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カテゴリ:スピノザ
PTA活動をしていたときに、さまざまな外郭団体に参加し、さまざまな会議に顔をだすことが多かった。或るとき、小中学校の障害学級の支援団体の会議にでたことを思い出した。地域の小中学校10ほどの学校の管理職とPTA幹部が集まって、年に数回の会議があるのだが、その時に話題になったことがある。 それは、子供たちは「障害をもっている」のか、あるいは「障害がある」のか、どちらかに用語を統一しようという提案だった。子供たちは好き好んで障害を「持っている」のではない。単に障害が「ある」だけではないか。だから、「ある」に統一しようということだった。あまりこのような話題にはなじんでいなかった私は、なるほど、と思った。 ところが次の会議では、反論がでた。障害が「ある」のなら、それは克服できない、子供と不可分のものになってしまう。むしろ「持っている」と意識することによって、いつかは「持たなくなる」ことを目指すのもいいのではないか、ということだった。 ことは会の規約に関することである。いったんそう議決してしまえば、最短でも数年、場合によっては数十年、その規約が延々と続いていくことになる。議論は議論を呼んで、大変なことになってしまった。一方の論陣は、最近は「ある」のほうに傾いている。NHKのアナウンサーは「ある」で統一している、と言い出した。 あれ、それなら、「ある」で統一だなぁ、と結論づけられそうになった、次の会議では、みんな、テレビ番組視聴の結果を持ち寄った。どうやら、NHKでも統一されていないようなのだ。「ある」も「もつ」もある。一体、これはどちらが正しいのか。延々とその会議は続いた。結局、私がその会議に属していた一年間の間、その議論は続いたが、結論は出ずじまいだった。だから規約は以前のまま、あいまいなまま、続いていくこととなった。 この「差異と隔たり」という「倫理」にかかわる一冊を読みながら、あの時の議論が髣髴としてきて、またまた頭のなかのパズルがカタカタと動き出すのを感じた。 あの議論、いくつも問題を含んでいる。「障害」はその人間の特性なのか、属性なのか。障害をもつ(あるいは障害がある)本人である子供が自ら発する言葉(規定)ではなく、他者である親(あるいは教師)がどうこういっても、あまり意味はないのではないか。いやいや、その障害を克服していくことこそ教育なのだ、などなど。 障害と言っても、子供たちの置かれている状況はさまざまだ。肢体に不自由さを感じている場合もあれば、情緒に障害(といっていいのかわからないが)がある場合もある。あるいは、家族環境や生育家庭においての「しつけ」の問題だったりする場合もある。 もちろん克服できそうなこともあれば、それは絶対無理で、その環境を一生自分の環境として生き切る必要がある場合も多い。一口にはいえない。だが、各学校にある障害教室には、それぞれ数人づつだけど、それぞれにユニークな環境におかれている子供たちがいるのだ。 この議論において、NHKのテレビ番組の報告や、一般論以外、私はほとんど意味あることは何も発言することはできなかった。この時まで、いかに自分が、このような環境におかれている人々に対して、ほとんど無知ですごしてきたかを痛感させられた。それから、すこしはモノを考えるようにはなったが、正直言っていまでもその答えはでていない。 たんに言葉の問題ではないか、と言ってしまえばそれまでだが、言葉ではすまない現実がある。好むと好まざるとかかわらず、その問題に直面しなければならない本人がおり、周囲の人々がある。できれば、このような議論からは逃げてしまいたいとは思うものの、そのような現実に生きている人々がいる、という事実からは逃げられない。 差異があり、隔たりがあったとしても、本当はひとりひとりが美しいのだ。ひとりひとりが完全なのだ。一人がいるからこそ、ほかの一人がいるのだ。均質性が、同質性が必ずしも善ではない。スマップの歌ではないけれど、本当はそう思う。 「ある」と「もつ」議論は、本当はそうとうに哲学的なテーマだと思う。「差異と隔たり---他なるものへの倫理」。この本は、そんな議論を思い出せた。この本で展開されている「哲学」のフォーマットの上で、いつかこの「ある」「もつ」論争を展開したら、何事かがでてくるかも知れない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.03.03 20:07:24
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