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紫色の月光

「リーサルウェポン外伝1」 前編

「最終兵器リーサルウェポン外伝  ~科学の宇宙人~」  前編



 美術館内にサイレンが鳴り響く。
 それは他ならぬ壮大な追いかけっこの合図である。

 追いかけられる役は進入者である泥棒。
 そして追う役はそれを捕まえようとする警官だ。

「待てぇぇぇぇぇっ! たぁいほだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 そして、某大怪盗三世も驚きの勢いで進入者を追いかける二つの影があった。

 その名はネルソン・サンダーソン。一応、警部である。
 そして彼の後ろにいるのは相棒のジョン・ハイマン刑事だ。

「待てといわれて待つほうが馬鹿なのよー!」

 そしてそれに追いかけられながらもまだまだ余裕そうなのは、世間で怪盗シェルと言われている男と、怪盗レオと呼ばれている男だ。
 彼等は二人揃って超人的な身体能力を誇っており、そん所そこいらの人間では相手になりはしないのだ。
 しかし、このネルソン警部は違う。彼の強烈なパンチを受けたらそれこそあの世行き決定である。

 
 シェルとレオはガラスを破って外に飛び出す。
 そしてそれに続いてネルソンと、もうへとへとになっているジョンが飛び出していく。

「ジョン、大丈夫か!? 先ほどからペースが落ちているぞ!」

「け、警部……! 自分はもう限界です……!」

 すると、そんなヘロヘロ状態なジョンの前にネルソンが何かを放り投げた。
 ジョンは走りながらそれをキャッチする。

「……警部、何ですかこれ?」

「見て分らんか!? バナナだ!」

 何の言い回しも無く率直に言ってくれるのがまた素敵だと思う。
 しかし、こんなものを渡されて一体どうしろというのだろうか。

「あのー、警部。自分はどうすれば?」

「食え!」

 ネルソンはきっぱりと言い放つ。
 
 ジョンはそれを聞いてついついコケそうになってしまうが、ギリギリで体勢を立て直してから前を向く。顔はもう汗びっしょりなのだが、夜の外にいるので結構寒い。

「警部! バナナを食べてどうしろっていうんですか!?」

 彼はもう泣きそうだ。

 そんなジョンにネルソンは追い討ちをかけるように言う。

「スピードアップするのだ! バナナはそれを十分に可能にすることが出来る!」

 その根拠はなんなんだろうか、とジョンは思う。
 何故かネルソンは断言しているんだから恐ろしい。

「む!? 奴等、ビルの中に入ったぞ! ジョン、俺は先に行くぞ!」

 そういうと、彼は徐に懐からバナナを一本取り出して食べ始める。
 すると次の瞬間、ネルソンの脚力が一気に増した。まるでブースターでも装備したかのようである。

「どうだ! バナナを食べたらこんなにも素晴らしい事になるのだぞ、ジョン!」

 ネルソンは後ろで唖然として突っ立っているジョンを見ながら走る。

 しかし、それが命取りだった。

「け、警部! 前、前!」

 ジョンが右の人差し指をこちらに向けて何か叫んでいる。

 一体何事だろうか、とネルソンは前を見てみると、



 がんっ!



 物の見事に電柱にぶつかった。
 しかも顔を向けた瞬間にぶつけた物なのだから痛いったらありゃあしないわけである。

「……………」

 力なく倒れこんだネルソンを見たジョンは思った。

 本当にこの人の下で仕事をしていけるのかな、と。

 でもそれで二年間ネルソンとコンビを組んで来てるんだからこの男も大した男だ。警察官で『頑張ってます賞』とか言う物が送られる事があるなら、間違いなくジョン刑事に送られてもいいと思う。




 廃墟ビルとかネルソンは言っていたが、このビルは一週間後に取り壊しが決定している。そんなビルの中にシェルとレオ―――――エリック・サーファイスと切咲・狂夜はいた。

「………追ってこないのか?」

「みたいだな。ま、それはそれで都合がいいけど」

 そりゃあ、警官に追ってこられるよりは追われないほうが遥かに良い。

「で、今回の獲物は?」

「ちゃーんと此処にある」

 エリックは胸ポケットから一つの小さな宝石を取り出す。
 今回の彼等のターゲットは『銀河の涙』と呼ばれる小さな黒い宝石である。その名前の由来は、突然空からこの黒い宝石が涙のように降ってきたと言う事にある。

 それが嘘か真実かは知らないが、そういう話もあって一躍有名になったわけだ。

「しかし……これ、本当に宝石なのかね?」

 エリックはそれとなく『銀河の涙』をじっと見てみる。
 狂夜と比べたら泥棒暦が長く、何度も宝石を盗んでいる彼はこれを果たして宝石と呼ぶべきか否かに迷っていた。

 確かに、見た目はきれいな黒い宝石だが、何と言うべきか『違和感』の様なものを憶える。何か別の、未知なる物を手に取っているかのような感覚を得ることが出来るのだ。

「……エリック、これなんだと思う?」

 不意に、先行していた狂夜が話し掛けてきたために彼はポケットに再び今回の獲物を入れる。

「どーしたよ、キョーヤ」

「どーしたもこーしたも……これ、何?」

 狂夜の指差す方向には一人の清掃員らしき男が居た。
 恐らく、以前このビルに勤めていた際に、何か忘れ物をしていて、それを取りに来たとかそういうのだろう。

 ただ、問題はその男は何かに怯えたような表情をしたまま固まっていた。
 まるで石にでもなってしまったかのように。

「…………おい、おい」

 それとなく手を固まっている男の前にちらつかせて見るが、無反応だ。

「……石像……にしちゃあ石には見えないよな」

「うん、何かあったのかね?」

 その時だ。
 彼等は背後に何かの気配を感じ取ると同時、一瞬にして飛び退いた。

 それと同時、赤い光線が先ほどまで彼等が居た床に命中する。

「……!?」

 槍や剣を使うよりならやはり銃を使ったほうが良い。
 何故なら、向こうは光線を放ってきたからだ。
 接近戦で返り討ちに会う可能性は限りなく高い。

「…………?」

 しかし、二人が銃を構えた方向には光線を放ってきたはずの何かがいない。
 まるで最初からそこにいなかったかのように。

「……エリック」

「分ってる……油断するなよ。何処から来るか分らんぞ」

 彼等は注意深く周囲に全神経を集中させる。
 姿無き敵に対抗するには、今はこうするしかないのだ。
 そして、状況を判断してからその場から離れる。

「…………」

 沈黙。

 暫らくすると同時、完全に気配は感じ取れなくなっていた。

「………何だったんだ。今の」

「さあ……」

 二人は立ち上がってから、急いで立ち去ろうとする。こんな気味の悪い所からはさっさとオサラバするのに限るものである。

 しかし次の瞬間、背後から鋭い叫び声が響いた。

「たぁぁぁぁぁぁぁいほだぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 頭に大きなタンコブを作ったネルソンが疲れきったジョンを連れて突っ込んでくる。
 しかも、手錠を振り回しながら突っ込んでくる姿は某大怪盗を追う警部さんにしか見えない。

「うお!? 何か来た!?」

 しかもエリックに『何か』呼ばわりされている。

「いやぁ、思わぬところで時間を食ったようだね」

 狂夜は笑顔で対応する。何が可笑しいのかわからないが、この男は笑っている。

「………!!?」

 しかし次の瞬間、エリックと狂夜はネルソンの背後に信じられない光景を見た。

 それは一言で言えば異形だった。
 まるでセミと人間を足して2で割った印象をもち、尚且つ両腕がハサミと言う、正しく異形である。

「――――――」

 そしてその異形は両手のハサミをネルソンとジョンにゆっくりと向ける。

「やべぇっ! 何か来るぞ!」

 危険な空気を読み取ったエリックは思わず叫ぶ。
 そしてそれを合図として、四人は飛び退いた。

「――――――」

 しかし異形のハサミから放射される赤い光線は問答無用で彼等に襲い掛かった。

「うわっ!?」

 そして、その赤い光線を全身に浴びたのは狂夜である。
 赤い光線を浴びた彼はどんどん顔色が真っ青になっていき、一瞬で石像のように固まってしまった。

「キョーヤ!」

 エリックは、銃の引き金を異形に向けて引いた。
 それと同時、乾いた銃声が何度も響く。

 しかし、異形は銃弾が命中したと同時、まるで幽霊のように消え去ってしまった。
 それこそ気配すら感じられない。

「キョーヤ……! クソ!」

 エリックは固まってしまった狂夜に目をやると同時、拳を震わせながらその場から立ち去った。






 次の日、ネルソンとジョンは今回の事件の目撃者として本庁に来ていた。
 そこで行われる臨時会議には軍隊の代表も出席しており、ピリピリした空気が漂っている。

「では、ネルソン・サンダーソン警部。君は、今回の件を宇宙人の仕業だと言うのかね?」

「はっ。自分はそうだと思います!」

 会議への出席メンバーにはネルソンの携帯が回されている。
 何故かというと、その携帯の画像にはあの異形の姿を映した写真があるからだ。

「ふむ……確かに、なんと言うか………リアルさを感じるな。とても信じられないが」

 それはそうだろう。
 流石に宇宙人がからむ事件なんてケースは歴史上初めてである。その為、殆どのメンバーは混乱しているのだ。まあ、やはり大体のメンバーが半信半疑なのだが。

「……サンダーソン警部。仮に、この画像に映っているのが宇宙人だとして、君はこの宇宙人にどうやって対応するべきだと思う? 直接見たと言う、君の意見を聞きたい」

 ジョンはさり気無くネルソンの顔を見る。
 そこにはやはり迷いと言う物を感じ取れなかった。

「はっ、自分は奴の目的を聞き出してみて、それから交渉をしてみるべきかと思っております」

「交渉だって? 馬鹿を言うな、警部。向こうは既に何人か襲っているそうではないか。今からでも攻撃するべきだ」

「しかし、奴に我々の武装が、果たして通用するかどうかも分りません」

 それを聞いた軍の代表は黙り込んだ。
 確かに、向こうにこちらの攻撃が効くかどうかはまるでわからない。何と言っても相手は未知そのものなのだ。

「だから、向こうの目的を聞き出し、可能なら早々に帰ってもらう………これが一番ベストな選択なのではないでしょうか」

 ネルソンは何時に無く真剣な顔で話をしている。
 それ自体がもう、ジョンには驚きだった。

 しかし、実の話。ネルソンとジョンは宇宙人と接触した事があるのだ。あの時の連中はあまり大した事は無かったが、その技術力は侮れない。地球の文明よりも数歩先を進んでいるのである。

「……………分った。それならその案で行こう。サンダーソン警部、ハイマン刑事」

「はっ!」

 二人は姿勢を正して次の言葉を待つ。

「では、交渉役は君たちに任せる」

「――――――へ?」

 その予想外の言葉に、ついついジョンはマヌケな顔になってしまった。


 

 深夜0時ジャスト。
 ネルソンとジョンは問題のビルの前に立っていた。これから彼等はこのビルの中に入って、謎の宇宙人(?)と交渉することになっている。
 と言うか、お偉いさんから押し付けられたような気がする。

「ジョン、持つものは持ったか?」

「はい、警部。……そういう警部は?」

「俺か? 俺はあれだ。勿論準備OKだ。………バナナはちゃんとリュックの中にしまってある」

「持ってきたんですか、バナナ!?」

 こんな時でもバナナに拘るこの男はある意味流石である。
 と言うか、何時食べる気なんだろうか。

「よし、時間だ。ジョン、覚悟はいいな?」

「はい、警部」

 二人はビルの中の入り口に足を踏み入れる。
 暗闇に包まれたこの場所は、まさに不気味と言うのに相応しかった。



後編に続く


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