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紫色の月光

第十二話「ムーンバーサーカー」

第十二話「ムーンバーサーカー」


<???>

 二人の少年が居た。
 彼らは銀河を渡り歩きながら会話を交わす。

「ねーねー。最近地球って星が異様に騒がしいね」

「そうだね。なんだか並列世界から色んな奴が入り混じってるっぽいからねぇ。多分、世界が歪もうとしてるんじゃないかな」

 二人の少年は歩むのを一旦止めると、地球を眺める。

「その中心に居るのは……このジーンΧっていうのだねー」

 今、二人の少年の視界には一人の金髪の少女が映されている。何処か冷たい目をした、何か異質な感じがする少女。

「じゃあ……シシャを送ろうか」

「そうだね。このジーンΧと関わりがあるシシャがいいねー」

 彼らがいう「シシャ」には二つの意味がある。
 使者と死者だ。つまり、死人を一時的に蘇らせて地球に送ろうと言うのである。歪もうとしている世界を正す為に。

「誰が居るー?」

「うーん……一人、適任かと思われる人物が居るね」

「誰ー?」

 片方の少年が興味深げに聞いてくる。すると、彼らの前に一人の青年が突然姿を現した。いや、正確に言うと青年の死体だ。

「えーとね。……一年位前にジーンΧに殺されたゼッペル・アウルノートだねー」

「えー? 大丈夫なの?」

 何分、殺されたと言うだけあって後先不安だ。

「んー、その事も含めて、彼をある人物の居る場所に送ろうと思うんだ」

「えー? 誰なのさそれ」

 すると、少年は意地悪な笑みを浮かべながらもう片方の少年に耳打する。次の瞬間、計画を知った少年の顔に笑みが浮かんだ。子供が浮かべる、悪戯心満載の笑み。

「それ、いいねー」

「でしょー」



 ○


<メサイア基地>


「あー、いてぇなぁ、クソ!」

 悪態をつきながらマーティオが立ち上がる。
 今、彼の目の前には三人の男がいる。R・J社のライ、リオン、イグルの三人だ。ここに侵入した者達の目的は半分が彼らの正気を取り戻す、である。
 しかし、マーティオは全くそういう理念は持ち合わせていない。ただ純粋に倒したいだけだ。

 だが、流石に三対一だけあって先ほどから集中攻撃を受けている。既に身体中ボロボロになるまで痛めつけられているのだ。

「どーした? そんなんじゃ俺様を殺せないぜ?」

 しかし、それでもマーティオは立ち上がり、何事も無かったかのように戦闘を続けようとする。だが誰がどう見てもマーティオが劣勢だ。

「――――!」

 痺れを切らしたかのようにリオンが突撃してくる。それに続き、イグルも握り拳を振り上げながら突進。

「ひゃははははははははっ!! 来いよ、人形共が!」

 狂ったように笑い出すマーティオ。しかし、彼は次々とリオンとイグルの攻撃を受ける。パンチ、アッパー、ジャブ、蹴り、肘打ちがマシンガンのようにマーティオの身体に次々と打ち込まれる。

「ふ――――ひゃは! はははははははははっ!!!」

 しかし、何がおかしいのかマーティオの笑いは止まらない。しかも攻撃を受けていると言うのに、それでも笑っている。逆に不気味に思えてくる。

「ちぃ!」

 すると、イグルの背後からライが飛び出してきた。
 いい加減、この不気味笑いに終止符を打ちたいとでも考えたのだろう。

「はははははははは!!!」

「食らえ!」

 強烈な拳が一気に三発同時にマーティオに襲い掛かる。
 その衝撃が原因で、彼は一気に外壁を破壊してしまうほどの弾丸としてぶっ飛ばされてしまう。

「く……く……はははははははは」

 しかし、その瓦礫の中から力の無い笑い声が聞こえてくる。いい加減、耳障りだった。

「……てめぇら、覚悟はいいな?」

 しかし次の瞬間、瓦礫の中からボロボロの姿で立ち上がったマーティオは笑いを止めた。その代わり、妙に不気味なオーラがその大鎌から立ち上がる。

「これを使えばどうなるかは……正直俺様ですらしらねー。だが、コレだけはいえるぜ」

 次の瞬間、マーティオは人差し指をライ達に向けて宣言した。

「少なくとも、もう皆無事じゃなくなる」

 瓦礫の奥から月の光が差し込んでくる。彼らが此処に侵入してからもうかなりの時間が経過しているのだ。

 だが、此処で注意するべき事はそんな事ではない。

「さぁて、誰が俺様を止めるのか……興味はあるぜ」

 その直後。マーティオの心臓が突然跳ね上がるようにして振動する。その鼓動の音は、気のせいか誰もが聞き取れるような気がした。

「があああああああああああああああああ!!!!!!」

 心臓が大きく振動したと思ったら、今度は筋肉が風船のように膨れ上がっていく。更には眼の色が青から銀に変色していき、挙句の果てには耳が俗に言うエルフ耳のように尖がっていっているではないか。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 変貌したマーティオが吼える。
 その衝撃波がびりびりと部屋中に鳴り響いた瞬間、此処に一匹の獣が誕生した。

「………」

 ぎろり、とマーティオが3人を睨むと同時、彼は疾走した。


 ○


<メサイア基地>


「ふ~ん、こいつか」

 栄治が注射器を起用に指でくるくると回転させて見せる。この注射器は先ほどシャロンの部屋で見つけた物で、キメラウィルス唯一の対処法、つまりワクチンである。

「おい、人数分しかないんだ。あんまり乱暴に扱うんじゃないぞ」

 今ある注射器は3つ。一人一本使わないとならない訳だから無駄遣いは許されない。そして無くしてもアウトだ。更にはこれ以上寄生されるのもアウトである。

「ところでさぁ……あんま突っ込みたくないんだけど」

 紫伝が遠慮がちに言う。

「なんで僕達はこんな外壁をわざわざ通らないといけないのかなー?」

 正直言うと、狭すぎる。更には夜風が冷たくて、足を踏み外せば地面にたたきつけられて余裕で死ねるだろう。

「仕方が無いである。ここしかない訳であるからな」

 サルファーが言うと、横で栄治が怒鳴る。

「おい、お前が足を踏み外せばそれで終わりなんだからな!」

 狭すぎると言うのも、RMAのサルファーでギリギリサイズなのだ。他の人間サイズ面子は余裕で通れる訳だが、彼が下手して足を踏み外せば反動で全員落ち兼ねない。

「――――ん?」

 すると、何かに気付いた快斗が回れ右して振り返る。

「……どうした?」

「なんか聞こえる……!?」

 次の瞬間、全員の顔が驚きの一色に変わった。
 後ろにある外壁を突き破って人がぶっ飛ばされてきたからである。

「うお!?」

 そしてその人は彗星のように彼らのところへと突っ込んでくる。次の瞬間、人影が栄治にモロにぶつかった。

「うおわ!?」

 思わず倒れこむ栄治。だが、今ので骨を折らないと言うのは流石だ。普通なら立てないくらいの大ダメージを受けている。

「って、おお! リオン殿である!」

 サルファーが言うように、今ぶっ飛ばされてきたのは他ならぬリオンだった。しかもどういうわけか所々火傷の跡や激しい切り傷が見られる。

「取り合えず、ワクチン投与だ。紫伝頼む」

「あいさー、カイちゃん」

「お前等ちったぁ俺の心配しやがれー!」

 栄治が喚くが、聞く耳もたずである。聞くだけ無駄だと分りきっているし、コレだけ騒げれるなら問題は無いだろう。

「……ん?」

 すると、先ほどリオンがぶっ飛ばされてきた外壁から更にもう一つ人影がぶっ飛ばされてくる。

「――――イグルか!」

 今度は彼らの少し手前にたたきつけられる。彼もリオン同様に激しい切り傷や火傷が多々見られており、気絶していた。

「……もしかして」

 ネオンが何か感づいたようだが、それと同時、向こうの外壁から三つの影が見えてくる。フェイ、夜夢、瑞知の三人である。

「おー、お前等無事だったのか。――――つまらん」

「人の無事はもう少し喜んでいいものじゃ無いですかちょっとー!?」

 再会してイキナリのツッコミはある意味お決まりである。

「と、そんな事はどうでもいいんですが……大変なんです! 兎に角大変なんです!」

「OK,落ち着け。先ずは深呼吸からだ」

 快斗が慌てている三人を落ち着かせるように指示する。

「はい、先ずは息を吸ってー……そのまま六時間!」

「死ぬわ!」

 全員に突っ込まれた。それも物の見事に。


 ○


<メサイア基地>

 
 リオンとイグルだけではなく、ライもかなりの傷を負っていた。そしてそれだけのダメージを彼らに与えたのは目の前に居る青の長髪男、マーティオ・S・ベルセリオンである。

 しかし、何故先ほどまで劣勢だった彼がいきなり押し始めたのか。

 その理由は彼がもつ古代の最終兵器「リーサル・サイズ」にある。

 最終兵器には戦闘するときに応じて凄まじい、ある意味魔法的な超常現象が起きる。あのでかい昆虫戦でネオンが見せた鏡の攻撃やエリックが槍で空を飛んだのはコレに部類される。

 ではマーティオの場合はどうなのかと言うと、実は彼のサイズは一番厄介な代物である。
 月の光をエネルギーに変換するが、その代わりに理性を失い戦い続ける『バーサーク』である。それもパワーアップのレベルが半端ではないし、狂いっぷりも半端じゃ無いのだ。追い詰められたマーティオの最後の手段である。しかし、彼にも彼なりの美学がある。
 敵を殺す際は自分の目で確認したいと言うのが彼の本音だ。しかし圧倒的に劣勢だと考えた場合はコイツを発動させる訳だ。

「ひゃあっはああああああああああああああああ!!!!!」

 大鎌を引きずりながらマーティオが突撃してくる。何とかして避けよう、と思っても身体は上手く言う事を聞いてくれない。キメラウィルスによる再生が追いつかないほどのダメージを受けているのだ。

「おいちょっと待ちな!」

 すると、何処からか彼に待ったをかける男の声が響いてきた。誰だ、と思い声がする方向を見てみると、そこにはあの神鷹・快斗の姿があった。

「あ~?」

 しかし、マーティオは人の言葉すら忘れてしまったようで、不気味に顔を歪ませながら首をかしげている。

「お休み、ライ」

 そう言うと、快斗は注射器を素早い動作でライの首元に打ち込む。

「あ――――」

 その瞬間、まるで鉛の鎧を外したかのような安息感が彼を包み込む。今までの疲れがどっ、と押し寄せてきて、それを受け止めるために彼は一時の睡眠状態に入った。

「……さて、これで問題が一つ片付いたが、もう一つの問題があるな」

 目の前に居るこのバーサーカーをどうするべきか。話によれば、月の光で強化されているのだから朝になるまで持ちこたえればいい話だが、

(そんな簡単にいかね―よな流石に)

 今は夜の12時にもなっていない。これで何時間もこの男相手に持つはずが無かった。

「……1回力で力をねじ伏せてみたいと思っていた所だ」

 快斗の左目が激しい闇色の光をともす。その左目の白目の部分は黒に、黒目の部分が赤に染まっていき、更には左目の周囲の皮膚にエネルギーが溢れ出ているかのような跡が滲み出ている。

「来いよ、普通の邪眼より更にすげぇ状態で相手してやる」

 偉そうに手招きしているのが気に入らないのか、マーティオが吼えながら襲い掛かってくる。相変わらず狂った眼を向けながら、だ。

「ひゃああああああああああああああああ!!!!!」

 大鎌を一閃。その一振りのスピードは恐ろしい事に、ただの光にしか見えなかった。しかし、『今』の快斗にはその軌道がはっきりと見える。

「――――!」

 片手の人差し指と中指のダークネイルブレードが最終兵器サイズの閃光を光の様な速度で捕らえた。残像も何も見えない、本当の超高速である。

「俺がこの邪眼を使う事になったのは……お前が二人目だ!」

 そう言うと、快斗は更にトンでもないスピードでマーティオの身体を引き裂いていく。胴体、四肢、そして顔に無数のネイルブレードの傷跡が出来上がっていく。

「がああああああああああああああ!!!!」

 痛みの咆哮を上げたかと思いきや、マーティオの銀の瞳が激しく唸る。

「―――!?」

 その直後、まるで大波の様な衝撃波が快斗に襲い掛かる。波に飲まれた彼はそのままぶっ飛ばされるが、

(致命傷を負うほどじゃ無い!)

 通常の彼、もしくは普通の邪眼を使用している状態なら多少は大きなダメージを受けている事だろう。だが、今の彼は今までの彼とは『次元』からして違う。その分、副作用も半端じゃな無い訳だが。

(副作用が来るまで大凡1時間! それまでにこいつを大人しくさせねぇと……)

 しかし次の瞬間。彼は信じられない光景を見た。
 マーティオの背中から何か出っ張りの様な物が見える。まるで箱の中におさまりきらない玩具のように。

「まさか―――」

 その直後、マーティオの背中から漆黒の翼が飛び出した。背中の皮膚を突き破って出現した為か、所々血で汚れているが、その傷も快斗から受けた傷も一瞬でふさがっていく。

「強力な再生能力……これがリーサル・サイズのレベル4の本当の力!?」

 マーティオの蝙蝠の様な漆黒の羽が大きく羽ばたき出す。それは、一旦力を溜めてから、

「!」

 一気に突撃。まるでミサイルの様な印象を受ける突撃だった。
 しかも厄介なのは先ほど突撃してきた時よりもスピードが遥かに上だと言う事である。

「ちぃ!」

 両手に力を集中させる。その両手で突撃してきたマーティオの大鎌の柄を掴んで突撃の衝撃を中和するが、

(パワーも極端に上がっていやがる! なんなんだこの羽!)

 それにはある一種の恐怖さえ覚える極端なパワーアップぶりだった。真の姿をさらけ出したそれは例えて言うなら蛹からかえった成虫のような印象を受ける。

(そんな可愛い例えに当てはまらないけどな……!)

 力と力の押し合いが続く。これは先に根負けした方が敗北する勝負だ。

「―――――何!?」

 だが次の瞬間、突然真上から轟音が響いてきた。
 思わず頭上を見上げる二人だったが、其処に存在していたのは青の光を発しながらこちらに突撃してくる巨大な『彗星』だった。

「嘘だろオイ!?」

「ひゃ、ひゃはは! ははははははははははは!!!!!」

 マーティオの気味の悪い笑い声が木霊す中、彼ら二人のところへと彗星は向かって来る。もう逃げても間に合わない。

「――――!」

 次の瞬間、青の光が彼らを飲み込んだ。部屋を軽々と、まるで鉄球でも使って破壊しているかのように破壊しながら、彗星は消えていった。

 神鷹・快斗とマーティオ・S・ベルセリオンの二人を飲み込んだまま、彗星が突然消え去ったのである。何事も無かったかのように。
 まるで、そうなる『運命』なのだとも言わんばかりに。






第十三話「キメラ」



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