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紫色の月光

「裏人格からのリベンジ戦」  前編

「裏人格からのリベンジ戦」  前編



「じゃあ、そろそろ俺寝るわ」

 カイト・シンヨウはNS社での仕事を終えたと同時、秘書であるエミリアに言った。

「寝るって……此処から家まで大分ありますけど、帰らないんですか?」

「ダーインスレイヴの中で寝る」

「はぁ!?」

 その恐るべき発言にエミリアは唖然としてしまった。
 目の前にいる男は事もあろうか家に帰らず自身の機体の中で寝ると言っているのだ。

「愛機にはそれなりに愛着を持ってるんだ。……何時も使っている布団と同じレベルで」

「また微妙なレベルですね……」

 呆れた目でカイトを見るエミリアだったが、そのマイペースさがこの男のいいところだったりするのだ。





「そんじゃ、皆、良い夢を」

『はい、社長!』

 漆黒の機動兵器、ダーインスレイヴのコクピットの中で毛布をかぶりながらカイトは社員達にいう。
 信じられないが、この男はNS社の臨時社長と言う変わった位置にいる。

「さて、寝るか……」

 時刻は午前三時。明日は――――と言うか今日は午前七時には起きなければならない。どんなに眠れても彼は四時間しか睡眠を許されない状態なのだ。




(起きろ……)

「ぬお……?」

(起きるんだ、カイト)

「………ムニャムニャ………」

(起きろと言っているんだ! カイト・シンヨウ!)

「うお!?」

 何処からか聞こえてくる叫びでカイトは目を覚ます。
 しかし聞こえるはずが無い。此処は自身の愛機のコクピットの中、自分以外は人はいないのだ。
 普段、彼をサポートする役目をもつAIのメシアも今はNS社のメインコンピュータに繋がれている。

「誰だ! この俺の眠りを妨げるとはいい度胸してやがる! ケツの穴から刀ぶっさして奥歯ガタガタ言わせてやるぞ!」

 因みに、この男は本気で言っている。

「誰だ、とは失礼だね。僕は君に殺されたんだよ? 忘れるなんて酷すぎやしないか?」

 何処かで聞いた事がある声にカイトの耳は反応する。しかも声は一つではなかった。

「カイト・シンヨウ、地獄へようこそ」

「君には、僕達を殺したという罪を償ってもらう」

 この耳障りで、尚且つ良く似ている三つの声の持ち主。彼らの正体をカイトは知っていた。

「お前等………イーグレット・ウルズ、アンサズ、スリサズ!」

 カイトの目の前のモニターが光ると同時、周囲の光景が露になる。
 そこは正しく地獄と言うイメージが合いそうな暗い場所であった。絶壁の数は一つや二つではなく、血の池地獄らしき赤い池や針山地獄らしき山も目に映る。
 そしてダーインスレイヴの周囲にはカイトがよく知っている三つの影がある。それぞれ赤、青、そして灰色と色は違うが、中身は同じ機体だ。

「やあ、久しぶりだね。……カイト」

「スリサズ……!」

 漆黒の機体の右にいる赤いベルゲルミルをカイトが睨む。

「あれ? ヒュッケバインだと思ってたけど………その機体は何?」

「五月蝿い、アンサズ」

 今度は左にいる青いベルゲルミルを睨む。これは結構触れられたくない事なのだ。

「そんな事はどうでもいいさ。僕等のターゲットはヒュッケバインじゃなくてカイトだ」

「おやおや、俺はお前なんかに好かれても嬉しくは無いぜ、ウルズ」

 真正面にいる灰色のベルゲルミルを睨んでカイトが言う。

「……で、話の流れからしてお前等は地獄に俺をダーインスレイヴごとご招待したって所みたいだな?」

「その通りだよ。エイジとシデンも招待したかったけど、やっぱり最初は君に復讐しなきゃ」

「そりゃどーも」

 しかしどうやったのかは知らないが、自分だけ地獄に連れてこられたのは好都合だ。思いっきり戦うなら彼の場合は、味方が自分だけの方がいい。

「思いっきり戦う場合、ギャラリーは邪魔なんだよな!」

 カイトの左目の邪眼が怪しく光りだす。普通の漆黒の瞳は闇色の黒色に変わっていき、ダーインスレイヴの動力源が起動し始める。

「行くぞ、ダーインスレイヴ・ダークネス!」

 邪眼から送られる闇のエネルギーを動力としてダーインスレイヴが起動する。その合図は背部の漆黒の翼の展開だ。

「俺はあの時の俺じゃ無いぞ! 貴様等三人纏めてもう一度殺してやる!」

 カイトが叫ぶと同時、周囲の三色のベルゲルミルが念じるかのように両手を合わせた。

「暫らく見ないうちに随分と恐くなったね」

 アンサズが言う。

「だけど、パワーアップしたのはお前だけじゃないんだ」

 スリサズが言う。

「六つの僕達よ、今度こそカイト・シンヨウを殺してしまえ!」

 そしてウルズが吠える。それと同時、ベルゲルミル背中から六つの球が飛び出した。

『シックス・スレイヴ!』

 三人のイーグレットが叫ぶと同時、それぞれのベルゲルミルから六つずつシックス・スレイヴが飛び出す。
 計18の光球は真っ直ぐダーインスレイヴに向かっていく。

「速い!」

 その攻撃スピードは確かに以前の彼らを遥かに上回っていた。
 しかし、カイトはまるで動じない。

「オーラ展開」

 ダーインスレイヴをまるでシャボン玉の様な黒い球体が囲み、シックス・スレイヴを弾く。以前のシックス・スレイヴに比べるとパワーもかなり上がっているが、どうやらこちらの防御能力が高かったようだ。

「流石地獄。負の感情の高さなら天下一品」

 邪眼のエネルギー源は全ての生き物の負の感情である。この地獄では住人は死んでいる者だが、それでも邪眼には貴重なエネルギー源を逃そうとはしない。

(ん? ちょっと待てよ………ならなんでこんなに邪眼が活発に活動してるんだ?)

 確かに地獄なのだから負の感情は幾らでも採取可能だろう。しかし今のカイトは生きている。
 カイトが死んだのなら話は別だが、生きている状態で邪眼が死者から負の感情をエネルギー源にするのはおかしいのだ。

「てー事は………」

 そこまで出たのだから答えは一つだ。此処は地獄なんかではない。そして目の前にいる三人のイーグレットも幻だろう。

「……んじゃあこれは夢?」

 それは無い。確かに今の自分は起きているし、邪眼はちゃんと発動している。カイトは確かにダーインスレイヴを起動させているのだ。
 それなら出せる答えは「誰かが意図的に自分を精神世界へと引きずり込んだ」である。

「……出て来い、クズ野郎! 俺に用があるんならこんな前座はいらん!」

 シックス・スレイヴが通用しなかった事に腹を立てているのか、ベルゲルミル三機がダーインスレイヴに向かって突っ込んでいく。

 カイトはそれを静かに睨みつける。

「我が闇を力として食らい、敵を討て!」

 カイトが静かに言うと同時、ダーインスレイヴの胸部が展開する。その中から出現するのは巨大な銃口だ。
 その銃口に光が集っていく。光は銃口に収束されたと同時、発射合図を待つ。

「インフェルノ・スマッシャー発射!」

 発射合図の言葉が発せられたと同時、集った光は発射された。

「何!?」

「こ、これは!?」

 青のベルゲルミルと赤のベルゲルミルが光に飲み込まれる。強力な再生能力を持つベルゲルミルだが、光に飲み込まれた瞬間、二機はコクピットごと完全に破壊されてしまった。

「言った筈だぞ、前座は要らないってな!」

 インフェルノ・スマッシャーの光はとどまる事を知らない。それは青と赤を飲み込んだ後にも灰色のベルゲルミルに迫っていく。

「そ、そんな馬鹿な……! 一度だけじゃなく二度までも僕等が―――――」

「負けたのはお前等じゃ無い、お前だろ。負けたの!」

「え―――――?」

 その言葉の意味が分らないままイーグレット・ウルズは光の中に包まれていった。

 灰色のベルゲルミルの破砕音が聞こえたと同時、周囲の地獄の光景がまるでガラスのように砕け散った。

 そこから見える景色は黒一色。周りに何があるのかまるで分らないし、何も無いのかも分らない暗闇の中である。

「いるんだろう、カロン! 出て来いよ。あんな幻影じゃあ何度やっても俺には勝てんぞ!」

 するとカイトの叫びに答えるかのように何処からか声が聞こえてくる。

「流石だな、カイト。やはりお前を倒すのはこの俺のようだ」

「よく言うぜ。お前も俺に負けたクセしてよ」

 ダーインスレイヴの目の前に一つの明確な影が映し出される。周囲に闇が満ちていてもはっきりと分るその姿はまさしくダーインスレイヴそのものであった。

 つまり、ダーインスレイヴが二体いるわけである。姿形は全て同じ、まるで鏡にでも映し出したかのような感じである。




続く


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