴様!? そのくらいで止めるなら、そのままでいろ!」

 俺は世界のリセットなんぞ許さん。
 
 力強く、そう言い放った。

「挫折が何回かあっただけで挫けるような奴に、夢が掴める筈がない! ましてや貴様のような奴が、ジョンみたいな奴になれるはずがないわっ!」

「ちっ、言ってくれるじゃねェか……っ!」

 その言葉をきっかけに、ソルドレイクの闘争本能にスイッチが入る。
 右腕はそのスイッチが入った途端に『人』としての姿を捨て、『異形』の白刃と化して行く。
 いや、異形というよりは一本の巨大な『骨』だった。

「俺の身体はどこからでも、んでもってどんな骨でも出せる! 今の俺の右腕そのものが、触れたらヤベぇ、一本の剣だと思えばいいぜェ」

「そうか、ならば俺はそれを砕いてみせる!」

 懐から部下の所有物だった拳銃を取り出すネルソン。
 話の流れからして、目の前の男がジョンと何らかの大きな繋がりがあったのは確かだ。彼もジョンも、まさか命を奪う側と奪われる側になる時がくるとは思ってもいなかっただろう。

(だが、今はこの男を倒さなきゃならん)

 疲労とダメージの関係上、無理に変身はできない。
 ならば、自慢の拳と融合した『ナックル』の底力と、この拳銃がネルソンの全てだ。

(ジョン、俺に力を貸してくれっ!)

 握り拳の作られた右手の中には拳銃が握られている。
 あのソルドレイク最高にして最悪の切れ味を誇る骨の刃を砕くのは、もうこれしか考え付かなかった。

「マトモにぶつからずに逃げれば利口なんだろうがなっ!」

 右の凶刃を振りかざしながらソルドレイクが突撃。
 振り回した際に発生した真空の刃が次々と室内の床や壁を切裂いていき、その驚異的威力をアピールする。

「生憎、俺はその利口な手を考え付かない『馬鹿』なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 だが、そんな驚異的威力を誇るソルドレイクの白刃に向けて突き出されたのは拳銃が握られただけの右拳。
 どうみても、勝ち目がないぶつかり合いだ。

 そのはずなのだ。

「な、何で……」

 そのはずなのに、『斬れなかった』。
 寧ろ、押されてさえいる。

「何でやられネエエエエエエエエエえええええええええええええっ!!!?」

 ソルドレイクの叫びに、ネルソンは口と拳の両方で答えた。
 
「答えは一つ、俺とジョンの信じる『正義』、いや、『気持ち』がお前の望む物に勝ったからだ!」

 押し返していく右拳に握られた拳銃が光を放つ。
 だがそれはどう見ても銃口から弾丸を発砲すると言う、銃を使用する際の自然な現象ではなかった。

「なんだ、この光――――?」

 疑問は一瞬だった。
 何故なら、放たれた眩いばかりの光に包まれた自分は、結末を悟ったからだ。

(ああ、俺ァ負けんのか)

 気付いた時には、ぶつかっていた自身の武器も光の前に消し飛んでいた。
 それならば、後は自分がこの光にぶっ飛ばされる番だ。

(ジョン、やっぱオメーすげェわ。腕っ節じゃない『強さ』を持ったお前の気持ちがよォ、あのパンチを通じて流れてくるんだぜェ。色々とあったけど、よ――――)




 ――――お前に会えて、よかったぜ――――








 
 真上から響く激しい轟音を聞き取ったエリックとマーティオは、そろそろ上の決着がつくのだという事を悟った。
 そしてソレは同時に、時間がないことを指していた。

「ソルドレイクが勝つにしろ警部が勝つにしろ、奴は必ず現れる。エリック、奴に勝てるのはオメーだけだ」

 何故か判るか、とマーティオは問う。
 しかしエリックとしては、判りきった答えではあった。

「ランスに、心臓貫通能力があるからだ」

「正確に言えば、核を貫くことが出来る。どんな奴でもそいつにぶち抜かれたら一発だ。だから、一発で仕留めろ。二度はないと思え」

「判った。…………すまん」

 最期を待つばかりのマーティオの事を思うと、どうしても謝ることしかできない。
 しかし、当の本人は笑って彼を見送ることを選んだ。

「頑張れ、相棒。コレが俺に出来る最後の応援だ」

「ああ、やって来る――――」

 最後の言葉を呟こうとした、その時だった。
 天井を突き破りながらも現れた紫電がエリックを無視して、直接マーティオの身体に叩き込まれたのだ。

「――――!?」

 それは、あまりにも突然すぎた。
 それ故に、エリックはただ呆然と、紫電の中に消えていく友の姿を見ることしか出来なかった。

「あ。あ――――」

 だが、最後に彼は見た。
 紫電の滝を身体中に受けつつも、彼ははっきりと右手を上げて、その親指を突き立てていたのを、だ。

「……ああ、判ってる。チャンスは一度、でないと今までやってきたことが無駄になるからな」

 言い終えた彼は、その場で天井を見上げる。
 紫電の滝を落し終えた『その存在』は、二階分のスペースを挟みながらも、確実にこちらを睨んでいた。

「戦う気のなくなった奴は要らない。次からは俺が直々に相手をしてやる……」

 そういうと、その存在――――バルギルドは両手に集まる紫電を集め、再びソレをこちら目掛けて叩き落した。

 しかし、その脅威の存在を眼にしてエリックが放った言葉は、

「よう、クソ野朗。色んな借りを返しに来たぜ」










 続く




次回予告


団長「最近思うんだが、俺たちの出番ないよな。折角サブキャラを『作りすぎた』って思うくらい作ったんだから、もうちょっとフルに活用してもいいと思わないか?」

マイタケ「思いますね、団長」

団長「そうだろう。最近はメインの連中がやたらと出張ってシリアス推し進めるんだよなー。……あ、やべ! そろそろ次回予告時間終わっちまう! まともに次回予告できねーぞこりゃ!」

アルイーター「団長、真面目にやってください!」

団長「いや、でもリーサルだからな」

キノコ「リーサルですからねー」

マイタケ「リーサルだもんな」

ドクキノコ「リーサルじゃあなぁ」

タケノコ「リーサルですもんねぇ」

アルイーター「それもそうか」

団長「次回、『昔話』。まあ、展開的にもバルギルドとの勝負しかねーだろ!」

(団長軍団一同)「ですよねー」

『あっはっはっはっはっは!』

Drピート「……駄目だこりゃ」






第四十六話へ


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