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紫色の月光

第四十七話「友達ができました」

第四十七話「友達が出来ました」




 走り出したら、彼らは止まることを知らなかった。
 四人は真下から次々と襲い掛かる影の槍をかわしつつも、バルギルドがいる地点――――タワーの脳天の破壊のためにひたすら走り続ける。

 その光景を見たバルギルドは思った。

(何故だ。何故当たらない?)

 真下から襲い掛かる影の包囲網は完璧だ。
 彼らが何処からどう動こうが攻撃を仕掛けられ、同時に何度でも攻撃を仕掛けることが出来るからだ。束縛する事だってできるはずなのだ。

 そのはずなのに、彼らは次々と襲い掛かる『ソレ』を避け、退けながらもこちらに向かって突撃してくるのだ。

(その力は果たして何処から来るのか……?)

 一度最上階に上るまでの間、エリック、狂夜、フェイト、ネルソンの四人はそれぞれダメージを負っている。特にネルソンはソルドレイク戦でのダメージがまだ身体の中に残っているはずだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 身体中を切りつけられたと言うのに、その張本人は雄叫びを上げつつ突撃してくる。
 更に信じられないことは他の三人よりも早くこちらに突進してきたことだ。

『ちっ、仕方がない』

 バルギルドは一度に複数の最終兵器を扱うことは出来ない。
 それ故に、他の最終兵器を扱う場合は発動させている最終兵器の起動をキャンセルする必要があるのだ。器用だが、不便な物である。
 だが、その分一つ一つの威力は強力だ。

『次のこいつをかわせるか!?』

 地に着いていた右手が振りかざされる。その巨大すぎる掌から溢れ出すのは、

「電気! バルギルドのヤロー、自分の手で始末をつける気だな!」

 溢れ出した紫電は一つの塊となり、弾丸として発射される。
 その真正面にいるのは、真っ先に突撃して行ったネルソンだった。

「警部!」

 エリックが思わず叫ぶ。
 しかし、ネルソンは避けようとしない。寧ろ、体当たりをする勢いで、そのまま紫電の塊の中へと突撃していったではないか。

「へええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん、しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいんっ!!」

「!?」

 しかし紫電に飲み込まれて行ったネルソンの姿は消えては行かなかった。
 寧ろ、ぶつかった紫電の塊の方がネルソンの咆哮で消し飛んだのである。

『何?』

 その事実に先ず目を疑ったのはバルギルドだった。
 手加減なんてしてない。本気で殺すつもりで放った電撃だ。それを気合でかき消したと言うのか。

「ぽりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいす、めえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええんっ、フアイナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアル!!」

『信じられん!』

 驚きと共に現れたのは金色のポリスマン。
 ネルソン・サンダーソン最強の姿にして、最後の力、ポリスマン・ファイナルの輝かしい姿である。

「おお、出たぜ警部の最強の姿!」

 思わずガッツポーズを取るのはやはり一度その姿を見たことがあるエリックである。
 嘗て、巨大な宇宙船ロボが放ってきたパンチを指一本で受け止めた反則的なまでの強さは、彼の目に今でも焼きついていたのだ。

「やっちまえ警部!」

「おお、任せろ!」

 力強く頷いた直後、金色の戦士は跳躍。
 一瞬にして塔の最上階、即ちタワーの頭部までその身を移動させる。距離は十分に拳が届く位置だ。これだけ近くに来れば迂闊に手で攻撃することは出来ないだろう。

「食らえ必殺、ネルソン・スペシャル・マッハ・パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンチっ!!」

「あんた技何個あるのー!?」

 下でエリックが突っ込みを入れるが、やはりネルソンは聞いちゃいなかった。
 しかしマッハというだけあってパンチの速度は速い。至近距離とは言え、確実に命中出来た。

『最後の晴れ姿、ご苦労様だな』

 しかしタワーは微動だにしない。
 拳が命中した場所には、破壊の痕跡どころかヒビだって入っていなかった。

「ぬ、――――!?」

 堅い、そう思った時には既に次の一撃がタワーに向かって放たれていた。
 自慢の拳を使ってのラッシュである。目には見えない速度で放たれる拳の雨嵐は、一点集中でタワーの外壁へと浴びせられる。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 しかし、ポリスマン渾身の猛ラッシュは、タワーの外壁に傷一つ付けることが出来ない。
 
「嘘だろオイ……」

 凹む気配すらない外壁を見て、エリックは思わずそう呟いていた。
 くどい様だがポリスマン・ファイナルはネルソン最強のフォームだ。今まで追われる側として、エリックはその姿が発動されたら『逃げること』しか考えないようにしていた。

 何故か。
 
 止められないからだ。
 例えレベル4の力で空を飛んでも、彼は追ってくる。
 例えどんな障害物を用意しても、彼は突破してくる。
 例え宇宙人が迫ってこようとも、彼は打ち砕いてくる。

 その拳で、だ。
 
 それほどまでに、エリックは彼の拳の威力を知っていたのだ。
 しかし、目の前に聳え立つ巨大な『タワー』は、そんな拳を受けてもびくともしない。

 止めれない筈の拳を、『止めている』のだ。

『痒い痒いぃっ!』

 バルギルドの声が響いたと同時、『ソレ』は襲来した。
 タワーの外壁を突き破って次々と出現する白刃。胴体、腕、頭部と見境なく現れた凶器の正体は、ソルドレイクのボーンである。

『そのまま突き刺してやる』

 そして、その骨の凶器に最も近い位置にいたのは、真っ先に突撃してきたネルソンだ。
 タワーの頭部から突き出された白刃が、そのまま彼目掛けて頭突きの形で振り下ろされる。

「何のぉ!」

 しかし、ネルソンはその白刃を空中に浮かびながらも『受け止める』。
 身体中から生えている骨を受け止めているのだから、一本でも受け止めれば、後はこちらが押し返せばいい。そうすればタワー全体を押し返せる。

 しかし、ネルソンは押し返そうとはしなかった。
 
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 彼のとった行動。
 それは骨を掴んで押して行くのではなく、逆に『引っ張る』ことだった。

『何、どういうつもりだ!?』

「なぁに、ちょいと力比べだ!」

 ぐいっ、と力強く掴んだ骨を引っ張るネルソン。
 ソレにつられ、タワー全体も自然に傾く形になってしまう。いや、手が地面に着いているので、『土下座』の形に近い。
 言うならば、ネルソンがボーンを引っ張って、タワーを無理矢理土下座させようとしている、そんな光景に見える。
 
「もしかして、ボーンを破壊しようとしているのか!?」

「はぁ!?」

 狂夜の発言に真っ先に信じられない、とでも言いそうな顔を向けてきたのはやはりエリックだった。
 そんな彼に対し、狂夜はそう思えた『理由』を話す。

「タワーは基本、塔そのものがバルギルドと同一化しているに等しい。攻撃方法も同じだし、体の各部から最終兵器を使うところから見ても、そう考えていいだろう」

 つまり、

「タワーから放たれた骨を破壊するという事は詰まり、バルギルドの体の中から骨を破壊することになるかもしれない、ということだ!」

「おお成る程!」

 しかし、ネルソンが行おうとしている行動は破壊すると言うよりは寧ろ『引き摺り下ろそう』としていると言ったほうが正しい。
 タワーその物の足場はこの浮遊大陸全体だ。それ故、タワーがそのまま地面から飛び出るようなことはない。
 ならば、タワーは固定されていると思っていい。
 固定されているのなら、今掴んでいる骨を『体』から引き摺り下ろすのは簡単なはずだ。

『馬鹿な! そんな事が、出来ると言うのか……!』

 状況を理解し始めたバルギルドが、両手に力をこめながらネルソンを睨む。
 今は黄金のマスクで顔は隠れているが、その奥にある中年のオッサンが、不愉快な笑みを浮かべているような気がした。
 考えただけで腹立たしい。

『ちぃ、わざわざ力比べに付き合ってやる必要はない!』

 体から『何か』が引き摺り下ろされようとしている不快感と戦いながらも、バルギルドは反撃に移る。
 攻撃方法はズバリ、タワーから突き出ている骨。ここから流れ出る『血』だ。

『消え失せろ!』

 今、正に血を飛ばしてネルソンを仕留めようとした、その時だった。
 
『!?』

 不意に、真下から殴られたかのような衝撃が身体全体に襲い掛かって来た。
 何の前触れもない、突然の出来事である。

(何!?)

 今のバルギルドはタワーの内部にいる。
 故に、彼にダメージを与える方法はタワーにダメージを与えるしかないのだ。

(誰だ!? どいつの仕業だ!?)

 しかし消去法で行けばこれほど簡単な答えはない。何と言っても、敵の数はたったの四人にまで減っているのだから。
 先ず、ネルソンは目の前で骨を引き出す作業に集中しているため、除外。
 エリックと狂夜も、距離で言えばまだ遠い。そもそもにして、彼らの最終兵器は遠距離からの視覚外攻撃は不可能なはずだ。ランスの核貫通能力は別物だが、その気配は無い。

 それならば、残るのはただ一人。

『フェイト・ラザーフォース!』

「ああ、もっとグレイトに呼びたまえ」

 名前を呼ばれた張本人は、構えている銃口を真上に向けると同時、引き金を引く。
 次の瞬間。

『!?』

 再び真下から殴られたかのような衝撃が身体に襲い掛かってくる。
 タワーの外壁には何の損傷も見られない。それならば、彼女が自分に仕掛けた攻撃方法は一つ。

(あの女、タワーの外壁越しに『重力の弾丸』をぶちかましてきやがった!)

 最も、外壁越しであるが故に威力は通常の重力の弾丸に比べて減っている。
 だが、最上階にいる『ターゲット』の気を逸らすにはそれだけで十分だ。

『ぐっ!?』

 集中力が途切れ途切れにされてしまった為、骨を維持し続けることが容易ではなくなってしまった。
 ネルソンの骨を引き出そうとする力は半端ではなく、タワーから骨が引き摺り下ろされようとしている。同時に、『バルギルド本人の身体の中から、ソルドレイクが引き摺り下ろされようとしている』のだ。

「く、後もう少し……!」

 手ごたえを感じている為か、ネルソンの引っ張る腕に更に力が篭る。
 だが、このまま黙って骨を抜き取られる気は、バルギルドには一切なかった。

『そうはいかん! 貴様等全員纏めて木っ端微塵にしてやる!』

「おおっと、その前に自分の心配しな!」

 全てを終結させる一撃を放とうとしたその瞬間、耳障りな声が響いた。
 『きっかけ』を作った男、エリックである。

「俺はキッカケを作った男として、責任があるんだ! だからキッチリ責任をつけるためにも、お前は倒させてもらうぜ!」

 手に持っているのは最終兵器ランス。核貫通の能力を持つ一撃必殺の最終兵器だ。
 父ドレッドも、この一撃がキッカケで封印された。

「お前が無理矢理起動させたこのランスで、ぶち抜いてやるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 当然、エリックが放とうとする一撃は核貫通能力を使った一撃必殺技だ。
 狙いは一つ、最も『バルギルド』に近い最終兵器、『目』の核である。

『馬鹿め、誰がその核貫通能力を目覚めさせたと思っている!?』

「!?」

 そうだ。
 イシュのボス、ウォルゲムを倒し、友であるカノンの犠牲で覚醒したこの能力。
 そもそもにして、その能力を目覚めさせたのはこのバルギルドだ。

『何の対策も立ててないと思うのか? そいつを目覚めさせておいて!』







 狙いは出来るだけ最終兵器所持者を潰すことにあった。
 最終兵器の数は十。流石のバルギルドもそれだけの数が揃えば、敗北は確実に訪れると判断したのだ。
 
 その中で特に潰しておきたい最終兵器は二つ。
 いかなる攻撃をも防ぐウォルゲムの最終兵器、アーマー。
 いかなる防御をも貫くエリックの最終兵器、ランスの二つである。

 本音を言えば二つとも消してしまいたかったが、表立ってこの二つを相手にすると、不完全なままの自分では倒せない。
 故に、どちらか一つを消す、という選択に至ったのである。

『しかし今の俺はランスなぞ恐れない! 何故なら!』

 ランスが突き出される方向。
 其処をシャットダウンするかのようにして、漆黒の壁が出現した。

「ウイング!? 背中の翼がタワーの頭を覆いやがった!」

 まるでコートを着ているかのような光景だったが、そんな事はどうでもいい。
 エリックにとって重要なのは、『バルギルドを貫くこと』なのだから。

「ならば翼ごとぶち抜いてやるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 矛先が漆黒の壁に接触する。
 
「!」

 だが、ランスは目の前の『壁』を貫けない。
 最終兵器の中でも屈指の防御能力を誇るアーマーすら貫いた矛先でも、漆黒の壁は矛先の侵入を完璧に防いでしまっているのだ。

『これが対ランス用の対策だ。お前に全てを託して逝ったマーティオは、同時にお前の運命をも決定付けてしまったようだな!』

「何を……!」

 エリックは多くを語ろうとはしなかった。
 言いたいことはある。
 だが、此処で引き下がる事だけは出来ない。もし此処で引き下がったら、それこそマーティオに申し訳ないからだ。
 
「う、おお―――――――――っ!」

 空間すら越えて相手の核を貫通する最終兵器ランス。
 ウイングがソレをシャットアウトすると言うのなら、

「それなら、ウイングをぶち抜くしかねぇだろうがよぉっ!」

 シャットダウンするなら、力で無理矢理貫くのみ。
 そう思って、更に力をこめるエリック。

『無駄だ。ウイングのガードはその程度では――――っあ!?』

 ウイングで押し返してやろうと思った、その時だった。
 身体の中から本格的に骨が飛び出そうな勢いで暴れ始める。無理矢理肉を引きちぎって外に飛び出そうとするのは流石に苦痛でしかなく、バルギルドの身体全体に痛みと言う名の電気ショックが駆け巡る。

「この俺がいるのを忘れるな!」

 見れば、狂夜の加勢を得て、更に引っ張り続け始めたネルソンがいる。横で同じく引っ張っている狂夜なんか、こちらに向かって中指を突き上げている。

「いいか、真の主人公は俺だ! あ、せーのっ!」

 言いたい事を言って、再び骨を引き出す作業に戻るネルソン。
 色々と言いたい事があるバルギルドだが、この痛みが易々とそれを許してはくれない。しかも、今は頭部の方に目を狙うエリックがいる。

「何を警部! 主人公はこのエリック様こと、怪盗シェルだ! 俺がいなかったらお話成り立たないんだぞ!」

「何を言う! そんなモンやってみないと判らん!」

「いーやっ、絶対成り立たん!」

「ならば次回から新作品だ! いいか、PC画面前の諸君、次回から最終兵器リーサルウェポンに代わって『超警官ポリスマン』が連載されるぞ! 楽しみに待ってろ!」

「勝手に連載予告すんな! いいか、主人公はだな――――」

『お前等、人の周りでギャースカと騒ぐんじゃなあああああああああああああああああああああああああああああい!!』

 今だ嘗て、コレほどまでにコケにされた強敵もそうはいないだろう。
 だが、この叫び。
 このタイミング、絶妙な隙を、四人は逃さなかった。

「今だ!」

 フェイトの合図が上がったと同時、三人は一斉に動き出した。
 
 ネルソンと狂夜は、力が抜けたこの瞬間を狙って一気にタワーから骨を引き摺り下ろす!
 
『おぐ!?』

 この事実は正にバルギルドから骨を引き摺り下ろした事に変わりない。
 タワーの外壁にダメージを与えられなかったとは言え、中身にダメージを与えることに成功した。これだけでもかなり有利になれる。
 
 そして、この瞬間。
 骨を抜き取られたバルギルドは怯んでしまった。

 このタイミングを、エリックは見逃さない。

「うおりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 槍の衝撃を押し返そうとする黒の外壁。
 漆黒の翼、ウイング。今はもう帰ってこないであろう、大親友。
 消えていくその姿を思い出しながらも、エリックは腹の底から声を出して、友に謝った。

「すまん、ぶち抜かせてもらうぞ!」

 叫んだと同時、漆黒の壁にひびが入る。
 ひびが入った箇所はほんの数十センチもの小さい位置だ。
 しかし、それだけあれば貫ける。

「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

 ひびが入った箇所が、音も無く崩れ去る。
 漆黒の外壁に開いた僅かな『穴』。ここがエリックの攻撃場所だ。

『お……!?』

 バルギルドは骨を抜き取られた痛みと、羽に穴を空けられた痛み。この二重の痛みの前に苦しんでいる。
 この絶対的なチャンスを逃す訳には行かない!

 主の願いに反応し、ランスの矛先は真っ直ぐ『狙い』を貫くべく突撃する。
 その狙いはズバリ、

「五朗の『目』だ!」

 直後、柄のリーチを無視した空間を越えた一撃がタワーの目玉に命中する。
 
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 響き渡るバルギルドの断末魔。
 今のタワーはバルギルドその物だ。故に、タワーの目を貫かれると言う事実は、彼の目玉を貫かれることを意味しているのである。
 だが、それでもエリックの怒りは収まる事を知らなかった。

「次ぃ、ルージュの影!」

 大陸に着地した後のエリックの行動は迅速だった。
 ランスを地に構え、そのままタワーの『影で覆われている大陸』に矛先を刺し込む。
 直後、大陸全体を覆っていたタワーの巨大すぎる影が、

「消えた……!」

 ソレは詰まり、一気にタワーの最終兵器を三つ潰したことを意味していた。

 だがまだ足りない。
 バルギルド本体を貫くには後二つ、血と翼の核を破壊しなければならない。
 一つ一つ潰していかなければ、本体の核をランスが見つけられないからだ。

(だが、今の奴は手足を無くしたも同然! このまま決着を着けてやるぜ!)

 影を破壊した次のターゲットは血だ。
 そう思い、再びタワーに向かうエリックだが、

『調子に乗るなよ』

 バルギルドの言葉を聞いて、思わず戦慄してしまった。
 その言葉から伝わる圧倒的プレッシャーは、以前ニューヨークでカイトが感じたものと全く同じだった。
 強者が弱者を睨みつける様。純粋な弱肉強食の有様。
 頭が理解する前に、本能が叫んでいた。

 奴に近づくな、と。

 そしてソレは、狂夜とフェイト、そしてネルソンも同じだった。

(ば、馬鹿な……! 有利なのは我等の方のはずだ!)

 思わず歯を食いしばる狂夜。
 しかしバルギルドの駆るタワーは、骨を引き摺り下ろされ、影を失い、目玉を貫かれても未だに起動していると言う事実は変わらない。

(奴はまだグレイトに動ける……だが、攻撃手段は大きく削られたはずだ!)

 厄介な影攻撃、未来予測、骨での攻撃はもう来ない。
 元々バルギルドが器用で、実は不器用だと言う弱点が招いた結果ではあるのだが。
 だが、同時にフェイトは思う。

(しかし、まだ何か隠された力があるのでは……!?)

 考えた時には、タワーは既に行動に入っていた。
 動き出した両手には巨大な紫電のエネルギーが集っていき、徐々に一つの『光球』を形成していく。

「いや、球なんてレベルじゃねーぞ……!」

 タワーの両手から形成されていく紫電の球は、どんどんその大きさを増していっていた。最初は数メートル程度の物が、10メートル、100メートル、1000メートルと、目に見えて巨大になっていくのだ。

『最終兵器ごと木っ端微塵にしてやる!』

 タワーの両手が振りかざされる。
 それはずばり、あの巨大な『エネルギー体』による攻撃が行われるのだと言う合図だった。

「やばい、逃げろ―――」

『もう遅い! 消えてしまえ!』

 その瞬間。
 
 彼らの世界が、紫電の色に染まった。














「くっくっく…………やった、とうとうやったぞ!」

 タワー内で身体を支えつつも、バルギルドは笑みをこぼしていた。
 タワーの出力を借りての、セル最大の一撃。所謂一つの『最大攻撃』だ。

「例え奴等がしぶとくとも、全てを消し飛ばすタワーのエネルギーの余波を受けては死、あるのみ。最終兵器ごと木っ端微塵になったか」

 と、なれば後の標的は地球の警察署に管理されているであろうイシュの最終兵器だ。
 だが、こちらは今や持ち主もいない抜け殻の兵器。破壊するのは容易い。

「俺の勝ちだ!」

 思わず勝利を確信したバルギルド。
 だが、ここで彼は気付いた。

「…………?」

 何故、この大陸は無事なのか?
 
 タワーの足場を支える浮遊大陸は確かに強固な造りになっている。
 だが、それでもタワーの一撃を完全に防ぎきるほどではない。何処かに大きな穴が空いていてもいいはずだ。

(そして、そのまま余波が地球全体を覆ってもタワーのエネルギーなら全く不思議ではない……どういうことだ……!?)

 そこで彼は一つの可能性に気付いた。
 この大陸自体が無傷。そして余波が地球全体を覆っていないという事は、

「生きている――――!?」

 言葉の通りだった。
 無傷ではないとは言え、エリック、狂夜、フェイト、ネルソンの四人は揃って生きている。しかも、起き上がれないほどのダメージではないらしく、再びこちらへ戦意の眼差しを送ってくる。

「何故だ!? 至近距離のはずだ! 何故奴等が死なない!? 何故俺の最終兵器の出力が大幅にダウンした!?」

 疑問は止まることなく沸きあがってくる。
 三つものアナザー・リーサルウェポンを手放すことになったからか?
 いや、それでもテスト起動時にはタワーは正常に動いている。そもそもにして、先に先制攻撃を仕掛けたではないか。
 それなのに、『今、動かない』というのはどう考えてもおかしい。

「!?」

 潰された目。
 それでも微かに前の状況が見えるのは自身の最終兵器が再生能力を持っているお陰だろう。
 だが、その目は信じられない『モノ』を見ていた。

 自分の右手が勝手に動いている。
 身体の支配者である自分の意思とは別に、勝手に動いて、指に付着している血で何かを書き始めている右手。
 そこには、メッセージが記されていた。










『貴様の勝手にはさせない。貴様はこの俺様が必ず、コロシテヤル
              
            まーてぃお・せかんど・べるせりおん』












「マーティオ――――――っ!?」

 メッセージの内容を理解した時には、既に右手は続きの文字を書き始めていた。

『YES』

「馬鹿な! 貴様等全員、俺が取り込んだはずだ! 何で今更出しゃばって来れる!?」

『ランスの一撃でウイングに穴が空いたからだ。衝撃で貴様の体内で目覚めた俺様は、見えないながらも状況を必死に考えた』

 するとどうだろう。
 自分と同じく取り込まれているはずのソルドレイク、ルージュ、五朗の三人が見えないではないか。サイバットがいるというのに、これは不自然すぎる。

『ここで俺はこう考えた。何らかの形で三人を失った貴様は、大技でエリックたちを仕留めにかかる、と』

「だが、それでも貴様が俺の右腕を乗っ取っている方法がわからん! 精々動けるのはウイングの部分のみのはずだ!」

『俺もそう思った。だが、幸いなことにこっちにはまだサイバットが残っていた。体内に流れる血液として残っているその能力を内側から使わせてもらえば、案外上手く行くもんだ』

 では、血液を通して自分を拘束したと言うのか?
 右腕だけではなく、身体全体がいう事を聞かなくなっているこの状況。
 全て内側から、サイバットを通してマーティオが仕掛けた『攻撃』だと言うのか?
 今、自分をコントロール出来ないという事は、

『そう、格好の的って奴だ』

 文字を見た時、バルギルドの頭の中にはマーティオの勝ち誇った顔が見えた気がした。
 ソレを想像しただけで、腹立たしい。

「き、さま……! 貴様なんかに……、邪神のパーツ如きの貴様なんかに……!」

『諦めな。貴様も邪神のパーツだ。一つ一つの部品だけでは何かが作れないように、俺達チルドレンも、一つ一つの『魂』がバラバラでは邪神にはなれない』

 貴様は、邪神になれない。

 血文字で書かれたその赤い字を見た瞬間、バルギルドの中で何かが弾けた。
 
「俺が、なれない?」

『そうだ。貴様は所詮は邪神のなり損ない。一つ一つの部品も満足に扱うことの出来ない、ただの不良品だ』

 違う、自分は完全だ。
 そう言おうとしたのを察せられたのか、マーティオの『メッセージ』は続く。

『違う。この世は誰も完全じゃない。何時だって思うとおりにならないし、望んだことじゃない事態になってしまう』

 俺達は皆、不良品だ。

 乱暴に殴りかかれた文字は、バリギルドの目には入っても『頭には入っていない』。
 納得できなかったからだ。

「貴様だ! 元はといえば、貴様が狂い始めたのがいけないんだ! 貴様が正常であれば、四階の時点でランスどもは消せたはずだ!」

『YES、しかしNOとも言わせて貰う。何故ならば、そんな物はただの可能性だからだ。現実は目の前にある』

 彼らに迫る現実。
 ソレはずばり、ランスの矛先を構えるエリックの姿である。









 タワーの動きが停止した時点で、バルギルドに何かあったのだろうとは思う。
 しかし、情けはしない。
 寧ろ、いい気味だと思う。

「頼むぞ、エリック。これで終わりにするんだ」

「おうよ」

 仲間の視線を浴びつつも、エリックは矛先をタワーに向けて構える。
 悔しいが、バルギルドに確実ともいえる致命傷を与えることが出来るのはエリックとその最終兵器、ランスだけだ。
 狂夜、フェイト、ネルソンではタワー中心部にいるバルギルドに相当な攻撃が届かないからだ。

 だからこそ、彼らの分まできっちりと『貫かねばならない』。

「行くぜ」

 今、正に矛先を突き出そうとしたその時だった。

「!」

 タワーの背中に生える、邪神の翼。
 槍に貫かれ、ボロボロになっているその翼の肉が浮き出て、どこか文字になったかのように見えた。

『ありがとう』

 最初の一突きで邪神の血しぶきが貫かれ、
 二突き目で文字が浮かんだ翼が消し飛んでいく。

「くっ…………!」

 最後の、止めの一撃。
 その一撃は二突き目からすぐに出された物で、最早守るものが何も無いバルギルドを貫くことなど容易かった。

 その証拠に、

「タワーにどでかい穴が空きやがった……!」

 直後、タワーの巨大な姿が音も無く光の粉となって霧散する。
 後に残ったのは、ただ彼らの足場となってこの場を浮遊する大陸だけであった。

「…………あっけねぇな」

 それがエリックの放つ第一声だった。
 
 だが、その気持ちは誰もが一緒だった。
 終わりにしては、あまりにも呆気なさ過ぎる。生き残った彼らからしてみれば尚の事だ。

 雪月花・ネオン。
 ジョン・ハイマン。
 そしてマーティオ・S・ベルセリオン。

 彼らの犠牲は、生き残った者達にはとても大きすぎる虚無感を与えてしまった。
 
「…………別に何かが欲しくて戦ってた訳じゃない。けどさ」

 失うために戦った訳でもないのだ。
 だが、一番失いたくないものを失ってしまった。

「…………エリック、何か思うことがあるとはグレイトにあると思う。だが、我々にはまだやることがグレイトに残っているぞ」

「……判ってるよ。あいつも、そういってたし」

 そう、まだエルウィーラー人とのいざこざが残っている。
 まだ彼らに安息は許されないのだ。
 『彼』が安心して眠れるようになるまで、ソレは続くのだから。









 はて、ここは何処だろう。
 そして自分は何をしていたのだろうか。

 見渡すと、一面真っ白な世界。
 上を見れば白だけが存在し、横を見れば白が存在する。
 下を見ても、後ろを振り向いてもそこにあるのは真っ白な世界のみ。

 何も無い、純白の世界。

 気付けば、自分だけがそこにいた。
 他に誰もいなければ、何も無い。

「……?」

 海のような青の瞳を光らせながら、青年は立ち上がる。
 しかし周囲にあるのは『白』のみ。目的もなければ、何も見えない。

「…………!」

 だが、その白の世界の中、一つだけ違う『色』があった。
 色は青年の視界に入った瞬間、一瞬にして白の世界を覆い、違う『世界』を形成し始める。

「これは……」

 どこかで見た気がする光景。
 どこかで見た気がする風景。

 そうだ、思い出した。
 ここは少年の頃、自分が暮らしていた小屋だ。

「!」

 そして目の前にいるのは、机の上で何かを一生懸命になって書いている少年の姿。
 ぼんやりとだが、その少年の姿は何処と無く自分と似て見えた。

『……今日の日記書けっつわれても、何書けばいんだろーなー』

 少年のクセにして妙に生意気な言葉遣いだな、と青年は思う。
 だが、当の少年はこの見知らぬ来訪者の存在に気付いていないようだ。

(気付いてないならそれはそれでいいか。何書くのかなっと?)

 真上から少年の四苦八苦しながら書かれた日記を見る。
 すると、そこにはこう書かれていた。



『きょう、オレにはじめてのともだちができた』



「?」

 日記のタイトルに書かれていた文字は汚かった。これ以上ないってくらいに汚かった。
 だが、そのタイトルに何の魅力を感じたのか、青年は続きを書き始める少年の姿を見守りづづける。

『せんぱいやセンセーはオレにいつもいってた。マーティオはともだちがいない。はやくともだちができればいいね、って。オレはなんのことだかよくわからなかったけど、きょう、あたらしくやってきたエリックといっしょにどうくつのなかにはいって、なんとなくわかったきがする』

 その続きを少年が書き始めると同時、青年は思わず呟いていた。

 友達って言うのは、一緒にいて楽しい人の事を言うのだ。
 一緒にいて心地よいと思える人の事を言うのだ。
 一緒にいてよかったと思える人の事を言うのだ。
 一緒にいて嬉しく思える人の事を言うのだ。
 
 一緒にして、本気で笑ってられる人の事を言うのだ。


 何故だか判らないけど、この日。
 俺はエリックと一緒にいて、初めて心の底から笑った。
 

 この二十年生きてきて、色んなことがあった。
 思わず踊ってしまうほどの嬉しいことがあり、泣叫んでしまうほどの悲しいことがあり、殺してしまいたいと思うほど憎らしい奴とも出会った。



 しかし、これだけは言える。




『オレは、このさきなにがあってもエリックとともだちでいられたらいいな、とおもった。    なんかはずかしいから、おわり! きょうのにっきたんとー、マーティオ・えす・ベルセリオン』

 気付けば、日記を書き終えた少年がこちらを見上げていた。
 自分と同じ青の長髪、青の瞳、刃のような鋭い目つき。本気で睨んだら、本能を剥き出しにした獣と同じ状態になるだろう。

 しかし、少年はそんな『怖い印象』を微塵にも感じさせない笑顔で、青年に問いかけた。

『どう? 日記の内容、どうなった?』

 問いかけに対し、青年は思わず口元に笑みを浮かべる。
 そして少年に対し、こう返答した。

「ああ。あいつに会えて、よかった」


 ショータローに拾われてよかった。


 先輩に会えてよかった。


 キョーヤと会えてよかった。


 Drピートに出会えてよかった。


 ヘルガと出会えてよかった。


 ネオンと会えてよかった。


 サイズに持ち主になれてよかった。


 『彼』の誘いに乗って、よかった。


 エリック・サーファイスに出会えて、本当によかった。


「俺は所詮は壊れた翼……壊れた翼は飛ぶことを知らない」

 けど、彼らがいたというその事実で、自分は飛べる。
 何処までも、力強く。

「俺の世界と関わった全ての皆――――――ありがとう」

 言い終えたその瞬間。

 青年の世界は、闇の中に消えた。
 青年の全てが暗転する。

 しかし青年は恐怖を感じなかった。
 満足感を得た今の自分に、怖がるものなど何も無かったのだ。

「ああ、でも少しだけ寂しいか? 一人だけ先に行っちまうからなー」









「警部、あんたはどうするんだ?」

 問いかけられた本人は、少々考えてから答える。

「……警察も辞めた以上、俺は働き口が無いしなぁ」

『ええ!? あんた警察辞めたのぉ!?』

 初めて知った驚愕の事実に驚きを隠せない三人。
 だとすれば、彼にはもう三人を追う口実は無いのだが、

「だが、俺は行かん。ちょいと約束があるからな」

 彼には既に先約がある。
 家族が待つ家に帰るという、大事な約束が待っているのだ。

「それに、ちょいとコイツの事も考えてやらんといかんしな」

 そういうと、彼はある箇所を指差す。
 そこにあるのは、タワーから引き抜かれた骨。
 この戦いで生き残った者の一人、ソルドレイクだ。

「ソルドレイク……生きていたのか」

 流石に過去に殺されかけた恨みがあるからか、狂夜の目つきに油断は無い。

「ああ。だが、奴はもう何もできまい……もう、そんな力も残ってないだろ」

「ちゅー事は警部とはここでお別れか……なぁんか寂しくなるなぁ」

 今にして思えば、ネルソンとも色々とあった。
 時には恐ろしい敵、時には頼りになる味方になることもあった。

 だが、振り返ってみるとそれも今ではいい思い出だ。

「貴様等、確か宇宙人のトコに行くんだったな……吉報を期待させてもらうぞ」

「まぁかせとけっての!」

 そう言うと、エリックは笑顔で宿敵と握手をした。

 何故だろう。
 この行為だけで、終わったのだ、と実感できてしまう。
 今の自分は疲れているのだろうか。

「なんつーか、その……もうアンタに追いかけられる事が無いと思うと、ちょっと寂しいな」

「ふん、勘違いするなよ。貴様が怪盗である以上、捕まえるのは例え警官でなくともこの俺の使命だ」

「えええええええええええええええええええええ!!!? まだ続けるのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」

 さっきの俺の感動を返せ、と叫びながらもその場で何時ものムードになりかけるエリックとネルソン。

 だが、その時だった。

『あー、聞こえるかそこな諸君!?』

 何処からか、妙にノイズが入り混じった大声が響いてきた。
 何事かと思い周囲に視線を移動させていくと、

「ヘリコプター?」

 そこには自分達をこの島まで送り届けたのと同じデザインのヘリコプターが存在した。他に何もない事から、声の発信源はこのヘリなのだと確信できる。

『怪盗シェル。先ほどの戦闘、見せてもらった。君はその槍で、遠距離からでも相手を串刺しに出来るようだな……どんな理論かは知らないが、一人の警官としては非常に見過ごせない力だ』

 そこで、と声は続く。

『この俺自らが、貴様を逮捕してくれるわ!』

 ソレと同時に、ヘリの扉が勢いよく開かれる。
 遠くなので詳しくは判らないが、見たところ男性だ。
 若くは無い。寧ろ、年は自分達は愚かネルソンよりも上だろう。
 
 そんな事を思っていると、横にいるそのネルソンが口を開く。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! オヤジいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!? 警部の親父いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!?』

 ヘリコプターから身を乗り出し、こちらを笑いながら睨む男の名はパイロ・サンダーソン。
 ネルソン・サンダーソンの実の父親である。






次回予告

エリック「……長かったなぁ」

マーティオ「ああ、長かった」

ネルソン「長かったぜ……!」

エリック「リーサル書き続けて早2年と半年……とうとう終わりが来るんだなぁ」

マーティオ「ふん、俺は一足先に退場だ。後は頑張れよ」

エリック「おうよ、任せとけ! 警部の親父が何だろうが、もう俺は止まらないぞ!」

ネルソン「次回、『追いかけっこ!』 遂に最終回だ! 見ないと、逮捕するのだー!」






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