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紫色の月光

第十三話「キメラ」

第十三話「キメラ」


<メサイア基地>


「つ……!」

 頭痛がヤケに響く中、ライは力を振り絞って起き上がる。しかし、此処で一つの問題が生じた。

「……何処だ、此処?」

 確か、自分はビルの中で怪盗を追いかけていて、その後出現したリオン達にやられて……その後の記憶が全く無い。

「……廃墟か?」

 どうやら何らかの建物の一部のようだが、まるで抉られたかのようにこの辺りだけがボロボロにされている。しかし問題は其処だけではない。こんなにボロボロなのに何故自分は無事なのだろうか。

(多少の火傷に切り傷はまあなんとかなるとして……どう考えても俺だけ無事って言うのはおかしいよな)

 そもそもにして状況がまるで見えない。此処が何処で、今が何時で、他に人が居ないのか。
 それらを考えていると、不意に後ろから女の声が響いた。

「あら、彗星が突っ込んできたと思ったら無事なのが一人いるみたいね」

「誰だ!?」

 振り向いてみると、其処には想像を絶する光景があった。
 首無しの女の体が生首を掴んでその場に立っているのである。しかも生首の方は額に銃弾を打ち込まれているようで、穴が一つ空いている。更に、胴体の方には何かの刃物に切られたのか、生々しい傷跡が残っていた。

「私かい?」

 生首の女が不気味に顔を歪ませると、首を無理矢理元あった位置に置く。すると、みるみる内に首が身体に繋がっていくではないか。頭の穴も胴体の傷跡もまた同じである。

「シャロンだよ。……一度ぶっ飛ばされた首を探していたらちょっち時間がかかっちゃってね」

 女の正体はシャロンだった。
 前回、彼女は快斗に首を刎ねられ、紫伝に頭を撃ち抜かれ、栄治に胴体を切られたわけだが、それでも生きていたのである。いや、普通ならどれか一つだけでも死んでいる。
 その常識を覆したのは彼女の能力による物だ。

「私の能力は超がつきそうなほど強力な再生能力で、しかも死にません。あの神鷹とベルセリオンの二人に復讐したかったのですが、この能力を使って一度殺しがしてみたかったところです」

 そう言うと、シャロンは懐からレーザーナイフを取り出した。一般の武器屋では売られていない、裏製品である。

「人間だった時には味わえない快感を味わえればいいんですけどねぇ!」

 シャロンがマーティオ並に不気味な笑みを浮かべながら襲い掛かってくる。その速度は人間のそれを遥かに超えている。最早チーターレベルだ。

「ちぃ!」

 ライは舌打ちをしつつも、とっさにレーザーソードの柄を取り出し、シャロンの接近を防ぐように切りかかる。

「おっと」

 その斬劇をいとも容易く避けると、シャロンはくすくす、と笑い始めた。

「ははははは……! キメラに寄生される奴だからどんなのかと思ってみれば、随分と痛い目に会ったようじゃないか」

 否定はしない。何故だか分らないが、何時の間にか火傷していたり切り傷があったりして、身体中が痛んでいる事実がある(実際は暴走マーティオに痛めつけられたのだが)。
 しかし、否定しない代わりにかなりムカついた。

「いきなり襲ってきてそれか……再生能力だが知らないが、当たればお前なんか」

「おっと、耳に入ってなかったのかな? 私は死なないんだよ……なにをされようがね」

 すると、シャロンは大きく手を広げて、自ら大きな隙を作る。

「さあ、何処からでも、何度でも斬りつけてごらん」

 妖しささえ覚える笑みを浮かべてシャロンが誘う。
 しかし、ライは中々踏み切れない。確かにチャンスではあるのだが、こんな自ら斬って来いと言う奴は初めてだったからだ。そしてその分何か不気味な物さえ感じられる。

「どうした、恐いのかい?」

 挑発するようにシャロンが言う。しかし実際そのとおりだった。
 このシャロンから満ちている自信は相当な物である。しかも首が繋がる場面まで見せられたのだから尚更だ。

「……く!」

 こんなに焦らされる勝負なんて今まで体感した事があるだろうか。少なくとも、最近は無い。

(どうする。奴を斬るべきか……しかし、下手に接近して、奴の攻撃を受けたらアウトだ)

 シャロンの片手には未だにレーザーナイフが握られている。少なくとも、シャロン本人の能力よりも脅威なのはこの武器の威力だ。例え何度再生しようがこちらに決定的ダメージを与えられなければ意味が無い。

「……おや?」

 その時、シャロンは気付いた。ライの視線が自分ではなく、握っているナイフに向けられている事に、だ。

「成る程成る程、迂闊に接近したらやられる、と。そう判断した訳だ」

 すると、何を考えているのかシャロンは自らナイフを手放した。まるでゴミでも捨てるかのように。

「何!?」

 コレには思わずライも疑問の声を発するしかないが、シャロンは相変わらずこちらを誘ってくる。

「さあ、これで遠慮する必要は無い。派手に斬りかかって来たまえ」

「……」

 どういうつもりだろうか。ただ自分の能力の自慢がしたいのか。もしくは痛みに何らかの快感を得たのか。

(どっちにしろ……)

 やるしかないだろう。状況はやはり見えないが、今の状態ではこの女を倒さないとやられる可能性が大きい。

「どうしました? 早く斬ってくださいよ」

「そんなにお望みなら……」

 ライが遠慮なくレーザーを構えて突撃してくる。その速度はやはりR・J社の誇るエリートの中のエリート。そんじょそこいらのヴァリスとレベルが違った。

「焼き切ってやる!」

 一閃。

 そして続けざまにもう一振り、さらにもう一振りと、次々とシャロンの身体をレーザーで焼き、切り裂いていく。野菜で言うなら微塵切りだ。

「どうだ!」

 何度斬ったかは勢いに任せていたから覚えてはいない。しかし、腕に足に首、更には胴体が7分割されているされている所を見ると、少なくとも10回は斬った事になる。

「………流石に生きてないだろ。臓器もやられてるだろうし」

「それはどうかねぇ?」

 不意に、不気味な声が響く。
 
「まさか……まだ生きているのか!?」

「そりゃあそうさ。言っただろう?」

 足元に転がっているシャロンの頭部の肉片。そこについている口から彼女の声が発せられている。

「私は死なないのさ。――――どんな事をされても、ね」

 次の瞬間、切り裂いたはずの腕がロケットパンチのようにライに襲い掛かってきた。突然の出来事で、しかも完全に不意を突かれたその一撃をモロに受けたライは宙へと浮かぶ。

(重い――――!)

 女性の物とは思えない強力なパンチだ。しかも切り裂いた物なのだから洒落にならない。

「くそ!」

 床にたたきつけられた後、すぐさま起き上がるが、目の前には既に体の各部が完全に繋がっているシャロンの姿があった。

「はは! こりゃあ愉快……では、そろそろフィナーレと行きましょうか!」

 振り上げられているその片手にはレーザーナイフが力強く握られている。そして次の瞬間、シャロンは遠慮なくそれをライの顔面目掛けて振り下ろした。


 ○


<メサイア基地Zブロック>


「……来たか」

 メサイア基地で一番てっぺんに位置するZブロックには一人の白衣の男が居る。今回の元凶、ビリオムだ。
 そして、そのビリオムの背後には幾つ者人影があった。

「貴方がビリオム博士ですか?」

 先頭にいる紫伝が問う。

「そうだよ、ジーンナンバー4の冷凍能力の持ち主、樹君」

 思わず紫伝の表情が強張るが、知るかとでも言わんばかりにビリオムは続けた。

「君の横に居る男はジーンナンバー7の発火能力者の柳君だろう。そして後ろにいるのが、今のキメラの昔の人格、ジーンΧ」

 ビリオムの目の前の巨大カプセルの中には、あのキメラの姿があった。しかも何かの液体で満たされており、所々何かのコードで繋がれている。

「君達ジーンの事なら、よく知っている。あの神鷹君も含めてね。……あの日、全てから追放された私は、偶然このジーンΧの心臓、Χコアを入手した。そしてそのコアを手に取った瞬間、私は見たのだ」

 ジーンΧの記憶全てを。

 連邦軍に作られた戦闘用アンドロイドとして覚醒したその存在は、思考回路が狂ってしまっていた。それはウィルスのように他の二体にも感染し、彼等の思考には一つの目標がインプットされてしまったのだ。

 それが彼等の天下である。

 邪魔なジーンも、アンチジーンも、自分達を作り出した軍も全て消し飛ばし、全てを自分達の思い通りにする。それこそが彼等の最初の思考だった。

 そしてその先陣をとったジーンΧは神鷹・快斗とゼッペル・アウルノートの決戦に割って入り、二人を亡き者にせんと攻撃を仕掛けたのだ。
 しかし、実際倒したのはゼッペルだけだった。

 他の二人も栄治と紫伝の二人に殺され、力を吸収してパワーアップした状態で3人に挑んだのだが、それでも彼等の放つ攻撃の前に散ってしまった。

 問題は其処からだ。

 
 あの時、次元の狭間での戦いでジーンΧは確かに快斗達の攻撃を受け、細胞一つ残らず散っていった『はず』だった。
 しかし、それほどまでに強力な一撃を受けておいて何故か心臓であるコアが、事もあろうか無傷なままこの世界にたどり着いてしまったのである。

 そしてそれがビリオムに発見され、まるで何かに寄生されたかのようにしてジーンΧのボディを作り直したのである。それがレインボージーンナンバー1、『キメラ』誕生の瞬間だった。

「アンタが何を見たのかなんてどーでもいいぜ」

 栄治がイラつきを隠せない口調で言う。

「そのとおりであるな。此処まで来たのだからそのキメラとやら、破壊させてもらう!」

 サルファーが剣を構える。が、しかし。ビリオムは動じようとしない。

「ところで君達。私の切り札がジーンだけじゃないのはご存知だね?」

 言われてハッ、となった。世界各地で卵が出現し、その中からバケモノが誕生したのである。と、言う事は同じく卵形の基地である此処からもバケモノが出てくる可能性がある。

「では特と御覧頂こう! これこそがこの基地に収納されている生物型兵器――――」

 それと同時、天井が展開し、外の光景が明らかになる。
 そこから見えるのは黒い二本の柱だった。

「……!?」

 いや、柱と思っていたのはよく見れば角だ。ゆっくりとその顔を上げて現れたそのシルエットはどがつきそうな程巨大なドラゴンだった。しかもロシアとブラジルに現れた奴等の比にならないほどの。

「出でよ、イビルドラゴン!」

 漆黒の巨大な翼が羽ばたき始める。

 羽ばたきにあわせて突風が巻き起こる。

「うわ!」

「ちぃ!」

 黒の巨体がゆっくりと宙に浮く。どうやったらこんな巨体が空に浮かぶのか聞いて見たいところだ。

「おい、何処に行きやがる!」

「決まってるだろう。私のいやな思い出がある場所全てだよ……そして折角だ。君達には消えてもらおう」

 すると、ビリオムの後ろにあるキメラが収納されているカプセルにヒビが入る。

「この私の手で直々に消えてもらうとしよう!」

 カプセルの中のキメラが怪しく動き出す。そして次の瞬間、カプセルのヒビからキメラの液体金属が溢れ出していく。

「こいつは――――!」

 栄治が思わず舌打ちする。この光景は忘れもしない、あのジーンΧの能力だ。体自体が強力な液体金属で構成されており、身体の各部からビームを発射できると言う能力。ゼッペルもこの能力の強大さの前に散ったのだ。

 今は寄生能力も混じっているようだが、その液体金属は栄治達ではなく、ビリオムを包んでいく。

「言わば最強の矛と最強の盾なのだよこれは! 矛盾を超越した最強の存在、それこそがジーンΧのコアが私に伝えた言葉! キメラが私に与えた新たな破壊の力!」

 ビリオムの鎧となっていく自分の元の身体を見ていたリディアは、奥歯を噛み締め、拳を震わせていた。
 悔しいのだ。自分の身体をあんなふうに使われて、そして何も出来ない今の自分が誰よりも許せなかった。ウィルスに感染していたんだろうがどうでもいい。兎に角、色んな思いが駆け巡った今の彼女(彼)が思考する事は唯一つだった。

(俺の人生は一体なんだったんだ!?)

 ウィルスが感染したのか、何処かのプログラムが故障したのかは知らない。しかし、それでも自分の意思でゼッペルを殺し、そして快斗達を殺そうと思ったのも事実だ。

 だが、それらが全て砕かれてしまいそうで、何もかもが否定されてしまいそうで、ただ恐かった。

 戦う術を持たない今のリディアの精一杯の感情の塊が、その握り拳に込められていった。

 しかし、それは昔ジーンΧとして活動していた時には出来なかった事なのだと言う事を、彼女はまだ気付いていない。


 ○


<???>


 羽ばたき、攻撃目標を定める為に射程範囲内へと飛翔するイビルドラゴン。

『コウゲキモクヒョウ……マデ………アト500めーとる』

 そのプログラムに指定された位置に移動する事が今の彼の任務だ。その口内から放たれる高威力エネルギーブラスターをぶっ放せば、町なんか一瞬にして消え去ってしまう。下手したら大陸ですら消滅できるだろう。

「ちょっと待て」

 しかし、そんな超巨大な龍の行く手を阻む存在が目の前に現れた。アフリカで卵の中身を食い、そして今、この場にやって来たのはR・J社のヴァリスなら誰でも知っている存在。皆から『おっさん』、もしくは『叔父さん』と呼ばれるR・J社副社長のヴェイダだ。

「―――――!」

 イビルドラゴンが威嚇するかのように吼えるが、ヴェイダは全く気にもとめていないようである。

「ほう、威勢はいいな……だが、これから始まる素晴らしいショーを前にして、未だにその迫力が残っているかどうか」

 そう言うと、ヴェイダは静かにクローを展開。イビルドラゴンに向けて挑発するように手招きをした。







<???>


 其処は、ただ青かった。青いだけの光の世界。そしてそんな光の中、五つの人影があった。だが、その中で動いているのはたった二つだけ。そしてその二つの影の持ち主は、少年だった。

「どうするー? なんだか別の人も巻き込んじゃったみたいだけど?」

「確か、マーティオ・S・ベルセリオンって言ったねー」

 二人の間には、暴走状態が収まっているが、気絶して深い眠りについているマーティオの姿があった。

「でもさー、神鷹・快斗にゼッペル・アウルノートがいるんだし、いいんじゃないかな?」

 そしてその隣に、同じく気絶している快斗と、深い眠りについているように動かないゼッペルがいた。ただ、ゼッペルは前に少年達が出した時と違っている部分が会った。

「ところで……ゼッペルの方は生きてる?」

「生きてる生きてる……新しい心臓が鳴ってるよー!」

「そっか。じゃあ予定通りいこうか!」

 少年が言うと、もう一人の少年が待ったをかけた。

「あのさぁ……折角だからもう少し外を見てみない?」

「何か面白いの?」

「いや、其処は分らないけど……折角なんだからもう少し見守るのもアリかな、て。それに、この3人はあくまで『保険』でしょ?」

「……そうだね。それじゃあその時が来たら――――」

「うん、この三人を『合体』させるんだよねー」

「『融合』じゃなかったっけ? ……まあいいや」

 そう言うと、二人の少年はまるでテレビでも見るかのようにして、その場に座り込んだ。その視線の先には、地球の様子が映し出されていた。





第十四話「ジョーカー」



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