刻まれた思念
攻殻機動隊S.A.C.2ndGIGの中では,「草迷宮」,「顔」,「左眼に気をつけろ」がかなり気に入っているエピソードだ.なぜだろう.S.A.C.は攻殻機動隊のパラレルワールドを描き,重い空気,冗長すぎる言い回しに支配された押井版と異なり,軽快である種の爽快感すら漂うもう一つの顔を持っている.押井版1,2やS.A.C.1st,2ndは当然,原作の士郎正宗の攻殻機動隊1,2を基にしたエピソードも少なからずある.特に,1stGIG,2ndGIGの柱となっている笑い男,個別の11人以外の短編にその傾向が強い.そのためか,どことなく見た(読んだ)ことがある話のような気がして,主題と演出は別物とはいえ,脚本の部分でどうしても先が読めてしまうため興ざめてしまうことがあった.残念ながら,この疑念は最新作SSSでも拭われることはなかった.しかし,これらのエピソードについては,神山監督のオリジナルであることが伺える.たとえば草迷宮では,原作,押井版を通してストイックで探求者としてすら描かれた少佐 草薙素子の過去,それも思い出に属する部分を丁寧に描いているような印象を受ける.「顔」は初めてパズにフォーカスされたエピソード,「左眼~」ではサイトーの過去が語られる.2ndGIGには,少なからず他のパラレルワールドで抜け落ちている部分の補完を試みている部分があるように思う.士郎版,押井版はいずれも,人と機械の境界,生命の可能性についても主題を置いているように見え,その結果,ついてこれない大衆を救えないこともある.S.A.C.は,それよりライトな視聴者にも受ける,共感しやすいテーマ,展開がとられているのではないだろうか.「俺達が作れば攻殻世界はこんなに楽しいものにできるぞ」私は,これらのエピソードに何かS.A.C.版の製作チームの執念のようなものを感じてしまうのだ.