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紫色の月光

恐怖の最強コンビ  後編

 後編


 カイト・シンヨウとマーティオ・S・ベルセリオン。

 共に19歳で、犯罪者の経歴があるこの二人は今回が初対面だ。


 カイトは6歳の時に初めて人を殺し、それ以来人を殺すのが特技となりつつあり、マーティオは泥棒であり、そして人をかなり殺めている。

 人を幼い時に殺した、と言う共通点がある二人はそのまま裏世界から抜け出せずに未だに殺しの道を歩んでいる。

 そういう意味では二人は同類だ。

 しかし二人は別にそんな人生を後悔している訳ではない。

 お互いに信頼できる仲間がおり、そして彼等二人もお互いに信頼できるからだ。それだけで十分なのだ。

 『孤独じゃない』と言う安心感が今の二人を持たせてると言っても過言ではない。そうでなければ今頃二人とも、今頃は更に凶悪で手がつけられない超凶悪殺人鬼となっていただろう。


 これはそんなカイト・シンヨウとマーティオ・S・ベルセリオンの二人の小さな歴史の1ページ。





「やはり最低でも…………『恐怖の貧乏神地獄』は体験してもらわないと俺の気が済まんな。ああいう金持ちタイプは」

「何だ、その某電鉄にでも出てきそうな単語は」

 カイトは聞き慣れない言葉を言うマーティオに疑問を送る。

「何、そのまんまだ。貧乏になってもらうのだ、残りの人生永遠に、な」

「しかしあの店長が捕まったらそれこそ貧乏生活と言うか務所生活は免れないぞ。何と言ってもあの麻薬量だからな」

 それを聞いたマーティオはたちまち難しい顔つきになった。普段の無表情の彼しか見た事が無い者にはかなり新鮮な光景だろう。しかしカイトは今回の一件でかなり表情豊なマーティオを見ているのでその新鮮さがどれほどの物か分からなかった。

「むぅ、いかんな。これではあの店長への楽しみにしていた『無限地獄の刑』を実行できないではないか」

「流石にそろそろネタ切れになってきたんだろうな。まあ、今まで出てきたもの全部やればOKだろう」

「うむ、流石にそれだけやればあの店長もこの俺様たちの恐ろしさが実感できると言う物だ」

 二人はやけに満足そうな笑みを浮かべると、そのまま握手を交わした。恐ろしい友情である。世界中探してもここまで物騒な友情はこの二人しかないだろう。しかも、何度も言うようだがこの二人は本気なんだから救われない。

『コラコラ! ちょっと待ちなさい、何を勝手に恐ろしい計画を立てているんですか!』

 すると、外から待ったをかける声が聞こえてきた。それは聞き間違える事が無い店長の声である。

「……………あ、何だか自分から出てきたみたいだぞ」

「激しく馬鹿だな。我々の恐ろしさを未だにわかっていないと見る」

 二人は窓から待ったをかけた声の主を見る。それは全長20m近くの機動兵器だ。全身青の塗装を施され、真紅のカメラアイが怪しく光る。外部スピーカーからはパイロットの店長が声が聞こえてきている。

 その機体の名前を二人は良く知っている。

 『ジェノー』と呼ばれる大型兵器だ。これは製造元の企業から店長が購入した物である。宝石店を営みながら麻薬まで売りさばいている店長だ。こういうのを持っていてもなんら不思議ではないのだが……流石に街中で出すのはどうかと思う。

 それだけ追い詰められてしまったと言う事なのだろう。

 ジェノーは両腕に装備されているガトリング砲、頭部の機関砲、肩に装備されている大型キャノン砲と、見事なまでに中・遠距離型なのだが、今の二人は生身だ。

 店長は頭部の機関砲を使おう、と思った。

 頭部の機関砲だけでも十分に始末できると思ったのだろう。事実、いくらこの二人が反則的強さを誇っているとはいえ、機関砲なんて喰らったら無事ではすまない。

 しかし、それはあくまで「喰らったら」の話である。

「ククク………そんなデカブツ持って来たってハイテンションな我々には敵わん」

 マーティオが不敵な笑みを浮かべると同時、カイトも余裕たっぷりな表情を浮かべる。

「その通り、格の違いをきちんと教えてやる必要がありそうだ」

 二人が笑みを浮かべているのが気に入らないのか、コクピット内の店長はかなり不機嫌だった。

 彼女はレバーを操作をしつつ、頭部の機関砲を39階に向ける。

『覚悟しなさい!』

 店長が叫ぶと同時、ジェノーの頭部の機関砲が咆哮を上げた。

 機関砲の豪雨が吹き荒れる中、カイトとマーティオは「愚かだな」と口をそろえていった。

「あの程度で俺達を殺せるとでも思っているらしい」

「実に愚かだ。では……?」

「お仕置きの時間と行きますか」

 二人はコクリと頷くと、散開する。


 二人が先ほどまでいた位置には機関砲の嵐が吹き荒れ、床や壁を砕いていく。少しでも離れるのが遅れていたら二人とも蜂の巣だっただろう。

『ふう……ふぅ……ふぅ……ど、どうなった!』

 店長は半狂乱になって機関砲をぶっ放していた為、39階にいるはずの二人の姿は確認していない。しかし見れば35階から上は完全にぶっ飛んでいた。これなら幾らなんでも生身である二人は死んでいるはず。

『はぁ……はぁ……はぁ……や、やった……』

 しかしそこで二人を葬ったと思っていた店長は思い出した。37階からは大量の麻薬が有るのだ。それまでぶっ飛ばしてしまったのだからかなりの大打撃だ。

「やっほー」

 そこに、追い討ちをかけるように店長のモニタから一人の男が姿を現す。それは23階からこちらを見下ろしているカイトだ。

『なっ……!』

 生きていたのか、とまで喉にでかかった瞬間、それは吐き出される事は無かった。

 カイトは黒の手袋を外しており、地肌の右手の掌を店長のジェノーに向けている。その右掌から凄まじい紫電が溢れ出し、一本の雷の矢となって放たれた。

 その先にある物はジェノーの肩のキャノン砲だ。


『――――――え?』

 その信じられない光景を前にして店長は何も出来なかった。

 強いて言うなら、ただ雷の矢がキャノン砲の銃口に真っ直ぐ侵入していくのを見ているだけである。

 次の瞬間、キャノン砲が内部から爆発を起こした。




 カイトは右手に再び黒の手袋を装着したと同時、キャノン砲の爆発を見届けていた。その爆発の威力に押されて倒れそうになるジェノーだったが、何とか踏みとどまる。

「あ、倒れなかった。惜しい」

 そこでさり気無く楽しんでるこの男の神経が良く分からない。

「まあ、いいや。次は両腕だな」

 カイトが呟くように言ったと同時、上の階から青の影が飛び出した。満月の光を背にジェノーに飛び掛るのは大鎌を持ったマーティオである。

 彼は空中で思いっきり大鎌を振りかざす。

「断つ……!」

 縦に振り下ろされる一撃は巨大な衝撃波となってジェノーの右腕に襲い掛かる。その衝撃は右肩をざっくりとキレイに切り裂き、今までジェノーの右腕が無かったかのような自然さを現していた。

『な、――――ば、化物か!?』

 その化物――――マーティオは静かに切り落とした右腕を踏み台にして一気に跳躍する。到着地点はジェノーの残された右肩である。

『く、くそ! 早く撃ち落して……!』

 流石に首の横に居るのだから、機関砲では攻撃できない。と、なれば残されたのは左手に装備しているガトリング砲だ。

 しかしその左手を操作しようとした瞬間、店長は悪魔でも見たかのような驚きと恐怖の入り混じった表情になる。何故なら、その左手には、何時の間にか両手に刀を持ったカイトがいるからだ。

 カイトはそのまま威圧感たっぷりな目つきでジェノーを睨みつけると、ジェノーの左手を疾走した。

 一気に左肩にまで走っていくそのスピードはまさに雷と呼ぶのに相応しい。疾走する中、彼は右手の真紅の刀身と左手の銀の刀身を次々と交差させながら叫んでいた。

「切る! 斬る! KILL!!」

 ゴール地点である左肩にカイトが辿り付く。店長は左手を操作して彼を地に落とそうとするが、それが出来ない。

 何故なら、その左腕が突然崩れ落ちていったからだ。そしてそれはカイトが刀で切り裂いたのである。

 まるで微塵切りにされた野菜のように崩れ落ちた左手は空中で落ちていく途中で爆発する。

「さあ、これで残る武装は唯一つ」

「頭の機関砲のみ……!」

 カイトとマーティオはゆっくりとお互いの武器をジェノーの頭部にかざした。最早店長に残された手段は無い。強いて言うならば、ただその場に呆然と立ち尽くして刑務所に入れられる事ぐらいだろうか。






 二人の刃が一閃されると同時、ジェノーの頭部は簡単に吹っ飛ばされた。コクピットの中の店長は信じられない光景の数々のお陰で気を失っており、放っておけば後は警官が捕まえてくれる状態になっていた。

「さて、報酬だ」

 マーティオはきちんと約束のダイヤをカイトに手渡した。カイトは「サンキュ」とだけ言って再び超人的な身体能力でジェノーから降りていく。

「で、お前はこれからどうするつもりなんだ?」

 カイトはさり気無くマーティオに問うた。今回は共同戦線を張ったとはいえ、彼は現役の犯罪者だ。それが今回、何の収穫もなしに帰るとは思えない。

「ああ、ここで奪える物はあのダイヤくらいしかなかったし……まあ、またターゲットを探すしかないか。全く、二ヶ月無駄に過ごした」

 確かに、とカイトは同情した。思えば彼は二ヶ月もあの店長のボディーガードとして潜入していたのだ。ボディーガードというだけあって彼はあまり盗みの活動は出来なかっただろう。

「さて、忘れかけていたが今日はクリスマスだ。――――聖夜の夜に乾杯と行こうじゃないか」

「ふん。生憎だが、そこの自販機にはオレンジジュースくらいしか売ってないぞ」

 半分皮肉交じりで言ったのだが、マーティオは無言でそれを二つ購入してきた。この季節に自販機のオレンジジュースはいささか冷たいが、たまにはそれもいいか、とカイトは思った。

「では、乾杯!」

 ジェノーの残骸の足元。凍えそうな風と雪が交差する中で、二人の『似た物同士』はオレンジシュースを仲良く乾杯した。

 この時だけは、冷たいはずの果汁100%オレンジジュースの缶が妙に暖かく感じられた。





 その後、店長とその関係者は何事も無かったかのように逮捕された。機動兵器を扱って暴れた事が逮捕された理由で、麻薬の事は後から明らかになったそうだ。どうあがいても重い刑が待ち受けているだろう。




 カイトはその後、事務所を去っていった。何の前触れも無く消えてしまい、その後の彼の足取りを知る者は事務所にはもういない。彼を知る者は言う。

『まあ、多分もうこの世界には居ないんじゃないか?』

 半分冗談で言っていたのだが、実は本当だったりする。彼は幾多の世界を渡り歩く者。その目的を果たす為に彼は今日も当ての無い旅に出る。




 マーティオはその後、結局銀行強盗をして相棒に己の生存を知らせた。その相棒と合流するのはもう少し後の話なのだが、今の彼はそれどころではない。

 何分、彼は現役の犯罪者だ。警官との追いかけっこで忙しい毎日を送るのが日常である。尚、彼はカイトについてこう語っている。

「多分、また会う時が来ると思う。そんな遠くないうちに」

 それは彼等二人の新たな出会いと戦いを意味しているのだが、そのお話はまた別の話である。

 

 恐怖の最強コンビ      完


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