「神々と獣たち」 ナチ・オカルティズムの謎
ダスティー・スクラー著 山中真智子・訳 1988/5 大陸書房 原書 GODS and BEASTS---The Nazis and the Occlut 1977
アガルタというキーワードで検索を続けていく限り、ナチの陰影を避けて続けることはできない。アガルタという概念は当然、ナチに先立って存在していたものだが、一部の秘儀的に使われていた概念がナチの動きによってより歴史の陰影の中に刻まれてしまった、ということは事実のようだ。
クリシュナムルティ、シュタイナー、ブラバッキー、グルジェフ、ユング、レーリッヒなどなど、20世紀の精神史に名だたる足跡を残した彼らの背景を探り続けていくと、次第にオカルティズムと抵触し、いつの間にやら、暗黒の漆喰の中に足を踏み入れてしまっていることに、ふと気づくことがある。
麻原集団が、あの暴走をしてしまった陰に、金剛乗(ヴァジラヤーナ)というチベット密教の最深部に関わる因縁があった。また、ナチの史上空前のあの暴挙の陰に、理想郷(アガルタ)に関わるチベット密教の因縁が関わっているとするなら、二つの事件(集団性)を通じる共通項があるのかも知れない。
思想史の底辺に流れる秘教的思想が、時代的社会性の中で不安や隙間を見つけ、ヒトラーや麻原のような「邪悪」な魂の出現をきっかけとして、噴出してくるのだろうか。この本の中にかかれるさまざまなオカルティズムは、マグマのように地下回廊を流動し、煮えたぎったエネルギーが大地の割れ目から吹き上げるのを待ち構えているかのようだ。
この本から抜書きすべきところはさまざまあれど、敢えて巻頭に引用されているスピノザの言辞を孫引きしておくところに留める。
それまでの観測が
役立たなくなるところに
幾度も追い込まれ
自分がむさぼってきた財産の価値が
不透明になって
希望と恐怖の狭間を右往左往し続けるときに、
ほとんどの人間は
盲信へとしがみつくのだ。
疑惑の時、特に希望と恐怖とが
その生存をめぐって
闘争する時代に、
人の心はあれこれと
脇道にそれることが
いとも容易にできる。
その悲嘆のどん底で、
人はどこで曲がるべきかも知らず、
ただ通り過ぎる人ごとに
それを請い求める。
彼らにとっては、
馬鹿げすぎること、愚かすぎることは
何一つとしてない。
----スピノザ