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もうどのくらいの間流されたのだろうか。
病院付近でアーニャに蹴られて再びどんぶらこどんぶらこと川を漂流していた赤髪の青年、和輝はそう思っていた。 正直なところ最初はぶっ飛ばされる前の衝撃的なビジョンが頭から離れた無かった訳だが、にやけていたら殺されそうな予感がしたので今は封印しておくことにした。 (おえええ……大分流されたなぁ) ゲーム開始から約2時間。 川から二度目の脱出を試みた時の事である。 汚い川に流されて早1時間。 どうやら今まで気絶していたらしく、大分汚い水を飲んでしまったようだ。 出来れば直ぐにでも新鮮な空気を吸ってリフレッシュしたいところだが、 (新鮮なもんかよ。こんな場所で吸う空気なんて……) 這い上がってみれば、橋が見えた。 どうやら自分がぶたれた時に近くに見られた橋とはまた別の橋のようだ。 (さっきの橋より南にある橋みたいだな) 地図で言えば最南端の橋になる。 丁度この橋を渡れば主な戦場である市街地の方面に到達できる訳だが、 (また、襲われるのかな……他に参加してる皆も) 名簿を全て読んだわけではないし、最初に襲われた際に誰に襲撃されたのかもわからない。 だがゲーム開始直後に何者かの襲撃を受けた和輝としては進んで市街地と言う名の『殺し合いの場所』に行くことを躊躇った。 「……」 目の前に見えるのは橋を通して見える市街地。 そしてその奥にあるのは山だ。 既に何人殺されただろうか。 自分は生き残れるのだろうか。 美咲や皆は生きているんだろうか。 そう思うしかなかった。 「くそっ!」 和輝がその場でやった事は悪態をつく事だった。 何も出来ない。 そう思うことで沸き立つ無力感が彼の苛立ちを募らせていた。 (何か俺に出来ることは無いのか!? 皆を助けることが出来る何か――――) 皆が無事にゲームを切り上げてこの舞台から脱出する。 大まかに考えてしまえばこれが現時点での最善のハッピーエンドなのだろう。 ではその為に自分は何をすれいいのだろうか? 何が出来るんだろうか? ソレを考えなければならない。 「ごきげんよう」 だが、そんな彼の思考を遮るようにして可憐な声が静寂の闇の中に響き渡った。 「!?」 誰かいる。 どう思うと同時、和輝は声のする方向に振り返っていた。 「あんたは……」 全身が白。 それ故にこの夜の中では一際目立っている存在があった。 だが前髪が長くて左目がやや隠れているその美女は和輝の知らない顔だった。 「えーっと……どちら様で?」 「私、このゲームに参加を余儀なくされたメシアと申します」 白い美女はそう名乗ると、スカートを摘んでメイドのようにお辞儀をして見せた。 しかし和輝が反応するべき事は彼女が礼儀正しいという点ではない。 「参加を余儀なくされたって事は……メシアさんも巻き込まれたってこと?」 「はい。同じくこのゲームに私のマスターも巻き込まれてしまったので、マスターを探したいと考えていたのですが……」 夜風が吹いた。 それを合図とするかのようにメシアの機械的な笑顔がぐにゃり、と歪んだ。 「私が優勝すれば済むことだと判断しました」 「え――――?」 その笑顔は本当に嬉しそうで、まるで無邪気な子供が新しい玩具を買ってもらえたかのような純粋な笑顔だった。 しかしその笑顔と言葉を認めたと同時、和輝は理解した。 (ゲームに、乗ってる――――!?) それを理解したと同時に、和輝の視界に無数の銀の線が走った。 その無数の線は和輝の五体に巻きつき、彼にティアマットを抜く隙と時間を与えない。 「天津風吹雪……瀧波時雨……」 メシアの両手に装着されている武装こそが彼女が引き当てた『武器』だった。 暗殺の手段として最も有効であろうワイヤー殺法とナイフを一度に手に入れることが出来たのはゲームに乗ることを決意した彼女にとっては幸運だった。 左手に装着されたワイヤーシュート用の時雨が獲物を絡め取り、右手に到着された方が投擲ナイフの吹雪を内蔵しているケースである。 蒼龍騎士団四号機、レニーの武装だ。 「くっ、そ……!」 既にワイヤーに絡み取られた和輝はそれでもティアマットを抜こうとするが、時雨のワイヤーが指にまで絡み付いていて自由が利かない。 完全に『捕まった』。 「普通に考えれば吹雪で頭を刺せばそれで終わりなんですが」 その言葉に和輝は息を飲む。 今度こそ殺される。 そう思うと体の奥から冷たい物が湧き上がってきて、止められなかった。 「生憎、私はまだ時雨を上手く使いこなしてないのです。なので少し実験をさせてください」 こちらの了承の言葉を待たず、メシアは時雨を装着している左手を動かす。 ソレと同時、 「う、ああああああああああああああああああああ!!」 和輝の右腕。 ソコから生える人差し指に強烈な痛みと熱が走った。 「お――――」 何が起きたのかは目視で確認できる。 人差し指の爪をワイヤーで引きちぎられたのだ。 「意外と細部まで弄り倒せそうですね。ここら一体にテリトリーを張っておくと意外と獲物が引っかかるかもしれません」 その言葉を聞いた瞬間、和輝は理解した。 この女はもう人を玩具としか見ていない、と。 (今此処で止めないと、何も知らない美咲や皆がやられるかもしれない……どうすれば……!) 和輝が何とかして脱出を図ろうと考えていたその時、彼は見た。 メシアが投擲ナイフ、吹雪を手に取ったのを、だ。 「では、誰か来る前に終わりとしましょう」 殺される。 和輝は直感的にソレを理解した。 が、 「待ちなさい!」 「!」 橋の向こう。 市街地の方からこちらに向かってくる声が響いた。 「どちら様でしょうか。橋には誰もいないみたいですが……」 確かに橋からこちらに向かってくる足音は聞こえない。 だから彼女の言うとおり橋には誰もいないだろう。 だが和輝は知っている。 橋を渡らずにこちらにやって来ることが出来る知り合いが彼にはいた。 「レミエル――――!」 「やっと見つけたわよ! 手間かけさせて!」 背中から広がる六枚翼を羽ばたかせて『空』から襲撃を仕掛けてきたのは天使だった。 その手に持っているのは愛銃のガンスレイ―――― ではなく、只の双剣であった。 しかも結構短い。 「まあ、綺麗な羽ですね。ですが」 落として差し上げます。 そう言ってメシアは手に取っていた吹雪をレミエル向けて投擲。 だがレミエルはそれを回避。 直後、持っていた双剣の一本を和輝に向けて投げつけた。 「え、ええええええええええええ!!?」 何でレミエルが投げつけるんだ!? 俺レミエルに何かした!? 別に風呂を覗こうとしたわけでもないしおやつのチョコレートを食べた訳でもないしっていうかあれ美咲が食べたんだっけ!? 「ちょっと! 聞こえてるわよ!」 どうやら口に出してしまっていたらしい。 極限にまで陥ったハプニング魂は心の呟きを勝手に口から出してしまうようだ。 「安心しなさい。もう自由に動けるはずでしょ?」 「あ、本当だ」 放たれた双剣の一本は和輝を絡み取っているワイヤー目掛けて放たれた物だ。 それが糸口になり、和輝はワイヤーからの脱出を試みる。 「ちっ」 ソレを見たメシアは静かに舌打ちした。 折角蜘蛛の巣に引っかかったのに、あっさりと脱出されてしまった。 詰まらない。 いや、何よりも 「マスターと私が逃げ出せないじゃないですか」 せめて此処で一人は殺す。 彼女の頭が身体にそう命令した。 そうすれば彼女の身体は動き出す。 ○ 「大丈夫? 指が痛々しいけど……」 「ああ、大丈夫……幸いにも再生能力を引き当てたしな」 レミエルの援護によりワイヤーから脱出した和輝は彼女に肩を貸してもらう形になっていた。 いかに再生能力があろうとも、身体中にかかったダメージは深い。 例を挙げるなら大蛇が獲物を締め付けてきたような物だ。 此処は再生で徐々に回復しつつ、逃げた方がいい。 そう判断した。 「それにしても……良かったぁ。やっと知り合いに会えたよおおおお……」 半ば涙目になりつつある和輝にあはは、と失笑しながらレミエルは地面に突き刺さった双剣を抜き取る。 (一体この二時間でなにがあったのかしら……?) よく見れば服も濡れてるし、心なしか臭い。 一応立てるようだし、此処は一度距離を離した方がいいだろう。 臭いし。 「あ、あれ? レミエル、なんで離れるんだ?」 「彼女は逃がしてくれそうに無いわ。一緒に固まってまた捕まったら折角助けに着たのに意味が無いでしょ?」 一応臭いの事は伏せておくが、一番の理由はソレだった。 目の前に居る白の女の武器は投擲ナイフとワイヤー。 しかもかなり自由自在に扱ってきている。 (それにしてもまさか彼女がゲーム乗るとは、ね) メシア。 彼女の顔は外出して遠くに遊びに行った時に何度も見たことがある。 よく笑顔を振りまいていて、紅茶やチョコレートをご馳走してもらったこともあった。 「ふ、ふふ……」 彼女は笑っていた。 何処か目が虚ろで、今にも壊れてしまいそうな笑い声が不気味に響く。 (まるで別人ね……) 彼女の本体は元々AIで、目の前にいる女の身体はレギオンと言う『入れ物』なのだという。 しかし少し触れただけで今にも壊れてしまいそうな危うさを放っている彼女は何処までも『人間』に見えた。 (武器のリーチが違い過ぎる……此処は逃げた方がいいわね) 和輝とレミエルは橋の上にいた。 メシアから逃げるとなればこのまま橋を渡って市街地の方に向かった方がいい。 他にも殺人者が潜んでいる可能性は高いが、目の前の殺人者を回避するためにはそれしかない。 何よりも和輝を連れては自分は飛べない。 そうなると彼だけを見殺しにすることになる。 「レミエル、何とか逃げた方が……」 「あら、奇遇ね。私も丁度同じ事を思ってたわ」 メシアのワイヤーが何処まで届いてくるのかはわからない。 だが、レミエルの双剣ではリーチが届かないし和輝は未だに指のダメージを回復しきってない為にティアマットの銃口を引けない。 「逃がしません」 だがそんな事は殺人者も承知の上だ。 だからこそこの場で殺そうと彼女も動き出す。 「走るわよ! 動ける!?」 「な、何とか動けるくらいには回復してる!」 メシアが走ってきた。 と、いう事は橋にまではワイヤーを仕掛けていないという事が計算できる。 もし仕掛けているなら橋で捕まえてしまえばいい話だからだ。 ソレがないという事は今もっとも注意するべき物は、 「ナイフが飛んでくるわ! 注意して!」 「おう!」 投擲ナイフ、吹雪。 トラップを仕掛けていない以上はこれがメイン武器になってくる。 それ故に後ろから追いかけてくる殺人者から逃げつつ、彼女から逃げ切る手段を考えなければならない。 だからこそ後方にばかり注意が飛んだ。 だから気付けなかった。 真正面から。 最初に放たれたナイフが大きくUターンして襲い掛かってきたことに、だ。 「え――――?」 空を切る音が聞こえて来た時には手遅れだった。 ナイフは吸い込まれるようにしてレミエルの頭部に迫り、 「レミエル――――!?」 彼女の左側頭部に突き刺さった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.11.16 02:55:05
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