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「くっそ!」
面倒くさい相手だ。 光の矢に追いかけられつつも、カイトはそう思う。 (アシュロントが薔薇を媒体にして攻撃してくるタイプなら、奴は最初に出現させた光の玉を媒体にして攻撃してくるタイプか) 光の玉は形状の変化も可能。 そうなると、見ただけでは光の玉からどういった攻撃に派生してくるのか判別しづらい。 (アシュロントは薔薇の色である程度見分けることが出来た。だが、トンガリクラゲはちとややこしいな) 何分、見せてもらえたのが弓矢だけと言うのもある。 それに重要なのはこの光の玉の攻撃メカニズムではなく、『処理方法』だ。 (避けても追尾してくる。それなら受け止めるしかないが――――) 弓矢を受け止める行動自体は問題ない。幸いにも動体視力には自信があるし、左腕の使えない分は両足で何とかしてみせる。 問題は受け止めたとしてその後どうなるか、だ。 電流が流れてくるのか、それとも爆発するのか。 もしかしたら何も起こらないかも知れないし、カイトの予想だにしない効果が現れるのかもしれない。 もしそうなら、一番手っ取り早い状況打破の手段としては、 (……本人に聞いた方が手っ取り早いか) そこまで考えたら、行動は早かった。 即座に右向け右。 追いかけてくる光の弓矢との距離をやや視線で確認しつつ、 「ん」 メラニー目掛けて、全力でダッシュ。 一歩足を踏み出すことで数十メートルも開いた距離が一気に縮まり、更にもう一歩踏み出すことで距離は半分にまで持ち込まれる。 「え――――」 まるでロケットのような突撃に目を見開いたのは、相対していたメラニーだった。 観客席からこの新人が凄まじいダッシュ力を見せ付けてアシュロントを捻じ伏せたのを見ていた為に判る。 そしてこの殺気の篭った目。 (捕まえに来た!?) 光の弓矢が追いかけるも、最初のダッシュで一気に距離が離れてしまっている。 このままでは矢が届く前に捕まり、そのまま捻じ伏せられるのがオチだろう。 (アシュロント戦を見る限り、流石に身体能力では勝てない! あのダッシュをかく乱させる為に『矢』を出したのに……) 実を言うと、メラニーの攻撃方法は大凡カイトの予想と一致していた。 光の玉を生成し、それを様々な形に変形させることで戦っていく。 当然ながら強力な一撃もあると言えばあるが、 (あの人の脚力は私の『一撃』ですら避ける! 仕掛けるのは動きを封じてから) その為の隙を作り出す為にも、力で捻じ伏せられる訳には行かない。 故に、彼女は新たな玉を生成し始める。 「!」 それを肉眼で確認しつつも、カイトは接近を止めようとはしない。 すぐ後ろに弓矢が迫ってきていたからだ。 (今度の玉は何だ!?) 答えはすぐに返ってきた。 ソレはメラニーの手に収まるように収まる部位が存在し、同時にカイトと距離が多少離れていても問題なく攻撃できる武器。 「鉄砲!」 「穴空きなさい!」 生成された玉から作り出した物は黄金の拳銃だった。 それを握り締めた後、メラニーはすぐさま銃口をカイトに向け、 「!?」 発砲。 その銃口より出現したのは、 (金ぴかの……パチンコ玉、か?) 人間離れした動体視力が捉えた弾丸は、紛れも無く金ぴかだった。 だが、その形状は銃弾と言うよりもパチンコ玉。 何の凹凸も無い球体であった。 出来る事なら売り払いたいところだが、危険物の可能性は後ろの矢と同様だからだ。 それ故にカイトはこの金の玉の危険性をこの場で確認してみる事にした。 その方法は簡単だ。 (避けて、後ろの矢と接触させる!) 直後、ゴォッ、という凄まじい音がコロシアム全体に鳴り響いた。 その音の発生源はカイトだ。 彼はその場で残像が残るほどの素早い動きで砂煙を巻き起こし、目くらましを用意した。 「!」 その意味を真っ先に理解するのは審判を務めているカインだった。 彼はカイトとメラニーを真横から見る位置にいた為、対峙しているメラニーよりも状況を把握することが出来たのだ。 (そんな……事が!?) だが、彼から見てそれは予想を大きく上回る光景だった。 カイトが砂煙を巻き起こしたのは、その場で大きく身体をひねって、そのまま回転を行ったからだ。 会場全体に響く程の大きな動きだった。それ故に、巻き起こる砂煙も比例して大きくなる。 しかしその行動の目的は単に身体をひねることには無く、 (その場で回転を起こすことで風力を作り、矢の軌道と弾丸の軌道をぶつけるつもりですか!?) 全く予想だにしない行動。 しかし、そうすることでメリットは生まれる。 (後ろから来る矢と前から来る弾丸を同時に回避することが出来、尚且つ『玉』の性質を知ることが出来る) 同時に、メラニーに危機が訪れつつある事をカインは予感する。 何故ならば、 (メラニーの身体は少女のソレとなんら変わりがない。成人男性のアシュロントすら殆ど一撃でノックアウトされてしまっている以上、メラニーは更にダメージが大きいはず!) 目視した弾丸と矢の衝突。 その瞬間、何が起こるのかをカイトの目は冷静に観察していた。 (成る程、何も起きない) それを理解することが出来ただけで十分だった。 矢も弾丸も、玉と言う名の金属で出来た普通の武器であるという証明になったのである。 (一発一発にアシュロントの薔薇みたいな厄介な物は含まれている様子は無い。それなら、) 一気に距離を詰めて、切り裂く。 左腕が無くても右腕だけあれば十分可能な行為だ。 故に、彼は矢が全てメラニーの方に戻ったのを確認してから、 「!」 一気に突撃。 注意するべきなのは玉で作り出す何か。 だが自慢の足がある以上、何が来ようが避ける自信がある。 (懐に飛び込めればこっちのもんだ!) その理論はメラニーにも判っていた。 それ故に、勝負を仕掛けなければならなかった。 (殆ど、圧倒されている……) メラニーはそう思った。 否、思わざるを得なかった。 (左腕が使えないからと言って舐めてかかるつもりは無かった。でも、) それでも、目の前にいる男の戦闘能力は予想よりも高かった。 矢で追い詰め、じわじわと弱らせていこうと考えるも彼は真っ向からこちらに突き進んでくる。 能力の高さと言うよりも、彼の体験したであろう経験の違いを思い知らされた。 (戦い慣れている……! 過去に私達のような能力者と何度も戦ったことがある!) しかし、それを思い知らされたからと言って『はい、そうですか』と負ける訳には行かない。 シルバークラス最強の一角、レオパルド部隊の代表として自ら前に出た以上、グループの名に泥を塗ることだけは避けなければならないからだ。 (仕方が無いですね) 肩を落とす。 それは諦めではなく、反撃のための『開き直り』。 「本気で行きますよ!」 その一言で十分だった。 メラニーは弾丸のように突き進んでくるカイトを睨むと同時、 「!」 その場で大きく宙に浮く。 元々ふわふわと浮いてはいたが、今度は明らかに『空を飛んでいる』と言ってもいいほどの高さまで浮いている。 これでは地上から攻撃を仕掛けたとしても、当たらない。 「どーした突然。今更やる気になったのか?」 カイトがこちらを見上げつつも言う。 「いえ、元からやる気でしたが……貴方をやや見くびっていたようです。私の『本来のスタイル』で思う存分にやらせてもらおうかと」 本来のスタイルで戦えば幾ら素早かろうが関係ない。 この移動範囲が限られたコロシアムと言う会場範囲内であれば特に、だ。 (私の本来の戦闘スタイルは玉を設置し、他の玉とエネルギーをリンクさせることによって強大な爆発を生み出すこと!) 簡単に纏めると、複数の玉で範囲を囲むことによってその『範囲』を爆発させることが出来る。 要するに、広域攻撃だ。 (既に矢を作った際に、設置している) 玉を設置した場所は、このコロシアム会場の選手の移動範囲全域。 即ち、カイトがどこに逃げても爆発からは逃れられない。 (審判でカインも居るけど……彼には『マント』がある以上、心配は無いです。殺してはだめと言うルールですが、) 『戦いに出た理由』を考えると、それでいいのかもしれない。 身体能力の差で大きく彼に劣っているメラニーが彼に戦いを仕掛けたのには理由があった。 (彼を追い詰める……! 肉体的にも、精神的にも……) それは、カイトの実戦テストが始まる数時間前の事だった。 いきなりシルバークラスから代表を選出するという今回の新入り。 自分達レオパルド部隊はもし出番が来た場合、誰を選出するかと言う話で持ちきりだった。 最初に立候補したのは、ケースXが発動された時に退けられたゲイザーだそうだが却下され、同じグループに所属するアシュロントが選ばれている。 アシュロント・ネリアスの能力は知っていた。 故に、彼を簡単に突破することは出来ないと考えていたし、最悪の場合何も出来ずに新入りはボロボロになってしまうのではないかと考えていた。 (ま。私には関係の無いことですけど) 軽く朝食を済ませつつ、二人の姉と妹分たちに挨拶を交わした後もメラニーはカイトに興味を持たなかった。 元々レオパルド部隊は女性で構成されているグループと言うのもあり、新入りが男性である以上このグループに配属されることは先ず無いであろうと考えていたからだ。 他のグループに配属されるのであれば、特に知る必要は無い。 あくまでそう考えていた。 「あ」 そんな時だった。 廊下で偶然すれ違った組織の幹部の一人――――ペルセウスを引き連れたゴスロリ少女、キルアが『丁度いい』と言った感じの顔で声をかけてきた。 「シルバークラスの三人、エリシャル三姉妹の末っ子か……丁度いい、私の頼みを聞いてくれないか?」 「は、はっ!」 あまりにも突然の事だったので、思わず敬礼していた。 歳は大体自分と同じかそれ以下と言った所なのに、逆らうことは出来ない。 絶対的な力の差を知っているからだ。 それは今も尚、キルアから発せられるプレッシャーとしてメラニーに圧し掛かっている。 「今度の新人の事については知っているだろう?」 「え、ええ。代表はシルバーランクから選出されるそうですが」 確か、既にゲイザーを退けている為にブロンズでは釣り合いが取れないという理由でシルバーから選出されるという経緯だったか。 「そうだ。そこで……お前にその新入り君を追い詰めてもらいたい」 「え?」 言われた意味が良くわからなかった。 追い詰めるという事は即ち実戦テストに出場し、勝てと言うことだろうか。 「ただ追い詰めるだけでは奴は『切り札』を使おうとはしないはずだ。それでは意味が無い」 「はぁ……?」 切り札とは何のことだろう。 少なくともこの時のメラニーには今度の新入り君には自分と同じようなちょっとした能力、もしくは何か凄い武器を隠してるのではないかとしか考えていなかった。 「もし、新入り君にその『切り札』を使わせたなら……お前の願いを叶えるよう、頼み込んでやってもいい」 元から上司に言われたことだっただけに、やるつもりではあった。 しかしこの一言が加わったら『やる気』が違う。 「メラニー……お前の願いは確か、親代わりになってくれたタイラントの願いを叶えること、だったな」 「は、はい……」 組織の構成員となって早5年。 5年間頑張って稼いだ持ちポイントを数えても、目に映らないほどに遠くかけ離れている『願い』到達ポイント。 それに一気に近づくチャンスを貰えた。 「御姉様もさぞ期待してるだろうな……私も期待させてもらうが、な」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.10.28 16:19:46
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