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紫色の月光

紫色の月光

第七話「プロジェクト・ジーン」

第七話「プロジェクト・ジーン」


<???>

 
 暗闇が支配する暗い空間の中、男の声が響いた。

「……で、結局その男達の始末に失敗したと言うのか? キメラを使っておきながら」

 その男の後ろには舌打ちをしているマルコの姿がある。

「まさか俺だって奴がロイヤルストレートフラッシュを引くなんて思いもしなかったさ。そしてもう一人も――――奴がキメラの一撃を受けて尚生きているとは思いも……」

「もういい。言い訳は聞きたくない」

 男がそう言うと、マルコは歯をぎり、と噛み締めながら部屋を出て行った。これ以上何を言っても無駄だと思ったのだろう。

 しかしマルコが出て行った直後、男はキメラの記憶データを見ながら笑っていた。そのデータに映っているのは他ならぬ快斗の姿である。

「神鷹・快斗……まさか再び君に会えるとは思ってもみなかったよ。やはり我々は最後まで殺しあう運命にあるようだ」

 男は椅子から立ち上がると、一旦目を閉じる。

「決着を着けようじゃ無いか、プロジェクト・ジーンに! 俺達を止めれる物なら止めてみるがいいさ!」

 
 ○


<ルーナレーヴェ>


 この店の前に全身包帯姿で快斗はいた。その姿はやけに痛々しいが、贅沢を言う程彼は余裕は無かった。何せ、何とか140万稼いだのだからすぐにでも借金(と言えるのかは微妙なのだが)を返すと言うのがセオリーと言う物である。此処で返さなかったらそれこそお父さんに申し訳ないというものだ。

「おい、大丈夫かお前?」

 そしてそんな快斗の横でマーティオが封筒を持って立っている。この封筒こそ、先日引き受けた依頼で入手した給料が入った袋である。

「一応立てる。それだけで十分だ」

 本人がそう言うのだからそうなんだろう。そう思ったマーティオは一回頷いてから店内へと入る。

「おう、待たせたな。約束のブツだぜ」

 しかし、そこで二人が見たのはどういうわけか顔色が悪い店員達である。一応、今日この時間は開店の時間だが、時間も昼過ぎと言う事もあってか客は一人もいない。それだけに店員達の顔色の悪さは妙に目立っている。

「よ、よおお前ら。待ってたぞ」

 そこで、ようやく二人に気付いた店長のユウヤが複雑そうな顔で二人の元へとやって来た。

「ほい、ウチの大食らい共の食った分」

 そう言うと、マーティオは封筒をユウヤに手渡す。

「あ、サンキュー……って、そんな場合じゃ無いんだよ! おい快斗、お前の連れの様子が明らかに変だぞ!」

「何? どう言う事だ?」

 ただ事では無さそうだ、と言うのは彼の表情を見たら一発でわかる。

「いやさ、何か目つきが鋭くなって、一人称も『俺』になってて……ぶっちゃけ別人としか言いようが無いんだよ」

 あのリディアが自分のことを『俺』と言う。あまり想像できないが、それだけに異常だとよくわかる。

「今、何処にいる?」

「奥の部屋でお前が来るのを待つってさ」

「俺が? 何で?」

 その回答はユウヤには分らない。その証拠に無言でお手上げポーズを取っていた。

「ま、会えば分るだろ……多分」

「多分、ねぇ」

 快斗は溜息をつきながらも左手に巻かれている包帯を乱暴に解いてから奥の部屋へと向かっていった。


 ○


<ルーナレーヴェ リディアがいる部屋>


 部屋の中にはリディアがまるで糸の切れた操り人形のように椅子の上に座り込んでいる。その光景が妙に印象強いためか、周りにある家具が何となく小さく見えて仕方がない。

「来たか、神鷹・快斗」

 そしてその糸の切れた人形のように俯いたままのリディアは快斗の存在に気付く。そしてその後ろからぞろぞろと蟻の様に群がってくる他の面子の存在にも、だ。

「何人か余計なギャラリーまでいるようだが……まあいい。俺が分るか、神鷹・快斗?」

 人ががらりと変わったリディアを見て彼は驚いたが、それ以上に彼女の瞳に彼は驚いていた。何故なら、その瞳は忘れる事も出来ない強敵の中の一人の目だったからだ。

「……ジーンΧか」

 その言葉にリディア――――ジーンΧは静かに頷いた。

「久しぶりだな、半年ぶりになるが……まさかこんな形でお前とまた会うなんて思いもしなかったよ」

「それはこっちの台詞だこの死に損ない。どうやって生き延びた?」

 快斗の目つきが当然のように敵を見る凶悪な目つきに変わる。しかしジーンΧはそれに怯む気配もなく言った。

「ああ、そういえば俺はお前と紫伝と栄治の三人に殺されたんだった。……だがこうしているとそんな実感湧かないな」

「ンな事はどうでもいい。俺の質問に答えろ。あの時、時空を越えるトンネルの中でお前は間違いなく細胞一つ残らず消し飛んだはず。それなのに何故、しかもこんな形で生きている?」

 ん、と一息ついてから現在金髪の美少女となっているジーンΧは顔を上げる。そこには以前リディアとして彼等の前に姿を現していた何処か天然な少女の姿なんて一欠けらもなかった。

「さあ、何でだろうな。お前たち三人が協力して作り出したあの激しい光と闇が交差した渦の中に包まれた俺は確かに自分でも死んだ、と自覚した。それなのに、気付いた時には巨大なカプセルの中に閉じ込められていた。身体と精神を色々と弄くられた結果、俺の精神はネットワークを通じてR・J社で生産されたヴァリスとか言う機体の一つに移動したわけだ」

 そしてその時のショックで記憶を無くし、リディアとして事もあろうか自身を殺した快斗と共に生活していく事となってしまったわけである。快斗としては複雑な気分だった。

「で、その天下のジーンΧが能天気に『トイレに一人で行くのは恐い!』とか叫んでいたわけだ」

 その一言には思わずジーンΧは反応した。以前彼等と相対した時からは想像も出来ない光景だが、今までの行いの余りの恥かしさで顔が真っ赤に染められている。まるでトマトだ。

「う、五月蝿い! 俺だってあの時は……!」

「はいはい分った分った。兎に角お前は今『リディア』であると言う事を忘れんなよ? 精神だけが移動したって事は前の様な液体金属能は使えないだろうしな」

 それは詰まり、『妙な真似するなよ』と言う警告である。
 何と言っても以前殺されかけた身なのだ。これで警告しない方がおかしい。

「ん?」

 しかしそこで快斗は気付いた。
 このジーンΧの精神が移動してこんな状態になった事は分った。しかし肝心のあの凶悪な身体はどうなったのだろうか。

「おい、お前気付いた時カプセルの中に閉じ込められたとか言ってたな」

「ああ。此処からが本題だ」

 ジーンΧがえらくマジな顔になって話をするので、思わず快斗や後ろにいる仲間たちはごくり、と喉を鳴らしてしまう。

「俺はある組織の生体実験を受けていた。――――<メサイア>という組織だ」

 その単語に思わず快斗と後ろにいたマーティオは反応した。
 メサイアといえば前回ノーズルドタウンでゼッペルが名乗った組織名である。彼等に酷い目にあった二人の目つきは鋭い刃物のように尖る。

「そこには俗に言うマッドサイエンティストと言う奴がいてな。俺の記憶を見たあの男はその記憶を参考にして<プロジェクト・ジーン>を再び始めようと考えたのだ。自分の目的の為にな」

 プロジェクト・ジーン。
 
 その単語を聞いた瞬間、快斗と後ろにいる紫伝(絵里)の顔が一瞬にして青ざめた。快斗は思わず叫ぶ。

「アレを始動しようってのか、あいつ等!」

 そしてそれにジーンΧは静かに答えた。

「そうだ。既にジーンは何体か完成している」

「あのー、ちょっといいですか?」

 其処に、何処か居心地の悪そうな顔でルーナレーヴェ店員の一人、アルエが声をかけた。

「そのプロジェクト・ジーンって何なんですか?」

「そうだそうだ。自分たちだけで理解するんじゃねー」

 その後ろでユウヤがまるで何処かのガキ大将のように『自分たちも話に混ぜろ』と言ってくる。

「む……」

 何処か不快な顔をしてから快斗は奥にいる紫伝に目をやる。それに気付いた彼は無言で頷いた。

「プロジェクト・ジーンってのは……俺達の世界の軍が何十年前かくらいに計画した人型大量殺戮兵器による軍隊だ」

 そこまで言ったと同時、複数名のルーナレーヴェ店員達が騒ぎ始めた。その理由は先ほどの台詞の中のある単語にある。

「え!? 『俺達の世界』と言う事は快斗さん別世界から来てたんですか!?」

「あれ、言ってなかったけか?」

「初耳だぞオイ!」

 しかし彼はふむ、と頷いただけで軽くスルーした。何て野郎だ。

「で、そのプロジェクト・ジーンで史上最強の軍隊を作るためにDNA操作や別世界から入手した兵器を使って俺達最初のジーン三十人が生まれたわけだ。その後すぐに逃がされたわけだが」

 その初期のジーンとして作られたのは快斗だけではない。紫伝も、栄治もトリガー、ガレッドだってその三十人の中の一人だ。

「で、それから色々とあって軍の連中が俺達を捕まえに来てな。捕まった連中は生体実験をされ、新しいジーンを作り出すために殺されていったわけだ。そしてその結果生み出されたのがアンチ・ジーンの十人。初期設定戦闘能力がジーンと比べても圧倒している」

 そしてアンチ・ジーンの十人は未だに捕まらない快斗達他のジーンを捕獲、あるいは抹殺する為に様々な行動を取ってきた。

 あのゼッペルもその中の一人である。しかも快斗と対をなすジーンナンバー1の位置だ。
 
 だが、結局全員返り討ちに会い、そして彼等もまた実験台であった事実を知らずに死んでいったのである。ゼッペルを除いて。

 ジーンとアンチ・ジーンのデータから更に強力なジーンとして生まれたのがジーンΧを始めとするアルティメット・ジーンである。しかし彼等はどういうわけか思考が暴走してしまい、自分たちを生み出した軍を叩き潰しては残りのジーンである快斗達に襲いかかってきたのだ。

「と、まあ簡単に説明するとこんなとこ。詰まり、俺達はこいつに殺されかけたって事だ」

 そう言うと快斗は目の前にいるジーンΧに指を刺す。半年前に戦った時は男の姿だったが、今は金髪の美少女と言う事もあってか多少のギャップを感じる。

「全て昔の事だ。今では身体が違うと言う事もあって安定している」

 それだけ言うとジーンΧは腕を組んで全員を睨むようにして見る。

「で、奴はそのプロジェクトを使って復讐するつもりだ。何があったのかは知らんが、奴は世界を滅ぼすつもりでいる」

 それを聞いて黙って入られる面子ではない。
 それならば大至急そのマッドサイエンティストの元へと向かって思いっきり修正してやる必要がある。

「だが、連中の切り札はジーンだけじゃない」

 その言葉を聞いて全員が頭上に?マークを浮かべた。今までの話を流れからしてそのジーンが切り札ではないのだろうか。

「確かにジーンは切り札の一つ。凶悪的な戦闘能力と不思議な能力を使って敵を圧倒する。しかし、奴等は俺の身体を使って寄生生命体キメラを生み出した」

 その単語を聞いて快斗の脳裏にはあのノーズルドタウンで出会った凶悪な姿が浮かぶ。成る程、あれはジーンΧの身体を使っているのだから自然とジーンΧだと認識してしまったわけだ。

「既に世界中で寄生の犠牲者が続出しているだろう。そして奴は寄生すればするほど強くなっていく」

「ああ、確かにもうリオン、イグル、ライと寄生されているな」

 その一言が決定的だった。後ろにいるリオンの恋人、アルエが顔色を悪くした状態でばったりと倒れてしまったのだ。

「あ、アルエさん!?」

 紫伝達が駆け寄るが、どうやら相当のショックだったようだ。起きる気配がまるでない。

「快斗さん、今の本当なんですか?」

 トリアが言う。その理由は彼女がライと結婚まで行った関係だからである。不安と心配が入り混じった顔色がその不安定さを物語っていた。

「本当だ。一度ばったりと会ってな……それで、奴等の本拠地は何処にある?」

 快斗は視線をジーンΧに再び移す。

「そうだな、後2秒ほどで姿を現す」

「へ?」

 全員がマヌケな声を発したと同時、大地震が襲い掛かった。


 ○


<一時間後、とあるテレビ番組>


 本来なら先日行われたスポーツ番組の特集をやるはずだった番組だが、突然現れた何かの為に特別に時間を割いて放送されている。

「臨時ニュースです。先ほどの地震の際、突如として世界各地に奇妙な物体が姿を現しました!」

 アナウンサーが慌てながら言うその映像がテレビ画面に映し出される。 

「御覧下さい! まるで巨大な卵の様な物体がロシア、アフリカ、アメリカ、日本、ブラジルで確認されており、今にも中から何かが生まれてきそうな雰囲気が漂っております!」

 機械的な印象を受ける巨大な卵の様な物体はそれぞれ違う色をしていた。色で識別するには丁度いい。

「尚、現地では念の為に周囲の人民に避難命令が出ており――――」

 アナウンサーが其処まで言ったと同時、テレビ画面が一瞬にしてブラックになった。


 ○


<ルーナレーヴェ店内>


 全員がブラックになったテレビ画面に視線が釘付けだった。そんな空気の中これでもかとでも言わんばかりにジーンΧは容赦なく言い放つ。

「日本に現れた巨大な卵の様な物が連中の基地だ。外見とは違い、地下深くまで続いている。そして行くなら今しかないぞ。連中は本腰入れてプロジェクト・ジーンを発動させるみたいだからな。世界各地にあらわれた卵に奴等のジーンと機体が詰まっているんだろうぜ」

 直後、快斗が店の出入り口から外に出ようと歩を進める。

「絵里(紫伝)、悪いけど栄治とガレッド、トリガーに今の事を連絡してくれ。そして連中と戦うなら今日の午後5時に現地集合。……もしかしたら味方同士で殺しあうかもしれない。その覚悟が出来ている奴だけでいい」

 それだけ言うと、彼は出て行った。


 ○


<R・J社本社>


 本社の格納庫の中では珍しい事にヴァリスやレーガ以外の機体が置かれていた。しかも妙にボロボロで、見るからに痛々しい。

「うひゃあ、見事にボロボロですね」

 そんな三つのボロボロの機体を見て、何故かメイド服を着こなしているR・J社社員、華嬢・佐奈は半ば呆れてしまう。

「一応、応急措置は施したつもりだが……流石に無人島に放り出されたわけだからまともになりゃしなかったんだ」

「納得です。無人島に機動兵器を直せるほどの設備があったらそれこそご都合主義ですよ」

 そう言うと佐奈は隣に立つ快斗を見た。この場に置かれている三機の機動兵器は快斗、紫伝、栄治の三人がジーンΧと戦った時に使っていた機動兵器で、それぞれボロボロだった。

 中でも特に酷いのは快斗の機体である<ダーインスレイヴ>である。

 右腕と右翼が完全に破壊されており、他の二機と比べても修理するには時間がかかるだろう。
 しかしそれをこの男は一日で修理して欲しいのだと言う。

「ただでさえ人手不足のときに……」

 リオン、イグル、ライはキメラに寄生されて行方不明。更には社長と副社長のコンビはこんな時にアフリカへ急遽外出中と来ている。どちらも当てには出来ないだろう。

「念の為って奴だ。とりあえず動ければそれでいい。後はコッチで何とかする」

「それはいいんですけど……あの二人はなんなんです?」

 そう言うと佐奈は格納庫の中にもかかわらず騒ぎまくっている二人の少年を指差した。トリガーとガレッドである。

「もしかしたら緊急応援を頼むかもしれないから、あの二人は此処で待機させて欲しい。あの二人の能力なら一瞬にして瞬間移動可能だからな」

 何ともご都合主義である。ただ、今はそのご都合主義でも凄まじくありがたい物には違いなかった。


 ○


<五時、メサイアの作り出した卵型巨大基地前>


 見上げて見たらまるで山だな、と快斗は思う。ジーンΧの話だとこの基地は地下深くまであるそうだが、見た感じ上にもかなりのスペースがありそうだ。

「で、何だってこんな大人数で此処に忍び込もうとしてるんだ?」

 後ろを見ると、其処にはマーティオ、紫伝、栄治、更にはどういうわけかサルファーにフェイ、夜夢とその妹に当たる瑞知にジーンΧことリディアにネオンまでいる。ハッキリ言うと戦力になりそうにもないのがいるような気がしてならない。

「いやぁ、それが皆行きたいって志願しちゃってさ」

 紫伝が額に汗を浮かばせながら言う。

「その通りです。ライさん達が捕まっているのなら私が助け出します!」

 そしてさり気無くフェイの瞳に闘志が炎となって燃えさかっているような――――気がした。恐らく、妹達はそれに付いて行く事となったのだろう。

「で、マーティオとネオンは何で?」

「ちと借りがある奴がいてな。そいつをぶっ殺す為に来てやったぜ」

 マーティオらしい返答が帰ってきてくれたことに快斗は安堵を憶えた。いや、台詞からして憶えてはいけない様な気がするが、敢えて気にしない方針でお願いしたい。

「で、サルファーは?」

「無論、夜夢殿がこの様な危険な場所に行くと言うのならお守りするのが――――」

「もういい。分った。黙れ」

 偉くあっさりと解決した。そうだ、サルファーって案外分りやすい性格をしているのだ。聞くほうがどうかしていたのだ。

「で、お前も何で来た? 以前の様な戦闘力はないんだぞ?」

 今度はジーンΧに言う。

「ふん、俺の身体が好き勝手に使われていると言う事実が気に入らないだけだ」

「あっそ」

 なんとも険悪なムードが漂っている。それもそのはず、彼等は半年前殺しあっていた関係にあるのだ。それであっさりと仲良しにはなれない。

「そんじゃ行きますか……」

 行く先の不安さを感じながら彼等は入り口から侵入した。


 ○


<メサイア基地 管制室>


「リーダー、侵入者です」

 暗い空間の中、モニタにその侵入者の姿が映し出される。
 しかし、それを見たリーダーは思った。

(侵入者にしては数が多くないか?)

 恐らく、数は割いた方なんだろうが、それでも多すぎる。10人で、しかも同じ場所から侵入なんて今だ嘗て無いだろう。

「とりあえず、落とし穴を起動しろ」

 直後、侵入者10人が地下深くに強制的に落下した。


 ○


<メイサア基地 地下10階>


「……やばいくらい簡単に落とし穴にひっかかったな」

 マーティオは呆れながら言うが、その表情には感情と言う物が見られない。危機感をあまり感じていないのだ。
 しかし、彼と同じ場所に落下してしまった3人はちょっと違った。

「いきなり皆様とはぐれてしまうなんて……」

「大丈夫大丈夫、何とかなるってー!」

 フェイ、夜夢、瑞知の3姉妹である。どういうわけか彼女達は不安になっているが、逆に興奮している者もいるようである。

(……俺様がこいつ等担当しなきゃならんのか?)

 マーティオは行く先にちょっとした不安を覚えた。ただ、精神的な問題からして彼のほうが何かと3姉妹のお世話になるかもしれない。


 ○


<地下10階 別エリア>


「快斗殿、教えてはもらえぬか。何故夜夢殿の危機を救おうとしたらいきなり本人と離れてしまうハメに……」

「俺が知るか。こうなっちまったんだから仕方がねーだろう」

 この空間には快斗とサルファー、そしてリディアにネオンと言う異色の組み合わせがいた。

「とにかく、進もうぜ。此処は行き止まりみたいだからな」

 それだけ言うと、彼は何時までも暗くなっているサルファーに渇を入れてから先に進み始めた。正直、コッチの方が不安である。

 それから十分ほど歩いていくと、体育館サイズの広さの空間の中に四人は出た。

「………広いであるな」

 サルファーが呟いたように、確かに広い。機動兵器が丸々入ってもまだお釣りが来るだろう。

「確かに……んでもって此処から先は――――」

「行き止まりだ」

 不意に、何処からか声が響いた。
 その瞬間、彼等の足元から水晶の槍が伸び、彼等を捕獲する牢獄の役目を成す。ただ一人、快斗を除いては。

「流石に全員相手にすると時間がかかりそうだからね。一人ずつ消していくとするよ」

 その声の主を快斗は知っている。それはノーズルドタウンで聞いたばかりだ。

「ゼッペル!」

「やあ快斗。まだ生きているとは……君のタフさには敬意を示す」

 一回ぺこり、とお辞儀をしてから彼は快斗を睨む。それと同時にゼッペルの両手に生まれるのは水晶で出来た二本の刃である。

「死ね、神鷹・快斗!」


 ○


<ロシア 巨大な卵の前>

 
「う~寒い……」

 身を震わせながらユウヤはこの極寒の地へと赴いていた。その理由はただ一つ。これを破壊することだ。

「しっかし……本当にでかいな」

 自身の愛機、ドレーガは大きさにして大凡100m程あるが、これはそれ以上ある。東京タワーレベルだ。

「………へっくしょん!」

 愛機の中で暖まるかな、と彼が思い始めた瞬間、異変が起きた。
 卵に『ひびが入った』のである。



第八話「『許さない』」


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