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紫色の月光

後編

後編



 カロン。この名前を聞いただけでもカイトは吐き気がする。何を隠そう、このカロンこそが1年前にカイトの身体を乗っ取って好き勝手暴れていた張本人なのだ。
 カロンはカイトの邪眼と彼の激しい怒りから生まれた裏人格である。その為かカイトの激しい部分だけの存在となってしまい、ただ破壊と殺戮を楽しむだけの厄介な存在となってしまったのだ。

 しかしそれでもカイトは己の精神世界でこのカロンに打ち勝ったのだ。その時にカロンと言う意思は完全に消え去ったのかと思っていたが……

「生きてやがったか」

「当たり前だろう。俺が死んでお前が生きてるのは不公平だ。俺達は一つなんだから」

 まあ、確かに同じカイトであることには変わりない。それだけに今回は気分が悪くなる。

「あの時のリベンジのつもりか? それにしてはさっきのイーグレットは芸が無かったな。シャドウミラーの連中も混ぜてやればもう少し楽しめたかもだぜ?」

「幻とはいえあんな連中に楽しませてたまるか。貴様は俺の獲物なんだからな」

「つまるところイーグレットだけじゃ役不足だって事か?」

「あれは貴様の新しい機体を調べる為に用意した時間稼ぎだ。貴様が破壊しなくても時がくれば自動的に消滅した」

 その結果が目の前のこれか、とカイトは思った。いかに自分が相手とはいえダーインスレイヴをここまで見事に再現するとはあっぱれだ。

「カイト・シンヨウ。あの時のお返しを、たっぷりと返してやる!」

「ならこっちは千兆倍にしてあの時の恨みを返してやる」

 二人のカイトは「システムX」のボタンを押した。勝負はシステムX起動時間――――五分で決まるのだ。

『行くぞ! 雷牙、星切り一刀!』

 二つの漆黒の機体がまるで鏡に映したかのように同じ構えで雷の超巨大ビームソードを振りかざす。それはその名のとおり『星をも切裂く』一撃を持っているのだ。

 しかしお互いの力が互角ならただぶつかり合うだけで終わる。二つの雷牙の力は全く同じ。これではお互いにダメージを与えることは出来ない。

「それならこれでどうだ!」

 カイトのダーインスレイヴが両手をカロンのダーインスレイヴにかざす。それと同時、まるで噴水のように青白い発光体が掌から溢れ出した。

「ライトニングダスト!」

 それは無差別に周囲に襲い掛かる強力な電撃の大津波である。今はこんな空間だからいいものの、コロニー内でやっていたら洒落にはならない。そういう意味ではダーインスレイヴは要塞破壊に向いている機体なのだ。

「オーラ展開!」

 ライトニングダストに対して、カロンのダーインスレイヴはオーラと言う防御行為を行った。しかしこの無数の雷の牙はいかにオーラと言えども防御しきれる物ではない。

 ライトニングダストがカロンが展開したオーラに接触した瞬間、オーラにひびが入ったのだ。

「何だと!?」

「オーラだって無敵の壁ってわけじゃないんだよ!」

 カイトが叫ぶと同時、カロンの作り出したオーラが粉々に粉砕される。その後に襲い掛かってくるのはライトニングダストの雷の牙だ。

「行け、奴の装甲を噛み砕け!」

 カイトの叫びに答えるかのようにライトニングダストはカロンのダーインスレイヴに噛み付いていく。
 しかし次の瞬間、カイトは見た。
 カロンのダーインスレイヴの胸部が展開しているのを、だ。

「インフェルノ・スマッシャー!」

 それは先ほど自分も使用したインフェルノ・スマッシャーであった。
 その地獄の光はライトニングダストの雷の牙を一瞬にして消し飛ばし、そのままカイトのダーインスレイヴへと向かっていく。

「我が闇を力として食らい、敵を撃て! インフェルノ・スマッシャー発射!」

 ならばそれに対抗するにはこちらも同じ武装を使えばいい事である。先ほどの雷牙と同じく、このインフェルノ・スマッシャーはお互いに向かって突き進んでいく。途中で方向転換したりはしない。

 お互いの地獄の光が接触する。

 それと同時、黒の世界が一瞬にして白の光に包み込まれていった。


 お互いのインフェルノ・スマッシャーは互角の威力であったのだ。相殺した瞬間、地獄の光はたったの一瞬で消え去ってしまった。

「インフェルノ・スマッシャーまで相殺されるか……どうやら本当にコピーしたらしいな。この機体を」

「そうだって言っただろう。他にもフェザーブラスターにダークソード、ブラックライフルにブレイククローだって使えるんだ」

「まだ実践では一度も使ってないブレイククローまで知っていやがるか……!」

 ブレイククローとはダーインスレイヴの右腕に装備されている鉤爪である。外見を見ただけでは全く分らないこの武装を知っているという事は本当に向こうにも装備されているのだろう。

「それならこいつでどうだ!」

 カイトのダーインスレイヴは左手に力をこめると同時、緑色の光球を作り出した。それはシステムXを使っていないダーインスレイヴ最強の技である。

「!」

 緑色の光球はダーインスレイヴの掌の上で凄まじい波動を放っている。
 インフェルノ・スマッシャーは広範囲にわたって攻撃が可能だが、単体の敵が相手の場合はこのジェノサイドミーティアが良く使われる。
 外見どおりのただの光球なのだが、この破壊力はインフェルノ・スマッシャーをも凌ぐ。正に殺戮流星なのだ。


「カイト、何か大事な事を忘れていないか?」

 しかしカロンのダーインスレイヴもその左掌の上に緑色の光球を作り出した。

「俺はお前、お前は俺だ。お前に出来て俺に出来ないはずが無いだろう」

 カロンのジェノサイドミーティアはカイトのジェノサイドミーティアに負けないほどの波動を放ちながら獲物を睨む。その視線の先にいるのはカイトのダーインスレイヴに他ならない。

「行くぞ、カイト! ジェノサイド――――」

 カロンが叫ぶと同時、二機のダーインスレイヴは左手をお互いに向ける。

『ミーティア!』

 お互いに向けて発射された殺戮流星は光の尾を引きながら飛んでいく。

 次の瞬間、二つの緑色の殺戮流星は衝突した。
 その時に生まれた凄まじい衝撃波は周囲にいる二つのダーインスレイヴを容赦なく飲み込み吹き飛ばしてしまう。

「く!?」

「どわぁっ!?」

 カイトとカロンが全く同じ声でそれぞれ叫びを上げると同時、二つの漆黒は自身の意思に関係なく吹き飛ばされていく。
 しかしそのままただ吹き飛ばされるだけの彼等ではなかった。ここで体勢を整えたのである。

『もう一発!』

 すると今度はお互いの右掌から全く同じタイミングで再び殺戮流星が発射される。

『行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

 再びぶつかる殺戮流星。この一撃もまた互角である。その瞬間に生まれる衝撃波の凄まじい一撃がそのまま二つのダーインスレイヴに襲い掛かる。

 しかしカイトはこれに耐えた。もう少しで衝撃波が襲い掛かってくると言うタイミングで防御バリアであるオーラを展開したのである。

「終わりだカロン!」

 カイトの邪眼が強く闇色に光る。それと同時、ダーインスレイヴの両手に緑色の光球が生まれた。
 二つの光球はそれぞれ暗黒の嵐が吹き荒れているかのような印象を受ける凄まじい闇の波動を放っていた。それだけ力をこめていると言う事である。
 しかしカイトはこれを『一つに纏めた』。
 二つの殺戮流星を一つにする事によって更なる威力を引き出そうとしているのだ。今のダーインスレイヴの漆黒の両掌の中には漆黒の闇の光球が生まれていた。その凄まじい波動はカイトがこれまでに使った攻撃の中でも「最凶」レベルである。

「エターナル・ゼロ……!」

 黒の流星が吼えた。それは殺戮流星の時とは比べ物にならないスピードでカロンのダーインスレイヴに向かっていく。

「くっ、ジェノサイドミーティア!」

 一方のカロンはエターナル・ゼロを作り出すには時間が足りなかった。だから此処は殺戮流星で対抗するしかなかったのだ。
 しかし、

「無駄だ」

 黒い流星は緑の流星を『弾いて』行った。しかも黒の流星は勢いが衰える事は無い。

「オーラ展開!」

 ならば最後の手段とでも言わんばかりにカロンは黒の防御法を使用する。
 だがそれも、

「無駄だ! ライトニングダストですら防げなかったバリアでは、こいつは防げない!」

 その言葉の通り、エターナル・ゼロがカロンの作り出したオーラと接触した瞬間オーラが一瞬にして砕け散った。まるで最初からオーラが存在していなかったかのような感じである。

「そ、そんな馬鹿な!」

 黒の流星の中に飲み込まれたカロンは最後の叫びをあげた。その暗黒の中に視界を奪われていく中、彼はもう一人の自分の声を聞いた。

「カロン、確かに俺達の力は互角だった。しかし最後まで『勝つことを考えて、それを実行する』という点では俺が上回っていたんだ」

 何より、とカイトは言葉を続ける。

「俺は絶対に負けられない。何故だと思う?」

 薄れ行く意識の中、カロンは最後にカイトの声を聞いた。

「俺には、帰りを待っている家族がいる」

 その一声を聞いただけで、カロンの全てが闇の中に落ちていった。

「あいつ等が俺を『お帰り』の一言で向かえてくれる。それだけで俺は幸せだ。……こんなちっぽけな幸せを、お前なんかに奪われるわけには行かないんだよ」




 こうして、カイト・シンヨウは自らが生み出したもう一つの自分との決着をつけた。その後、二度とカロンという「カイト」は出てくる事はなかった。


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